ASSERT 447号 (2015年2月28日発行)

【投稿】 人質事件口実に進む安倍軍拡
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【日々雑感A】

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【投稿】 人質事件口実に進む安倍軍拡

<結論は「見殺し」>
 1月17日、中東歴訪中の安倍総理はカイロで、「イスラム国」(IS)と対決する周辺諸国に1億ドルを援助すると表明した。
 この発言は「イスラム国」と有志連合との武力紛争への参戦表明に他ならない。これに対して「イスラム国」は直ちに反応を示し、以前から拘束していた日本人2名の殺害を示唆した。
 あまりの急展開に驚愕した安倍政権は「2億ドルは人道援助だ。誤解されている」などという泣き言と「テロには屈しない」という強弁を繰り返すのみで、解決に向けての具体策をとらず、事態を放置した。
 アンマンに現地対策本部を設置し、中山外務副大臣に居残りを命じたものの、情報は東京の官邸のほうが早く入手する場合もあるなど、有効に機能したとは考えられない。
 それ以前に日本政府には独自に情報を入手する術はなく、ヨルダン政府やシリアの反政府組織に情報収集も交渉も丸投げするという、当初から当事者能力を喪失している状況にあった。 
 その結果1月24日に湯川遥奈氏、2月1日には後藤健二氏が殺害される動画が公開されるという最悪の結末となった。
 激高した安倍は「テ口リストたちを決して許さない。その罪を償わさせる」と口走った。一国の最高権力者がこうした表現を使えば、武力行使の表明と理解されるのが「グローバルスタンダード」であるが、安倍はその直後に「米軍の後方支援など軍事的な選択肢は考えていない」と腰砕けになった。
 さらに菅官房長官も2月2日の記者会見で「身代金は用意していなかった」と開き直り、2名の遺体引き取りについても「話のできる相手ではない」と責任を放棄する姿勢を見せた。
 これは、今後同様の事態が惹起しても日本政府としては「見殺しにする」と言っているのと同じである。「イスラム国」に人質を取られた他の国は、人質交換、身代金支払い、など条件に応じて様々なオプションを行使しているのもかかわらず、端からすべての選択肢を封じてしまうのは主権国家としての責任放棄であろう。
 
<政権批判は圧殺>
 安倍内閣は自らの無責任、無方針を棚に上げ、再発防止を大義名分に、ジャーナリストのパスポートを剥奪するという本末転倒の暴挙を行った。
 テロ対策のため、各国政府は自国民が「戦闘員」になるための渡航を阻止することを決定しているが、ジャーナリストの取材活動は禁止していない。
 政府のこの措置は、憲法違反であるとともに国際共同行動からの逸脱でもある。国際的には「反テロ」と「報道、表現の自由」は密接不可分のスローガンとなっているのである。
 安倍政権は自らの失敗を隠ぺいするため、批判封殺しようとしている。昨年末に施行されたばかりの特定秘密保護法を濫用し、さらに御用マスコミ、学者・文化人、ネトウヨなどを総動員し「反批判キャンペーン」を展開している。
 また世耕官房副長官は今回の事件に関し「自己責任論には立たない」としつつ「後藤さんには3回渡航中止を勧告した」と述べ、高村自民党副総裁も「後藤さんの行動は蛮勇である」として、政権の自己保身に汲々としている。
 自己責任論を錦の御旗のごとく振りかざせば、自衛隊員が海外で戦死した場合、「入隊時に『事にのぞんでは危険をかえりみず、身をもって責務の完遂につとめ』と宣誓し、生命の危険を承知で入隊したのだから自己責任」ということになりかねないだろう。
 今回の事件は、これまでの安倍外交が肝心な場合に全く役に立たないどころか、札束とともに緊張と憎悪をまき散らすものであることを、白日の下にさらしたことに意義があったと言える。
 さらに「強固な日米同盟」の一端も明らかとなった。アメリカはオバマ大統領や政府高官が、日本へのリップサービスを繰り返したものの、人質の所在や安否の確認に動いた形跡はなく、掌握している現地の状況を日本政府に提供したとは考えられない。
 アメリカは昨年7月、「イスラム国」の人質となっていたアメリカ人の救出作戦を実行したが失敗した。オバマ政権は8月のイラク国内での空爆を開始し、9月にはシリア国内にも攻撃対象を拡大した。さらに、先日3年間の期限付きで、地上戦への限定的な戦力投入も決定した。このようにアメリカは軍事作戦の拡大にはきわめて慎重になっている。
 安倍は集団的自衛権の解禁理由について「邦人を輸送するアメリカ軍を防護するため」と言っているが、今回の事態でそのような想定は画餅に過ぎないことが、ますます明らかとなった。

