ASSERT 368号 (2008年7月26日発行)

【投稿】 【投稿】G8の無力さとG8時代の終焉
     ----洞爺湖サミットが明らかにしたもの----
【投稿】 権力の三位一体のたかりのために「新銀行東京」はつくられた
【投稿】 国家詐欺の系譜について
      ---いつまで「鉄火場」に国内資金を投げ込むつもりか---
【コラム】 ひとりごと---「没落から逆転できるか」---

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【投稿】 G8の無力さとG8時代の終焉
     ---洞爺湖サミットが明らかにしたもの---

<<「空っぽのスローガン」>>
 存続自身が危ぶまれている福田政権にとって、政権浮揚のチャンスと狙っていた洞爺湖サミットは、何の見るべき具体的な成果も合意も展望も示せず、完全な失敗に終わったと言えよう。残り半年余りの任期を数えるだけとなり、もはやレームダック(死に体政権)と化し、マイナスの影響しかもたらさなくなったブッシュ米大統領に引きずり回され、福田首相はリーダーシップをふるえるどころか、ブッシュの傀儡として、ブッシュの顔色をうかがう単なるご機嫌取りの役割しかあてがわれなかったのである。
 洞爺湖サミットは、まず第一に、メインテーマとした「地球温暖化問題」で、「2050年までに世界の排出量を少なくとも半減させるという目標についてのビジョンを、国連気候変動枠組み条約の締約国と共有し、採択することを求める」という首脳宣言を打ち出した。しかしこれはすでに昨年の独ハイリゲンダム・サミットで「50年までに半減」という目標を「真剣に検討する」と申し合わせたものを、今回は「すべての主要経済国の貢献が必要」との文言を加えて途上国の責任に転嫁しながら、G8自身の責任や意思についてはまったく触れずに、問題を世界規模に広げてあいまいもこなものにしたにすぎない。
 問題は、これに先立ち、途上国側の中心となる中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカの5カ国首脳がサミット期間中の7/8に札幌で会合を開き、50年までにCO2半減を受け入れるにはG8側も20―30年の中期目標として60−85%の削減を実行すべきだとの方針を決めるという重要な提起があったにもかかわらず、G8側にはどの首脳にもこの問題提起に積極的に応えて、イニシアチブを発揮しようとはしなかったし、できなかったのである。ホスト役の福田首相をはじめ、G8首脳は歴史的に重大な汚点を残したといえよう。
 7/10付ワシントン・ポスト紙が論評しているように、50%削減目標はすでに「昨年メルケル独首相が提起したものであり、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が80%の削減を求めていることからすれば、つまらないもの」である。さらに世界自然保護基金(WWF)インターナショナルが緊急声明の中で、途上国が国連交渉の場で具体的な提案を出していることと比較して、「洞爺湖における交渉で、カナダ、日本、米国は国際交渉を前へ進める気がないことが鮮明に示された」と指摘しているとおりである。南アのムベキ大統領がこのG8合意について「空っぽのスローガンだ」と批判するように、アメリカを筆頭とするG8首脳たちは、わざわざ洞爺湖サミットという場で、先進国としての責任放棄を改めて全世界に明らかにしたものだともいえよう。首脳宣言の文書の上でも、G8自身が「50年に半減」に合意したとはついに書けず、先進国自らが、どこまで責任を果たそうとしているかについても具体的に表明できなかった、つまりG8は解決能力もなければ、その意思もない、G8の時代はすでに終わったということを自ら明らかにしたものでもある。

