ASSERT 398号 (2011年1月22日発行)

【投稿】 政権交代の意義を抹殺する菅改造内閣
【投稿】 TPP参加は「平成の売国」
【本の紹介】 「日本共産党VS.部落解放同盟」
【訃報】 小坂さん、逝く
【日々雑感】 私なりのファシズム論

トップページに戻る

【投稿】 政権交代の意義を抹殺する菅改造内閣

<<「本をお読みになったうえで任命」>>
 民主党・菅政権はついに重大な背信の道を公然と踏み出し始めた、と言えよう。一昨年8月30日の総選挙における政権交代の意義が完全に踏みにじられようとしているのである。今や、菅・仙谷・前原・枝野・岡田氏ら主導による自民党・小泉政権時代と見まがうほどの対米従属路線、財界・巨大資本に言いなりの自由競争原理主義・新自由主義への屈服路線、そして財務官僚一辺倒の財政再建至上主義と大増税路線によって、あの政権交代選挙がもたらした意義と使命、期待は完全に葬り去られ、風前の灯と化そうとしている。あの政権交代選挙で有権者が選択し、民主党政権に要求したのは、まさにこのような悪臭紛々たる自民党政権時代の三つの路線からの訣別であった。ところがたった一年数か月も経たないうちに、とりわけ菅政権になってから明らかになったことは、民主党政権の自民党化・小泉化であり、「気がつけば『小泉政治の復活』」である。
 その極め付けが、今回の内閣改造である。菅氏は自ら「最強の態勢」と胸を張っているが、そのお粗末さはあきれるばかりである。
 その象徴が、今回の内閣改造で与謝野元財務相を経済財政担当相に起用したことである。与謝野氏は、財務省の言いなりの増税推進派として知られる悪名高き政治家であり、その自著の表題からして「民主党が日本経済を破壊する」(文春新書)として民主党政権をこき下ろし、「民主党のマニフェストは純粋に選挙用のフライングフィッシュ(毛バリ)みたいなもの」と酷評していた政権交代選挙の意義を全否定する人物である。しかも先の総選挙で小選挙区候補として落選し、自民党枠の比例復活で辛うじて復活当選しながら、その自民党を離党して「たちあがれ日本」の共同代表になり、今回菅氏に誘われるや、またもやそこを離党して、与えられたポストにいけしゃあしゃあとおさまりかえる、まさに背信・背徳の政治家である。与謝野氏は先の自著で「70歳を超え、閣僚も党の役職も数多く経験させてもらった。今さら、あれがやりたい、これがやりたい、などない」などといっていたことも知らぬ顔で、「菅直人首相は本をお読みになったうえで任命されたと思っている。」と開き直っている。こんな人物を「民主党とかなり共通性は高い」と重要閣僚に迎え、「最強の態勢」の柱に据えて胸を張る菅氏には、与謝野氏と同じ背信・背徳の共通性があるのであろう。

