アサート No.471(2017年2月25日)

【投稿】 トランプ=安倍枢軸の形成をめぐって---統一戦線論(33)- 

<<政権の中心にオルタナ右翼>>
 トランプ米新大統領は、発足早々、環太平洋経済連携協定(TPP)の「永久離脱」、メキシコ国境への「壁」建設、中東・アフリカ・イスラム7カ国からの入国禁止など、性急かつ独断的な大統領令を矢継ぎ早に繰り出した。こうした大統領令連発は、投票総数で敗北し、巨大な反トランプの押し寄せる波に何としても反撃し、存在感を維持するための焦りがもたらしたものと言えよう。批判するメディアを「偽ニュース」と切り捨てて異論を封じる独善ぶり、指導力を印象付けんがための、派手な行動と裏付けも配慮も欠いた政策、大げさで挑発的な発言、こうした言動に頼らざるを得ない、トランプ氏の支持基盤の弱さの裏返しでもある。しかし、それゆえにこそ危険でもある。
 しかもトランプ政権は、1か月を過ぎてもその陣容を固められないで動揺を重ねている。側近中の側近と呼ばれ、ロシアとの関係正常化の有力な唱導者でもあり、期待されていたフリン大統領補佐官が辞任に追い込まれてしまった。モスクワとの関係改善に敵意を抱く権力内部の抗争の結果とも言えよう。
 フリン氏の辞任で、今後は首席戦略官のバノン氏が政権のかなめとなりかねない。この大統領の主席戦略官兼上級顧問を務めるスティーブ・バノンはオルトライト(オルタナ右翼)と呼ばれる思想の持ち主であることを自認している。実際、トランプはバノンを政権の安全保障政策を企画、立案する最高意思決定機関の国家安全保障会議(NSC)の常任委員にバノンを昇格させると同時に、軍関係者を同会議から降格させるなど、バノンの重用ぶりを隠そうともしていない。バノンを国家安全保障会議メンバーに任命したことで、特定のイデオロギーに偏らない国益や、国際的関心によってではなく、特定の超保守右翼イデオロギーに沿って外交政策や防衛政策が形成されかねない。
 バノンの出身で、自らが立ち上げた極右サイト「ブライトバート・ニュース」(Breitbart News)は、「オルタナ右翼」のよりどころとされ、タイム誌は、「人種差別主義、性差別主義、外国人嫌いや、反ユダヤ主義文書」を発行する代弁機関だと表現する最右派系ニュースサイトである。バノンは、フランスの極右派党首マリーヌ・ルペンを「新たな人気急上昇中の人物」と賞賛している。最も危険なのは、バノンが自身のラジオ番組で、アメリカが世界中でイスラム過激派と「戦争中」であることを繰り返し述べており、「グローバルな生死をかけた戦争」であり、「再び中東での大規模な軍事闘争」に発展する可能性が高いとしていることである。さらに、中国との戦争も迫りつつあるとも断言している。イスラム圏7カ国の入国規制をまとめたのもバノン氏である。こんな人物がトランプ政権の中心に座ってしまったことは、世界の戦争と平和にとって重大な危険性を警告するものである。

<<「3G」政権>>
 さらにトランプ政権の動揺は、国内政策でも顕著である。当初労働長官に指名したファストフード企業CEOアンドリュー・パズダは、最低賃金の引き上げや超過勤務手当に反対してきた人物、自身の企業で30件以上の安全衛生基準違反をかかえ、女性差別主義者で労働権侵害長官として問題にされ、本人が指名を辞退する事態に追い込まれてしまった。その後、トランプが選んだ2人目の候補・アレックス・アコスタ弁護士も、黒人やラティーノの投票権侵害や警官の権力乱用に加担してきた問題人物である。
 極め付きは、トランプ自身が、わが娘「イバンカ・トランプ」の商品を、大手百貨店が売り上げ不振を理由に販売中止を決めたことに、ツイッターで激怒した。それを追いかけるようにコンウェー大統領顧問がテレビ局フォックス・ニュースに出演した際に、「イバンカ・トランプ」の商品を買うよう国民に呼びかけ、懲戒処分を勧告されている。その軽率さ、利益相反どころか、公私混同ここにきわまれり、である。こうした事態に、数十人の精神衛生の専門家が、最近、トランプ大統領は「重大な情緒不安定」を示していると警告する書簡を出し、連邦議会議員テッド・ルー氏が、ホワイトハウスへの精神科医配備を義務づける法案を提出予定だという(DemocracyNow 2017/2/15)。
 トランプのヒラリー・クリントンに対する政治的勝利の核心は、いかにそれが皮相で欺瞞的なものであったとしても、トランプのスローガン=「今日、労働者階級の反撃が始まる」「アメリカは世界の憲兵になる必要はない」に集約されているとも言えよう。サンダースとは違って、ヒラリーの民主党はこのスローガンに対抗できなかったのである。
 オバマ時代の「チェンジ」「イエス・ウイ・キャン」に象徴される革新的な公約と核軍縮を目指す姿勢とは逆に、新自由主義・市場原理主義・グローバリズムによって、ウォールストリート=金融資本の犯罪を見過ごし、逆に援助し、格差と貧困、不平等の拡大を黙認し、ラストベルト=さび付いた産業地帯を放置し、軍縮に取り組むどころか、中東を泥沼化させ、無人機による無差別爆撃など戦争犯罪を前政権よりも拡大させてきた、そうしたオバマやヒラリー・クリントンの政策によって、既成政治勢力・エスタブリッシュメントを攻撃することによって、トランプは勝利を獲得したのであった。
 しかしそのトランプの「アメリカ・ファースト」も実は、新自由主義と、対テロ戦争路線を継承するものである。経済面では大資本優遇、金持ち減税、規制緩和路線であり、軍事面では「同盟国」により一層の軍拡、新たな戦争準備への加担を強要するものである。それは本質的に反労働者政策であり、オバマケア撤回に見られる反福祉政策でもある。巨大金融資本と巨大軍事機構を直接代表する人物が臆面もなくトランプ政権の重要閣僚を占めている。大富豪(Gazillionaire)、巨大証券会社ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、将軍(General)という三つの特徴から「3G」政権と呼ばれるのも当然である。2/17、トランプ大統領は、サウスカロライナ州の航空機・軍需大手ボーイングの工場で演説し、「労働者を解雇して他国に移転する企業には重い罰を科す」と表明すると同時に、ボーイング製の戦闘攻撃機FA18スーパーホーネットなどについて「真剣に大量発注を検討している」と述べている。まさに軍需と雇用の一体化である。
 ただし前政権との決定的な違いは、孤立主義ではないかと言われるほどのナショナリズム・排外主義と新自由主義との結合である。新自由主義政策がもたらした社会的惨状や雇用の喪失、貧困の責任を、おしなべて移民やマイノリティ、ムスリムに押し付け、憎悪を煽る。外国人憎悪、白人至上主義的な言辞や移民排斥の動き、マイノリティに対する暴力がトランプ政権の登場とともに大っぴらに闊歩しだしている。返す刀で、ウォール街占拠運動など、民衆運動の高揚と排外主義・人種差別・女性差別に反対する大衆運動、民主運動の存在を封じ込める、そのための反動・反革命としてのトランプ政権の登場とも言えよう。

