ASSERT 353号 (2007年4月14日発行)

【投稿】 進退窮まる安倍内閣
  ---従軍慰安婦問題をめぐる世界的孤立---
【投稿】 北陸電力志賀原発1号機臨界事故の恐怖
【投稿】 能登半島地震と原発臨界事故隠し
【感想】 死刑=最後の野蛮
【投稿】 最低賃金と生活保護

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【投稿】 進退窮まる安倍内閣
  ---従軍慰安婦問題をめぐる世界的孤立---


<<「相手を間違えた」>>
 安倍首相は、従軍慰安婦問題で自ら発した詭弁・ダブルトークでいよいよ進退窮まったのであろう。4月下旬からの訪米を前にして、日米首脳の電話協議を日本側から持ちかけ、4/3、首相自ら電話をかけて、ブッシュ大統領との電話会談を行ったと言う。首相は、従軍慰安婦問題に対する発言が米国内で波紋を呼んでいることを念頭に、軍当局の関与を認めた93年8月の河野官房長官談話を引き継いでいる姿勢などを説明して、「私が何を思っているか、念のために話す。河野談話を踏襲している」などと説明し、大統領に理解を求め、大統領は首相に対して誠実さを評価し、「今日の日本は第二次大戦時の日本ではないと指摘した」としています。
 首相は、「私の発言が正しく報道されていない。今月下旬に訪米するので、誤解があってはならないので念のために真意を伝えた」というが、従軍慰安婦問題のほかにも、北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議への対応や、7月末に期限が切れるイラク復興支援特別措置法を2年間延長する改正案を提出したことなどについても意見交換をしたという。これはあくまでも外務省広報の説明であり、通訳を交えてたった15分で説明や言い訳をし、意見交換まで本当に出来るのか大いに疑問なところであるが、切羽詰った首相としては、事態を沈静化させ、とにもかくにも日米首脳会談ではこの従軍慰安婦問題を取り上げないこと、あわよくば幕引きへの協力を確認したかったのであろう。
 しかしこうした安倍首相の、ほころび隠しの偽善的対応は、頼みとするアメリカのみならず、ますます全世界的な孤立を招くものと言えよう。韓国・東亜日報紙4/5付は、「安倍首相の目にはブッシュ大統領しか見えないのか」と題する社説を掲載し、この電話会談は「米国内の反日世論を好転させようというジェスチャー」であり、「安倍首相は相手を間違えた。ブッシュ大統領ではなく、当事者の韓国国民と慰安婦被害者に直接、釈明すべきだった」と手厳しく指摘している。この問題の本質を突いていると言えよう。

<<「とんでもない大きな失敗」>>
 安倍首相が躍起になって沈めようとしている「米国内の反日世論」は、首相が3/1に河野談話を事実上否定した発言以来、ますます手厳しく、かつ辛らつになってきている。
 米紙ワシントン・ポストは3/24日付で「安倍晋三のダブル・トーク(ごまかし)」と題する社説を載せ、「拉致問題に熱心な安倍首相が従軍慰安婦問題には目をつぶっている」と批判し、首相に「拉致問題で国際的な支援を求めるなら、彼は日本の犯した罪の責任を率直に認め、彼が名誉を傷つけた被害者に謝罪すべきだ」と求めている。
 同紙は、さらに6者協議で拉致問題の進展を最重要課題とする日本政府の姿勢について「この一本調子の政策は、国内で落ち込む支持の回復のため拉致被害者を利用する安倍首相によって、高い道義性を持つ問題として描かれている」と皮肉り、拉致問題については「平壌の妨害に文句を言う権利がある」としながら「第2次大戦中に数万人の女性を拉致し、強姦し、性の奴隷としたことへの日本の責任を軽くしようとしているのは、奇妙で不快だ」と批判し、さらに さらに政府が3/16に決定した答弁書は、93年の河野官房長官談話を「弱めるものだ」と指摘し、歴史的な記録は「北朝鮮が日本の市民を拉致した証拠に劣らず説得力がある」と主張。首相が河野談話を後退させることは「民主主義大国の指導者として不名誉なことだ。日本政府の直接の関与を否定すれば、北朝鮮に拉致問題の回答を求める正当性を高めると考えているかもしれないが、それは逆だ」としている。(以上、朝日3/25付)
 ニューヨークタイムズ紙は3/6付社説に続いて、3/28付でも「安倍首相が慰安婦問題について謝罪するとしながらも、日本政府の役割は否認している」と問題点を指摘し、「北朝鮮へら致された日本人被害者らのおかげで人気を集めた同首相が、慰安婦動員の強制性を否認したのは偽善」であると断じている。
 同じ3/28付のウォールストリートジャーナル紙も社説で「安倍首相は、小泉前首相の靖国参拝で悪化した周辺諸国との関係を改善するとして、昨年9月の就任直後に韓国と中国を相次いで訪問した」にもかかわらず、「そうした安倍首相がこうしたとんでもない大きな失敗をした」と指摘し、「安倍首相の慰安婦関連発言が韓国と中国など東アジア諸国を激怒させ」、「米下院で、日本の謝罪を求める決議案が上程されるなど米国でも日本を非難する世論が広がっている」と指摘している。
 こうした米主要三紙以外にも、ロサンゼルス・タイムズ紙やボストン・グローブ紙、そして米CBSテレビなどが「日本を孤立に追い込む」安倍首相の姿勢を明確に批判している。そして、「慰安婦」問題で日本政府に公式な謝罪を求める下院決議(案)の共同提出議員数が増え続け、三月末で77人となっている。同盟国であり、徹底的に米政権に追随し、奉仕してきた実績からして、これほど批判されるはずがないと侮ってきた結果がこれであり、その意味では安倍首相は「とんでもない大きな失敗」に踏み込んでしまい、いまだにそれから抜け出せてはいない。

