ASSERT 438号 (2014年5月24日発行)

【投稿】 「国権の発動」めざす安倍政権
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【投稿】 「国権の発動」めざす安倍政権

<「交戦権」確立へ>
 5月15日、安倍総理は「安保法制懇」の提出した報告書(以下「法制懇報告」)を受け、記者会見を開き、集団的自衛権の解禁に向けた憲法解釈の変更を今後は政府・与党レベルで進めていくことを明らかにした。
 法制懇報告では「日本の安全が個別的自衛権の行使だけで確保されるとは考え難く、(憲法が許容する)必要最小限度の措置に集団的自衛権の行使も含まれる」と述べ、「専守防衛」の放棄を明らかにした。
 これまでの必要最小限度の措置とは、日本の領土に「敵国」が侵攻した場合、これを排除するための武力行使ということであるが、法制懇はこれを「時代遅れ」として切って捨てたのである。
 しかし、いつの時代でも、どこの国でも「国防の基本」は敵の直接的侵攻に対する個別的自衛権であり、それでは対処できない場合に集団的自衛権、一般的には軍事同盟の発動という段階を経るものだ。
 それを「必要最小限」という枠組みに「個別」「集団」という全く違うレベルの措置をねじ込むのは、まったく乱暴な議論の組み立てである。
 法制懇報告の基本は、要は「現行憲法の下でも時の内閣の任意で軍事行動が可能」ということであるが、あまりにむき出しの「交戦権の容認」を糊塗するため、発動の条件として以下の6項目が示された。
 集団的自衛権発動の条件として@密接な関係にある国への攻撃が発生A放置すれば日本の安全に重大な影響を及ぼすB攻撃を受けた当該国からの要請C第3国の領域通過には当該国の許可が必要D国会承認E政府の総合的判断、が必要とされている。
 しかし、これらの規定は極めて曖昧で実質的な歯止めにはなっていない。密接な国とはどこなのか。「密接な関係」の内容がそもそも不明確でありどのようにも解釈が可能だ。
 たとえば、現在可能性はないが、南シナ海で中国とベトナムやフィリピンとの衝突がエスカレートし、自衛隊に派遣要請があった場合、内閣の判断で発動条件はすべてクリアできることになる。
 また、朝鮮半島有事でも、現状では韓国から日本に自衛隊派遣を要請することは考えられないが、在韓米軍の出動をもって「密接な関係にある国への攻撃」と解釈することも可能である。
 そもそも「当該国からの要請」も怪しいものがある。日本から当該国に「要請を要請する」ことも十分考えられる。
 さらに「第3国の領域通過」も「国会の承認」も事後承諾を否定していない。
 太平洋戦争劈頭、日本軍はイギリス領マレー半島攻略に際し、隣接するタイ王国の事前承諾なしに、同国内に上陸、通過した実績を持つ。
 このように発動条件は極めて恣意的な運用が可能なものとなっている。法制懇は否定するが事実上「国権の発動」「国の交戦権」行使に道を拓くものとなっている。

