ASSERT 364号 (2008年3月22日発行)

【投稿】 米金融市場の混乱と福田政権
【投稿】 噴出する「華夷体制」の矛盾
【投稿】 本当に温暖化ガスを削減できるのか−「排出権取引」への疑問
【コラム】 ひとりごと--近づくアメリカ金融帝国の凋落--

トップページに戻る

【投稿】 米金融市場の混乱と福田政権

<<「取り付け騒ぎ」>>
 ついにアメリカ経済における金融大崩壊への前兆、あるいは雪崩ともいえる現象が噴出し始めたのではないかと危惧されている。3/14、米証券大手ベアー・スターンズの幹部らが、サブプライム問題に端を発した金融市場の混乱で、事実上の「取りつけ騒ぎ」があったことを明らかにした。同社によると、3/10、資金繰り難による経営不安説が流れたのを受け、「市場のうわさには根拠がない」とのコメントを発表したが、逆に取引先のヘッジファンドが一部取引を他社に移すなど顧客離れが続き、13日には複数の金融機関などから証拠金の積み増し要求や資金の引き出しなどが相次いだという。本来「身内」であるはずのこうした金融業界にも見放され、「最後の貸手」の当局に駆け込まざるを得なくなったのである。米連邦準備理事会(FRB)や財務省、証券取引委員会(SEC)など当局は、3/13深夜から早朝にかけて緊急会合を実施。3/14、ベアー社は急遽、ニューヨーク地区連邦準備銀行の資金繰り支援を受けることを決め、FRB高官は同日、ベアー・スターンズ向けの資金供給について、資金繰りを助ける緊急融資枠を設け、JPモルガン・チェースが、FRBから借り入れた資金をベアー・スターンズに貸し出すことを明らかにした。決済を担う銀行ではなく、証券の取引を業務とする投資銀行の救済は極めて異例である。
 金融分野の大型破綻の回避では、98年のヘッジファンド「ロングターム・キャピタル・マネジメント」や、84年の「コンチネンタル・イリノイ銀行」に匹敵するものである。今回、米当局が救済に動かざるをえなかったのは、米国で5番目の投資銀行という経営規模の大きさがもたらす影響の広がりはもちろんのこと、ベアーが破綻すれば、「次のベアーはどこか」と、ほかの米大手証券などにも経営不安の連鎖が広がりかねない、「終わりの見えない負の連鎖」(大手証券のディーラー)が現実性を増していること、しかもサブプライムローン問題が象徴する、どこまで負債を抱え込んでいるかを各金融機関が把握し得ないという投機マネーゲーム経済の自己矛盾の恐怖からくるものであり、それは同時に米金融危機の根深さ、重大性を物語っている。

<<いくつかの銀行が破綻」>>
 こうした事態を予測させるものとして、すでにバーナンキ米FRB議長は、2/28の米上院銀行住宅都市委員会で半期に一度の金融政策に関する報告を行った際、多額の住宅ローン関連証券に投資している金融機関の金融リスクについて尋ねられ、「いくつかの銀行が破綻する可能性がある。例えば、住宅価格が急落している地域の不動産に多額の投資をしている小さな銀行や、あるいは、多くの場合、新設されたばかりの銀行がそうだ」と述べている。同議長は、もちろんすぐそのあと、「金融システムの大部分を構成する、国際金融業務を行っているような大手銀行は、その種の深刻な問題に陥るとは考えていない」と、金融不安の可能性を否定したが、FRBのトップの発言だけに、市場にかなりのショックを走らせたのだが、事態はそんな予測を超えるものといえよう。
 このFRB議長の銀行破たん発言に驚きあわてた米連邦預金保険公社(FDIC)のシェイラ・ベアー総裁は、翌日の2/29、銀行が経営破たんした場合、預金などを保護する当局として、「FDICの問題がある金融機関リストに名前が載っているのは76行だが、それらの総資産はわずか2200億ドル(約23兆円)で、全金融機関の資産規模から見れば、大海の一滴に過ぎない」とし、さらに「全銀行の99%は、自己資本が十分あり、全く安全である」と述べ、銀行破たん発言の火消しに躍起となった。
 しかし、2/26にFDIC自身が発表した2007年第4四半期(10-12月)の銀行と貯蓄金融機関の決算状況によると、最終利益は、前年比83%減の58億2000万ドル(約6000億円)と、91年以来16年ぶりの低水準、2007年全体でも、前年比27.4%減の1055億ドル(約1兆円)となっている。すでに米証券大手メリルリンチは、同じ07年第4四半期決算をで、当期損益が前年同期の23億4600万ドル(約2500億円)の黒字から98億3300万ドル(約1兆500億円)の赤字に転落したことを発表しており、米金融最大手のシティグループも同規模の赤字決算に追いやられている。さらに金融機関の住宅ローン関連損失額は、昨年8月の調査時点での1500億ドル(約15兆6000億円)の予測を大幅に上回る、4000億ドル(約41兆6000億円)と予測されている。

