ASSERT 334号(2005年9月24日発行)

【投稿】 自民圧勝の脆さと弱さ
【投稿】 「大きな政府」の前で立ちすくむ日本
        (民主党の敗北の原因−郵政民営化から考える )
【投稿】 負けたのは民主党ではなく「タカ派」?
         「左傾化」する?小泉政権
【投稿】 公務員バッシングの嵐が吹き荒れる
【投稿】 「自民圧勝」と地方分権の行方
【投稿】 9/11選挙結果:小選挙区制は民意を反映しているのか
【書評】 『天使のナイフ』(薬丸岳、2005.8.8.発行、講談社)
【本の感想】 近くて遠い国、台湾を理解する:「台湾は台湾人の国」

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【投稿】 自民圧勝の脆さと弱さ

<<「日本をあきらめない」>>
 自民党に単独過半数を優に超える議席を与えるなどということは、まったくの想定外であった。その点では、解散決定前に投稿した筆者前号の見通しの甘さは恥じ入るばかりである。そしてまた、8月6日の森前首相による缶ビールとチーズ片手の「決裂会談」までが「ヤラセ」であったとはあきれたものである。自民党の幹部の面々はどれも人間的に信用できない人間で多くが占められてはいるが、こんな奇策がまかりとおる日本の政治的環境の低さにはあらためて恐れ入ったとしかいいようがない。
 参議院で郵政民営化法案が否決されるや、直ちに一方的で独善的な解散を断行し、「郵政民営化ができないで、どんな大改革ができるのか」、「ガリレオはそれでも地球は動くと言った」と、お得意の派手なパフォーマンスと無内容で薄っぺらな口から出まかせを連発して絶叫する首相の姿が連日放映され、反対派への刺客候補者が最大の焦点でもあるかのような「劇場型」選挙報道がマスメディアの中心に居座り、全国紙、その系列のテレビ局すべてが郵政民営化賛成論を何の検証もなく垂れ流し、自民党から取材拒否されている朝日新聞までが社説で「郵政民営化の灯を消すな」と書き、テレビに至っては民営化論オンリーの出演者が「大きな政府か小さな政府か」などと吠えまくり、マスメディアがこぞって小泉政権にエールを送る事態の中で、内閣支持率急上昇がお膳立てされ、自民圧勝が準備された、これがことの真相とも言えよう。首相官邸の振り付け、演出で大政翼賛的な状況が作り出され、メディアもそれに悪乗りし、批判的報道を一切押さえ込み、あまりの圧勝に終わってから申し訳程度の自重を求める、まさに危険な事態の進行である。
 対する民主党は、「日本をあきらめない」などという、後ろ向きで焦点の定まらない、野党としての対決姿勢も放棄したメインスローガンであった。本来与党の責任である「日本をあきらめ」させるような政治・経済情勢をもたらした小泉政権に対決して、政権交代を迫る気力も迫力もここからは感じ取れるものではない。民主党のスローガンであった「改革」の旗が、自民党に奪われ、おまけに、自民党から支持団体の労働組合との関係で民営化反対論なのだろうと攻撃されると、急遽、同党が掲げたのは「郵便貯金、簡易保険の徹底縮小」である。これでは自民党と大差ない民営化論の後追いにすぎない。愚直に政策を訴える姿勢は評価できても、その政策でふらふらしていては、初めから勝負にならないし、大きな敗因を自ら作り出したといえよう。

