ASSERT 472号 (2017年3月25日発行)

【投稿】 頓挫した「積極的平和主義」戦略
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【投稿】 頓挫した「積極的平和主義」戦略
              ―南スーダン撤兵と「統帥権混乱」―


「大本営発表」
 3月10日夕刻、安倍は緊急記者会見を開き南スーダンから、5月末を目途に自衛隊を撤兵させることを明らかにした。
 本来なら2013年12月の内戦発生時か、遅くとも昨年7月首都ジュバで大規模な戦闘が勃発した時点で撤兵を決断すべきであった。しかし官邸は正確な情報を把握できず派兵を継続してきたが、急転直下の決定となった。
 安倍政権は民主党政権時の政策をことごとく否定してきたが、南スーダン派兵と尖閣国有化のような軍拡、緊張激化政策は継承・増幅させてきたが、政策転換を余儀なくされた。 
 現地部隊の日報に「戦闘」との記載があったことが発覚して以降、安倍や稲田はしどろもどろの答弁を繰り返してきたが、事件が明らかになる前の2月1日の国会答弁が撤兵の要因となったといえる。
 安倍は「戦死者が出れば辞任する覚悟がある」趣旨の発言を行った。安倍は日頃「日本を普通の国」にすると吹聴しているが「普通の国」の権力者からは発せられようのない言葉である。
 この「辞任発言」で驚いたのは、現地の状況を隠蔽していた防衛省であろう。12月からは「駆け付け警護」任務が付与されることが決まっており、これが本当に発令されれば制服トップレベルでは死傷者が出ることも想定していたと考えられる。
 防衛省とりわけ陸自として、海外派兵は重要な利権となっている。冷戦終結後、自衛隊は軍縮を避けるため様々に活路を求めてきた。
 海自は東シナ海問題、ソマリア沖派遣(過去に対北朝鮮の海上警備活動)、空自は中露に対するスクランブルに出動を伴う軍事組織としての存在意義を持たせている。
 このなかで陸自は離島奪還などの演習を行っているが実動作戦としては、当初は外務省主導で始まったPKOが今では錦の御旗となっている。
 したがって陸自としては、海外派兵の継続は望むところであり、政権が動揺しないように楽観的な報告を挙げ、とりわけ撤兵に直結するPKO5原則に抵触するような現地状況は隠蔽してきたと考えられる。
 一方安倍は報告を鵜呑みにして、昨年10月には「南スーダンは永田町より危険」などと軽口をたたき、戦死者なんかでないと思い込んでいたため国会で大見得を切ったのである。日報への「戦闘」記載を1月27日に稲田が知ったと言うのが事実であるなら、2月1日時点では安倍はこの問題の深刻性を知らなかった可能性が高い。
 防衛省はこのまま隠し通そうとしたが、まさか総理大臣が「戦死者が出ればやめる」と言い出すとまでは思いもしなかったと考えられる。自らの責任で「首相を辞任させるわけにはいかない」ので、日報の存在が明らかにされて以降防衛相が「戦死者が出るかもしれない」と注進し、安倍も想像以上に緊迫した現地の状況に驚愕したのであろう。
 戦争法案審議から駆け付け警護閣議決定まで、自衛隊員のリスク増については懸念が表明されてきた。しかし政府は問題なしどころか「リスクは低減」としてきたが、事実上リスク増大を認めざるを得なくなった。
 国会では野党に対し失態を認めることができないため、「法的な意味での戦闘はない」「5原則は保たれている」と強弁してきたが、最悪の事態になることを恐れ、急遽撤兵計画が立案されたのである。
 安倍は「私は立法府の長」発言でも明らかなように、本当はよく総理大臣の職責を理解していないだけなのかも知れないが、表向きの「PKOの大義」よりも自己保身の方が重たかったことを証明してしまった。
 政権の本音としても安倍は「積極的平和主義」を掲げ、中国を念頭に世界各地でのプレゼンス拡大を目論んできた。とりわけアフリカ大陸は天然資源と今後の市場獲得への思惑から重要視されており、南スーダンはその最前線であり簡単に放棄できるものではなかった。
 
