ASSERT 391号 (2010年6月26日発行)

【投稿】 菅新政権:「国民生活が第一」から
                 「財政再建が第一」への路線転換
【投稿】 「最少不幸社会」は右を向くのか、左を向くのか?
【本の紹介】 『マルクスへ帰れ RUBEL on KARL MARX』
【コラム】 ひとりごと---参議院選挙、緊張感のある結果を望む---

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【投稿】菅新政権:「国民生活が第一」から「財政再建が第一」への路線転換

<<「自己都合第一」>>
 政局はめまぐるしく動き、鳩山内閣は倒れるべくして倒れた。民主党・小沢幹事長との抱き合い心中のごとき内閣崩壊劇の中で、菅直人新政権があわただしく登場、20%を切っていた内閣支持率が60%台に回復するや、この好機を逃すまじと、党首討論も予算委員会も開かず、参議院では決算委員会の締めくくり総括も行わず、各委員会の会期末処理(請願の処理)もさせず、さらに前代未聞の、閉会にあたっての本会議開催さえも拒否して、6月25日公示、7月11日投開票の参院選へと一気に逃げ込んだ。菅新政権への衆参予算委員会での論戦を封殺したまま国政選挙に突入する姑息な「逃げの戦法」は、まさに「ズル菅」菅直人の面目躍如といったところである。しかも菅首相自身が亀井金融担当相との間で、国民新党と取り交わした合意書でさえ、わずか一週間足らずで反故にしてしまう。
 しかし、かくして菅新政権は、国政選挙を目前に控えながら、民主的討論を通して政策と選択肢を明らかにするという最低限のルールさえ投げ捨てる暴挙をあえて強行することによって、船出の初めから「権力欲むき出し・自己都合第一」という重大な汚点を撒き散らして船出したのである。
 この菅新政権は、はたして支持率V字回復に値する政権なのであろうか。
 鳩山前首相は辞任せざるを得ない理由として、第一に「沖縄の普天間基地の問題で県外移設を果たせなかったこと」、そして第二に「自身の政治とカネの問題」を挙げた。普天間基地の問題に関しては、辺野古案に回帰することによって「結果として沖縄の人たちに基地を押しつける形になってしまったこと」「3党合意も沖縄との合意も取れずに日米で合意してしまったこと」「連立を組む社民党の福島党首を罷免する結果になってしまったこと」を挙げている。ならばこのような事態をもたらし、むしろそこに追い込んだ重要閣僚、岡田外相、北澤防衛相、沖縄担当相の前原国交相がなぜそのまま責任も問われることもなく、辞任することもなく、菅新政権に横滑りしているのであろうか。もちろん、副総理であった菅氏自身の責任も問われるが、この三閣僚は、平野前官房長官とともに、鳩山前首相の「最低でも県外、できれば国外」路線に徹底して抵抗し、ろくに日米交渉も行わず、ただひたすら辺野古案に回帰することを押し付け、鳩山内閣を崩壊へと追い込んだいわば戦犯、実行犯である。6/11のBS朝日の番組に出演した前首相の鳩山氏は、鳩山氏が目指した県外移転には、米国だけでなく、外務、防衛両省も非協力的だったことを明らかにしている。鳩山首相とともに辞任・罷免すべきこのような非協力的な閣僚をそのまま重用したところにむしろ菅新政権の本質が露骨に示されているといえよう。それは、あやふやな鳩山内閣の「辺野古の海を汚してはいけない」「最低でも県外、できれば国外」路線から、あくまでも沖縄県内での基地たらいまわし・辺野古基地建設強行、日米軍事同盟強化路線への転換である。