<有りえないシナリオ>
 法制懇報告では集団的自衛権の発動が考えられる事例に加え、いわゆる「グレーゾーン」を含めた、軍事行動が考えられる類型・事例に関しても提示した。これに関しては「フリーハンドを確保するため、具体的な事例は提示しない」という動きもあったが、それでは国内はもとより国際社会からの強い疑念を抱きかねないため、安心材料として示されることになった。
 法制懇報告は「我が国として採るべき具体的行動の事例」として@近隣有事の際の船舶検査やアメリカ艦艇の防御Aアメリカが攻撃された場合の支援Bシーレーンでの機雷除去C湾岸戦争のような国連の決定に基づく参戦D領海内から退去しない潜水艦への対応E離島などでの武装集団の不法行為、を例示した。
 しかしこれらは、先に述べた「南シナ海事案」に比べても、発生可能性の極めて低いものである。@については、朝鮮半島で本格的な武力衝突が発生した場合、北朝鮮が第3国から兵器を輸入することなど考えられない。北朝鮮の周辺海域は戦闘区域となり、主要な港湾は機雷封鎖されるからである。
 可能性があるのは中国経由の陸路であるが、中国がそうした支援を行うとは現状では考えられない。逆に言えば補給路が絶たれた状態で、北朝鮮が「第2次朝鮮戦争」のような軍事的冒険主義に走ることはないだろう。
 朝鮮有事に関して安倍総理は記者会見で「お父さん、お母さん・・・子供たちが乗っているアメリカの船を(今のままでは)守ることができない」と国民の理解を求めた。
 しかし「第2次朝鮮戦争」下ではアメリカ軍の揚陸艦や輸送船はアメリカ、日本と韓国の間での兵員装備の輸送が任務であり、災害支援のようにはいかないのである。
 いきなり邦人がアメリカ艦船に乗船している場面から説明するのは空論というものであろう。自衛隊は有事に備えて民間フェリーの借り上げを予定しているのだから、それを使うのが先だろう。
 Aについても「アメリカを弾道ミサイルで奇襲攻撃するのは北朝鮮」という都合の良い設定である。核弾道ミサイルの戦力化をなしえていない国の動向を心配するなら、すでにICBMを多数配備している中国やロシアはどうか。
 とりわけ中国との緊張激化をアメリカを巻き込んで進め、D、Eでは中国を念頭に置いているのであるから、北朝鮮への支援の可能性も含めそうした場合の対応を示すべきだろう。
 そのD、Eは警察権では対処不能で防衛出動には至らないグレーゾーンとされているが、潜水艦と武装勢力では全く性質の違うものである。
 法制懇報告では「潜水艦が執拗に(領海内を潜航して)徘徊を継続するような場合に『武力攻撃事態』と認定されなければ潜水艦を強制的に退去させることは認められていない」としているが、能登半島沖に出現した北朝鮮の工作船に対しては、海上警備行動によって護衛艦の艦砲射撃と哨戒機の空爆が行われ、工作船は遁走した。 
 「尖閣諸島に漁民に偽装した中国軍が上陸」というのは想定を通り越した妄想である。確かに中国軍は一部の漁民を民兵として組織しているが、これはアメリカの「州兵」と同様、国軍の制服、装備を装着した部隊であり、法制懇報告の想定する「便衣兵」とは違うものである。
 そもそも、中国がそのような作戦を行うメリットがない。尖閣諸島を実効支配しようとすれば、海自を排除するための本格的な派兵が必要となろう。
 法制懇報告書では「海上警備行動」「治安出動」で対処できるが時間がかかるとしている(実際は海保でも対処可能。武装勢力の武器は最大限携帯ミサイルだが、巡視船の40ミリ機関砲はアウトレンジできる)。時機の問題だとすれば、自衛隊法に「領域警備活動」のような新たな条項を加えても同じことではないか。
 CNNによれば、アメリカでは国防総省が「ゾンビ襲来」に備えて、ゾンビの種類、誕生の仕方、軍事作戦の遂行、ゾンビの倒し方など詳細な対応策を策定していたことが明らかになった。
 国防総省によると、訓練用の架空のシナリオを実際の計画と勘違いしないよう、あえて全くありえないシナリオを採用したとのことである。「武装集団の尖閣上陸」も同様のレベルであるが、日本は「本気」で想定しているところが恐ろしい。

<平和的解決の放棄>
 集団的自衛権を巡っては政府、自民党内で「全面解禁」を目論む安保法制懇−石破幹事長ラインと「部分解禁」の内閣法制局−高村副総裁ラインが駆け引きを展開してきた。
 この相違点は前者の「どこでも、だれとでも」か後者の「日本近隣、アメリカ限定」かというスタンスである。
 安倍総理は記者会見で、法制懇報告を受けて政府として研究を進めると述べたが、集団安全保障にかかる「武力行使と一体化した支援活動」「多国籍軍参加やPKOでの無制限の武器使用」については採用しないことを明らかにした。
 「地球の裏側にもいくのか」との批判を浴びたことも有り、現時点では「どこでも、だれとでも」は否定された格好だ。
 しかし早速、石破幹事長は17日、読売テレビの「ウェーク」で、「国連軍とか多国籍軍、その前段階のものができた時に日本だけは参加しませんということは、国民の意識が何年かたって変わった時、(政府の方針も)変わるかもしれない」と発言、次期以降の自民党内閣でまた憲法解釈が変更される可能性に言及した。
 法制懇−外務省も、「多国籍軍の戦闘部隊への参加は最後の最後になるかもしれない」(北岡伸一法制懇座長代理)と述べるなど、徐々に範囲を拡大していく目論見であり、今後は「どこでも、米軍と」が目標になるだろう。
 安倍総理は「自衛隊が(たとえば)湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことはこれからも決してない」と記者会見で明言したものの、憲法解釈を内閣の専任事項にしてしまった以上、別の内閣の判断を縛ることはできないのである。
 集団的自衛権を巡る論議に根本的に欠落しているのが、軍事衝突に至る以前の外交、政治努力による緊張緩和、平和的解決を進める戦略である。その道筋を指し示すことなく、とりわけ中国、韓国との関係修復をおろそかにし(日韓関係が改善されれば邦人避難を米軍に頼ることなくもないだろう)「仮想敵国」との対立が不可避であるかの前提で論議を進める安倍総理の姿勢は、いくら「再び戦争をする国になるとの誤解があるが断じてない」と叫んでみても空虚に響くだけである。(大阪O)