ASSERT 347号 (2006年10月21日発行)

【投稿】 金正日−ブッシュ−安倍  その危険な緊張激化・挑発路線
【投稿】 北朝鮮「崩壊」と東アジアの混沌
【投稿】 日本に資源戦略はあるのか 
    ―アザデガン油田の権益縮小と東シナ海天然ガス開発の行方―
【書評】 『検証・憲法九条の誕生
    --「押し付け」ではなく、自ら平和条項の条文を豊富化した論議の全過程』
【コラム】 ひとりごと--「新平等社会」への疑問

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【投稿】 金正日−ブッシュ−安倍  その危険な緊張激化・挑発路線

<<怪しげな核実験>>
 10/9、北朝鮮外務省は地下核実験の実施とその成功を発表した。
 しかし世界各国からの核実験監視データを集約しているウィーンの包括的核実験禁止条約(CTBT)事務局は10/13、今回の爆発による揺れの規模はマグニチュード(M)4.0(誤差0.3以内)で、核実験を示す放射性物質は検知できなかったと関係各国に通知している。M4.0ならTNT火薬換算で1.5キロトンに相当する。地震波測定に関しては、韓国ではM3,58、アメリカではM4,2、日本の気象庁はM4,9と発表している。
 CTBTの監視網は、1キロトン程度以上の地下核実験探知を目指しており、これは広島型原爆(濃縮ウラン型)の約15分の1、長崎型原爆(プルトニウム型)の約20分の1相当である。これより小さな小型核爆弾は、米ロなど核実験を重ね、高度な製造技術の蓄積が必要なため不可能とみなされている。とすれば、今回の爆発実験の規模は、ほぼこの下限ぎりぎりか、それ以下である可能性が高い。
 さらに核実験を行えば、実施後に自然界には存在しないストロンチウム90やセシウム137、クリプトン85などの放射能物質が放出されるが、韓米中ロ日のどの国も、まだこれを感知していない。米軍は、10/10以降連日、沖縄の嘉手納基地から気象偵察機WC135を出動させ、北朝鮮上空、日本海沿岸で大気を採取してきたが、放射性物質を採取できず、10/13に微量の放射性物質を検知したと発表されたが、特定できていないという。
 韓国の地質資源研究院では今回の爆発を、M値からTNTで400〜500トン規模の爆発力と推定している(事前の推測では北朝鮮の核爆発は15キロトン(15000トン)〜20キロトン(20000トン)であった)。しかもその地震波は、大きな波がいくつかに分かれ、「理想的な核爆発」とは考えにくいという。
 いずれにしても今回の核実験は核兵器の実験にしてはあまりにも爆発力が少なく、本来想定された核分裂エネルギーの数パーセントしか発生させられなかったといえよう。その意味では、客観的には失敗したものといえよう。核爆発にはこぎつけたかもしれないが、プルトニウムが核分裂を起こした段階で爆弾本体が臨界を維持できなくなった未熟実験であり、金正日政権が目指した核兵器の獲得には失敗したというのが真相であろう。

<<「強いられた」核実験>>
 同じく核実験を強行したインドとパキスタンの場合、1998年に5〜6発の核爆弾を連続して爆発させることによって、核爆弾としての実戦使用能力を実証し、核保有を誇示したわけである。北朝鮮の場合も当然、そのために二回目以降の実験強行が予測されたし、今後もその可能性は大ではあるが、すでに1発目の段階で深刻な実験続行の危機に直面したし、その隠しがたい技術的実戦的に未成熟な実態を世界中にさらけ出したと言えよう。7月にはミサイル・テポドンの発射にも失敗したというのが事実であろう。
 今後核実験の継続を試みたとしても、それを取り巻く内外の環境、条件、ハードルはますます高くなり、その過重な負担は耐え難いものとなろう。これまで曲がりなりにも友好国として利用してきたはずの中国政府からも支持を取り付けられず、国連の対北朝鮮制裁決議が全会一致で採択されるという事態を招いている。
 金正日政権は、焦れば焦るほど追い詰められ、より過激な瀬戸際政策に頼らざるを得なくなり、それは自らの政権基盤を疲弊させるばかりである。まだ冷静に事態を分析し、対処できる能力があるならば、そして10/11の北朝鮮外務省声明にあるように、今回の実験強行が「米国の戦争の威嚇の増大を阻止するため、我々は核兵器を保有していることを証明することを強いられた」とするならば、同じ声明の中で「米国が原因で核実験を行ったものの、対話と交渉を通じた朝鮮半島の非核化への努力は続ける」という、その「非核化への努力」をこそ具体的に明らかにし、まずは自らの一方的な核放棄政策をこそ宣明し、実行すべきであろう。
 ここで問題は、むしろこうした事態の進行に最大限の利益を見出し、危機を挑発し、核軍拡と全世界的なミサイル防衛網の拡充にここぞとばかりに精を出しているブッシュ政権の役割であろう。その意味では、客観的にみてブッシュと金正日は手を組んでいるのである。
 すでに米国内ではこうしたブッシュ政権の姿勢こそが今日の事態をもたらしたとし、ホルブルック米元国連大使は、ブッシュ政権はもっと早い時点で平壌との直接対話に踏み切るべきだった、と指摘(10/13朝日)、米国戦略国際問題研究所のミッチェル上級研究員は「ブッシュ政権は北朝鮮政策で柔軟性を示すべきだった」(10/12毎日)、ヒラリー・クリントン上院議員も「ブッシュ政権の失敗した政策が背景にある」と切って捨てている。そしてカーター元大統領は10/11付のニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、米政府に対し「信頼できる特使」を北朝鮮に派遣するよう主張している。

