ASSERT 419号 (2012年10月27日発行)

【投稿】 領土ナショナリズムと政治の右傾化
【投稿】 原発事故で誰も責任をとらないなら「日本に明日はない
【投稿】 生活保護法改正議論の行方
【書評】 「戦後史の正体」 孫崎亨著
【投稿】 週刊朝日問題について
【日々雑感】 無条件降伏、それは不戦の誓いではなかったのか

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【投稿】 領土ナショナリズムと政治の右傾化

<<「2人のタカ派の争い」>>
 危険極まりない政治の右傾化が進行している。
 戦争挑発と差別的言辞にしがみつく石原慎太郎東京都知事、それを後追いし、平和共存と対話路線を放棄して、わざわざ意図的な緊張激化路線を選択した民主党・野田政権、さらにこの政権の一層の右傾化をけしかけ、政権奪還を目指す野党自民党の安倍・石破執行部の誕生、そしてファシストまがいの橋下・日本維新の会の跳梁跋扈、日本の政治は今危険な曲り角に来ているといえよう。
 米紙ワシントン・ポストが、日本が中国との尖閣諸島の領有権などをめぐり、「右傾化への重大な変化の真っただ中にあり、第2次世界大戦後のどの時期よりもこの地域内で対決色を強めている」と論評(9/21付)する事態の到来である。
 同じく米紙ウォールストリート・ジャーナルは「日本の将来をめぐる2人のタカ派の争い」と題して「日本の野党・自民党は先月、安倍晋三元首相を新総裁に選出した。まるでバック・トゥ・ザ・フューチャー(未来への帰還)だ。安倍氏は首相として辛うじて1年務めたあと、健康上の理由に加え、政府内の政治的機能不全による支持率低下により2007年に9月に辞任した。以来、安倍氏は再起をもくろんできた。総選挙で自民党が勝って自らが首相の座に返り咲くためには、外交政策で野田佳彦首相を上回るタカ派姿勢を取る必要があることを安倍氏は認識している。」「野田氏と安倍氏は自らの強硬派としての実績に競って磨きをかけているが、これはいずれにしろ、日本の外交政策が一段と保守寄りに傾く可能性があることを意味する。」(10/9付)と指摘している。
 「競い合う2人のタカ派」は、いずれも集団的自衛権の容認を公然と打ち上げ、憲法9条の改悪を共通の目標とし、平和と経済を犠牲にしてでも軍事的緊張激化を辞さない、戦争挑発路線を競い合っているのである。
 オスプレイ配備強行も、その過程での米兵による集団暴行・レイプ事件に直面してもなお「事故」で済まそうとする野田政権の姿勢も、明らかにその軍事挑発路線と深く関わっている。








写真は、10/19アメリカ領事館へのオスプレイNO!・米兵レイプ抗議の緊急行動





<<「われ、軍国主義者なり」>>
 この路線は、民主党への政権交代をもたらした2009年総選挙時の民主党マニフェストと全く逆行する路線である。マニフェストは「中国、韓国をはじめ、アジア諸国との信頼関係の構築に全力を挙げる」として、平和的共存、不戦と自由貿易圏としての東アジア共同体を掲げていたのである。もちろん、マニフェストには集団的自衛権の容認も憲法9条改正も掲げられていなかった。ところが今やこのマニフェストのほとんどを裏切り、中国、韓国との信頼関係をズタズタに壊してしまい、一触即発の危険な冷戦状態、軍国主義化路線をまでをもたらしてしまっているのである。
 10/14、野田首相は神奈川県沖相模湾で艦艇45隻、航空機18機、自衛隊員約8千人が参加して行われた海上自衛隊観艦式で訓示を行ったが、「領土や主権をめぐるさまざまな出来事が生起している。自衛隊の使命は新たな時代を迎え重要性を増している」と述べた後、「諸君が一層奮励努力することを切に望む」と締めくくったが、この「一層奮励努力」は日本海海戦で掲げられた「Z旗」で使われた表現であり、訓示ではさらに「至誠にもとるなかりしか」など旧海軍兵学校「五省」も読み上げたという(沖縄タイムス10/16付)。まさに旧大日本帝国海軍を称揚する「われ、軍国主義者なり」との意思表明である。軍国主義におもねる本性をさらけ出し、ついに来るところにまで来てしまったのであろう。「五省」の2は「言行に恥づるなかりしか」であるが、至誠にもとり、言行にも恥づる典型としての野田首相が、あの面構えでいけしゃあしゃあとこのように訓示する面妖さはもはやいかんともしがたい段階に来ていると言えよう。
 ところが、沖縄以外のマスコミはこうした野田首相の軍国主義者への変節の具体的現実を全く報道しない。








10/19大阪府警天満署への関電本店前反原発行動参加者不当逮捕抗議・即時釈放要求の行動





<<「大人の所作」>>
 むしろそれどころか、「中国が攻めてくる」(週刊現代)、「中国をやっつけろ」(週刊文春)など領土ナショナリズムを煽り立てる見出しがこれみよがしに大書・横行している。それに乗じたのであろう、10/11付朝日新聞の天声人語は、中国を「体ばかり大きい子ども」と形容し、「大国の自覚はない粗雑さ」をあげつらい、「官民あげての「愛国無罪」も、国際社会の評判を落とすだけである。とりあえず「大人の所作」を覚えよう、と難じておく。 」と揶揄している。いかにもその尊大な上から目線は、そのような事態をもたらした日本側の「粗雑で大国の自覚がない」、常識さえわきまえない、「大人の所作」とは全く縁遠い、差別感情に満ち満ちた、「国際社会の評判を落とすだけ」の「国が買い上げると支那が怒るからね」とけしかけた石原都知事の発言や、それに乗じた野田首相の言動こそが、今日の事態をもたらしたという認識、自覚が全くないのである。
 9/13付朝日社説は「もう一つ気がかりなことがある。中国外務省が声明で、日清戦争の混乱の中で「不法に盗みとった」などと、日本の中国侵略の歴史と結びつけて説明していることだ」と難詰しているが、大日本帝国に対して無条件降伏を求めたポツダム宣言が第8項で「カイロ宣言の条項は履行されるべき」としたカイロ宣言は「満州、台灣及び澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」と、「盗取」、「盗み取った」という現実を明瞭に表現しており、中国外務省がその国際的文書を引用したのは間違いない。朝日はこの歴史的文書をも否定するつもりなのであろうか。
 そしてここからより根本的な問題が見えてくる。それは、中国、韓国との対立が象徴している、日本側の歴史的責任への自覚、認識の欠如である。それは、「尖閣」も「竹島」も、日本軍国主義が中国侵略戦争の過程で、朝鮮植民地化の過程で略奪し、一方的に日本帝国の版図に組み入れたという動かしがたい歴史的現実、事実である。従軍慰安婦問題でもそうであり、自民と民主の閣僚まで加わっての、靖国参拝が象徴しているように、この日本の加害と侵略・植民地戦争への根本的な責任を常に曖昧にし、ごまかし、うやむやにしてきた、日本側の責任感の欠如こそが両国民衆から、世界から厳しく問われているのである。
(生駒 敬)