アサート No.471(2017年2月25日)

【投稿】 「廃炉」なんてできっこない。「石棺」も無理だ
                            福井 杉本達也 

1 ロボットも動かない福島第一原発の過酷な高放射線環境
 東電は2月9日、福島第一原発2号機の原子炉格納容器内に2日に投入した自走式ロボットで撮影した画像を分析した結果、内部の空間線量が毎時650シーベルト(Sv)と推定されると発表した。人は7Svの放射線を浴びると確実に死亡する。650Svはこの100倍にあたる。現場に数十秒でも留まれば死んでしまう。とても作業できる空間ではない。線量計が唸りだしても逃げ出せずに死んでしまう。また、2月16日にもサソリ型ロボットを投入し、溶融した核燃料のデブリなど現場の状況を撮影しようと試みたものの途中で動かなくなり、ロボットを現場に放棄せざるを得なくなった。ロボットは高放射線量の空間でも作動するよう放射線防御された機器であった、予想を超える放射線量で機能を破壊されたようである。こうした空間に人間が近づくことは不可能である。ちなみに、原発運転停止直後の核燃料棒表面の放射線量は数万〜10万Svといわれる。今回の650Svは空間線量を推計したものであるが、停止直後に近い溶けた核燃料が近くに存在することを意味している。
 原子炉格納容器を設計していた元東芝技術者の後藤政志氏は「この高線量では、ロボットに使われている半導体やモーターがやられてしまうので、2時間程度しか動かせず、限定的な調査しかできません。もっとも、仮に線量がもっと低くても、ロボットが正常に動くかは分からない。あれだけの過酷事故を起こしておいて、簡単に廃炉までたどりつけると思う方が間違っています。今回の内部撮影によって、政府と東電の廃炉スケジュールが完全に破綻したことが露呈しました」と述べている(日刊ゲンダイ:2017.2.4)。

2 机上の空論:原子力損害賠償・廃炉等支援機構(東電)の「廃炉戦略プラン」
 事故後の2011年末に発表された廃炉工程表では、2年以内に1〜4号機の貯蔵プールにある使用済み燃料の取り出し作業に着手、1〜3号機の溶融燃料は10年以内に取り出し作業を始め、30〜40年後に施設を解体撤去する廃炉が完了するというものだった。この間、使用済み核燃料棒を取り出せたのは、4号機貯蔵プールのみである。1〜3号機では建屋内の線量が高すぎて人間が近寄れない。しかも溶け落ちたデブリがどんな状態で、どこにあるのかさえ分からない。その後何度も計画は変更され、2016年7月13日『廃炉のための技術戦略プラン2016』が最も新しいものである。同プランでは溶け落ちた核燃料デブリをどう取り出すかについて、「燃料デブリ取り出し工法の実現性の検討」の中で、@原子炉格納容器の上部まで完全に冠水する「完全冠水工法」、A水位を格納容器上部より下とした状態で燃料デブリ取り出しを行う「冠水工法」、B空冷による完全気中で行う「気中工法」を上げているが、膨大な放射線量を防いで作業するには、水を満たして放射線を遮るしかない。「冠水工法」は米スリーマイル島原発事故での実績もある。しかし、福島第一原発では、圧力容器がメルトダウンして底に穴が開き、恐らく格納容器も溶かして、原子炉建屋の地下に「メルトアウト」している可能性が高い。ようするに水が溜まらないのである。水が溜まらなければ「冠水工法」は使えない。同プランでは2号機の最大放射線量を73Svとして、作業を計画してきたが、その10倍近くの放射線量ではいかなる工法でも不可能である。

3 「メルトダウン」・「メルトアウト」を何としても認めたくなかった政府・東電
 2月2日のロボットによるカメラ撮影について後藤政志氏は「東電が公開したカメラ映像では、原子炉の真下に大きな穴が開いている様子が見えました。核燃料が圧力容器を破って外に漏れ出たことは間違いありません。ただ、それは、われわれ専門家が事故当初から指摘していたこと。東電や政府はなかなか認めようとしませんでしたが、メルトダウンは大前提なのです。今回、メルトダウンした核燃料が原子炉圧力容器を突き抜けて、外側の格納容器に漏れ落ちるメルトスルー(溶融貫通)が起きていることは裏付けられた。圧力容器を破るほどの核燃料では、格納容器はひとたまりもありません。圧力容器は70気圧に耐えられるよう設計されていますが、格納容器の設定はわずか4気圧です。建屋のコンクリート壁にいたっては単なる覆いであって、超高温のデブリ(溶融燃料)による浸食を防ぐことは難しいでしょう」核燃料が原子炉建屋の床を突き破る「メルトアウト」が起きている可能性は高い。これが地下水に達していれば、いくら循環冷却しても放射性物質の拡散を防ぐことはできない。チャイナシンドロームが進行中のような惨状下にあると考えるべきだろう」と述べている(同上:日刊ゲンダイ)。
 「メルトダウン」・「メルトアウト」し地下水と接触していれば、もはや安倍首相のいう「アンダーコントロール」とはいえない。政府が福島県内で進めている「避難指示区域」を解除して住民を帰還させようとすることなどはもってのほかである。もちろん震度6程度の地震などがあればいつ崩壊するかもしてない危険な施設の隣で「東京オリンピック」などできるはずはない。

