ASSERT 373号 (2008年12月20日発行)

【投稿】 経済恐慌の進展と反恐慌政策
【投稿】 大量破壊兵器と化した「時価会計」の恐怖
【本の紹介・論評】 大暴落1929 (The Great Crash 1929)
【コラム】 ひとりごと---無届老人ホーム増加の意味するもの--

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【投稿】 経済恐慌の進展と反恐慌政策

<<「世界中の街角が危機」>>
 2008年は、9月初め以来顕著となってきた金融恐慌から世界的経済恐慌への様相をますます鮮明にしながら暮れようとしている。それは、勤労諸階層と中小零細企業に最も重くのしかかる倒産と失業の時代の到来である。今次恐慌の最大の特徴は、自由競争原理主義の破綻が、これまで築き上げられてきた社会的資本、社会的インフラ、医療・労働・年金を初めとする社会保険・社会福祉、社会的セーフティネットを利潤追求の道具に切り売り・民営化し、労働基本権や社会的諸権利・人権をことごとく切り縮め、所得再配分を放棄して富める者はますます富み、格差を徹底的に拡大してきた結果としての恐慌であるがために、まさにグローバルに、国内外の隅々に至るまで深刻な害悪をもたらそうとしていることである。本来、恐慌を回避し、その影響力を弱め、脱出できるための防波堤の再建・再生から始めなければならないのである。自由競争原理主義の罪の重さは計り知れないと言えよう。
 すでに国際労働機関(ILO)は、金融危機の影響で世界の失業者が2千万人増える可能性があり、09年終わりには2億1千万人に上り、過去最高に達し、「米国の金融街だけでなく、世界中の街角が危機にさらされている」と警告し、「社会的な危機に発展するのを避けるため、各国政府が迅速かつ連携した行動をとる必要がある」と強調している(08/10/20)。
 すでにこの自由競争原理主義のもとで荒稼ぎをしてきた日本の名だたる大企業が軒並み、遠慮会釈のない大量人員整理に取り掛かっている。製造業への派遣労働の解禁によって最も潤ってきた大企業が、真っ先に派遣労働者の解雇に我れ先きにと乗り出す、その無責任さはかつて見ないほど傲慢、冷酷そのものである。

<<「キャノンが解雇したものではない」>>
 その典型がキヤノンである。12/1、麻生首相が、経団連会長の御手洗冨士夫キヤノン会長を官邸に呼び、非正規雇用の維持を求めたわずか数日後、大分キヤノンが同社で働く請負会社の従業員を年内に約1100人削減することを明らかにしたのである。首相の要請をあざ笑うかのようなこの解雇を、御手洗会長は「誤解である。キャノンが解雇したものではなく、請負・派遣元が解雇したものだ」として、同社の責任ではないとの発言をしている(12/9)。しかし「請負・派遣元が解雇した」のは、キヤノン側が発注を削減したためであることは明らかである。よくもぬけぬけと言えたものである。派遣法に基づく派遣先指針でも、派遣先に解雇の原因がある場合、派遣先の関連会社に就職をあっせんするなど雇用を確保しなければならないと定めているにもかかわらず、一切の努力もしない一方的解雇である。
 御手洗氏はまた「世界的な景気の急激な落ち込みにより各社も減産に追い込まれ、苦渋の選択で雇用調整が行われている」などと言い訳をしているが、キャノン自身だけをとってみても、1〜12月の一年間で5800億円もの営業利益(連結)を見込んでおり、7〜9月期決算でみても、社内にため込んだ剰余金は9月末で3兆3000億円を超えており、この一年間の増加分は約2800億円に達している。約1700人の非正規社員の雇用維持に必要な額は、その増加分のわずか1.2%にすぎず、正社員化して雇用を維持するにも十分な剰余金も体力も有しているのである。
 「ガテン系連帯」労働組合日研総業ユニオン大分キヤノン分会の御手洗氏とキャノンへの申し入れ書は次のように述べている。

 現在、貴社をはじめ多数の大企業が競い合うようにして「派遣切り」「期間工切り」を中心とした人員削減を発表しており、これら派遣・請負社員が解雇後の新たな仕事先を自力で見つけるのは至難の業というべき状況にあります。そればかりか、他府県からやって来た大半の派遣・請負社員は寮に住み込んで働いていたので、解雇されたがために、この年の瀬になって、その住まい(寮)からも追い立てられようとしています。まさに生存権が脅かされる事態です。
 大分キヤノンは、「国内唯一のキヤノンカメラ生産拠点」、「世界に広がるカメラ生産の拠点」の名の通り、キヤノンのデジタルカメラ製品の製造を一手に担い、02年から5カ年間で売上高は2,511億円から4,425億円へとほぼ2倍に伸ばしました。この空前の業績を製造現場から支えたのは、いうまでもなく無数の派遣・請負社員です。貴社らは、「企業理念」として「共生」をかかげ、「文化、習慣、言語、民族などの違いを問わずに、すべての人類が末永く生き、共に働いて、幸せに暮らしていける社会」をめざすと表明しています。
 この理念通りであるなら、正社員とともに汗を流して来た派遣・請負社員の雇用確保に、いまからでも遅くはないので、ぜひともあらゆる手だてを尽くしてほしいものです。
 そこで、下記の通り申し入れますので、派遣・請負社員の危機的現状を速やかに打開するために検討してください。
 1.新たな「期間社員」の募集について  
大量の派遣・請負社員の契約解除の一方で、多数の期間社員を新規に募集する理由を説明してください。
 2.派遣・請負社員の優先的採用について
これまで大分キヤノンで働いてきた派遣・請負社員のうち、希望する者については、貴社らが新規募集する期間社員として優先的に採用してください。

