ASSERT 453号 (2015年8月29日発行)

【投稿】 70年談話と戦争法案の欺瞞性
【投稿】 核武装能力保持の原発再稼働・しかし、「東芝粉飾」で核産業は終焉
【訳出】 南部陽一郎氏、ノーベル賞を受賞した物理学者、逝去享年94
【書評】 海軍の日中戦争 アジア太平洋戦争への自滅のシナリオ
【紹介】 民主党対案提出派と「維新」との大衆世論裏切りの問題点
                       
(本文は、アサート交流ページに掲載)

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【投稿】 70年談話と戦争法案の欺瞞性
        〜美辞麗句の陰で刀を研ぐ安倍政権〜


<帝国日本は反植民地?>
 8月14日、「戦後70年談話」が閣議決定された。村山談話の3倍、約3300字にも及ぶ談話は、その長さに比して内容は様々な文言を散りばめ、第三者的な責任回避に終始しただけの空虚なものである。
 70年談話ははじめに「100年以上前」を振り返り、西洋諸国の植民地支配がアジアにも押し寄せてきた、とする。この点はその通りであるが「日露戦争は、植民地支配のもとにあった多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」と、あたかも日露戦争が反植民地支配の「民族独立戦争」であったかのように述べている。
 そして次に談話は「世界を巻き込んだ第一次世界大戦」へと飛び「民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました」と言う。
 その間に韓国を植民地化しておきながら、その事実には触れず、あたかも帝国日本が反植民地機運を醸造したかのような詭弁を呈するのは悪質であろう。
 さらに談話は、第一次大戦の結果国際連盟が創設され、平和への流れが生まれ、日本も当初足並みを揃えていたが、世界恐慌後のブロック経済化で「大きな打撃を受け」この行き詰まりを「力の行使によって解決しようと試みました」とする。
 ここでは日本をブロック経済化による被害者のように描いているが、打撃を拡大した国内の軍拡、小作農、寡頭支配など諸矛盾には触れていないし、中国侵略を開始、植民地支配を強化し自らブロック経済化を推し進めたことはスルーしている。 また「国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった」と責任の所在を曖昧にしている。
 さらに次段では満州事変を引き起こし、国際連盟を脱退した日本を「新しい国際秩序」への「挑戦者(challenger)」と記し、肯定的ともとれる評価をしている。

<「私」は謝らない>
 こうして日本が起こした太平洋戦争での被害に関しては、さすがに広島、長崎、東京、沖縄そして中国、東南アジア、太平洋の島々で「無辜の民が苦しみ、犠牲となりました」「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいた」と述べざるを得なかった。
 重要なポイントであった「侵略」については、「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」と表明しながら「事変、侵略、戦争」などと概念の異なる事象を並列に並べ、「侵略」の主体を曖昧にし、あたかもそれを「言葉のアヤ」のごとく流している。
 要は日本は戦争はしたが、それは侵略であったとは一言も言っていないのである。安倍らは日頃「侵略かどうかは後世の歴史家が決めること」などと学者に丸投げしており、談話でもその立場に固執をしている。
 しかし一方、戦争法案の違憲性指摘には「学者が決めることではない」と支離滅裂な主張をしているのが実態である。
「植民地支配」についても「植民地支配から永遠に決別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」と、これまでの流れと同様「誰が」「誰を」支配したかには言及せず、だれも否定しようが無い一般論を述べているに過ぎない。
 こうした日本の国策に関する「痛切な反省」と「心からのおわび」に関しては、歴代内閣がやってきており「こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」と自らの謝罪は拒んでいる。
 また戦後処理に関しては、「残留孤児」に対する中国人の保護、連合軍捕虜の寛容に謝意を表する形で、大日本帝国の過ちは許されたとすることによって、現在も戦争責任を追及し、戦後補償を求める人々を「心が狭い」と言わんばかりである。
 しかし「反省」も「おわび」も戦後生まれが人口の八割超として「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と「打ち切り」を宣言している。
 安倍は自分も戦後生まれだから責任はないと思っているのかもしれないが、それなら祖父の顕彰はやめるべきであろう。

