ASSERT 433号 (2013年12月28日発行)

【投稿】 中国防空識別圏と安倍外交の迷走
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【投稿】 中国防空識別圏と安倍外交の迷走

<肩いからす安倍政権>
 11月23日、中国政府は、同国が1997年に制定した国防法などに基づき、東シナ海上空に防空識別圏を設定したことを明らかにした。
これに対し日本政府は過剰な反応を示した。外務省の伊原アジア大洋州局長は同日、韓志強駐日中国公使に電話で「中国の防空識別圏は、わが国固有の領土である尖閣諸島の領空を含むもので、全く受け入れることはできない」と抗議。
 小野寺防衛大臣は同日、防衛省で岩崎統合幕僚長らと今後の対応について協議、終了後記者団に「一方的な指定は大変危険である。警戒監視については従前以上に、しっかりとした対応が必要」と語った。
 太田国土交通相も、中国が求めている民間機の飛行プランの事前提出については必要ないと、強硬姿勢を見せた。
 こうしたなか、11月26日、グアム島の空軍基地を飛び立ったアメリカ空軍のB52戦略爆撃機2機が、中国防空識別圏内を初飛行した。これに安倍政権は欣喜雀躍し「強固な日米同盟で中国に対抗する」と、ますます対決意識をあらわにした。
 しかし、B52の飛行は中国に挑戦するような性質のものではなく、通常の訓練の一環であり、中国側もスクランブルはかけなかったのである。
 前日の25日、中国国防相の楊宇軍報道官は記者会見で、日本政府に対して抗議をしたうえ「防空識別圏は領空ではなく、飛行禁止区域ではない」「外国機は国際法に基づき他国の防空識別圏に侵入できるが、自国も圏内の航空機を確認し、脅威に応じる権利を持つ」「中国と日本の防空識別圏が重なることは不可避だが、そこでは両国が情報交換を行い、互いに飛行を安全にすると考える」と述べている。
 これは当初日本内で報道された「識別圏内で中国の指示に従わない航空機には武力行使も辞さない」という強硬姿勢とは全く違う対応である。アメリカ軍もこれを踏まえ、B52を中国側の出方確認も含め、飛行させたと考えられる。

<緊張激化せず>
 そもそも、防空識別圏とは領空の外側に各国が任意で設ける緩衝地帯のような空域である。
 すなわち仮に自国に敵対行動をとろうとする未確認機が、領空に侵入してからスクランブルをかけては間に合わない場合があるので、航空機がどのような性質のものであるかを目視で確認する(レーダーでは機種、国籍等は判別できない)ためのゾーンであり、軍事衝突を未然に防ぐためのものでもあるのだ。
 日本の防空識別圏も、もともと在日米軍が設定したものを、1969年に自衛隊が引き継いだものである。周辺国に関しては、ロシアも韓国も独自の防空識別圏を設定しており、関係国で綿密に調整する性質のものでもない。
 民間機が撃墜された領空侵犯に関しては、1983年のソ連防空軍機による大韓航空機撃墜事件が有名であるが、冷戦構造が崩壊して以降、領空侵犯事案に関しての武力行使は発生しておらず、防空識別圏内でのそうした動きは考えられない現実がある。
 今回の防空識別圏設定については、B52の飛行以降も米軍機や空自機が圏内を飛行しているにも関わらず、懸念されているような事象は発生していない。これには、中国軍の監視能力(地上レーダーでは500キロ離れている識別圏の東端を探査できない)も関係していると思われる。
 防空識別圏内の航空機を詳細に監視するには、早期警戒機を常時飛行させておかねばならず、これは中国軍にとって相当の負担になる。したがって慣行を逸脱した民間機の飛行プランの提出を求めるのも、こうした負担を軽減させたいがための措置と考えられる。
 また、11月26日演習のため山東省の青島を出港した空母「遼寧」は、当初予想された南西諸島を突っ切る「第1列島線」通過コースではなく、台湾海峡を通り南シナ海に向かった。さらなる緊張激化を望んでいた安倍政権にとっては肩透かしだったであろう。

