ASSERT 344号 (2006年7月22日発行)

【投稿】 「火に油を注ぐ」日本の無責任外交
【投稿】 暴走する北朝鮮と日本
【投稿】 2004年の年金改革の再評価と増税論議の行方
                     福井 杉本達也
【本の紹介】「粉飾資本主義--エンロンとライブドア--」奥村宏著
【コラム】ひとりごと ---NHK受信料不払いについて---

トップページに戻る

【投稿】 「火に油を注ぐ」日本の無責任外交

<<「金正日に感謝」>>
 北朝鮮のミサイル発射に対して、「金正日に感謝しないといけないといけないのかもしれない」、このように発言した麻生外相。これほどズバリ日米ネオコン派の本音をあからさまにした発言はないともいえよう。この発言は、北朝鮮のミサイル発射に関する国連安保理決議案について「(中国、ロシアなど)拒否権を持っている国の顔色を見ながらやるのはおかしい。日本は譲らない。最後まで突っ張る」と、ことさらにミエを切り、制裁条項を盛り込んだ決議案をごり押しし、その結果、安保理が分裂しても構わないということまで示唆した強硬姿勢を打ち出し、「敵基地攻撃能力」保有論を誇示した、7/8の広島市内の講演でのことであった。ところがこの「金正日に感謝」発言は、全国紙では一切報道されず、7/9付のスポーツ紙各紙が「『金正日総書記に感謝』 失言また 麻生外相やっちゃった」(スポーツ報知)、「麻生外相 『金正日総書記に感謝』」(スポーツニッポン)などの見出しで報道したものである。全国紙は、いかにも軽率で品位に欠け、周辺各国を刺激しかねないと判断したのかもしれないが、事態の本質を象徴し、本音をさらけ出した麻生発言に腰が引けたのであろう。今や日本の大手メディアには、小泉政権と、強硬路線を競い合う安倍・額賀・麻生の「敵基地攻撃能力」保有論、総裁選レースで一歩抜き出たと言われる安倍政権誕生への恐れ、気兼ねと遠慮からであろう、大政翼賛化した報道に流され、ジャーナリズムとしての冷静で客観的かつ批判的姿勢がほとんど失われてしまっているといえよう。
 この麻生発言に対しては、韓国の政界、メディアでいっせいに批判が巻き起こり、「北朝鮮の核・ミサイル開発が日本の軍備増強の口実になっていることを、これほどあからさまに表したことはない」(東亜日報7/11付社説)、「日本政府はミサイル発射を北東アジアで軍事・外交的影響力を拡大する絶好の機会にしている。(麻生発言は)日本の内心を出したもの」(中央日報7/11付)、「朝鮮半島に破局をもたらす状況まで辞さず、軍事大国化を図ることが果たして正しいことなのか、国際社会の警戒心を強めるだけではないのか、日本は猛省すべきだ」(国民日報7/11付社説)などと一斉に批判を浴びせている。
 与党「開かれたウリ党」の金槿泰議長は、日本での先制攻撃論について、「われわれは武力では平和を守れないと北朝鮮に言ってきたが、この言葉を日本の強硬派にもはっきりと伝えたい」と強調し、盧武鉉大統領自身も、「日本の政治指導者の『先制攻撃』発言などで、新たな状況が生まれ、事態をさらに悪化させる憂慮がある」と述べ、「北東アジアの平和にただならぬ事態を引き起こす可能性がある」と強い警戒を示している。さらに保守野党ハンナラ党のスポークスマンは、「日本の反応は北朝鮮のミサイル発射を口実に軍国主義の復活を連想させる」とし、「日本の政府高官は先制攻撃発言を直ちに取り消すべきだ」と要求。左派野党・民主労働党のスポークスマンは「朝鮮半島の危機をあおり、利益を得ようという野望の表れ」と非難している。既に韓国大統領府の報道官は、日本国内で敵基地攻撃論が浮上したことについて「日本の侵略主義的な傾向が現れた」と手厳しい批判と警戒感を示しており、韓国与野党、メディアをあげての日本に対する批判の噴出である。

