ASSERT 342号(2006年5月20日発行)

【投稿】 反小泉政治への流れの変化
【投稿】 「負け組ゼロ」で、競り勝つ
       ----千葉7区補選雑感------
【投稿】 問題あり、原発新耐震設計指針案
【書評】 『人間科学の新展開』
【コラム】 ひとりごと--筆坂氏の日本共産党批判--

トップページに戻る

【投稿】 反小泉政治への流れの変化

<<「演説後に靖国参拝はしない」>>
 小泉首相はいよいよあらゆる面で岐路に立たされていると言えよう。
 まずは、自民党総裁任期切れ直前の8月15日に、念願の敗戦記念日当日の靖国神社参拝を強行しようというたくらみが、こともあろうにアメリカ側から強くけん制され、これにどう対応するか決断を迫られている。
 各紙報道によると、6月末に予定されている小泉首相の訪米をめぐり、米下院のハイド外交委員長(共和党)が、日本が模索している米議会での首相演説を実現するには「靖国神社を参拝しないことを自ら進んで表明する必要がある」とする趣旨の書簡を同党のハスタート下院議長に出し、首相が演説の数週間後に靖国神社を参拝することへの懸念を示し、真珠湾攻撃に踏み切った東条英機元首相ら同神社に合祀されているA級戦犯に首相が敬意を示せば、フランクリン・ルーズベルト大統領が攻撃の直後に演説した場である米議会のメンツをつぶすことになるとし、さらに、真珠湾攻撃を記憶している世代にとっては、首相の議会演説と靖国参拝が連続することは懸念を感じるにとどまらず、侮辱されたとすら思うだろう、と指摘、「演説後に靖国参拝はしないと議会側が理解し、納得できるような何らかの措置をとってほしい」と求めているという。
 ブッシュ追随と新自由主義的規制緩和路線以外には何も政治的見識を持たず、目立ちたがり屋でパフォーマンスを売りとする小泉首相にとっては、訪米時に上下両院の合同会議で演説することは、実現すれば日本の首相としては初めてのことであり、首相任期中の最後の機会としてぜひとも実現したい。
 しかし、敗戦記念日当日の靖国神社参拝は、首相の総裁選公約であり、日韓、日中を始めアジア近隣諸国との善隣友好関係を徹底的にぶち壊してきた靖国神社参拝強行政策の最後の仕上げであり、自らの後継ともくす安倍官房長官への申し送りでもある。くだらない面子にこだわり続け、「後は野となれ山となれ」の無責任首相のことである、これも何とか実現したい。すべてを欺いてこれを実現する道を探っていると言えよう。

<<「米国側の勝手な計算」>>
 そしてブッシュ追随の総仕上げが、米軍再編への全面的協力・追随である。
 日米両政府は5/1、外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を米国務省で開き、在日米軍再編に最終合意した。司令部間の連携など自衛隊と米軍との一体化を進めると同時に、沖縄の普天間飛行場移設先の建設や海兵隊グアム移転を14年までに実現するなど、今後の再編日程を定めた「ロードマップ(行程表)」を発表し、「再編案の実施により、同盟関係における協力は新たな段階に入る」とうたい、世界規模での再編を目指す米軍と自衛隊が一体化を進める方向を示した。まさに米軍への自衛隊の一体化であり、アジアにおける緊張激化要因を質的に高めるものである。
 問題の第一は、ラムズフェルド米国防長官が、今回の再編によって日米同盟の永続的な能力が確保され、この同盟は米軍の太平洋における安定的で持続可能な前方展開によって支えられる、と指摘したうえで、「われわれは日本自衛隊の再編を具体化したが、これは米軍の再編を補完し、従前に比べて一層効果的な作戦上の協調を実現することになります」と言明したことにある。米国防長官が、日本の自衛隊を再編し、米軍を補完する自衛隊と言う役割を明確にし、これに議会側の同意も得ずに勝手に日本側が合意したことである。明らかに憲法第九条に真っ向から挑戦するものである。
 そして第二の問題は、最終合意した同報告には、「これらの案の実施における施設整備に要する建設費その他の費用は、明示されない限り日本国政府が負担する」と明記されていることである。その負担額たるや、実に三兆円を大きく超えるとされており、ここからほころびが出始めている。先月4/25、ローレス米国防副次官が「米軍再編に伴う日本側の負担は3兆円以上」と発言し、翌日、問い詰められた安倍官房長官は「途方もない額だ」「説明を求める」と首をすくめてみせ、谷垣財務相は「三兆円という数字が独り歩きしている。どういう根拠でこういう数字が出ているのか」(4/28)と発言、麻生外相までが「根拠が全然分からない」(同日)などとぼけてみせた。5月に入り、久間・自民党総務会長ら与党議員団が訪米し、ローレス氏と会談。その中で同氏が「(三兆円は)細かく積み上げた数字ではない」と述べた、と久間氏は言い訳をし、三兆円というのは「(米国側の)勝手な計算」(山崎拓自民党前副総裁)だと釈明して見せ、合意の舞台裏から置いてきぼりにされてきた面々は、その額の膨大さにあきれ果て、怒る世論をなだめ、その火消しに躍起となっている。