<70年談話の本質>
 日頃「未来志向」を口にしている安倍が一番言いたかったのは、最後半部分であろう。「我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則を・・・世界の国々にもはたらきかけてまいります」
 これは一般論としては正しいであろうが、現下の情勢に照らせば、「力による現状変更は認めない」という中国に対する批判と同じである。さらに「経済のブロック化が紛争の芽を育てた」と再度強調し「いかなる国の恣意にも左右されない・・・国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化・・・」と、明らかに中国主導のAIIBやBRICS銀行を意識した牽制球となっている。新興国の経済連携が「ブロック経済」なら、TPPもそうであろう。
 談話は「我が国は・・・『積極的平和主義』の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります・・・終戦八十年、九十年、さらには百年に向けて、そのような日本を・・・創り上げていく」と、集団的自衛権と海外での武力行使解禁によるプレゼンス拡大を宣言し終わっている。
 長々とした文章を要約すると「日本は西洋列強の植民地支配に抗し、とりわけ日露戦争に勝利し、アジアやアフリカの人々を勇気づけた。第1次大戦後世界は平和に向かうかと思われたが、世界恐慌とブロック経済で頓挫した。その被害を蒙った日本は『新秩序への挑戦者』となって武力を行使したが、日本は負けた。植民地支配や侵略はいけない。第2次大戦では多くの国々、人々に犠牲と苦痛を与えたが、これへの反省とおわびは歴代内閣がしている。これは今後もそうである。寛容の心が大事である。謝罪はこの先も続けるものではない。紛争は法により平和的、外交的に解決すべき。積極的平和主義はこの先30年は続けたい」ということである。
 行間にいかに美辞麗句を挟みこもうと、キーワードを機械的に羅列しようとも本質は覆い隠せるものではない。この談話は「おわび」や「反省」の主体を曖昧にするため、主語はすべて「私たち」となっている。
「私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に・・・痛切な反省の意を表し、心からのおわびの気持ちを表明いたします」という村山談話と際立った違いを見せている。さらに、8月15日の戦没者追悼式での「さきの大戦に対する深い反省」という天皇の言葉に比しても、70年談話の不誠実さは否めないものがあり、それが談話を補完する形とさえなっている。

<追い込まれた安倍政権>
 しかし、当初は文言さえ入らないとされた「侵略」「植民地支配」などが盛り込まれたのは、中国、韓国、そしてアメリカなどの厳しい目、そしてなにより安倍政権を辺野古工事一時中断、岩手知事選不戦敗に追い込んだ戦争法案反対の国内世論の力であろう。その意味で安倍やファシスト、レイシストにとって談話は不満の残るものだったであろう。
 さらに、「磯崎発言」や「武藤金銭疑惑」というオウンゴール、自らの吐血という週刊誌報道にいら立ちを隠せない安倍は、8月21日の参議院特別委員会でまたしても自席からヤジを飛ばし、委員長から注意を受け撤回した。
 自民党は参議院の審議に於いて、与党の質問時間を増やし出来レースを演出することで、戦争法案への国民の理解を得ようと目論んでいた。
 しかし11日の同委員会では、戦争法案成立を前提とした自衛隊・統幕の内部資料を、共産党に暴露され窮地に追い込まれた。政府は当初「知らぬ存ぜぬ」で押し通そうとしたが17日に至り、これを認めざるを得なくなった。
 5月に作成されたという統幕資料の日程表には、8月の法案成立を前提に来年3月から南スーダン派遣部隊が「駆けつけ警護」発令に備えることが明記され、さらに南シナ海での日米共同の警戒監視・偵察活動(ISR)の在り方について検討していくとされている。
 南スーダンに関しては、韓国軍への弾薬供与が問題となったが、今後は部隊の派遣が計画されているということである。しかしながら現地の武装勢力はロケット砲や戦車を装備しており、隊員のリスクは高まらないなどというのはデタラメであることが改めて明らかとなった。
 南シナ海のISRに関しては、前号に記したとおり6月下旬にP-3Cによる日比共同訓練が行われたが、今後はこれをアメリカ、オーストラリアとも作戦として行って行くということであり、艦船の派遣も考えられる。
 このようにいくら70年談話で「平和、平和」と連呼しても実際は着々と、軍事的プレゼンスの拡大が目論まれていることが明らかとなった。談話に対し中国、韓国は冷静に対応しており、実際の行動が重要としているが、実際の行動の一端が陸幕資料では警戒心を高めるだけだろう。
 9月3日には北京で抗日戦争70周年の軍事パレードが実施され、朴大統領も参加する方向と言われている。談話に対する中韓の一つの回答であろう。こうした時に出てくるのが「苦しいときのロシア、北朝鮮」である。
 8月6日日朝外相会談が行われ、11日には韓国のYTNテレビが「月内の安倍訪朝の観測」との報道を行った。しかし17日に訪朝した民間団体に、北朝鮮当局が「来再調査等報告書完成を連絡したが日本政府が受け取らない」と述べたと報じられた。
 ロシアに関してはプーチン訪日をめざし、岸田外相が訪ロする予定であったが、8月22日、メドベージェフ首相が択捉島を訪問したことにより延期に追い込まれた。 さらに20日から28日に渡り日本海では中露合同演習が行われた。周辺国は70年談話と政策の欺瞞性を見透かしていると言えよう。
 延長国会も終盤を迎えようとしている、全国の平和勢力は沖縄、岩手の成果を梃に安倍政権を追及していかねばならない。(大阪O)