<<食って掛かる官房長官>>
 菅氏が与謝野氏を起用したのは、消費税の大増税路線を確かなものにすること、ねじれ国会を乗り切るために自民や公明と連携する呼び水としての役割、さらには公明、自民とも大連立を模索するための布石のつもりであろう。しかし当の自民、公明幹部は「信頼関係を自ら放棄した人が先頭に立っても、誰もついていかない」と述べ(自民・石原伸晃幹事長)、菅首相が唱える超党派協議に応じない考えを示し、「立ち枯れ効果、倍増だ。今のタイミングでは、消費税や社会保障の議論のためには逆効果」(公明幹部)と、そのみえすいた浅ましい根性が見透かされ、かえって事態を悪化させているのである。菅氏ならびに民主党執行部の稚拙さが、ここでも露呈されているといえよう。
 その稚拙さのさらなる象徴が、官房長官への枝野氏の起用である。民主党が大惨敗した昨年7月の参院選で、枝野氏は党幹事長、安住氏は選対委員長であったが、どちらも大敗の責任を取らず、昨年9月の内閣改造では枝野氏は幹事長代理、安住氏は防衛副大臣に登用され、今回は枝野氏は官房長官、安住氏は国対委員長に引き上げられている。政治的責任を一切取らないで済ませられる、この党の無責任性の象徴でもある。どちらも反小沢派の急先鋒であり、菅氏や前原氏の言いなりになる仲間内で固めたお手盛り人事の典型と言えよう。
 何よりも菅氏が見落としている、あるいは知らぬ顔の半兵衛を決め込んでいる枝野氏の決定的な弱点は、その稚拙極まりない反中国姿勢である。以前にも紹介したことであるが、菅首相が昨年10/1の所信表明演説で「中国との戦略的互恵関係の深化」を基本方針に掲げたその翌日の10/2、さいたま市での講演において、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件に触れて、「中国との戦略的互恵関係なんてありえない。あしき隣人でも隣人は隣人だが、日本と政治体制から何から違っている」「中国に進出している企業、中国から輸入に依存している企業はリスクを含めて自己責任でやってもらわないと困る」「中国は法治主義の通らない国だ。そういう国と経済的パートナーシップを組む企業は、よほどのお人好しだ」と言ってのけ、いわば中国への絶交宣言、断交宣言に等しい発言をしながら、その発言の責任も問われることなく居座り続け、今回あろうことか内閣を代表する官房長官の地位に引き上げられたのである。対中緊張激化に利益を見出す前原路線との照応関係が見て取れるが、中国を「悪しき隣人」と呼んだことについて記者団に聞かれると、「良い隣人だと思うか?」と食って掛かるような理性と謙虚さ、品位さえも失い、個人的憎悪をエスカレートさせることしかできないこのような政治家が政権の中枢に居座り、政権を代表するとなれば、日中間の平和的共存関係は根底から破壊されてしまい、政治的経済的に計り知れない災厄をもたらすことは明らかである。ここでも菅氏は重大な誤りを犯してしまったと言えよう。

<<「沖縄切り」>>
 しかも枝野氏は、国交相が担当していた沖縄担当大臣を兼務するというのである。これも沖縄県民にとっては許しがたい暴挙ともいえる仕打ちである。枝野氏は就任にあたっての菅直人首相からの指示について、「官邸で普天間問題を担当する官房長官が直接、沖縄担当相を兼務することで、より強力な推進ができると判断したと聞いている」と説明しているように、菅氏じきじきの沖縄担当大臣への起用である。枝野氏は、1/14の就任会見では、米軍普天間飛行場移設問題について「沖縄の立場に立ち、物事を受け止めて考える中で、(名護市辺野古に移設する)従来の政府方針をどう進めるか努力したい」と述べ、日米合意を見直すどころか、あくまでも辺野古移設を推進する考えを表明している。
 しかしその枝野氏はあろうことか、昨年11月に稲嶺進名護市長らが上京し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設撤回を政府に求めようとした際、関係省の政務三役との面談ができなかった事態が生じたが、この時「政府方針に一致しないので会わない」「政治パフォーマンスには応じられない」と指示し、事実上、門前払いをした張本人である。その時の11/9付け琉球新報は「政府に従わない異論を排除して恥じない。少数意見を切り捨て、民主主義を否定するに等しい前代未聞の対応だ。」「沖縄との溝が広がるばかりの民主党だが、聞く耳さえ持たなくなったのか。その狭量さにあぜんとする。」と報じられた枝野氏である。就任記者会見であつかましくも「沖縄の立場に立ち」などと述べているが、「沖縄の立場」に聞く耳さえ持たない、「沖縄の立場」に一度も立ったこともないそんな枝野氏が、なぜ沖縄担当相なのか。そんな人物に菅首相が「より強力な推進ができると判断した」のはいったい何なのか。それは「沖縄切り」であると言えよう。
 1月15日付け琉球新報の「疑問だらけの危うい組閣 公約破棄、官依存の『背信』」と題する社説は、「政府、自らに異論を持つ者は排除しても構わないという姿勢の枝野氏の沖縄担当起用は『小沢切り』とともに、菅内閣の『沖縄切り』の表れかとさえ思える。」「普天間問題で『県外移設』との県民の圧倒的な声には耳を全く傾けず、移設先を名護市辺野古とする日米合意の確実な履行を繰り返す北沢俊美防衛相は留任した。前原誠司外相も同じだ。」「普天間問題についても、県民の声を無視し、官僚のシナリオだけを頼りにしている閣僚ばかりだ。これでは官僚にとって扱いやすい『最強の内閣』にすぎない。」と断じている。ここでも菅氏はさらに重大な誤りを犯したと言えよう。

