ASSERT 375号 (2009年2月28日発行)

【投稿】 オバマ政権「チェンジ」の放棄と麻生政権の混迷
【投稿】 「対テロ戦争」参戦もくろむ麻生政権
【投稿】 誰のための裁判員制度か
【本の紹介】 『失墜するアメリカ経済 ネオリベラル政策とその代替策』

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【投稿】 オバマ政権「チェンジ」の放棄と麻生政権の混迷

<<「対テロ戦争」の継続>>
 「今日から米国再生に取りかかる」。1/20、黒人として初めて米国大統領に就任したオバマ氏は、会場を埋め尽くし、期待を込めて見守る人々に向かってこう高らかに宣言した。しかし、その期待に反し、新大統領は「わが国は暴力と憎悪の広範囲におよぶネットワークと戦争中だ」と述べて、ブッシュ前政権がそうした事態をもたらした責任についてはなんら触れることなく、それを「チェンジ」することにも触れず、「暴力と憎悪の広範なネットワークに対する戦争を戦う」という表現で、引き続き「対テロ戦争」を続行させることを明らかにした。
 さらにオバマ氏は、「われわれは自分たちの生き方について謝ることはしないし、それを守ることに躊躇はしない。そして、テロや罪のない人々をあやめて目的を達しようとする者に断言しよう。今こそわれわれの精神はより堅固であり、打ち負かされることはない。われわれは勝利する」と断言し、「コンコード(独立戦争の激戦地)、ゲティズバーグ(南北戦争の激戦地)、ノルマンディー(第2次世界大戦で連合軍が上陸作戦を行った場所)、そしてケサン(ベトナム戦争の激戦地)のような場所で闘い、死んでいった人々のこと」を賞賛し、「今このときも、はるか遠くの砂漠や山岳地帯をパトロールしている勇敢な米国人」に感謝の念を捧げる。しかし、アメリカの独立戦争や反ファシズム戦争は肯定しえても、ケサンはベトナム人民のアメリカの帝国主義・植民地戦争に対する独立戦争の激戦地である。これは、こんな程度の歴史認識しか持たず、アメリカの負の歴史についてさえ何の反省も教訓をもいまだに見出していないオバマ氏の立ち位置を明らかにしている。
 こんな認識であればこそ、引き続き「対テロ戦争」を続行させ、「自分たちの生き方について謝ることはしない」のであろう。オバマ氏は、「我々は責任を持って、イラクをその国民たちにゆだね、アフガニスタンでは苦労して得た平和の構築を始める」とあいまいな表現で述べているが、対イラク戦争・対アフガン戦争を開始したブッシュ政権の責任については一切触れず、なおかつそのブッシュ政権の国防長官ロバート・ゲーツをはじめイラク・アフガン戦争泥沼化に責任ある軍上層部をそのまま新政権に引き継ぐという、政権交代時には前例がない、前政権の戦争政策はそのまま引き継ぐという意図を明確にしたのである。大統領選最中に表明していた、ブッシュの一方的強行路線から、国際協調と対話路線が、政権発足と共にあいまいにされ、就任演説でもぼやかされ、現実に、1万7000人規模のアフガン派兵増派を直ちに決定したことは、オバマ政権によってはこれまでの戦争政策が「チェンジ」されるものでないことを明らかにしたといえよう。
 オバマ大統領は、初のアフリカ系アメリカ人の大統領就任という極めて大きな歴史的意義をもっていることからすれば、オバマ氏こそがアメリカ社会から無視され、抑圧・差別されてきた人種や民族、性差、そして何よりも貧富の差について、これらを克服する社会的政治的意義を明確にし、「チェンジ」する意義をこそ鮮明にすべきであったといえよう。しかしオバマ氏は、そのことをあえて避けたのである。