<「イスラム国」は想定外>
 それにもかかわらず、安倍政権は今回の事件を口実に、軍事行動の拡大を強行しようとしている。当初関心が集まったのは海外での自衛隊による日本人救出である。
 安倍は1月末のNHK「日曜討論」や国会答弁では、自衛隊による人質救出作戦を可能とする法整備に意欲を見せていた。しかし後藤氏殺害後の2月2日の参議院予算委員会では「集団的自衛権に係わる法整備には邦人救出なども入っているが、今回のような人質事案と直接かかわることではない」とトーンダウンした。
 人質事件を梃に、集団的自衛権解禁による自衛隊の活動範囲と内容の拡大を目論む安倍政権であるが、あまりに露骨なやり方には公明党など与党内からの批判も強い。
 昨年7月の集団的自衛権解禁等、安全保障に係わる閣議決定では「領域国の同意に基づき(領域国の施政権が及ぶ地域で)邦人救出に対応できるよう法整備を進める」と決定した。しかし今回のような事案については、シリア政府の承認があっても「イスラム国」の支配地域では不可能と判断したためと言われている。
 さらには、自衛隊の情報収集能力も装備も練度も人質救出作戦を遂行するレベルには至っていない事実も、方針修整の要因だろう。

<海外派兵を恒久化>
 これらを踏まえ安倍政権は、人質事件と集団的自衛権をひとまず切り離し、安全保障関連の法整備を強行しようとしている。
 2月13日から始まった与党協議で自民党は極めて危険な方針を提示した。それは「自衛隊派遣に係わる恒久法」「周辺事態法から周辺概念の削除」「グレーゾーンでの米軍以外の艦船の防護」である。
 2007年9月安倍は突然政権を投げ出した。インド洋で多国籍艦隊に洋上給油を行う「テロ対策特措法」の延長を、当時の小沢民主党代表に拒否されたのが、要因の一つと言われている。今回「恒久法」に拘るのは安倍の私怨もあるであろう。
 法案には「歯止め」として、国会の事前承認を得ることが盛り込まれるというが、「緊急の場合は事後承認が可能」という抜け道も用意されている。法案が成立すれば、「緊急」が常態化していくことは火を見るよりも明らかだろう。
 さらに国連決議も派遣要件から除外されようとしている。加えて「周辺概念」が削除されれば、アメリカ軍が軍事行動を開始すれば、その正当性を議論することなく、世界のどこにでも自動的に自衛隊が派遣されることとなる。
 一方「グレーゾーン事態」については、日本領域内での武力行使に至らない事態とされている。自民党は事態について「北朝鮮の弾道ミサイル警戒」、防護対象について「オーストラリア軍」を例示した。
 しかし、北朝鮮の弾道ミサイルを警戒するのに、イージス艦を持たないオーストラリア軍(イージス艦3隻を建造中であるが、予算超過などで1番艦の就役は早くて16年以降)が、遠路はるばる日本近海に出てくるなどという想定はあまりに非現実的である。
 実際は現時点においては、韓国軍を想定しているのだが、日韓関係が修復されていない中では明示できないのであり、安倍政権の外交・軍事政策の矛盾が如実に露呈している。
 
<際限なき軍拡>
 今後は、周辺事態法から周辺を除外したように、グレーゾーンの地理的範囲も拡大されていくだろう。しかし実際は「テロ対策特措法」施行下ではインド洋の対テロ多国籍艦隊に、現在ではソマリア沖の海賊対策多国籍艦隊に海自護衛艦が派遣されており、アメリカ軍以外との共同対処など当たり前の話となっている。5月からは海自が艦隊司令官を担うこととなっており、実態は法制化論議よりはるか先を進んでいるのである。
 実体先行は海上だけではない。西日本新聞のスクープにより陸上自衛隊が昨年1月から2月、カリフォルニア州の砂漠地帯で、アメリカ軍と合同で砂漠戦を想定した実動演習を行っていたことが明らかとなった。
 これまでも陸自はワシントン州の砂漠で戦車などの砲撃演習を行っていた。それには「日本国内では最大射程の砲撃ができない」という理由があったが、今回の演習はそれとはまったく質の違うものである。
 さらに後藤氏殺害が報じられ国内が騒然となった2月1日、それに隠れるかのように種子島から情報収集衛星が打ち上げられた。それに先立つ1月9日、政府は軍事利用の大幅な拡大を盛り込んだ、新たな「宇宙基本計画」を策定した。軍拡はついに宇宙空間にも及ぼうとしている。
 こうした既成事実の積み重ねを進める安倍政権に対する抵抗も、沖縄を中心に粘り強く取り組まれている。ここでも安倍政権や極右国家主義者は「政権や米軍批判を行うのは売国奴」などとばかりに言いがかりをつけてきている。
 設置が目論まれている「日本版CIA」もその矛先は、国内の民主勢力に向かうことは容易に考えられる。「テロに屈しない」と言いながら恐怖政治で批判を抑え込もうとする安倍政権には「イスラム国」を非難する資格はないであろう。(大阪O)