ASSERT 414号 (2012年5月26日発行)

【投稿】 拒否された緊縮・増税路線
        ギリシャ・フランス選挙が示したもの
【投稿】 原発震災で崩壊した「科学技術信仰」
【投稿】 アジアにおける真の脅威
【投稿】 震災の被災地 宮城県を訪ねて(1)
【日々雑感】 つくづく思う 語り部、記念館の重要性

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【投稿】 拒否された緊縮・増税路線
         ギリシャ・フランス選挙が示したもの


<<「支援が断たれれば返済を止める」>>
 緊縮経済路線が全世界で厳しく問われている。市場原理主義と弱肉強食、規制緩和と社会保障政策破壊の新自由主義路線が圧倒的多数の人々から明確に拒否されだしたのである。
 5/6、ギリシャの総選挙で、連立与党を構成していた二大政党、中道左派の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と中道右派の新民主主義党(ND)は、合計得票率を前回の77%から32%まで激減、増税・年金切り下げなど緊縮政策を進めてきた両党、ならびにお仕着せの金融支援と引き換えに過酷な緊縮政策を押し付けてきた欧州連合(EU)、IMFに対して明確なノーがを突きつけられ、緊縮政策の撤回を主張する急進左翼連合(SYRIZA)が第2党へ、新民主主義党から離れた議員らによる新党・独立ギリシャ人が第4党になるなど、反緊縮派が大きく前進、その結果、どの党も過半数を制することができず、連立工作も不調に終わり、6月17日に再選挙が行われる予定であるが、この再選挙では急進左翼連合が、今回を上回る得票率で第1党となる可能性が濃厚となってきている。
 急進左翼連合はこの総選挙で、経済危機脱出の方針として、1.市民の最低限の収入、失業手当、医療保障の確保、付加価値税(消費税)の減税、2.債務の利払い停止、債務取り消し交渉など債務負担の処理、金融機関の投機の規制、3.富裕層への課税と、軍事費をはじめ不要な歳出の全面カット―などを主張、同党のツィプラス党首(37)は、5/17のインタビューで、ギリシャは必要ならば自分でやっていけると強調し、債務を返済しなければ、同国には労働者や年金生活者に支払う十分な現金があると述べ、国防費の削減、無駄遣いや不正、富裕者の税金逃れの摘発などを提案し、同時に、ギリシャ経済を押し上げるための刺激策が必要だとし、融資を見返りとした緊縮策を破棄すべきだとしている。同氏は、2015年までに公的部門で15万人をレイオフするという計画を中止し、民間部門の賃金を引き下げる措置を撤回すべきだと述べ、また、銀行の貸し出し政策を改善するために銀行の国有化に賛成だとし、かつてのルーズベルト米大統領によるニューディール政策とオバマ大統領の景気刺激策、欧州ではこれが欠けていると主張。さらに、欧州が同国への資金援助を断つ可能性は小さく、もしそのような措置が取られればギリシャは債務を返済しないと言明、ギリシャの金融崩壊は他のユーロ圏加盟国をも引きずり込むと強調。そうならないようにするため、「われわれの第1の選択肢は、それが欧州のパートナーの利益にもなるのだが、これらのパートナーに金融支援を止めてはならないと説得することだ」と述べ、欧州はギリシャの深まりつつあるリセッションを食い止めるための成長志向政策を検討し、同国が直面している「人道的危機」に対処しなければならないと述べている。

<<新自由主義の権化の敗北>>
 同じ5/6に行われたフランス大統領選決選投票で、社会党のフランソワ・オランド氏が、二期目を目指した保守系与党・国民運動連合のサルコジ大統領を破り当選を決めた。ここでも問われたのが緊縮政策であり、敗北したのは緊縮政策派であった。
 サルコジ氏が「16万人の公務員削減や年金改革で赤字を削減した」との“成果”を強調したのに対して、オランド氏は、「サルコジ政権の5年間は、失業者を70万人も増やし、格差を広げた失政だった」と指摘し、サルコジの富裕層優遇税制、年金支給開始年齢引き上げ、緊縮政策路線を批判、とりわけ消費税引き上げ(付加価値税の増税)は購買力を低下させ、雇用に必要な経済成長に悪影響を与えるとし、逆に消費税引き上げの撤廃、公的投資銀行の創設や家計貯蓄の活用による中小企業融資の促進や、新雇用契約の創設による終身雇用の推進を訴え、60歳の年金受給開始、教職員6万人の新規雇用、子どもの新学期手当て25%増、若者の雇用創出を提起し、さらには国際面では、フランス部隊のアフガニスタンからの撤退迅速化を最優先課題の一つに取り上げ、そして問題の原発政策においては、サルコジ氏が「安全基準が強化され開設時より安全になった」として存続を主張したフェッセンハイム原発について、「最古の原子炉で耐用年数の30年を過ぎた」として廃炉を公約、「投資するなら原発存続より再生可能エネルギーだ」と脱原発路線への転換を明らかにした(4月には、国民の8割以上が原発の大幅削減に賛成、6割以上が段階的廃止に賛成との世論調査が発表されている)。その結果としてのオランド氏の勝利であった。優柔不断で未知数と言われてきたオランド氏であるが、新自由主義の権化でもあったサルコジ政権の存続を許さなかった選挙結果こそが、今後のオランド政権の進むべき方向を指し示している。
 早速、組閣された内閣は、公約通り史上初めての男女同数内閣 閣内外の大臣34人の半数の17人を女性が占めて発足し、オランド氏は、ギリシャのみならず、イタリア、スペイン、ポルトガルなどに過酷な予算削減を強いるEUの新財政協定を再交渉することに意欲をみせており、この政権の行方が注視されよう。

