ASSERT 380号 (2009年7月25日発行)

【投稿】 「自滅解散」と「政権交代」の意義
【投稿】 東京都議選−石原与党過半数割れは民意の反映  和田三郎 
【投稿】 エカテリンブルクとラクイラの落差
【書評】 『シベリア抑留とは何だったのか──詩人・石原吉郎のみちのり』
【本の紹介】『危機突破の経済学 日本は「失われた10年」の教訓を活かせるか』
【コラム】 ひとりごと --- いよいよ政権交代だが---

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【投稿】 「自滅解散」と「政権交代」の意義

<<「がけっぷち解散」>>
 与党過半数維持を信じ込み、都議会議員選挙での自民党の大敗という結果に驚き、その責任追及から逃れるために、7/21の衆議院解散、8/30の総選挙・投開票という前代未聞の解散予告・奇策に打って出た麻生首相。自民党内からは「がけっぷち解散」(山崎拓前副総裁)とか「自滅解散」(山本拓衆院議員)といわれる事態である。
 麻生首相は、小手先の姑息な足掻きに拘泥することによって、ますます自らを貶め、その無能力さをさらけ出し、いよいよ自らの手によって自公連立政権の命運を尽きさせようとしている。麻生降ろしを画策する反対派封じの策を弄すればするほど、混乱に混乱を重ね、身内であるはずの閣僚からさえ反旗を翻され、しかも投票日を確定した段階で選挙対策に責任を持つ選対委員長が辞任を表明する異常事態を招き、わずかながらも反転・逆攻勢に出る機会として残されていた自民党所属両院議員総会を懇談会に切り替え、しかも非公開として逃げ回る姿は、腐敗堕落した今の自公政権を象徴するものと言えよう。ここに、泥舟と化した麻生丸は沈没以外に道は残されてはいず、再浮上のチャンスなどまったく皆無と化してしまったのである。
 ここまで現政権の醜態をさらけ出されれば、大方の予想以上に自民党は大敗する可能性が大となっている。09/5/26現在の衆議院の会派別勢力は、
自民  303 、民主  112、公明  31、共産   9、社民   7
国民   7 、無所属  9、欠員   2、計   480
であり、自公で334、過半数の241を大きく超えている。これが今次選挙予測では、自民は200議席を割り、180〜190議席との見方が大勢であるが、170議席台まで激減、130台という予測まで出されている。

<<マニフェストの表紙>>
 都議会議員選挙に象徴される大きな地殻変動が起きている、一種の「風」が吹いているのであろう。それは「政権交代の風」とも言えよう。自公政権にはこの際、退場してもらう以外に現在の日本の政治経済を打開する道はない、という「風」である。
 小泉・竹中路線に象徴される自由競争原理主義・規制緩和の政治は、社会保障費を徹底的に削減し、後期高齢者医療などの医療破壊をもたらし、社会的セイフティネットをぶち壊し、派遣労働・偽装請負を蔓延させ、金持ちを優遇し、格差を拡大させ、環境と農業を破壊し、公的インフラである郵政を民間大資本やアメリカ金融資本・保険会社の草刈場に提供し、公共資産をオリックスなど政商資本に破格の安値で叩き売る、そのような政治の結果として、現在の未曾有の経済危機に直面させられている。麻生・自公連立政権は、このような路線を修正するかに見えて、何の転換もなしえず、利権漁りに迎合するばら撒き政策によってむしろ事態をより悪化させ、それでもなおかつ小泉路線の継続・継承をしか言えない、このような政治に愛想がつかされているのである。
 その端的な表れが、自民党のマニフェスト作りであろう。7/21の衆議院解散のその日にさえマニフェストができていないのである。「反麻生」勢力がマニフェスト反対で結集することを恐れ、公約作成プロジェクトチーム(PT、菅義偉座長)は秘密裏に会合を重ねて原案の作成を進め、7/17にPTと公約作成委員会(委員長・細田幹事長)の合同会議が初めて開かれたが、批判続出、まとめられず、7月末に先送りされている。しかも「麻生首相の写真が載ったマニフェストなんて国民に配れない」との党内の声に、首相自身がマニフェストの表紙から自らの写真をはずすよう指示する事態である。何という弱気、自信のなさであろうか。写真さえ出せないのであれば、自ら即刻辞任すべきであり、そこから起死回生の契機をつかむべきだったのである。とにかく自らの手で解散したいという、面子へのこだわりが、日本の政治の貧困を際立たせてしまったといえよう。