<<「強いドルを信じて」>>
 3/14のニューヨーク金融市場は、ニューヨーク連銀などのベアー社への異例の金融支援という事態を受けて信用不安が高まり、ドル、株がともに急落、円相場は一時、1ドル=98円台、95年9月末以来約12年半ぶりのドル安となり、逆に「安全資産」としての金相場は連日史上最高値を更新する事態となっている。
 3/12、アメリカを起点とする世界的な金融不安への懸念が消えない状況に対し、国際通貨基金(IMF)のリプスキー第一副専務理事は、公的国際機関の幹部として初めて公的資金注入の必要性に言及し、世界の金融システムを守るために「公的資金を使うことを含め、すべての選択肢を備えておかなければならない」とし、米国金融機関への公的資金注入を促すような発言をする事態となった。
 ブッシュ米大統領は14日、米経済についてニューヨークで演説し、「住宅や金融市場で厳しい時期を迎えている」「我々は難しい状況に対応している」と述べ、しぶしぶながらも急減速中の景気に懸念を表明せざるをえなくなった。それでもまだ「強いドルを信じている」と、1月に発表した緊急経済対策への期待を述べたが、もはやレイムダック化しつつあるブッシュ政権の弱々しい期待表明でしかなかった。金融不安と信用収縮を手っ取り早く解消するために、金利をさらに引き下げれば、よりいっそうのドル安が助長されるし、世界的なドル離れから、ドル暴落という事態まで招きかねない。放置すれば、ドル決済の石油など国際商品価格がさらに上昇して、米国のインフレ再燃の恐れが高まる。すでにドルはほとんどの国の通貨に対し下がり続け、ドルの名目実効レートは1973年を100として69と、過去最低の水準にあり、逆にユーロはドルに対して最低時に比べ7割程度も高く、かつ安定し、各国外貨準備に占めるユーロの比率は約25%まで高まっている。
 瀬戸際に立たされながら、ブッシュ政権である限りは、事態打開のための政策選択余地は極めて限られている。もちろんその背景には、ブッシュ政権が推し進めてきた昨年で7100億ドルという巨額の貿易赤字と、対イラク戦費の拡大と財政赤字の再拡大、製造業の海外流出と投機的金融業の肥大化とその破綻という根本問題が横たわっている。これらの根本的政策転換こそがアメリカには問われている。警戒しなければならないもう一つのブッシュ政権の選択は、戦争時の「強いドルを信じて」、「イラン空爆」などの危険な冒険政策への執着である。3月16日から、チェイニー米副大統領が「イラン包囲網強化」を目的に、イスラエルを訪問するという。要警戒といえよう。

