ASSERT 418号 (2012年9月22日発行)

【投稿】 対中・対韓 危険な挑発路線とほくそ笑む勢力
【投稿】 誰が日本の核の決定権限を握っているのか
【投稿】 領土問題に蠢く魑魅魍魎
【紹介】 ---己に厳しく 弱者に優しく---
      横田三郎追悼文集が発行されました。

【日々雑感】 熊森VS小出対談 B(最終)

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【投稿】 対中・対韓 危険な挑発路線とほくそ笑む勢力


写真は、毎週金曜日に続けられている関西電力大阪本店前の抗議行動

<<「国が買い上げると支那が怒るからね」>>
 日中間の領土問題をめぐる対立は、いよいよ険悪な、抜き差しならない状況に突き進んでいる。
 こうした状況をもたらした直接のきっかけは、4/16、東京都の石原知事が、日本の防衛族・憲法九条否定派議員と関係が深いことで有名な米国ワシントンの保守派シンクタンク・ヘリテージ財団で行った悪意に満ち満ちた挑発的な講演であった。その講演のテーマは「日米同盟と日本のアジアでの役割」と題するものであったが、現日本国憲法、とりわけ第九条を全否定し、日本の核兵器保有を前提とした「核のシミュレーションをすべきだ」などと自説を開陳、その文脈の中で「日本人が日本の国土を守るため、東京都が尖閣諸島を購入することにした」と述べ、突如、尖閣諸島の魚釣島、北小島、南小島を個人所有する地権者と交渉を開始したことを明らかにした。石原知事はさらにインタビューに答えて、「ほんとは国が買い上げたらいいと思う。国が買い上げると支那が怒るからね」などと中国をわざわざ差別語である「シナ」に置き換えて繰り返し、そこで「東京が尖閣を守る。どこの国が嫌がろうと、日本人が日本の国土を守る。日本の国土を守るために島を取得するのに何か文句ありますか。ないでしょう。・・・まさか東京が尖閣諸島を買うことで米国が反対することはないでしょう。面白い話だろ。これで政府に吠え面かかせてやるんだ」と自らの愚劣な発言に得意満面であった。
 この時点では、このもはや命脈も尽きかけた、やることなすこと差別意識に凝り固まって身動きの取れぬ人物が行った起死回生の賭けがこの突飛な尖閣購入発言であった。本来ならばこんな挑発的で緊張激化、場合によっては軍事衝突さえもたらしかねない戯言は、無視されるべきものであった。しかし大手マスメディアがこれに飛びつき、面白おかしく持ち上げ、大阪市の橋下市長が事前に構想を聞いていたことを自慢げに明らかにしたうえで、「石原知事がこのような行動を起こさない限り、国はこの問題にふたをしたままで積極的な動きはなかった。すごい起爆剤になった」「普通の政治家ではなかなか思い付かないことだ。石原氏しかできないような判断と行動だと思う」とへつらい、ほめあげ、絶賛した。しかしこの時点でもまだ石原氏や橋下氏など同類、相共鳴しあう醜悪な図でしかなかった。
 ところが問題は、元外務省国際情報局長・孫崎享氏が述べているように「尖閣諸島は固有の領土ではなく、係争地であることをまず認識すべき」なのである。この問題が歴史的経緯からして日中間の懸案事項の一つであることが明白であるにもかかわらず、野田首相自身までもが一方的に「領土問題は存在しない」という挑発的で対決型の発言を繰り返し、対話と外交交渉、平和共存の道を自ら閉ざし、尖閣諸島の国有化も選択肢とする考えを示唆し、前原政調会長が「都ではなく国が買うべきだ」と呼応し、ついには9/10、野田政権は、尖閣諸島の国有化に関する関係閣僚会合を開き、魚釣島、南小島、北小島の3島を国有化する方針を正式に決定、翌9/11、3島を20億5千万円で購入する売買契約を「地権者」と交わし、国有化した。
 この有害無益な決定の直前の9/8、ウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席した中国の胡錦濤国家主席が野田首相と言葉を交わし、野田首相に対し、最近の日中関係が尖閣諸島をめぐる問題で「緊迫」していると指摘、「日本側がいかなる方法で『島を購入』しても、違法、無効であり、中国は強く反対する」と述べ、また、日本側には「事態の重大さを十分に認識し、誤った決定を下すことなく、中日関係の大局を維持する」ことを求めていたにもかかわらず、あえて国有化に踏み込んだのであった。
 石原都知事が狙った「国が買い上げると支那が怒るからね」という事態がついに民主党政権によって現出されてしまったのである。この時点でまず第一にほくそ笑んだのは、石原都知事であろう。ついで橋下市長や「維新の会」、自民や民主の国防族、有象無象の反中・反韓、民族派ナショナリストたちであろう。



