ASSERT 343号 (2006年6月24日発行)

【投稿】 小泉政権と日銀のインサイダー取引
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【投稿】 小泉政権と日銀のインサイダー取引

<<プレスリーの墓参り>>
 6月18日の通常尾国会会期期限切れを目前に控え、小泉政権は改憲にかかわる国民投票法案、愛国心教育の教育基本法改正案、共謀罪を新設の組織犯罪処罰法改正案、「防衛省」昇格法案など稀代の悪法を目白押しに提出し、軒並み継続審議とした。武部・自民幹事長に言わせると「先送りではなく、『先出し』だ。与党が出すべき法案を全部出したことに意義がある」として、秋の臨時国会で成立を図るという。きわめて危険な動向である。
 小泉首相は、すでに6月末の米国訪問と7月のサンクトペテルブルク主要国首脳会議(サミット)に関心を移し、ブッシュ大統領への提灯持ちの結果としての国賓待遇、それに応える日米「価値共有」声明、そして何よりもロック歌手エルビス・プレスリーの生誕の家の訪問と墓参りでのパフォーマンスに心を奪われているという。こうした外交日程を政権最後の段階で崩されたくないがために、公明党の強い要請や党内からのこの際一気に悪法通過をという意見を抑えて、会期延長に同意しなかったと言う。さもありなん、と言えよう。
 しかし、事態はそんなものではなそうである。会期延長をした場合、小泉政権瓦解の危機にまで発展しかねない事態が現出しかねない、それを怖れたのである。その危険で忍び寄る影がこれまでになく大きくなり、ライブドア・ホリエモンの逮捕、それに続く村上ファンド・村上世彰の逮捕、そして日銀・福井総裁のインサイダー疑惑にまで及び出した疑惑の広がりである。中央銀行総裁の首にまで事態が進展すれば、薄っぺらな浮かれたパフォーマンスどころではなくなる。ここはなんとしても、職権を使ってでも真相に蓋をし、日銀総裁の辞任には至らせない、そのためには会期延長など応じられるものではない、これが首相の本音であろう。
 6/13、日本銀行の福井総裁が、証券取引法違反(インサイダー取引)容疑で逮捕された村上世彰容疑者が代表を務めていた「村上ファンド」に1000万円を拠出、運用委託していたことが明らかになった。「金融と通貨の番人」であるはずの中央銀行総裁が、こともあろうにインサイダー取引と脱法行為でぼろ儲けをしてきた悪質なはげたかファンドを激励し、アドバイザリーボードの筆頭に名を連ねて深く関与し、自らもその巨額な利益に群がって、その“分け前”にあずかっていたというのであるから、許し難いことである。即刻解任すべき事態である。

<<「何が問題なの」>>
 ところが小泉首相は事態の重大性を察知したのかロクに調べもしないうちに早々と、「問題のある行為じゃない」と語ったうえで、「民主党は何でも辞任すればいいと思っている。もっと冷静に考えた方がいい」と総裁辞任は必要ないと断言。谷垣財務相に至っては「何が問題なの。何か法に触れますか」とまで放言し、与謝野金融相までが「総裁になるということが予想されていない時期に民間の方として出資に応募したということで、それ自体は何ら問題がないと思っている」と、一斉にかばいだしたのである。
 福井総裁は、「(拠出額1000万円は)引き続き繰り延べ投資している」と、現在はまだ拠出したままであることを認め、なおかつ「帳簿上の利益は出ていて、これはきちんと確定申告で納税している。たいした金額ではなく、巨額にもうかっている感じはしない」と説明した。しかし村上ファンドの収益は年率30、40%を謳い、仮に年率30%としても、収益の再運用によって、投資資金は三年で倍に、六年で五倍化しているのである。「たいした金額ではない」どころか、悪質なマネーゲームに加担しながら、自らが進めている日銀のゼロ金利政策によって苦しむ庶民の千倍以上もの金利、1000万円で300万円以上の利益を労せずして手に入れ、それを「巨額にもうかっている感じはしない」というのであるから、あきれたものである。しかも日銀総裁就任後もずるずると関係を維持し、解約しなかった理由に「仲間内意識があった」ことまで認めている。
 しかしそれ以上に問題なのは、福井総裁がこのマネーゲームから逃げ出した時期である。福井総裁はこの1000万円については「数カ月前に解約を申しこんでいた」という。今年2月の段階である。その結果、この6月末で運用委託契約は解除されると言う。2月といえば、ライブドアへの強制捜査が進み、村上氏との関連がささやかれ出した時期である。
 そして、村上ファンドの「MACアセットマネジメント」に資本金の45%に当たる約4,000万円を出資し、非常勤役員二人も派遣し、約200億円を投資しているオリックスの宮内会長が、同じく出資金と役員についてはこれを引き揚げると発表したのが今年の5月12日である。福井、宮内とも、彼らは明らかに何らかのインサイダー情報によって、つまりは小泉政権側か検察側か、何らかの内部情報によって、村上逮捕の直前にバタバタと逃げ足早く提携解消に動き出していたのである。「村上ファンドの生みの親であり、育ての親」ともいわれるオリックスの宮内会長、そして「勇気ある青年を激励するために、仲間とともに金を出した」という日銀の福井総裁、彼らは二人とも村上ファンドと共犯・共謀関係にあり、かれらこそが「共謀罪」で摘発されてしかるべき存在なのである。

