ASSERT 456号 (2015年11月28日発行)

【投稿】 アジア地域を不安定化させる安倍政権
【投稿】 「もんじゅ」廃炉の可能性と核燃料サイクルの行方
【投稿】 維新が制した大阪ダブル選−−統一戦線論(18)
【報告】 中日戦争70年記念展示を見て(台北市)

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【投稿】 アジア地域を不安定化させる安倍政権

<中韓に挟撃された安倍>
 11月1,2日、ソウルで中韓、日中、日韓、さらに3カ国の首脳会談が連続して開かれた。
 安倍はこれまで「首脳会談は前提条件なしで」という条件を提示し、首脳会談で歴史認識問題が取り上げられるのを回避してきた。
 しかし1年前の日中会談では、中国の主張を受け入れ事前の合意文書を作らざるを得なかった。
 日韓会談に関しても、安倍は「解決済み」としてきた従軍慰安婦問題が、議題となるなら首脳会談などする気はなかったのであるが、それでは済まされなくなったのである。
 韓国側も会談を行うなら、具体的解決策まで引き出したかったところであるが、その点に関しては妥協せざるを得なかった。
 この背景には、アメリカの相当な苛立ちがあると考えられるが、一連の会談では、歴史認識問題での安倍の反動性が改めて浮き彫りになった。
 日中韓会談冒頭、李克強、朴槿恵両首脳が歴史認識を質したのに対し、安倍は「過去のことばかり言うのは生産的ではない」と色をなして反論した。
 安倍は日韓会談でも、朴大統領に対し日本大使館前の慰安婦像を撤去するよう求めたという。しかし途中で体調に異変を来し、ろれつが回らなくなったと11月9日発売の「週刊現代」に暴露された。非道な事を述べようとしたため、極度の緊張に陥ったのではないか。
 結局、韓国側の正論の前に、「気力、体力とも尽きかけていた」安倍は「慰安婦問題の早期妥結」という譲歩を迫られた。そもそも慰安婦問題を議題とした時点で、決裂は許されないなか、こうした結論は予定されていたことである。
 この会談自体を取り巻く環境も相当厳しいものであり、日本政府は「実務訪問」に甘んじなければならなかった。さらに会談後の共同記者会見や、昼食会も設定されず、安倍はソウルで「ひとり焼肉」を喫して帰国した。
 会談を受けて党内から「妥協しすぎだ」との批判が噴出するのを恐れた官邸は、弁明に追われた。帰国後の4日、安倍は谷垣幹事長との会談で「早期妥結」に関して「越年も有りうる」との考えを示したが、同日の自民党外交部会では、「安易な妥協はするな」などの強硬意見が続出し、会談での確認は早くも曖昧になりつつある。まさに「のど元過ぎれば熱さも忘れる」という不誠実な姿勢が露わになっていると言えよう。

<攻勢強める中国>
 もちろん中国、韓国も安倍政権が政治姿勢を転換するとは考えてはおらず、現に「過去ではなく未来を」などと言いながら、日中韓の懸案ではない南シナ海の領有権問題を持ち出す等、挑発を止めない以上、今後も緊張を持った対日関係を続けるであろう。
 ソウルで3か国会談が行われるなか、ニューヨークで開催中の国連総会で、そうした関係を象徴するような議論が行われた。11月2日の軍縮委員会では核兵器廃絶決議に関し、日本政府が求めた「各国首脳らの広島、長崎訪問」決議案に関して、中国代表は「歴史歪曲に利用しようとしている」と反対を表明、ロシア、北朝鮮が同調し、韓国は棄権した。
 ここまでは日本政府も織り込み済みだったと考えられるが、アメリカや英、仏までもが棄権した。とりわけアメリカはオバマ政権発足後初めて日本の決議案に賛成しなかった。中国の主張が一定受け入れられたと言えよう。
 安倍政権としては、もう一つの核廃絶に関する「人道の誓約」決議案に関しては、アメリカに配慮して棄権に回るという対応を示したにもかかわらず裏切られた形となり、痛手となった。
 両決議案は賛成多数で採択されたが、二つの核廃絶決議案で全く違った対応をとった日本政府のダブルスタンダードが浮き彫りになる結果となった。
 中国は歴史認識における価値観の共有化を拡大している。11月7日にはシンガポールで初めての中台首脳会談が行われた。現在、将来の課題である統一問題については一致しなかったが、日本の中国侵略に関する認識については、あらためて確認が図られた。
 アジアでの地歩後退に焦る安倍政権は、経済力と軍事力で失地回復を図らんとしている。日中韓会談に先立ち安倍は10月下旬に、カザフスタン、キルギスなど中央アジア5カ国を歴訪し、約280億円のODAなど経済援助をばら撒いた。
 旧ソ連のこれらの国々は、現在でも独立国家共同体、さらには上海協力機構参加国である。ロシア、中国の影響力の強いこの地域に楔を打ち込もうという狙いであろうが、巻き返しは不可能であろう。
 今回安倍が訪れた各国は、トルクメンスタンなど民主主義国家とは言い難いものがあり、安倍の掲げる「価値観外交」が、いかにいい加減なご都合主義であるかが明らかになったのが、最大の成果と言える。