<<「すぐに電話しなければ」>>
 問題は、この韓国と日本を取り巻く政治とメディアの深刻な落差であり、小泉政権登場以降にもたらされたブッシュ一辺倒、反中国・反韓国路線の危険で有害な役割である。
 問題の、国連の北朝鮮ミサイル非難決議案にしても、政府とメディアは意図的に日米緊密連携、対北朝鮮・対中国強硬論を演出・宣伝し、他の諸国から「騒ぎすぎ」と言われるほど、「中国の北朝鮮説得など無視して安保理決議を」と求める突出した強硬姿勢を誇示し、「即刻採決」を主張、日本案が孤立するや、拒否権を持つ「中ロの壁」を強調して伝え、それによって「譲歩を余儀なくされた」かのようにねじまげ、自らの姿勢には何の反省もしない。またそれを肯定するようなメディアの報道が国策報道の如く垂れ流される。
 ところが実際には、この国連決議においても、日本は外交交渉の当事者どころか、カヤの外におかれていたのである。アメリカにしてからが、日本と中国・韓国との対立を煽り、日本の強硬姿勢を支持するそぶりを見せながら、実際には東アジア・太平洋担当のヒル米国務次官補が北京とソウルを外交交渉の真の舞台とし、中国の武大偉外務次官が北朝鮮のピョンヤンを中心舞台とした。ヒル次官補が日本に来たのは北京、ソウル訪問後であった。安倍氏らが「米国とともに」進めていたはずの強硬路線は、米国自身になだめられるやたちまち後景に追いやられ、全会一致の決議案ですら、日本の提案ではなく、英仏の修正提案とリードによって実現したものであり、そのことを日本の政府もメディアも正確に伝えようともしていない。
 7/12、中国外交部の姜瑜報道官は、「国際社会が全力で平和的な外交努力をしているときに、日本政府の一部要人が他国に対する『敵基地攻撃』の実行を言い立てている。このような『火に油を注ぐ』やり方は、無責任極まりなく、理解に苦しむ。これらの言論は、国際社会の外交努力を著しく妨げ、北東アジア情勢の緊張を高めるだけであり、各国の国民にとっては目にしたくないものだ。」と指摘しているが、まさに日本外交の大失態と無能さをさらけ出したものと言えよう。
 あの森前首相からでさえ、現在の日本の孤立した事態に対して、「ブッシュ米大統領とプレスリー邸に行くのもいいが、中国の胡主席、韓国の大統領にすぐに電話しなければ、日本は本当のアジアでの大国とはいえない」と指摘される始末である。
 北朝鮮の暴走を本当に抑えるためには、何よりも中国、韓国と緊密に協議し、共同の努力を行いうる関係を築くことでなければならない。ところが、小泉首相・安倍官房長官・麻生外相という、協力と共同よりも対立と挑発にしか存在価値を見出しえないようなこのトリオは、そうした話し合いの努力を一切行わず、直接対話はもちろん、それこそ「電話一本さえかけず」に、中国・韓国への挑発的で傲慢な発言を繰り返し、大手マスメディアもそれに追随・迎合して世論を誘導し、緊張激化を煽り立てている。裏では「金正日への感謝」の電話でもしているのであろうか。もちろん、すでに客観的には感謝のメッセージは伝えられていると言えよう。