戦略的敗北
 今回の撤兵で安倍政権のアフリカ戦略は修正を余儀なくされた。政府は3月14日、アフリカ、中東の6カ国への民生支援として約30億円の無償協力を決定した。
 これは人的貢献が大きく後退する中で、この地域への影響力の維持を狙ったものであり、南スーダンには約6億9千万円が供与される。政府は撤兵の理由として、「国づくりが新たな段階を迎え」道路などインフラ整備が一定の成果が上がり「一区切り」とすると述べているが、現状は和平の見通しは立たず、100万人が餓死寸前と言われており安定化とは程遠いものがある。
 陸自が整備したインフラもメンテナンスが滞れば荒廃は免れない。自衛隊が現地に残す機材も活用されるか不透明である。6億9千万円は手切れ金とも言えるものである。
 アフリカ大陸に於いて、地歩を後退させる日本に比べ影響力を拡大しているのが中国である。中国は昨年7月ジュバでの戦闘で7人の死傷者を出したが引き続き南スーダンでの活動を続けている。 
 3月13日には南部の都市イエイで、中国部隊が政府軍と反政府軍の戦闘で身動きが取れなくなった国連職員7人をホテルから救出した。「駆け付け警護」の実践といえる。
 陸自は昨秋「駆け付け警護」訓練を公開したが、非武装の大人しい「暴徒」が自衛隊に威嚇され怯んだすきに「国連スタッフ」を救出するという、現実離れした内容であった。
 実際に起こるのは今回のような事態であり、最低でも自動小銃、ロケット砲で武装している相手に自衛隊では対処不能だったであろう。逆に3月18日、ジュバで南スーダン政府軍に自衛隊員が拘束される事件が発生した。
 防衛省によれば市内の市場で「買い物中」(情報収集活動中)の隊員5名が「誤解から」連行されたと言うが、戦闘服を着用し武装した隊員(外国人)を不審者と間違うはずはなく意図的な妨害である。
 南スーダン政府は「自衛隊の活動には感謝している」と言っているが、要は早く出ていけと言うサインである。下手をすれば政府軍との戦闘になる危険性があった事案であり、5月末までの逐次撤兵という悠長な計画ではなく前倒しすべきであろう。
 南スーダンを巡る今回の事態は、安倍政権の「積極的平和主義」の頓挫と、中国に対する戦略的敗北を印象付けるものとなった。

文民統制の空洞化
 一連の問題で明らかになったのは、指揮命令系統の混乱である。当初、防衛相は日報データについては、「破棄」したといいながら与党議員の請求を受け12月末に統幕でデータを「発見」したものの、稲田と統幕長への報告は1月末なってしまった。と説明していた。
 ところが1月中旬には陸自でもデータが保管されていることが判ったにも関わらず、2月以降の国会答弁では明らかにされてこなかったことが、3月15日NHKによって報道された。
 保管されていたのは「陸上自衛隊の司令部」(派遣部隊を指揮する中央即応集団)といわれており、判明後公表の動きがあったが国会審議を勘案した統幕幹部(背広組)がストップをかけ、その後データを廃棄させた可能性があるとされた。
 この件に関しては陸上幕僚長も報告を受けていたと指摘されているが、本人は「私は貝になりたい」のであろう、記者会見でも明確な説明はなかった。問題は稲田がこれを把握していたかである。知っていれば隠蔽に加担、知らなければ掌握不十分ということになり、いずれにせよ責任問題であるが追及の声をよそに、16日には自ら特別防衛監察を指示した。
 特別防衛監察は、海自の次期多用途ヘリコプター選定問題に関連しても実施され、昨年12月に当時の海上幕僚長が「機種選定に不当に介入した」と訓戒処分を受け辞職した。
 今回陸幕長が隠蔽に関与していたとなると更迭は免れないだろう。稲田が就任して以降、陸海制服トップの首が続けて飛ぶとなれば異常事態である。ただ海自に関する監察も開始から処分決定まで1年強を要しており、問題が先送りされる可能性がある。野党は厳しく追及すべきである。
 今年はミッドウェー海戦75周年であるが、大本営は大敗北の事実を隠蔽し、その後も虚偽の発表を続け、敗戦後は連合軍からの追及を恐れ膨大な資料を廃棄した。
 一連の問題で軍部の隠蔽体質は同様であることが暴露されたが、安倍や稲田が自衛隊を掌握できていないことも明らかになった。文民統制が空洞化するなか、そうした政権が中国に対し軍拡と挑発を続けている事態は非常に危険なことである。
 海自は3月初旬東シナ海で米空母「カール・ビンソン」との合同訓練を行ったのに続き、ヘリ空母「いずも」を5月から3か月にわたり南シナ海方面に派遣する。これは中国空母「遼寧」の巡航に対抗するものであり、安倍政権はこの地域での緊張をエスカレートさせようとしている。
 ただ、今回の混乱では「戦死」に対する国民感情が撤兵に追い込んだと言え、日本がそう簡単には「戦争をする国」にはならないことが明らかになった。
 安倍は自民党大会で任期を延長し、改憲に執念を燃やしているが、森友事件では、日本の極右エスタブの醜悪さが「内ゲバ」によって晒された。野党・民主勢力は平和主義的ポピュリズムを運動化すべく、最大限の努力を傾注すべきであろう。(大阪O)