<<「チェンジ」から「責任」へ>>
 オバマ氏は就任演説の冒頭で「われわれはいま危機の真っただ中にある。果てしない暴力と憎しみに対し戦争を続けている。一部の強欲で無責任な人々のせいだけでなく、皆が困難な道を選び次の世代に備えることができなかった結果、経済はひどく脆弱になってしまった。家を失い、仕事は減り、商売は行き詰まった。医療費は高過ぎ、学校制度は失敗している。われわれのエネルギーの使い方が、敵を強化し、私たちの星を脅かしているということが日々明らかになるばかりだ。」と嘆いている。
 しかし、この深刻な経済恐慌から脱出する最大の近道は、前政権の戦争政策を全面的に否定し、戦争経済から平和経済への転換を明確にすることである。この転換は、大統領選の最大のテーマであり、その点であいまいであったヒラリー候補をもかわすことができたオバマ勝利の最大の要因であったことからすれば、即刻可能であり、しかもそれが及ぼす積極的プラス効果はアメリカ国内のみならず、全世界に計り知れないほど大きい。そうした転換こそが、期待されていた「チェンジ」であり、対イラク・対アフガン戦争、好戦的愛国主義とそれに基づいた民主的諸権利の剥奪、社会的不平等と格差の前例のない拡大、ブッシュ政権時代の悪夢に終止符を打ち、市場原理主義がもたらした史上最悪の経済危機から脱出するオバマ政権の中心的課題でなければならなかった。
 しかしそうした「チェンジ」をオバマ氏は選択しなかった。「チェンジ」への期待を打ち砕いたのである。当然というべきか、就任当日のニューヨーク株式市場のダウ平均株価は8,000ドル以下に急落し、前週末比332.13ドルという暴落、歴代大統領の就任日としては史上最悪の下げ幅となった。
 そしてオバマ氏が「チェンジ」の代りに、政権発足のその日に提起したのが「責任」であった。オバマ氏は言う、「いま求められているのは、新たな責任の時代だ。不承不承ではなく、むしろ喜びをもって進んで責務を果たすことだ」と。そして金融破綻を含めた現在の危機を「私たち全員の失敗」と言い、「新たな責任の時代であり、国民一人一人が自分自身と米国、世界に義務を負うことを認識しなければならない」とまで言う。
 翌日のニューヨーク・タイムスとワシントン・ポストのトップ記事の見出し は、「新たな責任の時代」であった。ウォールストリート・ジャーナル紙は、「スピーチに込められたメッセージは、危機の原因をブッシュ政権やウォールストリートや、今日経済的な損失を被ったものを批判するだけでは充分ではなく、国民総体がそれに連座・共謀したということを受け入れなければならないということだ」とまで書いている。オバマ演説の本質があけすけに語られている。これは、ブッシュ政権やウォールストリートや富裕層やその政策遂行責任者を免罪した総懺悔論である。その典型が、ニューヨーク連邦銀総裁のティモシー・ガイトナーの財務長官への任命である。ガイトナー氏こそは、ブッシュ政権下での金融危機に、バーナンキFRB議長やポールソン前財務長官とともに重大な責任を追及さされるべき当の人物である。こんな人物を財務長官に昇進させたのである。逆に、その被害にあった当事者にまで責任を転嫁し、すべての国民に対して「不承不承ではなく、むしろ喜びをもって」これエから償ってもらうことを予告する「新たな責任の時代」の到来である。これは、これからも一層深刻化し、拡大するであろう金融危機、経済恐慌の原因を、わざわざ曖昧模糊たるものにして、その真の原因を隠蔽し、その責任者を救済し、さらに社会保障やセイフティネットなどの政府支出の削減と抑制を正当化することを宣言したようなものである。