<<防衛庁が持ちかけ>>
 ところが、こうした日本側の火消し発言を覆したのは当のローレス副次官本人であった。ローレス氏は久間氏らとの会談後に、民放テレビのインタビュー(5/5)に答え、自身の三兆円発言について「3兆円のもとになった情報は日本側パートナーから提供された」「日本の担当者は『残りの経費は海兵隊のグアム移転費用の二倍だ』と話していた」と暴露したのである。すなちこの巨額負担は、防衛庁が米国に持ちかけていたわけである。
 米軍のグアム移転費の総額は約100億ドル(約1兆1500億円)、日本側はそれ以外の在日米軍再編経費はグアム移転費の二倍と言ったので約200億ドル(約2兆3000億円)、プラス、グアム移転費の日本負担分約60億ドル(約7000億円)、しめて総額では約260億ドル(約三兆円)になるという計算である。米側の「勝手な計算」どころか、日本側が提示した負担額をもとにした数字であった。言い訳と火消し発言をしていた連中は、これをどう説明するのか、見ものであるが、負担額を提示した防衛庁責任者の額賀長官は、この期に及んでも「ハッキリした数字は分からない」、「2兆円も3兆円もかからない」などと逃げ回っている。ほころびが目立ち始めた小泉デタラメ・追随外交極まれりというところである。
 問題は、この米軍再編は、アメリカ側がアメリカ側の都合で始めるものであって、ラムズフェルド長官自身が言うように、日本側はその補完役にしか過ぎない、その補完役でさえ違憲行為であり、本来、日本側は一切負担する必要のない再編である。ベトナム紙クアンドイ・ニャンザン5/3付が「今回の移転は米軍の世界的な再配置計画に基づくものなのに、費用負担の多くが日本に押し付けられた」と述べ、「米軍がドイツから撤退した時には、ドイツはまったく金を負担しなかった」と指摘している通りである。
 さらにその上に問題なのは、この3兆円負担を撤回するどころか、安倍官房長官は「しかるべき予算措置が必要になる」とか言い出し、そのための「臨時増税」案まで浮上させていることである。果たしてこんなことが許され、押し切ることが可能なのかどうか、ここでも小泉政権は岐路に立たされていると言えよう。

<<「最初はグー」>>
 こうした事態の進行は、小泉政治凋落への明らかな変化の兆しをもたらし始めている。
 その端的な象徴が、4/23の衆院千葉7区補選の結果であった。ニセメール問題で、民主党が圧倒的に不利とみられていたにもかかわらず、そして共産党の独自候補の存在にもかかわらず、自民党を制して民主党が当選を獲得したのである。
 「最初はグー、サイトウケン!」などといった政策そっちのけの“ジャンケン選挙”は、小泉政治の本質を露呈した程度の低さを選挙民に知らしめ、ひんしゅくを買わせただけであった。遅すぎたとはいえ、ようやく選挙民をなめきった小泉政治に鉄槌が下され始めたのだともいえよう。
 そしてこれは千葉に限らず、米軍再編で問題となっている山口県岩国市と沖縄県沖縄市の市長選でも、米軍の部隊移転などに反対する候補を当選させた。米国に追随することしか考えていない小泉政権に対する、住民の怒りの結果である。
 ごく最近のフジテレビ「報道2001」の世論調査(5/4調査)でも、民主党の支持率が28.8%となり、自民党を0.8ポイント上回っている。民主党が自民党に逆転したのは昨年7月以来のことである。そして小泉首相の支持率も45.4%に落ち込み、不支持はこれより1.0ポイント多い46.4%で約3カ月ぶりに不支持が支持を上回る、逆転現象である。
 明らかに流れは変わり始めたと言えよう。あせりだした小泉政権は、首相が退陣する9月までに、あらゆる悪法を一気に成立させようと目論みだしたが、政府与党にとっては諸刃の剣でもある。
 すでに政府与党は、犯罪の合意があれば、実行行為がなくても処罰可能とする「共謀罪」を新設する組織犯罪処罰法等「改正」案を審議入りさせ、教育基本法改悪案は、会期末まで実質一カ月半という時期に提出し、特別委員会を設置して、強行採決の構えである。改革の総仕上げと称する行革推進法案、改憲準備の国民投票法、防衛庁の「省」への昇格法案、等々、悪法の目白押しである。首相が「私も引き際を大事にして任期まで逃げることなく頑張りたい」という、実態がこれである。
 あらゆる反小泉勢力を結集した野党側の徹底した反撃こそが要請されている。
(生駒 敬)