<<政権交代の「風」>>
 馴れ合いと汚職・腐敗の政治を打破し、これまでとは異なった新しい政治へ「チェンジ」するという意味において、政権交代の意義は大きいし、民意はそこにこそ期待をかけている。また、政党間の離合集散、連立劇によってではなく、選挙の結果によって、有権者の意思の反映によって政権交代がなされることは、それ自体にも大きな意義があるといえよう。
 そして今回の「政権交代の風」は、名古屋市長選、千葉市長選、静岡知事選、そして東京都議会議員選、奈良市長選で、いずれも民主系候補に圧倒的に有利に作用し、自公連合はことごとく敗退している。当然この「風」は、8/30の衆院選にも大きく作用し、2009年8月30日が「自公連立政権最後の日」になる可能性はきわめて高いし、このような自公政権を権力から引き摺り下ろすことそれ自体が重要であろう。
 しかしこの「風」は、民主党それ自体に対する期待の高まり、民主党の政策への期待、民主党への信頼から巻き起こったものではなく、今のような自公連立政権ではどうしようもないし、このような政権は退場させなければ、現在の日本の政治の貧困は打開できないという民意の反映であると言えよう。
 現に6/28の横須賀市長選では、小泉王国といわれた横須賀で現職市長が自民、公明はもちろん、民主の推薦まで得ていながら、新人・無党派・33歳の元市議が当選している。民主が自民・公明に迎合している限り見放されることをもこの「風」は示している。
 そしてまさにこの点において、民主党鳩山党首の立ち位置はあやふやなものである。「政権交代」をまず第一に掲げるが、その政権交代によって何をどう変えるのかは明瞭ではない。「官僚政治からの脱却」はしきりに強調されるが、「長期政権で霞が関、既得権益集団となれ合っている自民党には…予算配分の大転換はできない」などという批判はあれども、大転換の中身・方向性が示されず、民主党政権になれば政策的にどのような方向転換をするのかが一向に明らかではない。個別政策として「子ども手当」「高校無償化」「年金記録問題」「農家の個別所得補償制度」などを並べてはいるが位置づけが不明確であり、もっとも肝心な雇用対策や社会的セイフティネットの構築ではまったく穴だらけである。

<<危なっかしい鳩山党首>>
 さらに問題なのは、鳩山党首は7/14の記者会見で、「非核三原則が堅持される中で、北朝鮮の問題も含め、必要性があったからこそ現実的な対応がなされてきた。(今後も)その方向で考えるべきだ。」と述べ、現に裁判で争われている密約を公然と認め、それを「現実的な対応」として承認し、さらには非核三原則のうち「持ち込ませず」を廃止する二原則化の方向を打ち出す、現政権ならびに米政権にいとも簡単に迎合する、その程度の被爆国の首相としてはあるまじき軽薄な認識しかできない状況である。記者会見で、それでは非核三原則の見直しにつながるのではないかとの問いに「(三原則の)見直しと言ったわけではない。現実を無視はできないので、政権を取ったら日米でよく協議したい。守れるなら一番望ましい」と答え、おまけに、昨年の臨時国会では「反対」していた新テロ特措法に基づくインド洋での米軍への給油活動について、「一気にすぐやめるのも無謀な議論」「オバマ政権と信頼関係を築く中で、どういう形で日本が役割を果たせるか考えていきたい」などとして、米国への迎合姿勢を露骨に示しているのである。これでは何のための政権交代なのか、危なっかしくて、民主党の党首交代こそが要請される事態でもある。被爆国の首相であれば、まず提起すべきは、オバマ米大統領の提起する核軍縮サミットを、広島・長崎でこそ開催することであろう。
 参議院での議席配分からすれば、民主党は、社民、国民新党との連立を維持しなければならず、共産党をも含めた民主党へのチェックの重要性が増し、キャスティングボートとしての重要性を増大させることが要請されていると言えよう。
(生駒 敬)