ASSERT 432号 (2013年11月23日発行)

【投稿】 「日本軍国主義・ファシズムを取り戻す」安倍政権
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【投稿】「日本軍国主義・ファシズムを取り戻す」安倍政権

<安倍首相「韓国はただの愚かな国だ」>>
 週刊文春11月21日号(11/14発売)は、「韓国の『急所』を突く!」と題した特集記事を掲載、安倍政権の本音を前面に押し出し、その露骨な嫌韓論と排外主義を煽り立てている。
 新聞広告や電車内に目立つその中吊り広告は、以下のように大書している。
▼「もう我慢の限界だ」安倍側近からは“征韓論”まで…
▼安倍首相 「中国は嫌な国だが外交はできる。韓国は交渉もできない愚かな国だ」
▼「首脳会談しない方がマシ」朴槿恵 反日を焚きつける「君側の奸」
▼経団連は「カントリーリスク」を明言 日本企業一斉撤退シナリオ
▼日本メガバンクが融資を打ち切ればサムスンは一日で壊滅する
▼「韓国は日米同盟の庇護下にあると自覚せよ」 米国務省元高官ケビン・メア
 本文では、安倍首相の周辺人物の言葉として、安倍氏が「中国はとんでもない国だが、まだ理性的に外交ゲームができる。一方、韓国はただの愚かな国だ」と語ったと報じたのである。あくまでも「安倍総理周辺によると」と断り書きが付けられているが、首相の本音が透けて見える。
 折しも、韓日・日韓協力委員会の合同総会に出席するために訪日した韓国議員らは11/15、「週刊文春の記事は韓日関係の悪化を招くもので、深い憂慮を表明する。日本政府は記事の内容が両国関係に与える悪影響を十分に認識し、ただちに事実関係を明らかにするとともに、責任ある措置を取るべきだ」と声明を出し、これにあわてて菅義偉官房長官はその日の午後の記者会見で、首相が「そんなことを言うわけがない」と述べ、事実関係を否定した。
 韓国各メディアはこの事態を一斉に報道し、安倍首相の態度は、日本を訪問した韓国の国会議員などに年内の首脳会談の開催を強く希望していた態度とはまったく異なるものであり、二つの顔があると指摘、「本性があらわになった」、「安倍がまた妄言」、「韓国をおとしめる発言」などと非難している。
 韓国与党セヌリ党の洪文鐘事務総長は党院内対策会議で、「安倍首相と側近が韓国政府をおとしめる発言を続け、有力誌がとっぴな話を書いているようならば、韓日関係は今後多くの困難に直面するだろう」と懸念を示し、最大野党・民主党の田炳憲院内代表も党最高委員会で、「日本の軍国主義の亡霊にとらわれた安倍首相の妄言に、韓国政府は断固対応すべき」と強調する事態である。

<<「女性が輝く社会」>>
 こうした事態は、すべて安倍首相自身が招いたものである。安倍首相のアキレス腱とも言える問題は、従軍慰安婦問題にあり、首相はこの問題自体が存在しないか、存在しても「解決済み」であり、ましてや強制連行など「狭義の強制性を裏付ける証言はなかった」として、一貫して政府責任を回避する言動を繰り返してきたのである。
 安倍首相の意を受けたのであろう、外務省は11/4までに「最近の韓国による情報発信」と題した文書をまとめ、慰安婦問題について「(昭和40年の)日韓請求権・経済協力協定に基づき『完全かつ最終的に解決済み』であるにもかかわらず、韓国側は請求権協定の対象外としている」と、韓国政府を批判した文書を公表し、海外広報予算を増やし、対外発信に乗り出した。外務省幹部は「在外公館に対して日本の立場を各自治体や有識者、主要メディアに伝える取り組みを強化するよう指示した」という(11/5産経新聞)。
 そして首相自身が、そうした無責任で非人道的な姿勢が国際的にも孤立し始めるや、去る9月26日、国連総会での演説で、「二一世紀の今なお、武力紛争のもと、女性に対する性的暴力がやまない」として、「不幸にも被害を受けた人たちを、物心両面で支えるため、努力を惜しまない」「世界女性の人権伸張のために努力する」と「女性が輝く社会」を掲げた「イメージアップ作戦」で孤立を避けようとしたのであるが、二一世紀の武力紛争下の性暴力を強調することで、二〇世紀の日本の戦争犯罪をごまかすことはできないし、ましてや戦時下の性的暴力・性奴隷制の典型である従軍慰安婦問題については一言も触れずに、上っ面の美辞麗句で事態をやり過ごそうとする姑息な態度が浮き彫りになっただけであった。
 この美辞麗句を「称賛」してくれたのは米国のヒラリー・クリントン前国務長官だけで、クリントン氏は手紙で「働く女性を後押しする施策を推進する、と首相が明確に訴えたことに感謝する」とたたえ、首相は「書簡に勇気づけられた」との返事を送ったというが、弱肉強食丸出しの規制緩和路線で「働く女性」を非正規労働の拡大でさらに苦しめ、低賃金労働に押し込め、格差をさらに拡大させ、セーフティネットと社会保障の切り捨てで女性を家事・育児・介護等の無償労働に縛り付け、女性の人権を切り縮めようとする首相の政策のどこに「女性が輝く社会」があろうというのか。噴飯ものである。
 国連総会の「人権に関する委員会」で、韓国の趙允旋女性家族相が10/11、安倍首相の国連でのこうした発言を捉えて、「当事国は、紛争地域で女性に対する性暴力が続いている現実に怒るべきだと主張する前に、20世紀に犯した性暴力で苦痛と傷を抱えて生きている女性を無視してはならない」と批判し、「慰安婦の傷を癒やすには、責任を負う政府が心から謝罪し、必要な行動を取り、慰安婦に関するゆがめられた認識を正さなければならない」と強調したのは当然であった。

