ASSERT 366号 (2008年5月24日発行)

【投稿】 中国・四川大地震が投げかけたもの
【投稿】 後期高齢者医療制度の問題点と今後の医療改革
【投稿】 新たな段階に進む「北朝鮮核問題」
【コラム】 ひとりごと--橋下知事の財政再建試案の行方--
【報告】 旧交を温めて--恩師訪問--

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【投稿】 中国・四川大地震が投げかけたもの

<<阪神大震災の30倍>>
 5/12、中国・四川省で発生した大地震の規模、エネルギーは、マグニチュードで8・0に達し、その破壊力は、阪神大震災の30倍にもなるという。震源から1500キロも離れた北京で高層ビルが揺れるほどの地震であった。未曾有の震災被害に対する世界的な人道支援、救援・連帯・協力が要請されている。
 今回の地震は、四川省を走る長さ三百〜五百キロメートルに及ぶ竜門山断層の一部が動いて発生したとみられているが、四川・雲南地震活動帯とよばれ、ユーラシアプレートとインド・オーストラリアプレートがぶつかり合い、エベレスト山系を含むチベット高原を形成し、ひずみがたまって地震が多発する地域であり、過去にもたびたび、マグニチュード7レベルの大地震が発生してきた地域であったという。ユーラシアプレートは、プレート運動によって東へ動き、年間四〜六ミリメートル程度のひずみが蓄積され、過去数百年間に七、八回の相当規模の被害地震が起こってきた地域であった。さらにさかのぼれば今回の大地震よりもさらに大規模な地殻変動が発生していたはずである。
 まさに、地球表面上の大陸は、それぞれのプレートとして地球内部の定常的な対流運動に照応して、その動きに乗って移動している、そしてプレート同士がぶつかり合う境界部では、ぶつかり合うエネルギーが上昇・移動・沈降として発散され、造山運動、列島形成、火山、断層、地震等の種々の地殻変動を発生させるという、1960年代後半に確立されたプレートテクトニクス理論を実際に証明するものでもあった。
 その意味では今回の大規模な地震は、特殊で、他の地域ではありえない、発生し得ないといった希望的な観測や予測を根底から打ち砕くものでもあったといえよう。とりわけ日本列島は、ユーラシアプレートが日本海東部、本州中部(フォッサマグナ地域)にかけての長いラインで北アメリカプレートと接して活動しており、また、相模トラフから南海トラフ、南西諸島海溝、フィリピン海溝にかけての海域ではフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込み、錯綜しているきわめて危険な地域であり、地震・断層・地殻変動の多発地帯でもある。四川大地震を上回る地殻変動でさえ想定しなければならないであろう。
 ところが、そうした活断層上の真上ないしは直近に敦賀原発、美浜原発、新型転換炉「ふげん」、高速増殖炉「もんじゅ」、大飯、高浜原発、島根原発、柏崎刈羽原発、女川、福島第1、第2、浜岡、志賀原発が、そして六ヶ所再処理工場が存在していることが明らかになっている。今回の地震で最も肝を冷やしたのは、こうした原発関係者であったであろう。今回の四川大地震級の地震が発生すれば、阪神大震災の30倍にも達する破壊エネルギーである、こうした原発や再処理工場、核廃棄物貯蔵施設など核関連施設はひとたまりもなく破壊され、全世界に膨大な放射性物質を撒き散らし、制御し得ない核事故を誘発し、日本発の原発震災によって、取り返しのつかない全地球的・全人類的被害・災害をもたらすであろうことは間違いがない。昨年7月の中越沖地震・柏崎刈羽原発被災はまさにその一歩手前であったことを示している。経済産業省原子力安全・保安院によると、「断層が直下にあるような原発は、日本以外、世界のどこにも無い」(4/4、衆院内閣委政府答弁)という異常な事態を日本は抱えている。現実に想定可能な原発震災を目前にして、事態を放置し、震災発生後に「原子力発電は地球温暖化阻止に貢献する」はずであった、「到底想定し得なかった」、「史上初めての事態であった」などといって言い逃れできる筋合いのものではない。事態の深刻さを真摯に受け止めるならば、すべての原発、核関連施設から日本は早急に撤退することこそが第一義的義務である。