 こんなささやかな要求も呑めないキャノン、「地域の活性化」、「雇用の増大」を口実に巨額の補助金まで大分県に出させて工場進出したキャノンがこれまで唱えてきた「企業の社会的責任(CSR)」を完全に放棄した背任行為ともいえよう。

<<「この無責任政治」>>
 そして11月初め以降は、トヨタ自動車をはじめ、自動車大手が軒並み、期間工、派遣労働者などの非正規労働者に解雇通告を連発、さらに、ソニーは内外16000人の正規・非正規労働者の削減を明らかにし、首切りの嵐は電機大手から、輸出産業のほとんど、その関連企業、基礎産業にも及んでおり、日本中を人員削減の嵐が吹き荒れる状況が現出されている。いずれもこの5〜6年にわたって増収増益を続け、膨大な内部留保を抱え、まだ赤字経営にもなっていないにもかかわらず、なおかつ来年三月期決算でも、利益幅こそ減少が見込まれてはいてもなお相当巨額な利益予想をしている大企業が先頭に立って人員整理の旗を振っている。
 意図的、過激ともいえる、これらのパニック的な解雇攻勢は、情け容赦のない暴力的な破壊攻撃であり、危機への対応能力を失った資本の、むしろ経済恐慌促進政策とさえいえよう。そこには、社会的合意や、セーフティネット、ワークシェアリングなど激変緩和政策への配慮のひとかけらさえない、寒風吹きすさぶ歳末に寮やアパートからも即日退去を迫る、社会的糾弾がもっとも必要とされる、許しがたいあくどさである。そこには、強欲資本主義の横行を礼賛する小泉政権以来の自由競争原理主義の荒廃した日本社会の姿が露骨に投影されていると言えよう。
 こうした事態を野放しにし、むしろ促進してきたのが自公連立政権であった。麻生政権はその最後の幕引き政権として、もっとも無能力な醜態をさらけ出して、解散・総選挙の「選挙の顔」として登場したはずが、今や「選挙のじゃま」ものとして取り扱われ、自民党内からさえ、「漢字だけじゃなく、庶民の感覚が読めてない」(後藤田正純)、「ブレブレ首相が世の中をかく乱している」(渡辺喜美)、「解散先延ばしのツケがこの無責任政治だ」(平沢勝栄)と、ボロクソに罵倒される事態である。最近の各紙世論調査でついに麻生内閣の支持率は急落し、20から22%という、もはや解散もできない、総辞職もできない、一種の政治空白状態に陥ってしまっている。

<<「生活安心保障」勉強会>>
 問題は、経済恐慌進展の下で、その破壊的影響を食い止め、それから脱出させるべき政治が、危機への対応能力をほとんど持っていない、その基本政策さえ明らかに出来ない、そこに真の危機が存在しているといえよう。打ち出されるのは全て中途半端なとりあえず今をしのぐつぎはぎだらけの痛み止めに過ぎず、それでさえ、実行は常に先延ばしにされ、今や期待さえされていない。一人1万2千円・年内配布を目玉とした定額給付金の2次補正予算も今国会には提出できず、来年3月配布さえ怪しくなりだし、その経済効果はますます低下し、あまつさえ、それと引き換えに3年後の消費税大幅増税を公約にするという、景気拡大政策に逆行し、個人消費をかえって冷え込ます政策を公言しても矛盾を感じないところに、この政権の末期的症状が象徴されている。
 ところが、反麻生で結集しだした小泉構造改革路線を金科玉条とするグループがまたぞろ小泉氏を担ぎ出して「生活安心保障」のための勉強会なるものを立ち上げて、蠢動しだした。さんざん社会保障費を削減し破壊してきたグループが「生活安心保障」とは、よくもいえたものだが、その看板に相反してあいも変わらず、社会保障費の自然増分二千二百億円の抑制と財務省の縮小均衡路線を主張して恥じないところに、そしてこれにまた動揺させられ、それと同一歩調をとる麻生首相の立ち位置の中途半端さに、この党の反人民的本質が明瞭に映し出されている。
 しかしこの点では、民主党においても、財務省の縮小均衡路線、市場原理主義路線からの決別が極めて不明確である。与野党の政策対立の最大の争点が、この路線から脱出すること、新たなニューディール政策によって、失業を減らし、雇用を拡大することにこそ焦点があわせられる必要があり、それこそが反恐慌政策の最大の要であることを強調すべきであろう。
(生駒 敬)