<<クリントンの「成果」>>
 そして一方的に米政権に追随し、そのことによってよりいっそう危機を深めてきた日本の政治的経済的危機が、いよいよ混乱の極みに達してきている。
 麻生政権はもはや風前の灯となりながら、与党連合には泥舟から逃げ出そうとする政治的雪崩現象が起きている。日本の政局は、わが息子に議席を世襲するという前時代的選択しかできなかった、ブッシュに追随し、ブッシュに奉仕すること、その弱肉強食と自由競争原理主義を露骨に実践し、日本社会を一路破綻に導いてきただけの元首相が一言、現首相を批判しただけで、収拾がつかないくらいの混乱である。この深まる政治的経済的危機の被害を受けている庶民の目から見れば、まさに「怒るというより笑っちゃうくらい、ただただ、あきれている」のは、まさにこの発言をした小泉氏とそしてこれに受けて立つこともできない麻生氏、両氏に対して、自民公明連合政権に対してなのである。小泉氏の発言は、かんぽの宿売却問題をめぐる小泉・竹中・オリックス宮内連合の悪事が暴露され、徹底追求されることへの恐れと苛立ちからであることは明白である。これに差別的極右反動的発言をあえてすることに存在意義を見出してきた中川財務相のG7での泥酔記者会見が、さらに麻生首相を追い詰め、この思想的同志をかばい、ついにかばいきれなくなった顛末は、麻生による解散・総選挙を決定的に不可能なものにしてしまったといえよう。
 今や麻生内閣の支持率は、10%台どころか、ついに一桁の9・7%という世論調査まで現れている(日本テレビ、2/13〜15調査)。
 この日本の政局の混乱のさなかにヒラリー・クリントン米国務長官が来日し、日本政府との間で、在沖縄米海兵隊のグアム「移転」に関する協定の署名を獲得したのであった。この協定で、米海兵隊のグアム「移転」に関して、日本側が経費の六割にあたる約61億ドルを拠出することを再確認し、同時に協定は、米政府がグアム「移転」に必要な措置を進めるには、沖縄の普天間基地に代わる新基地建設(同県名護市)で日本政府が具体的な進展を図ることが「条件」だとまで明記させている。これは、06年に日米両政府でまとめた「ロードマップ」を、急遽、協定にあえて「格上げ」したものであり、協定は国会の承認を必要としており、政府・与党は協定批准承認案を今国会に提出する方針である。それが今回急に浮上してきたのは、「衆院で三分の二の勢力があるうちに、条約と同レベルの拘束力を持つ二国間協定を結び、政権交代が実現しても、合意内容が変更されたり破棄されることがないよう縛りをきつくする」ものであることが明白である。沖縄県民の意思とかけ離れたこの協定は、さらに「移転」目的以外の使用は認めないと言いながら、実際にはグアムでの米軍基地増強のために、財政支出の対象が際限なく拡大する余地と危険性を内包したものである。
 2月18日付け沖縄タイムスの社説は「[グアム協定署名]むなしく響く負担軽減」と題して、「協定締結の動きが突然、表面化し、内容(全文)も知らされないまま、あっという間に協定が交わされ」、「グアム移転協定の中身は、県民生活に深くかかわり、県の将来を大きく左右する。県議会が昨年七月、「名護市辺野古沿岸域への新基地建設に反対する意見書」を賛成多数で可決したのは、問題の重大さを認識したからだが、県議会の意志は今回、一顧だにされなかった。」ことを糾弾している。
 さらにクリントン国務長官は、麻生政権の先行きに対する不安から、民主党の小沢一郎代表との会談を実現させ、小沢氏からは「私は日米同盟が大事であることを、ずっと以前から、最初から唱えてきた」との言質を取り、小沢氏は「国務長官と継続して話ができるよう、選挙で勝つ」と述べ、「政権交代」に強い意欲を示したという。
 小沢氏は、2/16に放送されたFMラジオの番組で、アフガニスタンへ米軍を増派するオバマ政権の方針について「いくら兵隊を派遣したって絶対に勝てない。ベトナム(戦争の経験)で分かってる」と述べ、疑問を呈し、日本のアフガン支援について「みんなが食べていけるように農地をつくり直して豊かにするのが一番だ。政権を託されたら、そういう貢献をする」と述べ、これまでの見解からすれば大いに評価できる意見を表明していたにもかかわらず、また、民主党は米軍普天間飛行場の県内移設に関する日米合意に反対しているにもかかわらず、いずれについても今回の会談では触れなかったという。内向けと外向けの使い分けなのであろうか、不信感を増幅させるだけである。小沢氏はこれまで「今日のアフガニスタンについては、私が政権を取って外交・安保政策を決定する立場になれば、ISAFへの参加を実現したい」として、国際治安部隊への武力行使をともなう自衛隊の派兵を主張していたことからすれば、どのような整合性をとるのか、一向に不明である。こうしたことにも民主党の不明確さと不安定性が反映されており、与野党逆転、政界再編が迫っているだけに、与党ばかりか、野党混乱の要因ともなっていることを明確にし、何を「チェンジ」すべきなのか、政策的結集軸を明確にすべきであろう。
(生駒 敬)