ASSERT 358号 (2007年9月22日発行)

【投稿】 安倍政権自壊の必然性
【投稿】 インド洋に轟沈した安倍政権
【投稿】 「サブプライム問題」−実はドルの特権が揺らいでいる
【書評】 『みんなの9条』
【コラム】 ひとりごと--医療がおかしい--

トップページに戻る

【投稿】 安倍政権自壊の必然性

<<「未熟で脆弱、お粗末」>>
 いかにも唐突な、国会や有権者を愚弄した、「未熟で脆弱、お粗末」な政権の前代未聞の辞任劇であった。安倍首相は政権を投げ出し、自壊したのだが、これは遅かれ早かれ来たるべき必然であったとも言えよう。
 第一に、安倍首相が掲げ、衆参両院の過半数を超える多数をもって強行採決を繰り返して成立させてきた教育基本法の改悪、国民投票法の制定、防衛庁の防衛省への昇格、集団自衛権の解釈変更、そして憲法九条改悪にいたる「戦後レジームからの脱却」路線は、そもそも有権者の審判を経て承認されてきたものではなく、小泉政権時の郵政解散の一時的成果を利用したものに過ぎなかったものであり、この「安倍カラー」なる路線は、先の参議院選挙で年金問題放置・政治とカネ腐敗問題と共に、大敗を喫する最大要因となり、「ノー」を突きつけられたものであった。その大敗にもかかわらず、辞任を拒否し、「安倍カラー」を薄めてまで続投に固執してきたが、すでに参院選大敗の時点で安倍政権の存続根拠は破綻していたものである。
 第二に、問題は首相個人の政治的エネルギーの源となってきた「安倍カラー」そのものが、破綻をつくろいえないばかりか、政治生命存続の障害にさえなってきたことである。首相のいわば一枚看板ともいえる対北朝鮮の強硬・制裁路線は、成果をあげられないばかりか、六者協議の進展と共に、米国の対北朝鮮との対話路線にさえ障害となり、完全に取り残されてきた。さらに従軍慰安婦についての、日本軍が強制したという証拠はないという首相発言は、米議会の謝罪要求決議を以前にもまして圧倒的多数で採決を促進させてしまうという事態を招いてしまった。戦争犯罪見直しをめぐる東京裁判を疑問視する首相の姿勢、それと連動したインド訪問時のパル判事遺族訪問は、首相の右翼偏向歴史観を際立たせ、ブッシュ政権にとってさえ、いかがわしい存在になりつつあった。そして自分の任期中にやり遂げたいとしていた「憲法改正」は明らかに遠のいてしまった。

<<「生けるしかばね」>>
 第三に、直接の辞任のきっかけとして首相自身が取り上げたテロ特措法の延長問題では、「職を賭して」までその成立のために最大限の努力をするとしていたが、実際には何の努力もせず、党首会談申し入れは辞任当日であり、しかもその以前から首相の党首会談申し入れ意向は麻生幹事長ら党執行部によって握りつぶされていた疑惑を実感せざるを得なかった。さらに、首相はあくまでもテロ特措法の延長であったが、党執行部は「国会承認」は「事前」も「事後」も必要としないテロ特措新法を新たに制定する方向に向かい、その成立を期すには参議院で否決されても、衆議院で三分の二以上の多数で再議決する必要があり、相当期間のインド洋給油の「断絶」が避けられない事態に向かっていた。しかもこの再議決には公明党が慎重姿勢を示しだした。自民単独では三分の二には達しない。なおかつ、国会では国政調査権を使った「インド洋給油疑惑」の実態解明が突きつけられ、対アフガンではなく、対イラク戦への横流しが暴露されかねない。かくして自作自演の「国際公約」実行はもはや風前の灯となった。
 9/12の辞任決断以前に、首相はすでに完全に八方塞がりに追い込まれ、遠藤農水相解任に際して明らかになったように、首相は党執行部からさえ無視されていた。自らがまいた種とはいえ、ここまで追い込まれれば「迫力、覇気がなえ、政治的エネルギーがなくなっていた」というのはさもありなんと言えよう。
 それでも首相が「未熟で脆弱、お粗末」なのは、たった一回の党首会談申し入れで断られたと判断し、それを辞任の理由にしてしまう程度の低さである。しかも辞任記者会見では、「テロとの戦い」の継続以外に語る言葉をなくしてしまい、本来ケジメをつけるのであれば語るべき所信表明演説で述べた続投の基本政策、組閣されたばかりの新内閣の基本政策について、辞任によって無責任に放棄することについて一言の謝罪も、何の反省の言葉も語れなかったことである。
 9/13付米紙ワシントン・ポストが、安倍首相が7月末の参院選で惨敗して以来、「生けるしかばね」だったと酷評したのも当然であろう。

<<解散・総選挙へ>>
 このような人物を首相に祭り上げた、前首相の小泉氏、参院選大敗後すぐさま続投支持を表明し、後継を期待・画策した麻生氏、この続投を後押しした公明党幹部の政治的責任はきわめて重大であり、まずは謝罪すべきであろう。そして、こうした国会、国政の無意味な混乱と空白を招いた責任をとって、与党は総退陣し、総選挙で有権者の審判を仰ぐために、野党側に選挙管理内閣の組閣をゆだねるのが本来取るべき責任の取り方であろう。
 しかし事態は、自民党の後継総裁をめぐって、福田・麻生対決を自民党再浮揚のチャンスとしてショー化し、その演出に懸命であるが、「福田雪崩」現象の中で、単なる手続きと化し、盛り上がりに欠け、振り向きさえされない状態である。こうした事態をもたらし、政治的空白を放置してきたことに対して、次の首相と目される福田氏やその内閣が真摯に謝罪を表明するかどうかをしっかりと監視する必要があろう。
 朝日新聞社が9/13におこなった全国緊急世論調査によると、首相の今回の辞任を「無責任だ」と思う人が70%に達し、辞任を「よかった」と受け止める人は51%、「そうは思わない」は29%、首相は辞任の理由として、「局面の打開が必要だと判断した」との説明に「納得できる」は11%に対し、「納得できない」が75%であった。自衛隊のインド洋上での活動継続そのものへの賛否では反対が45%と、賛成の35%を上回った。安倍政権の実績については、「大いに評価する」が4%、「ある程度評価する」が33%に対し、「あまり評価しない」は45%、「まったく評価しない」は15%と、当然の厳しい評価である。衆院の解散・総選挙の時期を巡っては「早く実施すべきだ」が50%で、「急ぐ必要はない」の43%を上回っている。参院選直後の7月末の調査では39%対54%であったものが、逆転している。首相が政権を投げ出すという異常な事態を受け、衆院の解散・総選挙が現実的課題として要請されているといえよう。
 福田新政権にとっては、このような状態の下での衆院の解散・総選挙は到底受け容れられるものではない。しかし、野党の結束と政策対決、国政調査権の発動によって解散・総選挙に追い込むことは十分に可能であり、野党にはそれが求められているといえよう。
(生駒 敬)