写真は、毎週金曜日に続けられている関西電力大阪本店前鉄柵での怒りの書道展

<<東アジア共同体構想への敵意>>
 三年前の政権交代によって登場した鳩山内閣、民主党政権は、マニフェストにも掲げ、外交・経済政策の柱の一つとして東アジア共同体構想を提起し、それを推し進めようとしたのであったが、ここにその前向きな平和共存政策は、野田政権に至って完全に放擲されてしまったのである。この事態に実は最もほくそ笑んだのは、この鳩山構想を挫折させることに利益を見出していたアメリカ側であろう。
 しかし、この東アジア共同体構想、現実にはこの8月末、カンボジアで開かれた「ASEAN+6」(ASEAN+日、中、韓、オーストラリア、ニュージーランド、インド)で広域自由貿易経済圏を目指す「地域的経済包括連携」(RECP)を2015年までに仕上げ、2020年には米国抜きの単一の国際的組織、東アジア共同体に進展させる構想が、「ASEAN+6」の財務相会議で基本合意されている。これはアメリカが推し進めようとしている、アメリカの経済的支配が目的のTPPよりもハードルが低く、しかも経済規模でTPPの2倍、人口規模でもTPPを上回り、新しいアジアの平和的共存と不戦共同体としての地域共同体の実現が具体的日程に上り、日米の意向がどうであれもはや押しとどめようがない事態に進展しようとしている。
 この事態の進展にストップをかけ、アメリカの介入の余地を広げ、その政治的経済的軍事的存在を誇示するためには、日・中・韓の対立と緊張激化は願ってもない機会である。その意味では、今回の領土紛争の第三の当事者は実はアメリカなのである。沖縄の基地強化もオスプレイ配備も、自衛隊の先島諸島への配備も、集団的自衛権容認も、憲法9条改悪も、これらはこうした緊張激化路線と不離不測の関係にあると言えよう。アメリカはズル賢く日本を煽り、中国、韓国には第三者を装って、紛争の冷却化を提言しながらも、実はその長期化を狙っているともいえよう。
 福田内閣時代に日中両政府が合意した問題海域でのガス田共同開発プロジェクトは、2009年6月の鳩山・胡錦涛会談で事務レベルで進めることが合意されており、2012年4月には中国側から、「海洋の環境保護」分野の日中共同事業実施が提案されており、資源の共同管理を基盤に互いに平和的に共存共栄する道を着実に踏み固めることが今回の事態でぶち壊されようとしている。
 5月、マニラで開かれた日、中、韓の財務相・中央銀行総裁会議では、三カ国が国債の相互持合いを促進することで合意し、6月には円と人民元の貿易直接決済を進めることに合意していたが、こられも今回の緊張激化の事態の進展で互いに政治的経済的報復をやりあうようでは宙に浮かざるを得ないであろう。

<<「ウソをつけない奴は」>>
 今問われているのは、こうした緊張激化路線からきっぱりと手を切る政権の樹立である。東アジア共同体を、新しいアジアの平和的共存と不戦共同体としての地域共同体に仕上げる政権の樹立こそが、日本の進むべき道であろう。しかし情けないかな、その受け皿が全く見えてこない。民主党政権はもはや風前の灯である。野田政権はあるべき姿から全くかけ離れた存在、アメリカに媚びへつらい、提灯持ちをし、軍事的衝突をも辞さないような政権に成り果ててしまっている。
 そして野党第一党の自民党は、これまた輪をかけた右派路線を競い合い、党首選候補者5氏は、そろいもそろって有権者の意識からかけ離れた原発推進路線を堅持しているばかりか、「国防軍」の創設など「憲法改正」を掲げ、「集団的自衛権の行使」を公約にしている。最右翼に位置する安倍晋三元首相などは共同記者会見で「戦後体制の鎖を断ち切り、憲法改正に挑まないといけない」などと声を張り上げ、橋下徹大阪市長が率いる「日本維新の会」とは「憲法改正という大きな目標に向かって大きな力になる」と期待をと連携を表明、石破茂元防衛相は「憲法を改正したいという思いで自民党にいる」と胸を張り、石原伸晃幹事長も「国防軍の保持」を主張するなど、「国民政党」からはかけ離れたまるで右翼政党の党首選びに堕してしまっているのが実態である。
 これとまるで歩調を合わせるかのように「維新の会」の橋下氏も「集団的自衛権の行使」を明確に主張しだし、「日本の歴史をつくってきた人に対して礼を尽くすのは当然」と述べて靖国神社参拝まで公言、従軍慰安婦問題では「(慰安婦への)強制はなかった」として安倍氏を持ち上げ、焦点の消費税増税についても、「当面の財源不足を補うための増税はやむを得ない」とし、条件付きで消費増税を認める、一体自民党と何が違うのだと問われても、ただただその右翼性を先鋭化し、「維新」どころか「復古」を唱える、これまた右翼政党の本質を露骨に示しだしている。あえて違いを言えば、民主政治とは程遠い独裁主義的統治に心酔し、強権独裁国家を目指していることであるといえよう。自民党と唯一違う政策として、脱原発路線があげられるが、権力欲のために当面はいかにもそれらしく振舞っても、その筋から圧力をかけられれば「再稼働は仕方がない」といとも簡単に敗北宣言をする程度のものでしかない。
 橋下徹氏は自身の著書のなか「なんで『国民のために、お国のために』なんてケツの穴がかゆくなるようなことばかりいうんだ? 政治家を志すっちゅうのは、権力欲、名誉欲の最高峰だよ。自分の権力欲を達成する手段として、嫌々国民のため、お国のために奉仕しなければいけないわけよ。・・・ウソをつけない奴は政治家と弁護士にはなれないよ!」(『まっとう勝負!』小学館)と述べているように、すべてが自己の権力欲のためのウソ、方便でしかないのである。橋下氏自身は、大阪府知事、大阪市長、次は「維新の会」党首として自らの「化けの皮」が剥がれないうちに次のさらなる上位のポストへの転身をめざして自転車操業をしているものといえよう。こんな「第三極」に期待を持たせようとする大手マスコミの犯罪的役割こそが問われなければならないと言えよう。
(生駒 敬)