<<「日本の指導者は考え方を変えるべきだ」>>
 こうした安倍首相のまやかしを最も鋭く批判し、国際社会に訴え出したのが韓国の朴槿恵大統領であった。11月2日からフランス、オランダ、英国、ベルギー等ヨーロッパ各国を歴訪した朴氏は、出発前にフランス紙フィガロや、英BBC放送のインタビューを受け、「慰安婦問題が解決されず、日本の一部の指導者が歴史認識を変えないなら、首脳会談はしない方がましだ」と主張、「『日本に過ちはない』と謝罪もせずに苦痛を受けた人たちを冒とくし続ける状況では、(会談しても)何一つ得るものはない」と語り(BBC)、「欧州統合は、ドイツが歴史の過ちに前向きな態度を示したので可能だった。日本も欧州統合の過程をよく研究してみる必要がある」、「欧州統合は過去の過ちを直視するドイツの姿勢の上に築かれた。日本は欧州の経験を真摯に参考にすべきだ」と強調した(フィガロ紙11/3)のである。
 欧州歴訪・首脳会談の最後の11/8にも、欧州連合(EU)のファンロンパイ欧州理事会常任議長(EU大統領)らと会談した朴大統領は会談後の共同記者会見で、従軍慰安婦問題を巡り「日本には後ろ向きの政治家がいる」などと重ねて批判、安倍首相との会談についても、「(2国間関係の改善が期待できないならば)逆効果」と言明、「日本の指導者は考え方を変えるべきだ」と、安倍首相にあらためて鋭い批判を突きつけ、その政治姿勢を改めることを求めたのである。
 安倍首相は自らが招いたその犯罪的な歴史認識や、それにもとづいた政治姿勢を変えない限り、今後の政治的展望や打開の道が見出し得ない窮地に追い込まれ、その結果が、週刊文春に暴露された「もう我慢の限界だ」「韓国は交渉もできない愚かな国だ」発言だったと言えよう。

<<日中韓の「共同歴史教科書」>>
 しかし朴槿恵大統領から、打開の鍵となる解決への道筋の一つが示された。11/14、朴大統領がソウルの国立外交院創立50周年を記念した国際会議で演説し、日中韓共同歴史教科書を発刊することが、歴史や領土問題によって対立している状況を改善させ、平和を促進するための方法としてふさわしいとして、北東アジアの共同の歴史教科書を編さんすることを提案したのである。
 朴氏はフランスとドイツなどが共同で歴史教科書をつくったことを例に挙げ、北東アジアでも共同で教科書を発行すれば、国家間の協力や対話を強化できるとして、以下のように述べている。

