ASSERT 377号 (2009年4月25日発行)

【投稿】 オバマ核軍縮演説と麻生首相親書
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【投稿】 オバマ核軍縮演説と麻生首相親書

<<安倍・前原の危険な二人三脚>>
 いまさらこんな人物にあれこれ語ってもらいたくはない、その第一位に上げられるのは安倍晋三元首相であろう。施政方針演説をしたその直後に突如政権を放り出した無責任首相が、このところの北朝鮮の人工衛星ロケット・ミサイル発射騒動に乗じて俄然元気を取り戻し、またもや危険な戦争挑発・改憲路線の推進に自らの存在価値をかけ、あわよくば政権復帰をさえ狙っているのであろう、歯の浮いた浅薄な発言を繰り返している。
 憲法九条改憲ではお互いに同志的関係にあるのであろう、安倍氏と民主党の前原誠司副代表は揃ってアメリカに出かけ、息を合わせてオバマ政権に文句と注文をつける発言を繰り返している。
 先ず安倍氏は、米・民主党政権に政策的な影響を及ぼしてきたブルッキングス研究所を訪れ、そこでの講演の中で、オバマ政権が北朝鮮政策で2国間協議を排除しない姿勢を示していることに対し、露骨な警戒感を示し、「北朝鮮が日米を離反させる意図で米朝対話を進める危険性を常に頭に置いておかなければいけない。原則を大切にして、核や拉致の問題を完全に解決することに資する協議でなければならない」と注文をつけ、北朝鮮問題を受けた国連安全保障理事会の対応が、拘束力を伴う決議でなく議長声明にとどまったことについても、「残念」と失望感を示し、暗にアメリカの弱腰外交を批判し、問い詰めたのであった。小泉訪朝には安倍氏はただ随伴しただけで、それ以降、日本の政府・与党が対北朝鮮外交では何ら有効な直接対話の努力もしないで、ただただ非難と制裁のエスカレートを叫び続けて、六カ国協議のアメリカ代表からさえ不快感を示され、国際的に孤立している自らの姿に気づかない、井の中の蛙、大海を知らずのあきれた姿勢である。
 だがこんな安倍氏を励まし、呼応するかのように、民主党の前原氏は同じく4/17、ワシントン市内で講演し、北朝鮮のミサイル問題を取り上げ、「5〜8個の保有が推測される核弾頭とミサイルが結び付いたら悪夢だ。(日本には)ミサイル防衛網整備と発射基地攻撃能力の保有が必要だ」と強調し、北朝鮮基地の攻撃が可能な防衛力を日本は保有し、整備すべきだと述べたのである。以前に安倍氏が述べた対北朝鮮先制攻撃論を、民主党の前原氏がより露骨に表明したわけである。日米の軍需関係企業、軍産複合体は大いに拍手喝さい、さらなる安倍・前原支援を申し出ていることであろう。
 安倍氏は、講演後の質疑で、「政権交代すれば民主党の外交政策は」と問われて、「この質問に答えるには、一緒に来た前原さんを連れてきた方がよかったかもしれない」と述べ、「前原さんが民主党政権で首相になれば、自民党とほとんど変わりがない」と請け合ったのであった。この発言には、両者の浅薄で、底の浅い、本質的同一性が浮かび上がっている。まさに、危険な二人三脚である。

