ASSERT 350号 (2007年1月20日発行)

【投稿】 「戦後レジームからの脱却」路線に対置すべきもの
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【投稿】 「戦後レジームからの脱却」路線に対置すべきもの

<<「五月三日までの成立」>>
 安倍首相は1/4、年頭記者会見で「憲法改正をぜひ私の内閣で目指していきたい。参院選でも訴えていきたい」と述べ、昨年末の教育基本法改悪に引き続いて、「戦後レジームからの脱却」路線の中心に憲法改悪を据えること、それが「安倍カラー」であることを明らかにした。就任以来あいまいさが目立つとの批判をかわす最大の力点をこれに置き、まずは改憲の前提となる改憲手続き法案の「通常国会での成立を期する」と宣言している。
 1/5、首相は衆院憲法調査特別委員会の中山太郎委員長を呼び、同法案について「民主党の枝野憲法調査会長も三月に衆院通過、四月中に成立と言っている」との報告を受け、意を強くしたのであろう、その後の首相発言はさらにエスカレートしている。
 これに呼応するかのように公明党の太田代表は1/13、この改憲手続き法案について「成立させることが一番大事な本年の憲法論議の課題だ。五月三日の憲法記念日の前に、できれば成立を期したい」と応じ、改憲手続き法案の「五月三日までの成立」は、昨年末の民主党の枝野党憲法調査会長の言及、1/12のの中川・自民幹事長の同様の意向等によって、自民・公明の与党に加え、民主党憲法調査会グループとの間でほとんど合意に達しているかのような状況が作り出されている。
 そして1/9、防衛庁が「防衛省」に昇格し、安倍首相はその記念式典で、省昇格を「戦後レジームから脱却し、新たな国造りを行うための第一歩」と位置付け、「『美しい国、日本』をつくっていくためには、『戦後体制は普遍不易』とのドグマ(固定観念)から決別し、21世紀にふさわしい日本の姿、新たな理想を追求し、形にしていくことこそが求められている」と訓示。この「防衛省」昇格法案は64年に池田内閣が閣議決定したが国会に提出できず、01年には保守党(当時)が提出したが廃案になったいわくつきのものであったが、ついにわが安倍内閣で実現できたと言うわけである。ただちに、その「新たな理想、形」として、自衛隊の海外派兵を付随的任務から本来任務に格上げし、専守防衛原則に反するとして、政府の憲法解釈で禁じられた集団的自衛権行使の研究を進める考えを明らかにした。首相自ら憲法遵守義務を放棄するものと言えよう。
 1/10には、日本版NSC(国家安全保障会議)の創設に向けた関連法案を、3月中旬までに通常国会に提出する方針を決めている。北朝鮮を仮想敵とした有事体制・緊張激化政策の具体化である。
 さらに1/12、ベルギー訪問中に安倍首相は、北大西洋条約機構(NATO)の理事会で演説し、「いまや日本人は自衛隊が海外で活動することをためらわない」と述べ、恒久法制定も含め、自衛隊の海外派遣を積極的に進める意向を表明している。

<<「戦後レジームからの脱却」>>
 ここで安倍首相が言う「戦後レジームからの脱却」とは何か。それは端的に言えば、憲法に集約される平和主義、民主主義、基本的人権、地方自治等々に対する、アンチテーゼ、すなわち、軍事力強化と海外派兵、日の丸・君が代の復活と愛国心の強制、民主的諸権利の規制と統制の復活、地方自治の形骸化と国家統制の強化、等々である。これを「美しい国、日本」などと化粧直しして、「新たな理想を追求」などと称しているが、その実体は「美しい国」とは程遠い、傲慢で権力主義丸出しの復古調に彩られた戦前回帰の右傾化政策である。その意味では確かに『戦後体制は普遍不易』からの決別宣言である。戦前回帰と異なる点は、徹底してアメリカ帝国主導の軍事的・政治的・経済的支配・グローバリズムに追随し、これを利用することにあろう。そして安倍内閣が引き継ぐ、小泉政権以来の市場原理主義の徹底は、日本の社会・経済を根底から破壊、分断し、所得の社会的再配分をぶち壊し、弱肉強食、社会の貧困化、格差拡大、腐敗蔓延の方向に推し進めようとしている。こうした結果を覆い隠す美辞麗句のスローガンが、「美しい国、日本」であり、その空虚でお粗末な政策の柱が「戦後レジームからの脱却」だと言えよう。
 問題は日本の大手マスメディアのほとんどが、こうした「戦後レジームからの脱却」に無批判であり、むしろ激励・礼賛し、結果として政治権力の手先になり、政府の広報機関と化してしまっていることにあろう。新年冒頭の元旦社説で、読売は、「タブーなき安全保障論議を 集団的自衛権「行使」を決断せよ 」と迫り、「日米同盟関係の信頼性を揺るぎないものに維持する努力が要る。同盟の実効性、危機対応能力を強化するため、集団的自衛権を〈行使〉できるようにすることが肝要だ」と述べて、それにはただ「政府がこれまでの憲法解釈を変更すればいいだけのことだ。安倍首相は、決断すべきである」と激励している。産経は、「凛とした日本人忘れまい 家族の絆の大切さ再認識を」と題して、「その意味で改正教育基本法の成立は価値ある重要な一歩といえる。・・・教育基本法も憲法同様、人類の普遍的価値や個の尊重を強調するあまり、結果として無国籍化と個の肥大や暴走を招いた」と、これまた安倍首相の「戦後レジームからの脱却」に賛辞を呈している。
 朝日の元旦社説は「戦後ニッポンを侮るな 憲法60年の年明けに」と題して、「軍事力より経済」で成功した戦後日本を擁護して、安倍首相の憲法9条改正の主張を批判する姿勢を明らかにしたことは評価できるが、1/7付朝日は、編集委員・西井氏の「民主党の経済政策を読み解く」を掲載し、民主党に対して「増税明言し勝負せよ」と主張している。これなどは明らかに財務省の広報機関と化し、政府・与党の本音を代弁し、政治的わなにかけるような悪質な主張と言えよう。

