ASSERT 440号 (2014年7月26日発行)

【投稿】 集団的自衛権の実体化目論む安倍政権
【投稿】 福島を再び水俣のように切り捨ててはならない
【書評】 『家事労働ハラスメント──生きづらさの根にあるもの』
【投稿】 都知事選をめぐって−−統一戦線論(6) 

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【投稿】 集団的自衛権の実体化目論む安倍政権

<決定後強まる反発>
 7月1日、安倍政権は集団的自衛権解禁の閣議決定を強行した。公明党も最終的には党内、創価学会の反対意見を抑え込んで容認を決定した。
 戦後日本の安全保障政策の大転換を、憲法と議会、民主主義を無視し、密室討議と閣議決定というクーデターに等しい方法で押し切ったのである。
 閣議決定の要点は「武力行使の新3要件」(「439」号参照)であるが、「おそれ」が「明白な危険」に変更されたものの、総体的に内閣の恣意的な決定による武力行使が可能な内容となっている。
 政府は今後集団的自衛権に係わる法整備とともに、「グレーゾーンに対処するための法整備」を推進するとしているが、今回の閣議決定そのものが「グレー」であろう。
 安倍総理は1日夕刻の記者会見で「(湾岸戦争やイラク戦争のような)海外派兵は一般に許されないとの原則は全く変わらない。集団的自衛権行使容認で日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなる」と詭弁を呈して国民の理解を求めた。
 しかし、その後の衆議院予算委員会での集中審議では、安倍総理以下関係閣僚が集団安全保障に直結する「ペルシャ湾機雷掃海」さらには、朝鮮有事での「国連軍」支援などにも言及するなど、早くも閣議決定の枠組みを踏み出そうとしている。
 こうした強引、拙速さと説明不足に不安と反対の声は広がるばかりである。連日のように国会周辺、全国各地で抗議行動が展開されているが、安倍政権は追従する報道機関を中心に事実上の報道管制を敷くなどして封じ込めを図ろうとしている。

<露骨な「報道統制」>
 閣議決定直前の6月29日、新宿駅近くの歩道橋上で男性が「集団的自衛権行使容認反対」を唱えながら焼身自殺を図った。
 この状況は、男性が歩道橋上でアジテーションを開始した直後から、ツイッターなどネット上に投稿されはじめ、炎に包まれる様子も含め、たちまち拡散した。
 後追いする形となったマスコミ各社のうち民放は、同日夕刻のニュースから及び腰の体ながら報道を始めたが、NHKは黙殺、新聞も産経新聞さえ記事にしているにも関わらず、読売新聞(大阪本社版)では一行も触れられなかった。
 こうした措置については「WHOの自殺報道に関する勧告」や、自殺を誘発する「ウェルテル効果」防止云々が弁解として言われている。
 しかしこれまで、松岡勝利元農水相、永田永寿元衆議ら政治家や芸能人の自殺については、憶測を含めて報じてきたマスコミが、手のひらを返したように沈黙しているのである。
 「WHO勧告」でも事実報道事態は規制対象ではないにも関わらず、NHK、読売は安倍内閣支持、集団的自衛権賛成の「社是」に基づき、「不作為犯」ともいうべき行為に出たのである。
 もはやこれは「天安門事件」関連に規制をかける中国の報道機関と同類と言えよう。
 さらに「フライデー」誌では、7月3日のNHK「クローズアップ現代」に出演した菅官房長官が、同番組キャスターの指摘に右往左往した挙句、放映後に経営陣に激怒したと報じられた。
 一方、政府は連日のように「価値観を共有する諸外国」から集団的自衛権解禁に賛同する見解が表明されたことをアピール。読売などの報道機関もこれを無批判に掲載し、中国、韓国の懸念は的外れという論調に満ちている。
 
<進む「新兵器」の取得、開発>
 安倍政権は、集団的自衛権、集団安保そして交戦権解禁に向けた法整備を進めるとともに、軍事力の運用、整備なども強引に進めようとしている。
 7月15日から19日にかけ米海兵隊のMV22オスプレイが神奈川県の厚木、横田基地など首都圏に反復して飛来、一部は展示のため札幌にも向かった。
 7月20日には小野寺防衛大臣が、陸上自衛隊が取得予定の同機について、これらを全て佐賀空港に配備し、今後沖縄の海兵隊機も同空港への移駐を検討することを明らかにした。
 22日には件の(「439号」参照)武田防衛副大臣が佐賀県庁で、古川知事らに説明を行ったが、他人に銃口を向けるような人物を派遣するとは最悪の人選である。防衛省は佐賀県民に言葉の銃剣を突き付けたのも同然であろう。
 沖縄では、辺野古新基地建設に向け埋め立て予定地周辺の警備が強化され、反対運動を力で抑え込む姿勢を露わにしている。
 小野寺大臣は訪米中の7月8日には、サンディエゴの米海軍基地で、強襲揚陸艦「マキン・アイランド」(41.335トン)の視察後、「島嶼防衛」のため同様の艦船を早期に導入していきたいと述べた。
 昨年末に策定された「新中期防衛力整備計画」(26中期防)では「水陸両用作戦における指揮統制、大規模輸送、航空運用能力を兼ね備えた多機能艦艇の在り方について検討の上、結論を得る」とされているが、早くも結論が出された形だ。
 海上自衛隊はすでに1万4千トン級の揚陸艦3隻を保持している。これらは陸自の「水陸機動団」が導入予定の装甲兵員輸送車「AAV7」とオスプレイの運用を可能にするため順次大規模改修予定であり、これに現有および今後配備のヘリ空母4隻(397号参照)、さらに「強襲揚陸艦」数隻を加えれば、相当な揚陸能力を保持することになる。
 実際建造されるのは次の「31中期防」期間中の2020年代半ばとなると考えられるが、強引な前倒しもあるかもしれない。
 7月12日、TBS「報道特集」では、将来の国産戦闘機を見据えた「先進技術実証機」=ステルス機の開発が進んでいることが明らかにされた。防衛省技術研究本部と三菱重工により開発されたこの機体は、年内の初飛行が予定されているという。
 