<<「ポンコツ政治」>>
 しかもこの危険な二人三脚の当事者である安倍氏に、「外交の麻生」を持って任じているはずの首相が、直接自らの意思を伝えるのではなく、オバマ大統領宛ての親書を託し、4/13の首相官邸での記者会見で「米国と連携して核兵器の廃絶に取り組む意向を伝える親書を、14日から訪米する安倍元首相に託した」と発表したのである。
 しかし、オバマ大統領がチェコの首都プラハで演説、「核のない世界」の実現に向けた新政策を打ち出したのは、4/5である。このときオバマ氏は、「米国は、核保有国として、そして核兵器を使ったことがある唯一の核保有国として、行動する道義的責任がある」という政治姿勢を明確にし、「核のない世界」を目指し、「核の脅威に対応するため、より厳しい新たな手法が必要だと改めて思い起こした」として、「核兵器のない平和で安全な世界を追求する責務を米国が負っていることを、私は明確に宣言する」とのべたのである。そして、ロシアのメドベージェフ大統領と、核兵器を大幅削減する新条約を年内に締結すると合意したことを明らかにし、ブッシュ前政権がストップをかけていた包括的核実験禁止条約を批准し、さらに兵器用核分裂物質の生産禁止条約の交渉開始を目指すと明言し、「米国の安全保障戦略の中での核兵器の役割を減らす」と宣言した、明らかにブッシュ政権の核政策からの大きな転換であり、画期的な意義を持つものである。
 何よりも米国の大統領が、日本の広島、長崎への原爆投下を念頭に「核兵器を使った道義的責任」を語り、核廃絶への決意を表明した、この歴史的意思表明には、日本の首相が直ちにそれに応え、その意義を高く評価し、その思いを重く受け止め、被爆国政府として、核軍縮と核廃絶にむけて日本が先頭に立って努力をすること、これまでとは質的にちがった全国民的全世界的努力に日本が傾注することをこそ明確にすべきであった。ところがこのときには、首相は「日本は核軍縮を一貫して言ってきた数少ない国。米国が取り組むのは極めていい傾向だ」、などという、まるでその歴史的意義もその画期的政策転換の意味することも理解していない、被爆国の当事者であることをも忘却した評論家のような、通り一遍のひとごとのようなコメントを発表しただけであった。それから一週間以上も経過した10日後になって、安倍元首相に親書を託したことを明らかにした。いくら右翼的好戦的姿勢で同じであり、同志的関係であるとはいえ、核武装論・先制攻撃論を唱えて恥じない、従軍慰安婦問題ではその存在をすら否定して米国議会で追求をされた、このような人物に、オバマ大統領の重要な政策転換に関してそれとはまったく相反する時代錯誤的な主張を展開するこのような人物に親書を託する、その政治的鈍感さは救いがたいものである。『ニューズウィーク日本版』3月11日号に「世界が呆れる」「ポンコツ政治」と書かれるのも当然といえよう。

<<「国連脱退くらいの話」>>
 折りしも日本では、それこそ戦争ごっこのようなマスコミを総動員した「ミサイル騒動」が展開され、それに乗じて日本のさらなる軍備拡大、先制攻撃能力保持、核武装論までが再び登場しだしている。読売新聞の憲法九条改憲に関する世論調査では、昨年とは逆転して改憲論のほうが九条擁護論を上回ったと報じられる、意図的にきな臭い事態が醸成されている。
 4/6に行われた自民党外交、国防両部会の合同会議では、山本一太参院議員が「対北朝鮮に対しては、自衛権の範囲内での敵基地攻撃を本気で議論することが抑止力につながる」と主張するなど、自衛隊の先制攻撃・「敵基地攻撃能力」保有についての意見が相次ぎ、翌4/7の自民党役員連絡会では、坂本剛二組織本部長が、北朝鮮のミサイル発射について「北朝鮮が核を保有している間は、日本も核を持つという脅しくらいかけないといけない」という趣旨の発言をし、国連安全保障理事会での決議の採択が難航していることに対しては「国連脱退くらいの話をしてもよい」とまで述べたという。
 そしてここでも安倍元首相が4/7の民放テレビ番組で、日本の核武装について、「核の危険が近くにあるわけだから、核戦術についての議論はあり得る」との認識を示して、再び核武装や先制攻撃論について自らの存在感を高めることに躍起となっている。
 支持率の低迷にあえいでいた麻生政権は、この「ミサイル騒動」でいたずらに国民の不安を煽り、「破壊措置命令」などという戦争前夜の状態を演出し、イージス艦や迎撃ミサイル配備体制をこれ見よがしに誇示し、大本営発表体制を築き、地方自治体や市町村にまでそれに従わせ、ここぞとばかりに強硬姿勢を競い合い、武力行使を容認し、国際緊張を煽ることで支持率を回復させる、それこそ麻生好みの安易で危険な路線に希望を見出そうとしている。
 問題は、このような路線に対抗すべき民主党が一貫した平和外交政策、「対話」と「平和」と「軍縮」の政策で対決する姿勢をまったく提示できておらず、むしろ前原副代表のような意見が野放しにされ、自民党に利用され、振り回されているところに、現在の民主党の政治的沈滞状況が凝縮されているといえよう。民主党は一刻も早く、体制を一新し、このような自民党の路線に対決できる平和政策を提示できない限りは、政権交代などまったくおぼつかない、といえよう。
(生駒 敬)