ASSERT 463号 (2016年6月25日発行)

【投稿】 危機扇動で参院選運ぶ安倍政権
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【投稿】 危機扇動で参院選運ぶ安倍政権
             〜欺瞞追及し野党共闘の勝利を〜


<サミット利用し危機扇動>
 5月26,27日に開かれたG7「伊勢・志摩サミット」では世界経済の現状と政策課題に関する参加各国の認識の違いが浮き彫りとなった。新興国経済の低迷、中国景気減速などの問題では考えが一致したものの、焦点となった財政出動に関して溝は埋まらなかった。
 財政出動に賛意を示したのは日本、アメリカ、イタリア、カナダであり、ドイツ、イギリスは消極的、フランスは各国の事情に応じてというスタンスが明らかとなった。
 これにより当初安倍が目論んだ、G7総体での財政出動を進めるという意思一致は得られなかった。しかし、安倍は会議で商品価格や新興国経済に関して、都合の良い数字だけを持ちだし、世界経済はリーマン・ショック前夜と強弁、危機扇動に躍起になった。
 各参加国の2015年の経済成長率は、日本0,5%、米2,5%、独1,5%、英2,2%、仏1,1%、伊0,8%、加1,2%であり、各国から見ればアベノミクスの失敗は一目瞭然の状況であった。
 問題は日本経済であるのに、「世界経済は危機的状況」という認識や、これを克服するための野放図な財政運営の提言に、堅実な経済状況の各国首脳は内心呆れたことだろう。
 実際今回のG7首脳宣言では、世界経済の基調について「回復は継続しているが、下方リスクが高まっている」とされており、危機的状況との認識は示されていない。
 しかし消費増税再延期を目論む安倍は露骨にG7の場を利用した。増税を延期せざるを得なくなったのは世界経済の所為であるとし、自らの経済失政の責任を国際社会に転嫁したのである。
 リーマン前との発言に対しては国内外からの批判が高まり、慌てた官邸は世耕官房副長官が5月31日の記者会見で発言を打消し、安倍本人も前日の自民党役員会で「リーマン以来の落ち込みがある」と言っただけだと釈明するなど大わらわとなった。
 こうしたなか行われた増税再延期の方針伝達に、麻生財務相、谷垣幹事長は当初「再延期するなら解散して信を問うべき」と異を唱えたが腰砕けとなり、6月1日消費増税の2年半再延期が正式に発表され、同時に解散総選挙も見送られることとなった。
 また今回のG7では世界の軍事的リスクとして、北朝鮮の核開発、ウクライナ情勢とともに、東シナ海、南シナ海の状況が議題となった。
 宣言では南シナ海に関して、フィリピンによる国際仲裁裁判所への提訴を踏まえ「仲裁を含む法的手続き」に言及、名指しはしていないものの中国を強くけん制する内容となっている。
 中国政府はかねてより、G7において南シナ海問題を議題とすることに異を唱えてきたが、安倍政権はこれを無視し首脳宣言に押し込んだ。安倍は様々な国際会議で中国を、国際社会の不安定要因のごとく批判しているが、他のG7参加米、英は緊張激化の主役はロシアとの認識であり、対露融和的な独、仏も主要な関心はウクライナ問題である。
 このように今回宣言に対中強硬姿勢が盛り込まれたが、議長国への配慮の域を超えるものではないだろう。
 