<<「エコノミストではありません」>>
 さらに極めつけなのは、暗雲漂う世界的大不況の進行に対して、今回のG8は世界経済に関する首脳宣言を採択したが、何の根拠も上げられずに「世界の経済成長に引き続き肯定的」な総括をしていることである。
 首脳宣言は、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題について、「深刻な緊張は依然存在している」としつつも、「過去数カ月、状況はいくぶん改善した」と述べているが、根底に横たわる米国経済のバブル崩壊現象について真剣な分析や議論は一切なされなかった。その理由たるや、「首脳たちはエコノミストではありませんから」というものである。そもそも1975年に始まったサミットは、本来、第一次石油危機に際して直面する世界経済の課題について論じ合う場であったものであろう。第三次石油危機ともいわれる状況の中で、G8は本来の論議さえできない、その能力も意思もない、したがって世界経済の動向に何らかの前向きな影響力を行使することさえ期待できない、無力な存在、単なる無用の長物と化してしまったことを自己暴露したのである。
 サミットと同時進行で明らかになっていることは、「状況はいくぶん改善」どころか、事態はより一層深刻化していることを示している。サブプライム問題は、ついに米住宅金融の中核を担う政府系金融会社、米住宅ローン5兆ドル(約530兆円)を保有・保証している連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)にまで波及。7/13、米政府は、無制限での政府融資と公的資金による株式買い取りという異例の支援策を打ち出さざるをえなくなり、7/15にブッシュ米大統領が金融市場の緊張を受けて記者会見し、米国の金融システムについて「基本的に健全だ」と強調したその日に、米株式市場は2年ぶりに1万1000ドルの大台を割り込み、この2カ月間で約16%も急落している。
 さらに、米銀大手JPモルガン・チェースが7/17に発表した08年4〜6月期決算は、当期利益が前年同期比53%減の20億300万ドル(約2100億円)で、3四半期連続で減益になったことが明らかになった。7/18朝に決算を発表した米メリルリンチも、約97億ドル(約1兆円)ものサブプライム関連損失を計上し、4−6月期に46億5400万ドル(約4900億円)の最終赤字を計上、赤字は4四半期連続。全米4位の銀行、ワコビアも、同期は26億−28億ドル(約2700億−約2900億円)の赤字に陥るとの見通しと、最高経営責任者の交代を発表している。そして7/18日夜に発表されたシティの4−6月期決算は、住宅ローンの証券化商品などの評価損が72億ドル(約7600億円)にも達し、貸倒引当金を含めたサブプライム関連の損失は計約140億ドル(約1兆5000億円)に達したこと、昨年7月から今年3月までに460億ドルものサブプライム関連損失を処理し、4−6月期の分を含めると、ここ1年間で約600億ドル(約6兆4000億円)もの関連損失を処理したことが明らかになっている。巨額損失計上による赤字ラッシュが続々と控えている危険な状況である。
 すでに7/11には、資産規模320億ドル(約3兆4000億円)の米カリフォルニア州の住宅ローン大手、インディマック・バンコープが経営破綻している。同社の破綻は、資産規模で過去3番目の大きさである。インディマックは今後、米連邦預金保険公社(FDIC)管理のもとで営業を続け、その間に受け皿となる買収先を探すなどして再建策を模索する。日本のバブル崩壊時の住専が直面した事態と同様の事態がさらに大規模な形で進行しているともいえよう。すでに米金融機関の破綻は今年で5件目であり、こうした住宅ローンを中心業務にした米地銀のうち90ほどが経営破綻するとの観測が現実視されている。米地銀の連鎖破綻から米国発の金融危機・世界的大不況を目前に控えたような現実は、G8首脳たちの世界経済に対する「肯定的」な総括をあざ笑っているのである。