 「私が提案してきた北東アジアの平和協力構想は、地域の国々がちょっとした協力から始め、お互いに信頼できる経験を蓄積し、さらにそれを拡散させ、不信と対立を緩和するというものです。核問題をはじめ、環境問題への対応や自然災害への対応、サイバー協力、資金洗浄防止などから始め、対話と協力を蓄積し、さらにその範囲を広げていくというものです。このような過程が進むに従って、究極的にはヨーロッパの経験のように、最も敏感な問題も論議できる時期が来ると確信しています。
 私は、北東アジアの平和協力のために、まず、地域の国々が、北東アジアの未来に対する認識を共有しなければならないと思います。目的を共有しなければ、小さな違いも克服できません。しかし、目的が同じであればその差を克服することができるのです。ドイツとフランス、ドイツとポーランドがやったように、北東アジア共同の歴史教科書を発刊することにより、東西欧州がそうだったように、協力と対話が、蓄積されるかもしれないのです。対立と不信の根源である「歴史問題の壁」が、崩壊する日が来るかもしれません。それは北東アジアが持続的に成長していく秘訣にもなることです。
 また、北東アジアの葛藤と対立はあくまで平和的な方法で解決されるべきものです。軍事的手段が動員されることがこの地域で二度とあってはなりません。私たちはお互いの政策意図を透明にして、国家間に信頼をもたらす様々な措置を通じて、軍事的紛争を予防しなければなりません。」

<<「社会科教科書」検定基準の改定>>
 これはひとつの重要な、事態を打開する前向きの提案といえよう。下村博文文科相は直ちにこの提案に飛びつき、11/15の記者会見で「大歓迎したい」と賛意を示し、「日中韓の関係大臣が話し合うよう大統領が韓国内で指示してくれれば、(日本も)積極的に対応すべきだ」と積極的に応じる姿勢を示した。
 ところがその同じ下村文科相は直前の11/13、現行の小中高校「社会科教科書」の検定基準について、歴史的事実について政府の見解がある場合は、それらを踏まえた教科書の記述を求めることを「明確化する」方針を固め、新たな検定基準では、尖閣諸島や竹島など領土に関わる問題、慰安婦や南京事件など歴史問題、自衛隊の位置づけなどについて、(1)政府見解や確定判決があれば、それを踏まえた記述をする(2)通説的な見解がない場合は特定の見解だけを強調せずバランスよく記述する−とした方針を打ち出したのである。これは、自民党教育再生実行本部の特別部会が今年6月、「多くの教科書は自虐史観に立つなど問題となる記述が存在する」と指摘したことをうけての検定基準の改定である。
 この改定について韓国メディアは直ちに反応し、特に慰安婦問題に関する記述では「戦後補償は日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済み」とする日本政府の見解が記述されていない場合、検定通過が困難になると伝え、また、「軍と官憲によって慰安婦が強制連行された証拠がない」との一文が、安倍内閣の統一政府見解という名目で、教科書の義務記述事項になる可能性があり、日本政府は従軍慰安婦問題など過去の歴史に関して、「わい曲した歴史観を次の世代に植え付けようとしている」、「将来世代に公然と嘘を教えようしている」、「日本政府の恥知らずな言い逃れと嘘が、教科書に堂々と掲載される」などと日本政府の検定基準改定の狙いを的確に指摘している。
 さらに安倍政権の教科書をめぐる危険な動きは、道徳教科化にも現れている。11/12付琉球新報社説は「道徳教科化 皇民化教育の再来を危ぶむ」と題して、「文部科学省の有識者会議が小中学校の道徳について、教科化と検定教科書の使用を提言すると決めた。国が一律に徳目を指定するのは戦前の『修身』を想起させる。国のために死ぬことを求めた皇民化教育の再来ではないか。皇民化教育は、沖縄戦であまりに多くの犠牲を生じさせた。その痛切な体験で、国による特定の道徳の押しつけがどんな結果を招くか、われわれは骨身に染みて知っている。道徳教科化は避けるべきだ。…下村博文文科相が『6年前は残念ながら頓挫したが、今回は必ず教科化したい』と、有識者会議で熱弁を振るったのは理解に苦しむ。」と厳しく指摘している通りである。
 問題は、安倍政権のこうした動きが、日本版「国家安全保障会議(NSC)」を創設し、それと一体での成立を急ぐ特定秘密保護法案、「集団的自衛権」の法的基盤の検討と憲法解釈の変更、「武器輸出三原則」の見直し、陸海空3自衛隊3万4千人が参加する沖大東島での離島奪還訓練、等々、危険極まりない安倍政権の緊張激化・軍事力強化政策と密接に連動しているところにこそ存在しており、安倍首相の言う「日本を取り戻す」とは、戦前の「日本軍国主義・ファシズムを取り戻す」ものであり、そのような根本政策が改められない限りは挫折と破綻が運命づけられているものである。
(生駒 敬)