<継続される米中対話>
 セレモニーであるG7終了後には対中関係に関する、実質的な国際会議が相次いで開催された。6月上旬にはシンガポールでアジア安全保障会議(シャングリラ対話)が開かれ、南シナ海問題が主要な議題となった。
 4日のスピーチでアメリカのカーター国防長官は「中国は南シナ海に万里の長城を築き孤立しかねない」と牽制、これに対して中国代表団はアジアを中心とする参加国代表との会談を重ねるなど鍔ぜり合いが演じられた。
 各国が明確な意思表示を躊躇する中、日本は中谷防衛相が同日の講演で南シナ海の人工島建設について、国際法に基づく秩序を著しく破壊するものだと表明するなど、前のめりの姿勢を露わにしている。
 この後、米中の論議は舞台を北京に移し続けられた。6,7日に開かれた第8回の米中戦略・経済対話でも南シナ海問題が議題となった。ケリー国務長官が仲裁裁判所の裁定を支持し、人工島での軍事施設拡大に懸念を示したのに対し、楊国務委員は裁判所の決定を受け入れる考えはないこと、南シナ海の島嶼は中国の領土であるとの従来の主張を繰り返し、議論は平行線に終わった。
 一方で北朝鮮に対する制裁措置の実行などでは両国は協力し、様々な問題で引き続き協議していくことが確認された。
 このように米中は厳しく対立しながらも、協議の枠組みは維持されそのなかで一致点を見出す努力は続けられている。この点は永らく首脳会談が実施されず、再開されても形式的な対話だけで、双方が言いっぱなしで終わる日中関係との差異である。
 安倍政権が中国に対する批判を繰り返す中、中国海軍のフリゲート艦が6月9日未明に尖閣諸島の接続水域を航行した。この数時間前には3隻のロシア艦隊が同海域を北上しており、中国艦はこれに絡む形で接続水域に入ったとみられる。
 この中国艦の動きはロシア艦隊の動きを把握したうえで、追尾する形をとったと考えられる。これに対して日本政府は深夜にも関わらず、駐日中国大使を呼び出し抗議を行った。
 さらに15日には中国の情報収集艦が口之永良部島近海の日本領海に進入、同艦は16日にはさらに南下し、北大東島付近の接続水域を航行した。これは周辺海域で行われていた日米印合同演習「マラバール」への偵察行動だったと考えられる。
 一連の行動はフィリピン、ベトナムに自衛隊を反復的に派遣し、南シナ海問題への介入を進める安倍政権に対する対抗措置であることは明らかである。今後も日本政府が介入を続けるならば、中国側も同様の行動を継続するだろう。
 今回の尖閣諸島での事案では、中国艦と海自艦の距離は数キロを保っていたと明らかにされているが、こうした事態が続けばその距離は徐々に縮まっていくと考えられる。
 アメリカは南シナ海の海空域での中国との偶発的衝突を回避するため、様々なレベルでのチャンネルを開いているが、日中間のそうした回路は未構築のままである。

<日米同盟の幻想と参議院選挙>
 安倍政権は今回の事案を参議院選挙のため最大限利用し、中国の脅威と日米同盟の重要性を喧伝している。しかしアメリカは「尖閣諸島の領有権問題で特定の立場はとらない。しかし施政権は日本にあり日米安保の対象である」との従来の見解を変更していない。
 アメリカは南シナ海では、中国とフィリピンの間に割って入る形の「航行の自由」作戦を展開しているが東シナ海における日中間の係争には、近海での日米合同演習を進める以上の介入は行わないだろう。
 アメリカ海軍がアジア地域でプレゼンスを発揮しているのは、大西洋、欧州地域での地位が低下しているからである。この方面でのロシアの脅威に対しては新型のアメリカのミサイル防衛システム、NATOの地上軍、航空戦力が最前線であり、海洋戦力もアメリカ抜きでもロシアを圧倒している。
 例えば現在ロシアの正規空母1に対し、NATOは正規空母1(仏)軽空母2(伊、西)であるが、これが17〜20年頃には露0(長期改修)に対しNATOには正規空母1(英)が加わるため戦力差は拡大し、アメリカ艦隊の出番は当分ない。
 一方アジア地域では、東シナ海、南シナ海の紛争当事国には戦力化された空母は無く、アメリカ艦隊の存在感は大きい。6月中旬まで、沖縄近海には原子力空母2隻が展開していたが、これは予算確保に向けたアメリカ政府に対するパフォーマンスでもある。
 アメリカ海軍最大のイベントとして6月30日からは、27か国の艦艇50隻、航空機200機、約2万5千人が参加する環太平洋合同演習(RIMPAC2016)がハワイ近海などで開始される。
 2年おきに行われる同演習には2014年から中国海軍も招待されており、今回も駆逐艦など5隻が参加するが、この中国艦隊は6月18日に北大東島近海で、「マラバール演習」に参加した米駆逐艦2隻と合流し、共にハワイに向かっている。
 日頃「軍事・外交問題は国の専権事項であり沖縄県は口を出すな」と主張している日本の右派セクターは、翁長知事に対し「なぜ中国軍の接続水域侵入に抗議しないのだ」と矛盾する難癖をつけているが、アメリカに対して「なぜ中国軍を演習に招待するのだ」とは言わず、支離滅裂となっている。
 安倍政権もこうしたアメリカの現実的な動きを見て見ぬふりをして、日米同盟の幻想をふりまいているが、沖縄県民はこれを見抜いている。「尖閣危機」が煽られる中、米軍属による女性殺害に抗議する6月19日の県民集会には6万5千人が結集し、怒りの声を上げた。 
 今次参議院選挙で安倍は自らの失政を糊塗するために「世界経済の危機」と「中国の脅威」を捏造し乗り切ろうとしている。民進党、共産党を軸とする野党はこうした欺瞞を徹底して暴くとともに、まっとうな経済政策、対話による緊張緩和を対置し、安倍政権を追い詰めていかねばならない。(大阪O)