<<国民投票としては「否決」>>
 問題はもちろん、こうした表面的な事態の進行にだけ自民圧勝の原因を求めることは出来ないであろう。さらに、選挙前の段階での世論調査では、郵政民営化への関心は高くはなく、ましてや郵政民営化が最優先課題だなどとは誰も考えてはいず、年金や増税問題のほうがトップを占めていた。ところがこの郵政民営化問題をめぐって、首相は「賛成か反対か」というシングルイッシュウの選択を迫る国民投票であるかのような戦術で成功したのであるが、もしこれが小選挙区制の議員選出ではなく、本来の国民投票であったとすれば、事態は別の展開をたどったといえよう。
 小選挙区での得票率は
 自 + 公     =49.2% (議席数 227)
 民+共+社+国+日+他 =50.8%(議席数  73)
であり、「49.2%」対「50.8%」で郵政民営化は「否決」なのである。
 得票数でいっても、反対議員の得票は3419万4372票、一方、郵政民営化に賛成議員の得票総数は3389万7275票と計算されており、やはり「否決」である。
 だだし、比例区では
 自 + 公     =51.5%    
 民+共+社+国+日+他 =48.5%
となり、微妙なところである。
 いずれにしても、首相や与党幹部が言う、「民営化は圧倒的に支持された」はウソ・イツワリである。
 ところが、獲得議席数では、自民249→296、47増。民主175→113、62減、公明34→31、3減、共産9で変わらず、社民7で1増、その他となり、前回大きく伸ばした民主党の議席だけが今回は大きく減少し、その減少分がそのまま自民党の議席増に貢献し、他はほとんど変わらずであるが、議席数では与党が衆院の三分の二を七議席上回る327議席を獲得するという事態をもたらしている。

<<“弱さ”の現れ>>
 郵政民営化が圧倒的に支持されてもおらず、有権者の最大の関心事でもなかったにもかかわらず、小泉自民党は争点をこれ一本に絞り、しかも修正に修正を重ね、与党幹部でさえロクに説明も出来ないようなあやふやな法案で対決を迫ったのは、彼らにはこれ以外に野党の隙を突き、混乱をさせうる政策を持っていなかったからだといえよう。小泉政権登場以来の内外の失政を覆い隠すためのいわば「煙幕」として、郵政民営化問題が利用されたのである。そのことは、無理やり解散を強行し、「改革賛成か反対か」というシングルイッシュー選択という奇策が、野党側の敵失に支えられてのもでしかない、“弱さ”の現れでこそあれ、決して“強さ”の現われではないことを示している。
 だからこそ、争点になっては困る問題はすべて避けて通り、自らの公約に反して、八月一五日の靖国神社参拝も取り止め、増税問題でさえ、自民党のマニフェストでは「政府税調の『サラリーマン増税』の考えは採らない」と表明して、本音をことごとく隠した奇策選挙を実行したのであり、それが功を奏した、究極の争点隠しの選挙であった。
 問題はむしろ、こうした賭けに似た奇策が、投票率を近来になく、7.65%も押し上げ、800万人近くもの有権者を新たに投票所に動員し、なおかつ都市部で退潮傾向著しかった自民党に、無党派層の多くの若い世代の票が投じられたことにある、といえよう。そのことは、北海道や沖縄ではこれが通用しなかったことに端的に現れている。
 都市部の若い世代にとっては、まさに小泉路線の構造改革の後押しもあって、強者と弱者の階層化がいっそう拡大され、雇用構造が激変し、正規雇用がますます削減される一方で、パート、派遣、契約社員、フリーターなどの非正規の不安定雇用が蔓延し、健康保険や年金への信頼がますます薄らぎ、閉塞感が強まりこそすれ、展望が見えてこない現状にあって、安定雇用・終身雇用・高額年金・高額退職金が保証されているとする公務員攻撃がありとあらゆる分野で展開され、既得権益にしがみつく労働組合の保守性とあいまって、格好の攻撃材料となった。小泉政権によってこそ拡大されてきた不安定な生活の不満が、いわば公務員に対する反感として組織されたのだともいえよう。これまでは都市部の無党派層の多くの票は、野党、とりわけ民主党に流れていたのであるが、今回は大きく自民党へと流れを変えたのである。野党側はいがみ合い、あいもかわらず他の野党との違いばかりを強調し、反与党連合を形成できず、みすみす与党側に勝利を明け渡している選挙区が今回もまた多数に上っている。無党派層の多くはこうした野党側の現状を突き放したのである。しかしこれらは、自民党にとっては一時的な成功ではあっても、しっぺ返しがともなわざるをえない不安定な脆さを内包した勝利でしかありえないことも明らかである。早速、自らのマニフェストに反して、増税案が臆面もなく登場してきている。
(生駒 敬)