<<火に油を注ぐ発言>>
 さらに火消しどころか、逆に火に油を注ぐような発言が首相の身内から飛び出し、首相はこれを諌めも解任も出来ないのである。それが下村発言である。
 下村博文・官房副長官は 3月25日にラジオ日本に出演し「従軍看護婦や従軍記者はいたが、従軍慰安婦はいなかった」「慰安婦がいたのは事実だが、私は“一部の親が娘を売った”とみている。だが、日本軍が関与していたわけではない」などと、日本軍の関与をすべて否定する見解を表明し、その後記者団に、「(強制連行を示す公的資料が)発見されなかった以上、軍や官憲による強制連行はなかったというのが、個人的な見解だ」と説明し、「聞かれたから答えたまで」と開き直っている。これは内閣官房副長官という首相官邸のナンバー3の要職、職責を担いながら、「河野談話」を継承するという安倍内閣の方針を真っ向から否定する発言であり、これでは、首相のおわびや河野談話継承発言はすべてダブルトーク・二枚舌と言うことになるのは当然である。
 この人物は「若手保守の代表格」を自任しており、97年に現自民党政調会長の中川昭一氏が発足させた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」では安倍晋三事務局長の下で事務局次長を務めた人物であり、安倍首相が首相であるがゆえに言えない真意を官房副長官として解説したと受け取られても仕方ないものである。そして実際にもこの「若手議員の会」は、歴史教科書への「慰安婦」記述の掲載削除を要求し、NHKの「慰安婦」番組に圧力をかけて改変させる中心勢力となり、そのメンバーの松岡利勝、下村博文、菅義偉、渡部善美、塩崎泰久、佐田玄一郎、高市早苗、らがすべて安倍内閣の閣僚におさまっていることからして、押して知るべし、と言えよう。だからこそ、解任も罷免も出来ないのであろう。

<<「現在進行形の人権侵害」>>
 それでも安倍首相は、もはや「官憲が家に押し入って連れて行くような狭義の強制性」はなかったなどという欺瞞が通らないと見るや、あくまでも「河野官房長官談話を引き継いでいる」という姿勢に戻らざるをえなくなった。
 しかしそれでも、ワシントン・ポスト紙が、安倍首相は北朝鮮による拉致問題とは対照的に従軍慰安婦問題で「戦争犯罪に目をつぶっている」と批判されたことに対しては反論せざるをえないと感じたのであろう。在ワシントン日本大使館に対して、米紙ワシントン・ポストに対して「安倍首相と日本政府の考え方を十分に理解していない」と申し入れをさせ(3/27)、同紙のフレッド・ハイアット論説委員長に、日本政府の基本的な立場を「当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を傷つけたものと認めている」と説明をさせ、同紙が社説で「国内で落ち込む支持の回復のため拉致被害者を利用する安倍首相」と記したことには「支持率うんぬんの問題ではない」と反論したという。
 そして安倍首相自身が国会内で記者団の質問に答える形で「(拉致と慰安婦問題は)全く別の問題だ。拉致問題は現在進行形の人権の侵害だ」と反論して(3/26)、「従軍慰安婦の問題は、それが続いているというわけではない」と強調する一方、拉致については「まだ日本の方々が北朝鮮に拉致されたままである、という状況が続いている」と反論したのだが、これもまた火消しどころか、逆に火に油を注ぐ結果となっている。
 この発言はあらためて安倍首相が、拉致問題は現在進行の問題だが、従軍慰安婦問題は「過去の問題」として切り捨てる姿勢を明らかに示したものとの批判を招くものである。そればかりか日本政府としての明確な謝罪も国家的な補償もしていないがゆえに、その上に歴史的事実の歪曲までして強制の事実はなかったなどということをこの段階に至ってなお持ち出すと言う意味では、この従軍慰安婦問題は過去の問題とはならず、現在進行形の問題なのである。韓国のハンギョレ紙が「慰安婦問題は決して過去のものではない」と反論し、「まだ多くの慰安婦ハルモニが、その当時の苦痛を持ったまま生きている。安倍首相をはじめとする日本政府の官吏の発言は、傷口に塩を塗る重大な現在進行形の人権侵害だ」と批判したのは当然のことなのである。
 英誌「エコノミスト」3/21号は「東京の誤った方向転換 〜 従軍慰安所、日本外交を汚す」と題する論評で、「安倍晋三は日本の首相となってわずか六カ月で、戦争中の歴史という藪の中に入り込んだことによって自らの国際的な評価をずたずたにしてしまった」と厳しく批判し、「安倍氏の本当に愚かなところは、慰安婦問題で、世界でも屈指の不快な体制である北朝鮮の金正日の体制に道徳上の優位さを与えたことだ。大した芸当だ。」と嘆いている。これは安倍首相にとっても思わぬ結果であろう。もはや保守の側、体制擁護の側からしても安倍首相は無用の存在と化してきていると言えよう。
 首相にとって最後の頼みは、日米首脳会談であり、中国・温家宝総理の訪日であろう。しかしこれとて、これまでの安倍路線の根本的転換がなければ真の打開は望み薄となろう。
(生駒 敬)