<<核汚染防止問題専門家の派遣>>
 ところで今回の四川大地震で、中国の核関連施設はどのような状況にあったのであろうか。今回の震源の近くには、成都に大規模ウラン濃縮施設(建設中)、綿陽に「核物理・化学研究所」を含む「中国工程物理研究院」(核兵器研究開発製造施設)、震源地の北東約270キロの広元にはプルトニウム製造用の原子炉を持つ「プラント821」と名付けられた中国最大のプルトニュウム製造施設が存在するといわれる。さらに綿陽には核兵器を担当する部隊が駐屯しているという。綿陽や広元でも死者数が、数千人以上に達しており、心配されるところである。
 フランスの核監視団体「放射能保護および核安全のための機構」が5/13(現地時間)、四川省の周辺にある核施設(4、5カ所)は無事であり、「まだ安心はできないが、地震の影響を受けた地域にある核施設から放射能が漏れる可能性は極めて少ない」と発表している。また、5/16付の米紙ニューヨーク・タイムズは、中国四川省で起きた大地震で、米国がスパイ衛星を使って、地震による影響で同省の核兵器製造施設から放射能が漏れている兆候がないかどうか監視していると報じ、米政府当局者の話として、現時点では懸念される兆候はないとしている。
 中国当局自身の動きとしては、中国環境保護省が5/14までに、四川大地震を受け核汚染防止対策を取ることを決定、李幹傑次官を中心に核安全局担当者や汚染防止問題の専門家を四川省の被災地に派遣したと発表した。大規模な地震で核施設が破損、放射能漏れなどがないか調査し、汚染防止対策に努めるためとみられる。環境保護省はまた、四川省や甘粛省、青海省、陝西省など内陸各地区に緊急通知を出し、核施設の状態について厳重に調査し、放射能漏れなどがないよう全力を挙げるよう求めた(共同通信 2008.5.14)、と報じられている。四川省以外に甘粛省、青海省、陝西省など内陸各地区に緊急通知を出さなければならない核施設が存在し、核汚染防止対策を取る必要があることを明らかにしている。
 さらにまだ安心できないのは、大規模ダム決壊の恐れである。今回の大地震で四川省にある6千余りあるダムの内、803のダムで亀裂が入ったり水がもれたりして決壊の恐れがあることが5/17、地元当局者の話でわかっている。地震による山崩れが川をせき止めてできた「土砂ダム」が四川省内だけで21カ所あることも判明しており、強力な余震がまだ続いており、雨が降り続けば決壊の恐れはさらに高まる。震源地に近いブン川(ぶんせん)県にある紫坪鋪ダムにはすでに多数の亀裂が入り、被災者救済本部のある都江堰(とこうえん)市が水没する恐れさえ指摘されている。こうしたダム決壊が広がれば、核関連施設にも当然被害が及びかねないであろう。二次災害・三次災害を防ぐ強力な対策、国際的救援・支援体制が不可欠である。

<<問われる中国の原発政策>>
 中国の原子力政策それ自身も今回の大地震によって大きく問われよう。
 中国では現在、四つの原発、秦山原子力発電所(5炉)、大亜湾原子力発電所(2炉)、嶺澳原子力発電所(2炉)、田湾原子力発電所(1炉)が稼動しているが、いずれも中国東部海岸沿いであり、今回の地震地域からは離れている。しかし原発を稼動させれば当然、原発それ自身の危険性以外に、放射性廃棄物の処理という最も厄介な問題に直面せざるを得ない。放射性廃棄物の地下埋蔵は、膨大なコストを要しながら、長期的、半永久的に環境破壊と地震破壊の危険性におびえなければならない。中国は、すでに中低放射性廃棄物の処理場を、甘粛省玉門と広東省北竜の2カ所に建設しており、さらに高放射性廃棄物処理場を甘粛省の北山に建設する予定だという(「北京週報日本語版」07/9/25)。甘粛省は四川省の北側に位置しており、震源にも近く、放射性廃棄物の地下埋蔵は危険極まりなく、懸念されるところである。
 地震の二ヶ月弱前の3/23、新任の国家能源局の張国宝局長は、中国の今後の原子力開発の指針を示し、中国のエネルギー構造の調整における優先選択肢として原子力発電の発展に力を入れていくと述べ、「中国で稼動している原子力発電所の発電設備容量は現在約900万キロワットだが、全発電設備容量に占める割合は1.3%と非常に低い。我々は原子力発電の中長期発展計画を調整し、2020年までに原子力発電の割合を5%以上とするよう努力する」と述べている。その二日後の3/25に開かれ、米国、ロシア、フランス、日本の原子力発電大手企業が参加した第10回中国国際核工業展で、中国核工業集団公司の康日新総経理は開会式の挨拶において、「原子力発電は中国が抱えるエネルギー不足を解決し、また、環境問題に対応するための有効な手段の1つで、前途は非常に明るい」と述べ、間もなく田湾原子力発電所3号、4号ユニットの建設計画を具体化させていく予定だと発言している。
 すでに昨年の7月、東芝は傘下の米ウエスチングハウス(WH)を通じて中国国家原子力発電技術公司との間で中国国内に原発4基を建設する契約を結んでおり、浙江省の三門原発1号機と2号機、山東省の海陽原発1号機と2号機の建設を09年から着工、13年以降に順次運転を始める予定である。
 今回の大地震は、こうした中国全土に安易にばら撒かれる原発増大政策に重大な警告を発し、警鐘を鳴らしたものともいえよう。
(生駒 敬)