<<「我が国も両方を追求している」>>
 このギリシャとフランスの事態が示したものは、いずれもこれまで推し進められてきた市場原理主義路線の象徴でもある緊縮経済路線こそが、強欲資本主義の弱者切り捨て、社会保障切捨て、賃金切り下げ、不正規雇用拡大、格差拡大路線を推進し、それがもはや受け入れ難いし、社会全体の貧困化と窮乏化の最大の原因となっており、許し難い路線として拒否されつつあることである。ウォール街占拠運動の世界的規模への拡大と発展は、その象徴ともいえよう。
 5/19、米キャンプデービッドで開かれていたG8サミットは、サルコジ氏に代わってオランド氏が出席し、各国が経済成長と財政再建を両立させる道を探る首脳宣言を発表、G8各国は、財政健全化の公約を維持しつつ、「成長を生みだそうとしている欧州の姿勢を歓迎」と、ギリシャ、フランスの事態の急変にとってつけたようなつじつまあわせでお茶を濁さざるを得なかったのであろう、「それぞれの国にとって正しい措置は同一ではないが、経済を強化するために必要なあらゆる措置をとる」と表明した。これまでの「財政健全化」一本やりの押し付けがもはや不可能となったのである。
 このG8で野田首相は「財政健全化と経済成長を両立させるのは、どの国も直面している課題で、我が国も両方を追求している」と強調して調子を合わせたが、その一方で「消費増税法案を(今国会で)成立させたい」とあくまでも消費税増税路線にこだわる姿勢を表明しているが、こうした事態の急変に最も驚いたのは野田氏であろう。
 ギリシャとフランスの選挙の結果に、野田・民主党政権は自らの来るべき敗北を重ね合わせて驚きを隠せず、もはやどこに向かうべきかも決められない、方向性を喪失したかのごとく動揺し、ただただ政権維持のためだけに、内部抗争と駆け引きと増税談合による大連立策動に明け暮れているのが日本の政治の現実と言えよう。
 対する野党の自民党も、このような事態をもたらした小泉政権以来の新自由主義路線についてこれまたまったく何の方向転換も打ち出せず、野田内閣の増税・緊縮路線と寸分たがわぬ、むしろよりいっそう市場競争原理主義的度合いを強めた小手先いじりと、9条改憲による国防軍・天皇元首・非常大権・基本的人権制限などまったく時代錯誤的な改憲草案を発表して恥じることのない政治姿勢で、これまた大連立に期待をかけて、これまでの自民党支持層からさえ見放されるような手詰まり状態で内部抗争に明け暮れ、民主党同様の方向性喪失状態と言えよう。この機に乗じて、既成政党打破を掲げてあわよくばと政権奪取をもくろむ橋下・大阪維新の会や石原都知事、河村名古屋市長などが離合集散、ネオ・ナチスばりの強権政治の正当化に明け暮れている。混沌としているかに見えるが、それぞれの思惑はあからさまであり、本来あるべき政治の再編の結集軸こそが問われていると言えよう。
 「それぞれの国にとって正しい措置は同一ではない」のは当然であるが、緊縮経済路線およびそれと密接不可分な増税路線は、どの国においても受け入れがたいものである。その根底にある新自由主義路線からの根本的転換こそが問われており、日本の場合、それは徹底した脱原発路線への転換と結び付けられなければならないし、そのためのニューディール政策こそが政治再編の要と言えよう。
(生駒 敬)