アサート No.342(2006年5月20日)

【投稿】 問題あり、原発新耐震設計指針案

<<「問題はなかった」>>
 原発震災への画期的な警告となった、去る3月24日の金沢地方裁判所の志賀原発運転差し止め判決の、その激震ともいえる影響が具体的に及び始めてきている。
 国の原子力安全委員会は、あの判決以来、耐震指針検討分科会をこれまでになく頻繁に開催し、この4月28日には、原子力発電所の新しい耐震設計の指針案を取りまとめ、「28年前に策定された指針が全面的に見直されたのは初めて。想定して備えるべき地震の揺れ(地震動)は従来より2、3割強まる見通しで、既存の原発55基にも適用される。電力会社は「余裕を持ってつくっているので、大規模な補強は必要なさそう」とみるが、正式に決まる今夏以降、原発によっては補強工事などが必要になる。」と各紙で報じられている。
 それによると、指針案は、原発周辺の活断層の有無によって二つの対策を示し、活断層が近くにない原発では、一律に決めていた「直下型でマグニチュード(M)6・5」の耐震基準を廃止する。代わりに各原発ごとに、地盤など立地条件を十分に考慮し、現行を上回る地震を想定するよう求め、原発近くに活断層がある場合は、考慮すべき断層を、これまでの五万年前から十二万−十三万年前までさかのぼり、調査するとしている。これらによって、実質的には指針強化といえる、とされているが、果たしてそうなのであろうか。
 一方、電力業界は、M6・8程度の地震を目安に耐震設計をしてきており、電力各社は「大規模な補強は不要」としている。
 そもそも、原子力安全委員会は、金沢地裁判決当日、「金沢地方裁判所において、志賀原子力発電所2号機の運転差止請求に対する判決が言い渡され、北陸電力(株)側が敗訴したとの報告があった。・・・原子力安全委員会は、耐震設計審査指針に基づき、北陸電力且u賀原子力発電所の安全審査を行い、耐震設計に関する基本的な方針が妥当なものであると判断したものであり、安全審査に問題はなかったと考えている。」という、判決を真摯に受け止める態度がまるで感じられないコメントを発表するような機関である。

<<「業界側の見解を指針に」>>
 原子力安全委員会のホームページの<原子力安全委員会について> によると、「原子力安全委員会は原子力基本法、原子力委員会及び原子力安全委員会設置法及び内閣府設置法に基づき設置されています。文部科学省、経済産業省等の行政庁からの独立性や中立性が保たれるよう、内閣府に置かれています。原子力安全委員会は、内閣総理大臣を通じた関係行政機関への勧告権を有するなど、通常の審議会よりも強い権限を持っています。 」と自らを規定している。
 ところが、4/20付け毎日新聞報道によると、「原発の耐震指針見直しを進める国の原子力安全委員会・耐震指針検討分科会の委員の過半数が、業界団体「日本電気協会」の専門部会などの委員を兼任していることが分かった。新指針案には同協会のまとめた報告が多数反映され、作成者自ら審査して業界側の見解を指針に盛り込んでいる形。金沢地裁判決で直下地震の想定規模が小さいとして、志賀原発2号機の運転差し止めが命じられたが、専門部会の報告を基に大幅な引き上げはしない方向で、分科会の中立性が問われそうだ。」とし、「同分科会は、地震や原発などの専門家19人で構成する。議長役の主査を務める青山博之・東京大名誉教授ら9人が、日本電気協会の原子力発電耐震設計専門部会(28人)の委員を兼任し、青山氏は専門部会でも主査を務めている。また、7人(うち5人は専門部会も兼任)が同協会の原子力規格委員会・耐震設計分科会の委員をしている。新指針案には、原子力安全基盤機構など複数の組織の報告が盛り込まれているが、同協会の報告が16件で最も多く反映されている。」という。
 こうした兼任について青山主査は「問題だと思われても仕方がない。ただ、主査を引き受ける際に、原子力安全委員会の事務局から『差し支えない』と言われた」と話している。始めから独立性もなく、中立性さえ疑われる委員会の構成なのである。
 これに対し、同分科会で「事前の規模予測は難しい」と報告した産業技術総合研究所の杉山雄一・活断層研究センター長は「業界の人たちが都合のよい情報だけを組み合わせている。地域によって違うが、鳥取県西部地震が起きた山陰地方ではM7.3を想定すべきだ」と話している(同4/20付け毎日)。

