ASSERT 378号 (2009年5月23日発行)

【投稿】 民主党・鳩山新代表が直面する課題
【投稿】 「豚インフル」の政治経済学
【本の紹介】 『中国は世界恐慌にどこまで耐えられるか』

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【投稿】 民主党・鳩山新代表が直面する課題

<<「一点のやましいところもない」>>
 政権交代を前面に掲げながら、与党自民党とまったく同じ体質の不透明な企業団体献金を平然と受け取り、辞任要求を拒否し、続投の意欲を示しつづけてきた小沢前民主党代表も、ついに辞任を受け入れざるを得なくなった。
 問題は、たとえそれが不当な国策捜査であったとしても、それとの闘いは、そのような政治をゆがめ民主主義をゆがめる金権政治とはきっぱりと一線を引く政治姿勢こそが求められていた。ところが小沢氏は、5/11の、その遅すぎた辞任会見に至ってもなお、「一点のやましいところもない」と「身の潔白」を強調し、民主党の他の幹部もそうした態度を容認してきたところに、この間の民主党の支持率の低下が顕著に現れたのである。
 検察権力の意図的・政治的国策捜査に対する批判と追及は当然なされなければならないが、「一点のやましいところもない」、「身の潔白」はあくまでも手続き上、ザル法である政治資金規正法上でのことであって、そのような巨額の疑惑献金を長年にわたって平然と受け取り、政治活動上の重要な資金源としてきた、そのような政治姿勢自身の不健全性が問われたのである。
 民主党の代表選は、この献金疑惑にふたをしたまま急いで鳩山前幹事長を新委員長に選任し、新規巻き返しに挑もうとしている。鳩山新代表は、党の結束の名の下に小沢前代表を選挙を取り仕切る代表代行という要職に抱えることとなった。当然、代表選では、与党と対決する民主党としての政策論議が明確にされるべきであったが、ほとんど行われることはなく、ただ「政権交代」の言葉だけが強調された。
 しかし問われているのは、何のための「政権交代」であるのかであろう。「政権交代」が必要なのは、アメリカの戦争政策とグローバリズム・新自由主義、それにことごとく追随してきた小泉政権以来の自由競争原理主義が経済恐慌をもたらし、社会を破壊・不安定化させてきた弱肉強食の規制緩和政策、社会的セイフティネットをことごとく危機に陥らせてきた社会保障費削減政策、これらを根本的に転換させる政策転換のためにこそ「政権交代」が緊急かつ切実な要求として提起されているのである。

<<「友愛の日本」>>
 政策転換が明示されない、明確でないような「政権交代」論では、選挙での勝利はおぼつかないし、与党側のふがいなさ、敵失に頼るばかりである。小沢前代表の「政権交代」論は、与党側の弱体化をついた選挙戦術論ではあっても、基本政策での対決、根本的政策転換を掲げた「政権交代」論ではなかった、あるいはそれらを示し得なかった「政権交代」論であったといえよう。
 鳩山新代表は就任後の記者会見で、衆院選の争点には「政権交代の実現」をすえる考えで、「官僚起点から生活者起点。中央集権から地域主権。『日本の姿が変わる』と示していく」と強調している。果たしてこれが、与党との対決の焦点になるのであろうか。危機感も切迫感もない、抽象的な言葉だけが踊ることが危惧される。鳩山氏が代表選公約として掲げた「友愛の日本を創る最重点政策」にしても、年金制度の一元化、農家への戸別補償制度、子ども手当の創設、高校教育の無償化、高速道路の無料化などほとんど小沢前代表の政策と変わってはいない。今回の代表選で鳩山氏は、「日本の少ない医療費予算や 教育予算を 欧米水準に引き上げる」という公約を明示したことは評価できるが、基本的に、現民主党の幹部は総体として、現下の進行しつつある経済不況への認識が甘く、危機感が乏しく、それに対応する政策が前面に出てはいない。もちろんその背景には、新自由主義政策においては小泉・竹中路線とそれほど変わらず、むしろ「構造改革」を自民党と競い合ってきた経緯も存在しており、それがいまや明確に破綻していることに戸惑い、政策転換に躊躇しているのであろう。「チェンジ」されるべきは、民主党そのものともいえよう。
 民主党としてはもっと明確に、危機を克服するためにこそ、「生活第一路線」を堅持し、九条改憲は行わない、武力増強ではなく、平和・軍縮外交へ全面的に転換する、規制緩和と自由競争原理主義から決別し、セイフティネットの再構築、そして何よりも教育・年金・医療・介護・子育て・若年層の就労支援等への財政や金融を総動員した緊急の大胆な不況・雇用・社会保障対策を実行する、金権政治から決別し、企業・団体献金を全面的に禁止する、等を具体的に掲げるべきであろう。

<<「安心社会実現会議」>>
 一方の麻生・自公連合政権は、なし崩し的な政策転換、付け焼刃的なばら撒き政策で事態を乗り切ろうとしている。さらに首相直轄の「安心社会実現会議」なるものを設置し、社会福祉政策を専門とする学者や連合会長、「派遣村」村長の湯浅誠氏まで招いて意見を聞き、いかにも路線転換に取り組んでいるかの姿勢を演出している。
 この間の麻生内閣支持率上昇の要因は、民主党側の敵失によるところも大きいといえるが、こうした路線転換の演出や高速道路料金の引き下げ、定額給付金の支給が貢献したことも疑いないといえよう。
 さらに麻生政権は、既に4月から実施されている自動車取得税と重量税の減免に加えて、追加経済対策において、エコカーへの買い替え、エコ家電への買い替えに対する補助金、エコポイント支給政策を具体化させている。これらが本来の環境政策と合致するのかどうか大いに疑問とするところであるが、麻生政権にとっては利用できるものは何でも政権維持のために利用するという姿勢が露骨に出ていると言えよう。政権与党であるということの有利さを十分に利用しているわけである。
 問題は、現在の麻生政権与党は、それでも決して自由競争原理主義の根幹に触れる政策転換には決して賛同せず、むしろ明確に拒否していることである。それらは、派遣労働の禁止や医療・介護・年金政策において、これまでの政策を決して改めようとしていないことに端的に現れている。あくまでも付け焼刃であって、後で消費税増税で取り返すという戦略なのである。
 民主党や野党側の、中途半端で抽象的、生半可な政策対応では、「政権交代」の展望は容易ではないといえよう。
(生駒 敬)