<アメリカの「背信」>
 さらに安倍政権にとって、足元を掬われるような事態も発生した。B52に中国防空識別圏内を飛行させたアメリカの「英雄的行動」に喜んだのもつかの間、11月29日米政府は米民間航空各社に、中国の防空識別圏内を飛行する際、事前に中国側に対し飛行プランを提出するよう勧告した。
 これを受け、アメリカン航空など3社は早速中国に飛行プランを提出した。米政府は、これは偶発的な事態を予防するための措置と説明しており、軍用機は事前の飛行プラン提出は行わないということであるが、事実上、中国の防空識別圏を黙認したことに他ならない。
 これに驚愕した安倍政権は、12月2日来日したバイデン米副大統領に、アメリカが中国に対してさらなる強硬な姿勢をとってくれるよう懇願した。
 3日に行われた安倍‐バイデン会談では、中国の防空識別圏設定について「一方的な現状変更の試みを黙認しない」ことで一致したものの、安倍政権が目論んでいた「防空識別圏の撤回を求める」までは踏み込めなかった。「黙認しない」と言っても実際の行動がなければ「黙認」していることと同じである。
 バイデン副大統領は中国に対し一定強い調子でメッセージを送ったものの、一方で安倍政権に対し、尖閣諸島周辺での偶発的な武力衝突を防ぐため、日中間で危機管理のシステムや対話のチャンネルを構築すべき指摘した。
 翌日北京を訪れた副大統領は習近平主席と会談したが、防空識別圏問題はお互いの主張を確認したのみで終わり、何かを獲得したとか、譲歩を行ったというレベルの「談判」にはならず、公的な場では友好ムードが支配したという。
 同時期ワシントンではヘーゲル国防長官が記者会見で「防空識別圏は別段不思議なことではない。問題は一方的、突然の実行だ」と表明。同席したデンプシー統合参謀本部議長も「防空識別圏内を飛行するすべての航空機に飛行プランを提出させようとする中国の対応が問題」と指摘した。
 これは「中国の防空識別圏設定自体問題はないが、その運用方法が問題である」ということである。

<孤立深まる日本>
 習‐バイデン会談の翌12月5日、南シナ海で演習中の「遼寧」を監視中のイージス巡洋艦「カウペンス」の進路を中国艦船がブロックする事案が発生した。
 この時両艦が接近中も無線交信は続けられ、衝突は回避された。冷戦時代は黒海でソ連艦艇がイージス巡洋艦に体当たりするという事件が起こっており、今回の事案で緊張が高めまるとは双方思っていないであろう。
 このように安倍政権が頼みとするアメリカも中国との過度な緊張関係を作り出そうとはしていない。それはアメリカの世論からも明らかである。
 外務省は19日、米国で一般国民を対象に実施した対日世論調査の結果を発表。調査では「アジアで最も重要なパートナー」に中国を挙げた人が39%で最多となり、日本は35%で2位となった。さらに一般国民だけでなく、有識者を対象にした調査でも中国がトップとなり、「強固な同盟」は砂上楼閣と化しつつある。
 中国の防空識別圏を巡っては、韓国も自国領と主張する離於島 ( イオド )上空が含まれていることから、厳しく反発。韓国国防部は12月8日、同島を包摂する形で防空識別圏を拡大することを発表した。
 この事態に安倍政権は「中韓連携の崩壊」と思い込み、すでに韓国がアメリカの了解を得ていることから、この措置を容認したが、韓国は一方で、大韓航空、アシアナ航空に中国への飛行プランの事前提出を促しており、日本の硬直的な対応とは違った硬軟織り交ぜた外交を見せている。
 このほか、中国政府の発表では、20か国近くの国の航空会社が事前提出に応じており、日本の国際的孤立はますます明らかになってきている。

<大東亜共栄圏の夢想>
 この閉塞状況を打開するため、安倍政権は活路を東南アジアに見出そうとしている。12月14日には東南アジア諸国連合首脳を東京に招き、日本ASEAN特別首脳会議を開催した。 これは丁度70年前の1943年11月に開催された「大東亜会議」を彷彿とさせるものである。
特別首脳会議では海上安全保障や「航空の自由と安全確保」への協力強化で一致したものの、参加国には東シナ海上空に防空識別圏を設定するなど勢力の拡大に動く中国をにらみ、ASEAN諸国との結束確認にこだわった。
 しかし参加国には、ミャンマー、カンボジア、ラオスなど中国と結びつきの深い国もあり、さらにマレーシアやシンガポールなど華僑の影響力が強い国も、中国との緊張関係は望んでいない。
 対中関係で連携強化できたのは領土を巡り中国との緊張関係が存在する、フィリピン、ベトナムであり、フィリピンとは巡視船の供与などで合意した。(巡視船なら問題はないということであろうが、同国海軍の最新鋭艦は元アメリカ沿岸警備隊の巡視船を改装したものであり、日本の巡視船も海軍に編入される可能性があり、武器輸出解禁の実質的な先取りではないか)
 こうした現状では新たな「大東亜共栄圏」は成立しそうにもない。
 安倍政権は事あるごとに「力による現状変更は認めない」とお題目の様に繰り返しているが、北方領土に関しては「論議による現状変更」を求めている以上、尖閣諸島に関しそれを要求する中国に対し「領土問題は存在しない」との一方的な対応をとり続けては、国際社会の理解は得られないだろう。(大阪O)