<<「原子炉施設立地面の変形」>>
 同じく、同分科会の3/28に開かれた第41回会合で、一貫して「原発震災」の危険性を解明し、訴え続けてきた神戸大学・都市安全研究センターの石橋克彦教授は、以下のように問題を提起し、警告を発している。
 a.海岸でメートル級の地震時地殻上下変動を伴うM 7 級以上の大地震は、日本列島の各地で発生の可能性がある(日本海側も北海道から山陰まで過去の実例が多数ある)。
 b.その場合、実際の地震では、くい違い量が断層面上で不均一だから(アスペリティの存在)、地震基盤における静的変形は・・・はるかに凸凹し(短波長の不均質)、その上の地盤の性状によっては、原子炉施設立地面の変形を否定できない。
 そしてこの「原子炉施設立地面の変形」について、中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)立地近くで、これまで見逃されてきた活断層が新たに発見されている。5/6付け中国新聞によると、5/5に広島工業大や広島大など六大学でつくる共同研究チームは、島根原発から約十二キロ南東にある川部地区で北東から南西の方向に伸びた逆断層で、約五十五センチのずれを認めたという。
 この活断層について、中国電力側は「国の安全審査基準である、五万年前以降の活動を示す証拠を見つけていない」として考慮すべき活断層に加えていない。こうした態度について、チームの中心である広島工業大環境学部の中田高教授は「調査で活断層が見つからなかったから『存在しない』と断定するのは困難」などと、これまでの中電の調査を批判している。これに対し、中電島根原発広報課は「第三者の調査であり、結果自体を把握していないのでコメントできない」という態度である。

<<「日本中のどの原発も」>>
 島根原発に限らず、日本列島に位置する商業用原発(原子炉五一基)のほとんどが、大地震に直撃されやすい場所に立地していることは明らかであろう。石橋教授の言うように、「日本海東縁〜山陰の地震帯の柏崎刈羽・若狭湾岸・島根、「スラブ内地震」という型の大地震が足下で起こる女川・福島・東海・伊万、東海巨大地震の予想震源域の真っただ中の浜岡などである。原子炉設置許可の際、過去の大地震や既知の活断層しか考慮していないが、日本海側などでは大地震の繰り返し年数が非常に長いから、過去の地震が知られていない場所のほうが危険である。 」
 さらに「活断層が無くてもマグニチュード(M)7級の直下地震が起こりうることは現代地震科学の常議であるのに、原発は活断層の無いところに建設するという理由でM6・5までしか考慮していない。しかも実は、多くの原発の近くに活断層がある。最近、島根原発の直近に長さ8キロの活断層が確認されたが、中国電力と通産省は、それに対応する地震はM6・3にすぎないとして安全宣言を出した。しかし、長さ八キロの活断層の地下でM7・2の1943年鳥取地震が起こって大災害を生じたような実例も多く、この安全宣言は完全に間違っている。 」
 「要するに、日本中のどの原発も想定外の大地震に襲われる可能性がある。その場合には、多くの機器・配管系が同時に損傷する恐れが強く、多重の安全装置がすべて故障する状況も考えられる。しかしそのような事態は想定されていないから、最悪のケースでは、核暴走や炉心溶融という「過酷事故」、さらには水蒸気爆発や水素爆発が起こって、炉心の莫大な放射性物質が原発の外に放出されるだろう。」
 これは原発震災の地獄図の始まりとして、石橋教授が警告するものである。原子力安全委員会の動きを厳しく監視していくことが求められていると言えよう。
(生駒 敬)

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