<<武藤日銀総裁への固執>>
 問題は、世界的な信用不安と経済危機の進化が、たとえ米国発のものであったとしても、徹底的にブッシュ政権に寄りかかり、この円高・原油高・株安・景気後退という非常事態に何の対策も打てない、打とうともしない自民・公明政権のふがいなさ、無責任体質がいまだに何の反省もなくまかり通っていることである。福田首相の態度は、年金公約違反の対応、イージス艦事故の対応と同じで、まるでひとごとのように傍観者的で、事態を正確に認識する意欲も能力さえ無きかのごとき状態である。内閣不支持率はほぼ50%、過半数に達しようとしているにもかかわらず、政権の座に居座ることだけには執着している、すでにレームダック化している状態である。
 日銀総裁人事をめぐって、政府・与党側は「総裁が不在になると国際経済社会に影響を与える」「日銀総裁人事が混迷するマイナスは大きい」として、あくまでも参議院側で不同意となった武藤敏郎日銀副総裁の昇格案に固執し、再提出までもくろみ、果ては現総裁の任期延長といった奇策まで持ち出そうとして、結局は差し替えに応じざるを得ないことが分かっていながら、現日銀体制の維持に必死であった。
 しかし、福井総裁は村上ファンド問題で不正投資に関与し、本来辞任していなければならない不適格者であったにもかかわらず、武藤氏は福井総裁のスキャンダル隠しに奔走し、延命を図った人物である。国会での所信聴取では、民主党の仙谷由人・党国会同意人事検討小委員長に「副総裁就任時と比べて経済は好転したか?」と聞かれて、武藤氏は「すばらしく良くなった」と答えるほどの、格差拡大などこの世に存在しないかのような認識の低さである。さらに同じく聴取に参加した社民党の阿部知子衆院議員は「デフレを防ぐためにゼロ金利を含めて適宜適切だったと言うのですが、そのしわ寄せは庶民に来た。年金、医療、介護が崩壊している最中、預貯金も目減りして、格差は広がる一方です。一家の家計を毀損しても、市場に金を回すことを優先させた結果ですが、それで内需が拡大したか。外需依存はそのままです。こうした現状に、金融を担当する者としての気配りが感じられなかった。武藤氏が財務次官時代に社会保障費を3000億円削減したことを思い出しました」と述べている。与党が武藤氏を日銀総裁にしたかった理由がここに見て取れよう。

<<「日本の苦悩」>>
 ところが、大手マスコミは一斉に民主党に噛み付き、与党を弁護する始末である。朝日は社説で「腑に落ちぬ不同意の理由」「民主党の反対理由は説得力がない」「不同意方針に福田首相を追い詰めようとの政局がらみの思惑が感じられる」と民主を批判、読売も「民主党の対応は、とても責任ある政党のものとは言えない」と決め付け、日経は「不同意ありきの民主党は無責任だ」、毎日は「採決棄権も民主の選択肢だ」などと文句をつけている。しかし、武藤案を提示すれば、民主党が反対することは初めからわかっていたことであり、わかっていながら出した与党は、混乱の責任を民主党に負わせようというそれこそ党利党略の「政局がらみの思惑」がみえみえであり、本来、与野党が合意できる人事を提案すればすむ話であった。大手マスコミの、ジャーナリストとしての本来の批判精神の欠落、権力擦り寄り、堕落ぶりが見て取れる。
 森田実氏のホームページ「森田実の時代を斬る」によると、イギリスの経済誌『エコノミスト』2008年2月23日号〈世界経済〉欄の「日本の苦悩」と題する記事は、日本の政治に対してきわめてきびしい指摘をしている。
 「まず見出しからきびしい――〈世界第2位の経済大国はまだ落ち込んだままだ―その原因は政治にある〉。この指摘は、そのとおりである。記事は、米国と日本の両国政府を比較して、米国政府は経済の崩壊が起こると金融や財政的刺激策を果敢に実施したのに、日本政府は惨状を何年も隠し続けてきた、と日本政府への強い不信を表明している。
《第一にとがめるべきは安倍氏だ。彼は経済改革に無関心で鈍感だった》
《第二に責任を問われるべきは自民党の古ダヌキたち(中曽根元首相、森喜朗元首相)、渡辺恒雄読売新聞グループ代表だ》
《第三に問われるべきは民主党の小沢一郎だ。小沢氏は怒りっぽくて専制的である。密室で取引する。小沢氏は透明さと説明責任を果たさなければならない政党の指導者にはふさわしくない》
《民主党の指導者、小沢一郎は、かつては改革者としてのおもむきはあったのに、今や自民党の古いタイプのボスのように見える。》」
 いずれも的確な指摘といえよう。3月末から4月は、さらにガソリン税と年金問題をめぐって与野党の攻防が一段と激しくなり、福田政権を退場に追い込む正念場となろう。問われているのは、日本の与党、マスコミだけではない、野党も厳しく問われていると言えよう。
(生駒 敬)