<共通課題は「対テロ」>
 安倍が中央アジアで得意顔をさらけ出している最中の10月27日、アメリカ海軍のイージス駆逐艦が、スプラトリー諸島で中国の人工島から12カイリ内を航行した。この「航行の自由」作戦は極めて慎重に行われ、中国軍も冷静な対応をとり、両軍の接触はなかった。
 1988年2月黒海で沿岸12カイリのソ連領海内に侵入した米軍巡洋艦、駆逐艦に対し、ソ連軍の警備艦が体当たりを行うという事件が発生した。しかしその後の米ソ関係に変化はなく、冷戦終結の流れは逆行することはなかった。
 アメリカは今後も同様の作戦を継続するとしているが、中国は「抗議」はあるものの、具体的な阻止行動を実施することはないだろう。
 この事態に一人欣喜雀躍しているのが安倍である。安倍は国連総会など様々な国際会議で「力による現状変更は許されない」と中国非難を続けている。11月15日から開催されたG20首脳会議においても、同様の主張を繰り広げんとトルコに乗り込んだと考えられる。
 しかし直前に発生したパリの無差別テロにより、G20の位置づけは対テロ一色となった。会議の合間にもオバマ、プーチン両大統領がホテルのロビーで非公式協議を行うなど、各国首脳はイスラム国対策に忙殺され、安倍の付け入る隙はまったくなかった。
 この流れは、18,19日にフィリピンで開かれたAPEC首脳会議にも引き継がれた。同会議の宣言では、パリのテロ事件を厳しく非難し、被害者への連帯を明らかにする一方、南シナ海問題については言及されなかった。
 このように国際的な共通課題は「対テロ」であり、ことさら地域内の対立を煽る安倍外交は片隅に追いやられた結果となった。

<進む南シナ海への介入>
 宣伝戦で芳しい成果が得たれなかった安倍は、南シナ海での緊張激化策を推し進めようとしている。
 19日夜になり、半年ぶりに日米首脳会談がマニラのホテルで開かれた。この席でようやく南シナ海問題が協議され、安倍は「航行の自由」作戦への全面的な支持を表明、さらに同海域での「自衛隊の活動を検討する」と発言した。
 同日のフィリピン・アキノ大統領との会談では、防衛装備品移転協定締結で合意、これによりP3C哨戒機などの供与が可能になる。南シナ海を巡っては、すでにベトナムへの中古船舶の供与が進められており、着々と間接的介入が既成事実化されているなかでの今回の安倍発言は、直接介入が具体化する危険性が一層高まったことを示している。
 さらに21日からマレーシアで開催されたASEANを核とする関連国の首脳会議、東アジアサミットでも安倍は強硬姿勢を崩さなかった。
 しかし、南シナ海での自衛隊の活動(航空機、艦船による警戒監視・偵察)検討については政府、与党内にも踏み込み過ぎとの考えがあり、慌てた菅は20日の記者会見で「アメリカの作戦に自衛隊が参加する予定はありません。南シナ海で警戒監視活動を行う具体的な計画も有りません」と打ち消しに追われた。
 過剰なリップサービスを行い、東シナ海=尖閣諸島における米軍関与の担保を取ることに躍起の安倍であるが、アメリカは冷ややかである。自衛隊が南シナ海の監視活動に加わり、米軍の負担が軽減されることは歓迎されるだろうが、尖閣問題への介入は別問題であろう。
 特活「言論NPO」が4〜9月にかけ実施した「北東アジアの未来と日米中韓7000人の声〜日米中韓シンクタンク対話と4カ国共同世論調査」によれば、尖閣諸島を巡り日中が軍事衝突した場合の、米軍派遣の是非に関しアメリカの回答者の64%が反対であることが明らかとなった。
 アメリカは対イスラム国作戦でも、空爆の他は小規模な特殊部隊の派遣に止めており、尖閣への派兵など有りえないだろう。
 ASEAN各国も性急な日本の介入姿勢には警戒感を示しており、「当事者間の対話が第一」という原則を確認すべきである。戦争法成立で歯止めのない軍事行動を画策し、反対の声に対して「対テロ」を口実に、共謀罪新設などで圧殺を目論む安倍政権を許してはならない。(大阪O)