<<投機マネー野放し政策>>
 さらに洞爺湖サミットが現実と遊離した姿を明らかにしたのが、食料価格高騰と原油価格の急上昇問題であった。サブプライム問題の深刻化と共に、住宅・土地関連ローンから逃避した膨大な投機資金、アメリカのバブル崩壊と密接に連動する世界的なドル安と金融不安の中でドル資産を離れて世界を闊歩する投機資金が、食料と原油に殺到し、原油・穀物市場がマネーゲームの場と化している実態に切り込み、価格と供給の安定にサミットがいかに対応するかが問われていた。最も必要とされている打開策は、こうした市場への投機マネーの流入を規制し、グローバルな資本移動、為替取引に対しては国際的な規制と同時に国際的な課税、たとえば現在提案されている「国際連帯税」(トービン税)を課税するといった抜本的対策こそが問われていた。つまり現在の無政府主義的な市場原理主義に対する、徹底した短期的投機的利益の追求に対する封じ込め戦略である。世界が求めているのはこうした政策的な大転換であった。
 しかし今回のサミットでは、投機マネーの流入で高騰する原油や食料価格について、首脳宣言は「価格上昇に強い懸念」を表明してはいるが、対応策としては「商品先物市場の透明性向上」を強調するだけで、投機マネーへの直接規制などの対策には、自由経済主義にそぐわないとの理由で一切踏み込むこともできず、むしろ逆に市場原理主義一辺倒の「開放的で競争的な資本市場は、経済成長を促進させる」と居直り、「国際的な貿易及び投資に対するあらゆる形態の保護主義的な圧力に抵抗する」として、むしろ投機的な競争政策の促進を擁護しているのである。
 サミット初日は、アフリカ諸国との拡大首脳会合を開いたが、議長国・福田首相の思惑とは異なり、議論はアフリカ側の意向で食糧や原油価格高騰に集中し、まず何よりも、G8が過去数年間に示した対アフリカ援助の約束を十分に履行するよう求めたのである。それは、2005年のグレンイーグルズサミットでG8は、対アフリカ援助を2010年まで毎年500億ドルに増額すると約束していたが、実際にはその約束は14%しか達成されていないという現実の、空約束に対する反撃でもあった。「空っぽのスローガン」を羅列し、食料高騰や原油高に何の打つ手も示すことのできないG8首脳たちに対するせめてもの抵抗であったともいえよう。

<<「金持ちクラブの無力さ」>>
 かくして洞爺湖サミットは、福田首相がサミットの議長総括で「多くの成果を生み出すことができた」と自賛して見せれば見せるほど、逆に、世界が直面する課題について具体的なことは何も決めることができずに終了し、むなしい空騒ぎの結果、G8には、もはや、世界が緊急に直面する短期的で切実な課題についてさえ解決能力がないこと、G8の時代はすでに終わってしまっていることをさらけ出してしまったのである。
 フランスのフィガロ紙は7/9付で、食料・燃料価格の高騰や地球温暖化など世界が直面している緊急の問題で説得力のある対策を提示できなかった先進国首脳会議について、「金持ちクラブの無力さ」と題する社説を掲載し、英インディペンデント紙は「キャビアやウニを食べつつ食料危機を考慮」の見出しで、「アフリカの飢餓問題など、食糧危機の協議は、腹の減る仕事なのだ」と皮肉を込めて伝えたという。タイムズ紙は、開催国日本の姿勢について、サミット開催費で、アフリカの人々をマラリアから救う一億の蚊帳を買うことができると述べ、その過剰な費用と贅沢な消費は日本のエコや環境重視の主張と「矛盾する」とまで批判している。
 サミットは「多くの成果」どころか、原油と食料の異常高騰で苦しむ諸国民、世界各地で拡大している農民・漁民・運輸業界、これらに従事する労働者の抗議行動に一切答えるものではなかったばかりか、失望させるものでしかなかった。日本においてさえ、漁船約20万隻が一斉に休業するという漁業者の事実上のゼネストと抗議行動が展開されたが、福田首相は、「今月も値上げが相次ぎ、皆さんのご苦労は増すばかりだと思います」(7/3「福田内閣メールマガジン」)とまるで他人事である。こんな実生活の苦しさとは無縁な「豪華ディナーを食べながら食料危機を語る」連中が寄り集まるサミットは、その存在自体が有害無益であることを明白にしたといえよう。
(生駒 敬)