<<「現代の参勤交代」>>
 果たせるかな、菅新首相は6/11の施政方針演説のなかで、「日米同盟は日本の防衛のみならず、アジア・太平洋の安定と繁栄を支える国際的な共有財産といえます。今後も同盟関係を着実に深化させます。」と断言した。日米同盟が「国際的な共有財産」とはなにごとか、ここまで日米同盟を礼賛するのは、あの小泉政権以来のことであろう。
 そして実は、菅首相は官邸入りしたその日の夜の内に、アメリカのオバマ大統領に電話をし、辺野古「移設」合意を「しっかりやる」と約束し、ルース米駐日大使に対しても直接、同様の言明をしたことも明らかになっている。あらためて新首相としての菅氏が、たとえ県民の合意を得られなくても、沖縄県内新基地建設路線を強行することを申し出て、米政権への追随政策の遂行を約束したのである。そして逆に沖縄県民に対しては、6/23の沖縄全戦没者追悼式典には参加するが、「長年の過重な負担に対する感謝の念を深めることから始めたいと思います」として、あくまでも「過重な負担」を押し付けることを鮮明にしたのである。岡田外相や北沢防衛相は、日米合意で8月までに決めることになっている基地の配置や工法について、「沖縄の合意を求めなければならないものではない」と公言する事態である。民主党の玄葉政調会長に至っては、6/13のNHK政治討論番組で、「沖縄問題を反基地闘争にはさせない」とまで発言しているが、沖縄の人々の反感と反発におびえるその政治感覚の低劣さは、菅新政権の象徴でもあろう。
 菅首相が過去に海兵隊不要論を公言したことを代表質問で指摘した社民党の福島瑞穂党首に対して、首相は「自社さ政権で村山富市首相も安保廃棄の社会党方針を撤回した。首相の立場の高度な判断だった」と切り返した。何という言い草であろうか。マニフェストで公約して政権交代を勝ち取った民主党政権が、公約を反故にして鳩山政権が辞任に追い込まれたのである。何のための政権公約なのか、政権をとってしまえば、「首相の立場の高度な判断」で何をしてもいいという、あきれた論法である。菅氏が過去に、新首相が真っ先にアメリカ大統領に電話を入れることを「現代の参勤交代ともいうべき慣行」だとか、海兵隊は「抑止力とはいえない」とか、「海兵隊は沖縄から撤去させる」とか、その場その場で適当な都合のよい発言をしていたことをいちいち問い返すことは、もはや無意味となっているが、「最低でも県外、できれば国外」は、どう弁解しようとも首相を先頭とした民主党の公約だったのである。であればこそ昨年夏の衆院解散・総選挙で民主党を中心とした民主・社民・国民新党の三党連合が沖縄県で全勝し、社民党、国民新党を含む与党連合が政権交代を成し遂げられたのである。その公約を反故にしたことを追及されて、「今は変わった」などと開き直る菅氏の姿勢は、語るに落ちる、としか形容しようのないものである。

<<「強い、強い・・・」>>
 さらに菅新政権にとって決定的ともいえるダメージは、6/17に行われた民主党の参院選マニフェストの発表会見で、消費税について「早期に結論を得ることをめざして、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始する」と打ち出し、その会見の場で菅首相自身が、具体的な税率について自民党案の10%を参考にする、と踏み込み、党内の正式な論議や手続きも経ないままに、消費税の10%への増税を首相自身の公約として勝手に打ち出してしまったことである。
 問題なのは、民主党が昨年8月の解散・総選挙で掲げたマニフェストでは消費税率の引き上げにはまったく触れていないばかりか、当時党代表だった鳩山氏が「私どもが政権を担う4年間、消費税の増税をする必要がない」と明言して、その上で勝ち取った政権交代であった。それがわずか九ヶ月足らずで、この基本政策をひっくり返し、なおかつ2012年度よりいきなり10%に増税するというのであるから、公約違反もはなはだしき暴挙である。閣内に疑問と亀裂を生じさせたが、それでも玄葉政調会長は「10%」が党の公約となるかについて「当然そうなる」と開き直り、前原国交相も「首相を全面的にサポートしたい」と語るのである。これまでの公約の嘘・偽りを平然と認め、誠実さのひとかけらさえも見せようともしない、いったいこうした人々はなんなのであろうか。ここでも小泉政権の再来が、如実に示されているといえよう。第二小泉政権の始動である。
 それはすなわち、財務省主導の財政再建原理主義、弱肉強食に最も都合のよい市場原理主義・新自由主義に取り込まれた路線の再来である。ここに民主党は、明らかに「国民生活が第一」の路線から「財政再建が第一」の路線に転換したのである。「国民生活が第一」を放棄して、「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」などと「強い、強い・・・」を連発する強がり、そしてやたらと「リーダーシップ」を強調する姿勢は、かつての小泉路線のスタイルと酷似し始めている。
 連立相手の国民新党の亀井氏は、「国民新党は断じて賛成しない」と消費税増税への反対姿勢を鮮明にし、「民主党がコペルニクス的な転回をして消費税アップを決めるのであれば、そういう事態も予想される」として連立離脱の可能性にまで言及しているにもかかわらず、選挙戦に突入するや、菅氏は今の財政状況ではギリシャの金融危機と同様になり、国家危機となると危機感を煽り立てる先頭に立っている。その帰結が、「増税で景気が良くなる」とまでの暴論・珍説の開示にまで至り、暴走し始めている。
 こんな民主党なら願い下げである。早晩頓挫するこんな路線での参院選圧勝など許されてはならないといえよう。
(生駒 敬)