<<ダラディエ路線>>
 しかし大手マスメディアはそろいもそろって菅政権の変節と背信を大いに歓迎し、改造菅内閣を叱咤激励している。1/15付け読売社説は「今回の与謝野氏の入閣で政界再編の芽が出てきたとも言える。与謝野氏が言うように、国の命運を左右するような課題には各党が「政争の場を離れて」取り組むべきだ。」と主張し、「首相が「政治生命」をかけると言明した消費税を含む税制と社会保障制度の一体改革や、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加、日米同盟強化に取り組む体制を整えることだ。」「菅首相の不退転の決意と実行力が問われよう。」と激励している。1/15付け朝日社説も「政権の最優先課題は一体何か。覚悟が見えず、すぐふらつく。そんな批判を首相は浴び続けてきた。目指す目標を明確にし、人事を通じ実行する態勢を整えようとした意図は理解できる。」と今回の改造を礼賛し、「『チーム菅』をがっちりと組み上げ、活発に機能させていくことである。」とまるで手放しの激励である。1/15付け日経社説もまた「首相は不退転の決意で民主党内をまとめ、税制の抜本改革やTPP参加への道筋をつける責任がある。」とエールを送っている。
 「チーム菅」の実体は、菅・仙谷・前原・枝野・岡田+与謝野ということであろうか。それは、政権交代の意義と使命を徹底的に貶めるためのチームでしかない。それは政権交代以前の自民党政権時代への回帰、対米従属、財界従属、財務官僚従属のチームとも言えよう。
 田中秀征 [元経済企画庁長官、福山大学客員教授]氏は、一時は盟友でも会った菅氏について「首相になる前の菅首相には、4つの敵、もしくは4つの縁遠いものがあった。それは(1)自民党、(2)財界、(3)官僚組織、(4)米国である。これらに距離を置く彼の姿勢は、『革新無所属』を名乗っていたり、社民連に在籍していた頃は今よりはるかに鮮明であった。ところが、政権交代後、彼にはこの4つに対してなりふり構わず接近している。もしも、自民党が大連立を申し入れれば、彼は直ちにそれに飛びつくだろう。その条件は『菅首相の続投』だけである。」「私は菅首相を見ていると、第二次大戦直前のフランスのダラディエ首相を思い出す。ミュンヘン会談でヒトラーと妥協して大戦に道を開いた人だ。ダラディエは、左翼政党から登場し、大臣、首相となるにつれて右旋回を続けた。そしてついには労働運動を弾圧したり、国民に向かって発砲するに至った。しかし、ダラディエは、最終的には左翼はもちろん保守勢力からも信頼されなくなったのである。保守勢力からすれば、かつての同志であった労働者に銃を向けるのであれば、いつかは自分たちに銃を向けるのではないかと疑うのも当然だ。」と厳しく指摘している(ダイアモンドオンライン1/6付け)。
 今や権力亡者と化し、政権にしがみつくことだけが目的と化してしまった感のある菅氏に、このような真摯な警告が届くのであろうか。いずれにしても政権交代の意義を抹殺するような政策に「政治生命」をかける菅政権は、早晩行き詰らざるを得なくなる。民主党は重大に岐路に立たされており、心ある人々の奮起が望まれる。
(生駒 敬)