<滋賀県知事選の衝撃>
 こうした、集団的自衛権解禁と軍拡の推進という状況のなか、安倍内閣への支持は低下している。
 7月13日に投開票が行われた滋賀県知事選挙では、「集団的自衛権行使容認反対、卒原発」を唱える三日月候補が自公推薦の小鑓候補を破り勝利した。
 小鑓陣営は菅官房長官、石破幹事長など幹部を応援に投入。集団的自衛権賛成、原発推進を掲げる報道機関も、嘉田前知事と小沢生活の党党首をオーバーラップさせるなど、姑息なネガティブキャンペーンを行うなど側面支援を行った。
 さらに東京都知事選に続き共産党が独自候補を立て、統一戦線破壊を行うという厳しい状況のなか、序盤は小鑓候補が優位に立って居た。
 しかし、7月1日の閣議決定以降状況は大きく変わり、これに石原環境大臣発言、東京都議会ヤジ問題なども影響を及ぼし、中盤情勢報道では読売でも「小鑓、三日月横一線(7月6日)」と自公の優位がほぼなくなっていると認めざるを得なかった。
 選挙結果は1万3千票差あまりの激戦であったが、政権に与えた打撃は数字以上のものがあったと言えよう。安倍総理も7月14日の衆議院予算委員会で「集団的自衛権の閣議決定が選挙結果に影響がなかったとは言えない」と認めざるを得なかった。
 
<世界の動きと連携を>
 集団的自衛権、安倍政権に対する反発と警戒は世界に拡散している。7月5日の中韓首脳会談では、両国が歴史問題に加え、この間の日本の動きに懸念を示した。安倍総理は事あるごとに両国に対し「未来志向の関係を」とお題目のごとく唱えているが、両国は日本の未来に懸念を抱いているのである。
 安倍総理は「地球儀を俯瞰する外交」で矢継ぎ早に世界各国を飛び回っているが、各国首脳から引き出せるのは外交辞令ばかりである。
 「オピニオンリーダー」である欧米各国のマスコミの論調は、安倍政権に対して厳しいもが多い。「ニューヨーク・タイムス」や「フィナンシャル・タイムズ」などに加え、ドイツの「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」紙も7月14日に「安倍総理は集団的自衛権問題で東アジアを不安定にした責任をとって辞任すべき」との記事を掲載した。
 一時進展するかに見えた日露関係もマレーシア航空機撃墜事件発生により頓挫した。唯一進んでいるように見えるのは対北朝鮮である。北朝鮮(ミサイル)の脅威を口実に軍拡を進めている本人が、ほとんど無条件に手を差し伸べる姿が世界からどのように見られているか分からないのだろうか。
 案の定、アメリカから「訪朝はするな」と釘を刺されてしまった。安倍政権の「地球儀を俯瞰する外交」とは自分自身は動き回ってはいるものの、実態は自分中心に世界は回るものと思っている「天動説外交」というべきものであろう。
 アジアではインドを「対中包囲網」の有力なパートナーだと思っているのだろうが、先のBRICs首脳会議を見ればそれは淡い期待だということがわかるだろう。「対中包囲網」など存在しないし、今後も構築することはできないだろう。
 世界では、ウクライナ情勢に加え、シリア内戦、イラク危機、ガザ地区での武力衝突など早急に解決しなければならない問題が山積している。
 日本以外のG7各国、さらにはG20の幾つかの国はこれらの危機への対処と緊張緩和に向けて行動しているが、安倍政権はプレイヤーとして登場できていない。
 現在の尖閣諸島を巡る状況など危機のうちには入らないだろうし、それを理由に軍拡を進める安倍政権は危険な存在に映るだろう。
 安倍内閣の動きを危惧し、平和と緊張緩和を求める声は大きいにも関わらず、日本国内に於いてはそれを組織化することができていない。当面は地道な活動とともに、沖縄知事選など個々の選挙で勝利を積み重ねていかねばならない。(大阪O)