<<ダブルスタンダード>>
 北朝鮮のミサイル実験そのものについては、7/6日付の英タイムズ紙は「ダメージもなく、国際法も破られていない、なぜみんなそんなにざわついているのか?」とする記事の中で、「金総書記の動機を合理的に説明するのは不可能」とか、「金総書記はほとんど狂っている」という受け止め方が日本では強いが、軍隊をもつ国なら世界中のどこでも定期的に行っている訓練である。金正日は残酷な独裁者かもしれないが、狂人ではない。昨日のミサイル発射は、北朝鮮とその指導者の有り様を示すと同時に、西側の外交がいかに力不足だったかを示すものであり、「パニックが起きたのは」ミサイル発射それ自体の脅威よりも、「誰もほとんど何もできないからではないか」と、指摘している。このミサイル実験は緊張を激化する瀬戸際外交の産物であり、北朝鮮自身をさらに政治的経済的に窮迫させるだけだと言えようが、アメリカや日本を含めたその同盟国はさらに大規模で強力な軍事訓練やミサイル実験を行っており、この指摘は間違いないといえよう。
 この同じ時期、なぜか北朝鮮のミサイル発射の4日後にインドは、核弾頭の搭載も可能で、最大射程距離4000キロメートルという中距離ミサイル「アグニ3」を試射している。実験は失敗したようであるが、中国やパキスタン、周辺諸国に脅威を与えるものであることは間違いがない。これはアメリカとの合意と黙認のもとで行われたミサイル発射実験であった。それゆえにほとんど問題にもされず、日本の政府もメディアもロクに報道も非難もしていない。アメリカのダブルスタンダードがまかり通って、日本もそれに追随しているのである。
 ところでアメリカは、中国の働きかけにもかかわらず、北朝鮮が独自路線に固執し続けるや、交渉の中心人物はヒル国務次官補から最も強硬な路線をとるボルトン国連大使にバトンタッチ。同氏は、対北朝鮮国連決議が、軍事行動につながる強制措置を定めた「国連憲章第7章」の文言をわざわざ入れなかったにもかかわらず、「憲章7章に言及していなくても、実質的に『7章決議』だ」と主張、これに対しロシアのチュルキン国連大使は「憲章7章の言及がない。これが『7章決議』のわけがない」と、決議の拘束力をめぐる解釈はまったく相反する。日本の政府、メディアもこのボルトン発言に飛びついている。

<<「沈みゆく夕日」>>
 もちろん、アメリカの思惑は見え透いている。北朝鮮「ミサイル発射危機」がもたらしてくれた絶好の機会を見逃す手はない。なにしろミサイル防衛(MD)配備を加速させ、MDやパトリオットを売り込みむ願ってもない口実を与えくれているのである。この「危機」を利用して、米PAC3ミサイル(地対空ミサイル)の嘉手納基地への配備が前倒しされ、SM3ミサイル(海上配備型ミサイル)を搭載したイージス巡洋艦「シャイロー」の横須賀配備も早まり、さらに自衛隊へのPAC3ミサイルの配備が、入間基地を皮切りに06年度末から始まる。それがまた当然のことのように報道されている。
 なにしろ、政府与党の幹部ばかりか、民主党の議員までが「相手の基地攻撃は『専守防衛の範囲内』、敵基地を攻撃できる防衛力整備などを議論すべきだ」とテレビで発言する事態である(7/8、民主党憲法調査会長の枝野幸男氏)。
 読売新聞社が7/6、7の両日に実施した緊急全国世論調査では、米国と協力して「ミサイル防衛(MD)システム」の整備を急ぐべきかについて、63%が「そう思う」と答え、「そうは思わない」は24%にとどまり、アメリカにとっては願ってもない、笑いの止まらない展開である。
 そして日本の首相である小泉氏は「俺はついている。プレスリーの館で歌っているときにテポドンが飛んできたら格好悪かった」という程度の低い、物見遊山政治を得々と語る首相である。サンクトペテルブルグ・サミットで、「自分も沈みゆく夕日だ」と首相は語ったそうであるが、同じく「沈みゆく」落ち目のブッシュ米大統領、この二人を北朝鮮のミサイル発射はたとえ一時的にせよ勇気付け、危険で膨大な無駄を強いる軍拡競争の道に突き進ませていることは、厳しく指摘されなければならないだろう。
(生駒 敬)