<<立ち上がりから「エンジン全開」>>
 ここで俄然張り切りだしているのが安倍政権である。ブッシュとともに今回の核実験で最も喜び、恩恵を受けたのは安倍晋三その人ともいえよう。
 安倍内閣メールマガジンの創刊号(10/12)で安倍氏は「安倍内閣は、立ち上がりからエンジン全開です。連日、国会審議に全力投球しつつ、連休を利用して中国首脳、韓国首脳との最初の会談を行いました。日本を出てからもどるまでの36時間、疾風のごとく動き回わった初めての首脳外交、充実した会談だったと思います。また、ブッシュ大統領とも緊急連絡をし、国際的に連携をし、断固とした姿勢で臨むことを確認しました。国民の安全を守るのが私の第一の仕事です。私はこの問題で決して妥協することなく、強いリーダーシップをもって、私たちの国の、そして、世界の平和と安全を守る気概です。」とまさに「エンジン全開」、気負い立っている。
 なにしろ、自らの主張を押し隠し、村山談話・河野談話を受け継ぐことを表明せざるをえなかったとはいえ、靖国問題が事実上棚上げされ、北朝鮮に対する制裁で共同歩調までとれるという出来過ぎたシナリオが用意され、支持率上昇の絶好のチャンスとばかりに張り切りだしたのである。
 しかしこの「エンジン全開」は、北朝鮮の危険な挑発路線に便乗した、強硬政策一点張りで突っ走り、日本が真っ先に独自の制裁政策をぶち上げ、すぐさま実行し、北朝鮮船舶の臨検・軍事的衝突まで想定した、むしろ北朝鮮が暴走することをさえ願い、煽っているかのような「エンジン全開」である。そこには冷静な対話と外交努力によって事態を平和的に解決しようというかけらさえない、妥協を排した「断固とした姿勢」の危険な路線である。その意味では金正日と同様の危険極まりない挑発路線である。
 今年の8月に開かれた「日米安保戦略会議」でコーエン前米国防長官が、北朝鮮のミサイル発射実験を指して、「金正日はよくがんばってくれた」と高く評価し、これを受けて、宝珠山・元防衛施設庁長官が「いや、これからもっと頑張ってもらわなければ」と応じたというが、こうした彼らの露骨な発言からも言えるように、北朝鮮・米国・日本の金正日−ブッシュ−安倍政権は、軍事的緊張激化路線・挑発路線において、客観的には緊密な提携関係にあるとさえいえよう。

<<「ブッシュ化」する安倍>>
 9/27付け『ニューズウィーク(日本版)』のジェームズ・ワグナー副編集長の巻頭言の表題は〈「ブッシュ化」する安倍新首相の恐怖〉である。その中でワグナー氏は次のように述べ、問いかけている。
 <もっとも恐ろしいのは、安倍が「ブッシュ化」するという仮説だ。00年の大統領選でジョージ・W.ブッシュは「思いやりのある保守主義」を掲げ、外交面でも謙虚さが必要だと訴えた。
 ギリギリで民主党のゴア前副大統領に勝利したブッシュは、超党派的なコンセンサスを重視するだろうと多くの人が予想した。だが実際は、ネオコンが描いたイメージにアメリカ社会を変身させた。9.11テロ後、国民はブッシュが国を守るためだと言いさえすれば、何でも好きにやらせてしまった。
 北朝鮮の金正日総書記は、安倍にとってのウサマ・ビンラディンになるのか。日本国民は恐怖のあまり、国を変身させてしまうのか。>
 これはきわめて現実的な問いかけであり、警告と言えよう。「思いやりのある保守主義」は、空虚で中身のない「再チャレンジ」政策であり、復古主義的な教育基本法改悪、そして憲法改悪政策である。「外交面での謙虚さ」は、反中・反韓的本質を覆い隠した日中・日韓首脳会談であった。日本国民にとって悲劇的なのは、日本のマスメディアにこうした警告を発する真摯な問いかけがほとんど皆無に近く、むしろ危機と緊張激化をことさらに強調し、大騒ぎをして吠えまくる政治家や言論人が跋扈し、マスメディアを独占して、挑発政策に反対し、平和的解決を求める行動はほとんど報道されず、批判的言論が押しつぶされ、大政翼賛的状況が作り出され、「恐怖のあまり、国を変身させてしまう」危険な路線が持ち上げられ、やむをえないものとして受け容れられ、さらなる強硬政策をさえ要求していることにある、と言えよう。その上に悲劇的なのは、沖縄を除いては、近づく補選や国政選挙においていまだに反自民の統一候補さえ立てられないという事態である。野党の責任は重大と言えよう。
(生駒 敬)