4 「石棺」もできない
 「石棺」とはウクライナのチェルノブイリ事故の4号機のように巨大なシェルターで事故を起こした原発と建屋全体を覆い、放射能が外部に漏れないようにすることである。チェルノブイリ事故から30年、当初のコンクリート・鉄板製「石棺」が劣化し放射能が漏れ出ていたため、2016年11月に1,780億円をかけて鋼鉄製のシェルターが完成している。
 チェルノブイリの場合も、溶融した燃料が土台を溶かして地下水に入るという恐れがあり、探鉱夫の決死隊が突貫工事で地下にも坑道を掘り、冷却のため液体窒素で充填する対策が考えたが、幸いにも溶融燃料は途中で止まり地下水と接触することを防いだので、シェルターとしての機能を一応果たしているが(新潟県広報:泉田知事現地調査報告書 2015.11.27)、福島第一原発の場合には、抜け落ちた溶融燃料の一部は地下水と接触し、地下水に溶けだし続けている。その一部は太平洋に流れ込み続けているし、一部は汚染水タンクにたまり続けている。福島第一原発の敷地内は1,000基もの汚染水タンクで埋まっている。もうこれ以上敷地内に増設する余裕はない。規制委の田中委員長のいうように太平洋に垂れ流すか、原発敷地外の「帰還困難区域」にタンクを増設するしかない。しかし、太平洋への放出は国際的に許されないであろう。
 「石棺」化をするには、まず大量に流れ込む地下水を遮断しなければならない。しかし、凍土壁では遮断に失敗している。また、デブリを冷やす目的で大量の水を注入し続けている。これも乾式(空気)冷却に移行するする必要がある。さらに問題なのは地下である。地下空間は誰も近づいたことはない。もし、650Sv前後の放射線量に汚染された土壌があるならば、そのようなところに坑道を掘り、対策を行うことなど不可能である。チェルノブイリのような決死隊すら組むことはできない。つまり、上はシェルターで覆ったように見えても、地下は放射能が筒抜けの状態でどんどん太平洋に流れ込むのである。
 この「石棺」について上記戦略プランにおいて「なお、チェルノブイリ原子力発電所4号機の事故に対して取られた、通称“石棺方式”の適用は、原子炉建屋の補強などによる当面の閉じ込め確保に効果があるとしても、長期にわたる安全管理が困難である。」という表現で否定的にふれた個所があるが、林幹雄経済産業相は、「誤解を招かない表現に修正するよう機構に指示した」と明らかにしたとし、また、 内堀福島県知事は、石棺への言及について「福島県民は非常に大きなショックを受けた。(住民帰還などを)締めることと同義語だ」と強く非難した(福井:2016.7.16)。我々は、放射線からの隔離=住民の安全よりも、住民の強制帰還=住民の被曝を優先するとんでもない政府・自治体首長を持っていることを恥じなければならない。また、この政府の大本営発表を何の疑問も差し挟まず、汚染水のように垂れ流すマスコミの報道をも恥じなければならない。

5 「廃炉」なんてできない。現実を見据えるしかない
 ガンダーセン氏は「汚染水問題により福島第一廃炉は、チェルノブイリ廃炉に比べ100倍複雑性増しており、費用も100倍かかる」と警告する。その上で、「@日本人はまず、福島第一廃炉を30年で終えることは不可能であり、100年超はかかるということを自覚するべき。A福島第一から流出するプルトニウムを含む汚染水は今後数十年間に渡って継続する。地下水の浸食は止まらない。」という(http://www.fairewinds.org/nuclear-ene)。
 福井県では高速増殖炉「もんじゅ廃炉」決定や美浜1,2号機、敦賀1号機廃炉で県や敦賀市・商工会議所主導で「廃炉ビジネス」を推奨する動きが見られるが、もんじゅのMOX燃料は人間が取り扱えるまでに100〜数百年の年月を要すると言われており、また、冷却媒体である液体ナトリウムは原子炉を停止したままでもナトリウムを循環させる必要があり、放射能化したナトリウムの抜き取り、保管方法も処理方法もどうできるのか全く未知である。少なくとも数百年のスパンで考える必要がある。日本で数百年前は江戸時代=脇差・チョンマゲの時代である。現実を見据え数百年の期間でどうできるかを考えていかねばならない。放射線量は半減期でしか減っていかない。物理法則を無視した「工程表」は不可能であり、いたずらに労働者や住民の被曝を増やすだけである。
 30年などという数字は物理的にも工学的にも何の根拠もない。単なる楽観的「思い」だけである。自らの官僚的権益のために架空の「廃炉工程」を作り、住民帰還を奨励する自治体は即刻解散すべきである。住民の安全を守るのが自治体の役割であり、住民を強制的に帰還させ住民を余計に被爆させる自治体に存続する意義はない。政府・原子力規制委はこの期に及んでも原発再稼働・再処理維持・福島棄民・放射能垂れ流しの道を歩み続けている。しかし、国民は政府の放射能地獄への道と心中するわけにはいかない。

No471のTOPへ トップページに戻る