<<「音もなく速やかに進行」>>
 こうした日本の政治の危険な傾向に対して、1/7付、韓国の朝鮮日報紙は「『音もなく速やかに進行』する日本の右傾化」と題して、
 「安倍晋三首相が右傾化政策を『速やかに音を立てず』推し進めている。靖国神社参拝を除けば、安倍首相は首相就任以前に示していた右傾化路線を大きな反発なく一つずつ成就していっている。
 また、安倍首相は1日の年頭所感で、『戦後レジームから脱却し、新しい時代にふさわしい憲法とするため憲法改正に取り組む』と強調した。昨年、愛国心教育を強化した教育基本法改正案を国会で通過させた余勢を駆って、今年は改憲を最も重要な政治課題として推進するという意志を見せたのだ。
 外交的反発を招く恐れのあるデリケートな事案については、政権内の極右傾向のある人物の『口』を通じて推進されている。
 同様に『日本の核武装論』も、安倍首相は認めていないものの、中川政調会長や麻生太郎外相など、安倍政権の主要人物が主導している。
 しかし、こうした右傾化の流れに対し、日本国内からの反発はほとんど見られない。核武装論は既にタブーの領域から抜け出し、マスコミで活発に賛否をめぐる議論が展開されている。さらに、『皇室典範』改正案の白紙化や『河野談話』否定の動きは論点にすらなっていないというのが実状だ。」と指摘している。実に簡明に本質を突いているといえよう。
 1/9の中国・新華社通信は、防衛庁の省昇格は「日本が軍事大国に向けて踏み出した重要な一歩である」と警戒する論評を発表し、「日本はすでにアジアで最も先進的な武器装備と強大な作戦能力を持っている」と指摘、「日本の軍事力強化の動向は、日本軍国主義の被害を受けたアジア各国の国民の憂慮と警戒を必ず招く」と警告を発している。
 さらに、1/5付英紙フィナンシャル・タイムズ(アジア版)は「安倍氏は、日本の有権者がもっとも関心を寄せる経済問題ではなく、なぜ憲法改定や学校の教育課程での愛国心を強調し続けるのか驚かされる」との声が出ていると指摘している。
 いずれも安倍政権の危険な性格を浮き彫りにするものである。

<<早くも「ポスト安倍」>>
 ところが安倍政権は、威勢のいい「戦後レジームからの脱却」の掛け声とは裏腹に、またそれだからこそとも言えるが、おざなりで空疎なその場しのぎの政策の故に、支持率の急落、低迷にあえぎ、閣僚の不祥事と辞任が相次ぎ、浮上のチャンスをつかめてはいない。
 安倍首相は年頭、「この100日間で、美しい国づくりに向けて、礎を築くことができたと思います」と自賛し、その第一に改正教育基本法の成立を挙げたが、その担当大臣である伊吹文部科学相に不正経理処理の疑いが浮上したのをはじめ、このたった100日余の間に政権を揺るがし、対応に追われる疑惑が次から次へと発覚し、政府税調会長と行政改革担当相が辞任し、松岡農林水産相についても疑惑が取りざたされている。首相は「個別の事案の詳細は担当大臣に聞いていただきたい」と逃げ回らざるを得ない事態である。
 安倍内閣は発足わずか三カ月にして深刻なダメージを受け、1/8には、麻生外相が次期自民党総裁選について触れ、「いつあるか分からないが、捲土重来を期し、それまでに備えておかねばならぬと決意を新たにしている」と語り、早くも「ポスト安倍」に名乗り出るという、危うくて脆い、足元ガタガタの内閣の様相を呈している。しかもその「ポスト安倍」の候補者が、これまた安倍首相に輪をかけて反動的で、程度が低いという現実は、自民党にとっても深刻であろう。
 これに対して民主党は1/9、25日召集の通常国会を「格差是正国会」と位置づけることを決め、雇用・労働や年金・福祉、子育てなど幅広い分野で格差問題に取り組む姿勢を前面に打ち出そうとしている。これ自体は重要なことではあるが、民主党には、それと同時に提起すべき、安倍政権と対決する平和外交への全面的な外交姿勢の転換をめぐる政策が欠落していると言えよう。折りしも、泥沼から抜け出せないブッシュ政権のイラク増派決定が内外から厳しい批判に晒され、孤立している最中に、日本の安倍政権が「イラクの安定化に向けた大統領の強い決意表明を評価したい」と追随姿勢を鮮明にした。今こそこうした政権を退場させ、政権交代を勝ち取るためには、安倍政権の憲法改悪・軍事力強化・緊張激化政策という「戦後レジームからの脱却」政策に、唯一対抗できる対話と協調、平和外交への転換、そして環境保護政策での対決という最も重要な政策の確立こそが求められている。
 さらに野党は、今夏の参院選で与党議席を過半数割れに追い込むために、「ブリッジ共闘」であれ何であれ、どのような形態であろうとも結集、結束すべきであり、それが世論の、有権者の要求であること、そしてそれは可能であることを銘記すべきであろう。
(生駒 敬)