<<ワルの相関図>>
 福井総裁は、ゼロ金利政策を維持し、マネーゲーム規模を極端に拡大してきた「金融の量的緩和」を強力に推進してきた張本人である。本人自身が、最近の株式ブームは「預金金利のゼロ金利が続いていることが原因」だと認めている。
 問題は、この「金融の量的緩和」をめぐって、日銀と小泉政権との間でその解除時期をめぐって綱引きが行われ、それが当然、ゼロ%金利の解除に繋がる重要な政策転換の時期と重なっていることである。ゼロ%金利解除となれば、当然、マネーゲームの資金は投資先を求めて移動し、株式市場はマイナスの影響をこうむる。福井総裁の村上ファンド契約解除の動きは、その意味では村上ファンドに対する、あるいはそれを支えるオリックス会長に対する、「金融の量的緩和」の解除時期を示唆し、手持ち株の早急な売り抜けを指示するインサイダー情報の提供ともいえよう。これはこれでより悪質である。通信・放送株や百貨店・電鉄株をめぐる村上ファンドの売り抜けを急ぐ性急な対応にも裏があり、彼らの間では暗黙の了解と裏取引があったことが想定されよう。
 日銀には日銀自身が定めた「日本銀行員の心得」なるものがあり、(1)日銀内部で知り得たインサイダー情報について利殖活動を禁じる、(2)株式投資などについて事後に報告する、と定め、「世間からいささかなりとも疑念を抱かれることが予想される場合には……個人的利殖行為は慎まなければならない」としている。「金融の番人」が、違法ファンドに資産運用させ、インサイダー情報をやり取りしていたとすれば、福井総裁の行動は明らかにこれに反していると言えよう。
 そしてこうした怪しげな村上ファンドやホリエモンを持ち上げ、「時代の寵児」に仕立て上げてきた相関図の中心に座っているのが小泉首相である。その相関図のキーワードは、構造改革=規制緩和であり、格差拡大万歳・稼ぐが勝ちの市場原理主義である。そのデタラメ改革の主導役に、政府の規制改革・民間開放推進会議議長のオリックス・宮内会長、竹中総務相らが馳せ参じ、三井住友銀行から横滑りし、村上と気脈を通じていた日本郵政・西川社長や日本振興銀行の木村剛氏、楽天の三木谷浩史社長、ヒルズ族の面々が群がり、マネーゲームをもてはやす小泉―竹中―ホリエモン―村上コンビが形成され、そこに日銀総裁までが加わっていたと言うわけである。彼らはいっせいに黙り込み、口をぬぐいだした。
 しかし、小泉政権を賛美してきたマスコミは弱腰であり、検察当局が財務省や金融庁、あるいは小泉―竹中コンビと適当に手を打つならば、事態はうやむやに付されてしまう可能性が大である。小泉首相登場以来、首相が加速させて、蔓延させてきた日本社会の無責任で利己的な風潮を断ち切るためには、日銀総裁の解任にとどまらず、彼らの一連の悪事を徹底的に解明し、断罪することが求められているといえよう。
(生駒 敬)