<<「実はあなたと私には共通点がある」>>
 2/10、米タイム誌は「日本の首相はトランプの心をつかむ方法を教えてくれた。へつらうことだ」という見出しで、日米首脳会談を報道し、トランプが大統領選に勝利するとすぐさま駆けつけ、高価なゴルフクラブを進呈するなどして、いち早くトランプにすり寄った経緯を紹介し、その結果、今回の会談で手厚いもてなしを受けたと皮肉たっぷりに報じている。しかし実は、安倍政権はトランプの手法を先取りしていた、先輩格なのである。だからこそお互いに共鳴しあったのだとも言えよう。民主主義、憲法、立憲主義を公然と踏みにじる非民主的体質、ファシスト的手法、反中・反韓を煽る民族主義・排外主義は両者に共通した体質でもある。それは、安倍政権が対米従属をしているから、ごまをすり、こびへつらっているといったもの以上の、日本の帝国主義的・排外主義的・民族主義的本質から滲み出しているものである。トランプ大統領が「われわれはケミストリー(相性)も本当によい。この状況が変わることはおそらくないだろう」とも述べたが、両者の特性をよく示している。安倍首相は、米国からの兵器購入が「日米同盟の強化につながる」「米国経済や雇用に貢献する」とトランプに応じている。
 安倍首相の軽薄で醜悪な例が、2/11付産経新聞に紹介されている。

 「昨年11月の米ニューヨークのトランプタワーでの初会談で、軽くゴルフ談議をした後、安倍はこう切り出した。『実はあなたと私には共通点がある』
 怪訝な顔をするトランプを横目に安倍は続けた。
『あなたはニューヨーク・タイムズ(NYT)に徹底的にたたかれた。私もNYTと提携している朝日新聞に徹底的にたたかれた。だが、私は勝った……』
 これを聞いたトランプは右手の親指を突き立ててこう言った。『俺も勝った!』
 トランプの警戒心はここで吹っ飛んだと思われる」

 この記事には朝日に敵愾心を燃やす産経新聞の本音と期待も実によく反映されている。
 「私は勝った」「俺も勝った」などと言って互いに共鳴しあう姿は、世界にも例をみないほどの軽薄な本質・体質を露呈したものである。しかしこの両者の共鳴しあう新たな日米枢軸関係を笑って見過ごしたり、軽く見てはならないであろう。安倍政権は、フクシマ原発事故を契機に草の根の民衆運動が高揚、拡大し、頑迷なセクト主義に取りつかれていた共産党が野党共闘に踏み出さざるを得なくなり、統一戦線が進展し、拡大つつある現状を前にして、これを敵視し、抑圧する反動・反革命路線でトランプと共鳴しあっているのである。その路線の中心に位置し、煽られているのが排外主義・民族主義である。安倍政権はこの民族主義と新自由主義を結合させることによって、いまだに高い支持率を確保し続けている。共産党までもが「日本固有領土論」を掲げて「北方領土」「竹島」「尖閣」問題で安倍政権を叱咤激励し、「慰安婦」少女像問題をめぐっては安倍政権の高圧的・植民地主義的な駐韓大使の引き上げに何の反論も反撃さえできない、現状である。文科省は領土教育を法制化して強制する小中学校の学習指導要領改訂案を出し、厚労省は保育所の運営指針で、3歳以上の幼児を対象に、国旗と国歌に「親しむ」と初めて明記して、保育所でも国旗国歌を義務付けようとしている。
 民族主義・排外主義と闘えない統一戦線は、多様な連帯を排除するものであり、本来発揮されなければならない国際主義的連帯を掘り崩すものであり、足元を根こそぎ掬い込まれかねない危険性を内包している。野党共闘と統一戦線は、日米の新たなトランプ=安倍枢軸といかに闘うかが問われている。
(生駒 敬)

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