ASSERT 473号 (2017年4月22日発行)

【投稿】 朝鮮半島危機に便乗する安倍政権
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【投稿】 朝鮮半島危機に便乗する安倍政権
            〜緊張緩和でなく激化を希求する愚策〜
 

シリアから朝鮮半島に
 4月4日、反政府派が支配するシリア北部ハーン・シャイフン市で行われた、化学兵器による攻撃では、子どもを含む100人近くが死亡し、数百人が負傷した。トランプはそれまでのアサド政権に対する方針を転換し、アメリカによる単独行動をも辞さない姿勢を示した。
 そして米中首脳会談最中の4月7日、トランプはシリアに対する攻撃命令を発出した。シリア沖に展開中のイージス駆逐艦2隻から発射された59発のトマホーク巡航ミサイルは、シリア軍のシャイラト航空基地の航空機、燃料庫などを破壊した。
 この攻撃は事前にロシアに通告されたと言われているが、ロシアがシリアに配備している早期警戒管制機を発進させるなど、十分な防御体制をとれる余裕はなかったと考えられる。
 また東地中海に展開していた強力なロシア空母機動部隊は既に撤収し、同海域には揚陸艦の他、曳舟やトロール船を改造した偵察艦など補助艦艇が残っているだけであり、トマホークの探知や迎撃も不可能だった。黒海艦隊のミサイルフリゲート艦が同海域に到着したのは4月8日であり、アメリカの攻撃はこの間隙をぬった形となった。
 今回の化学兵器による攻撃は、アサド政権によるものとほぼ断定されているが、トランプ政権の対応は検証が不十分かつ、国際法上の根拠も不明確なままの見切り発車である。また軍事的にも、反復攻撃もなく基地や装備の損傷も復旧が進み、シリア内戦の戦局には影響を与えていないことからも、「急所を外したジャブ」であり、政治利用の色合いが濃いものと言える。
 つまりトランプの唐突な攻撃は、政権が直面している苦境からの脱出を狙ったアピールであり、イニシアを発揮している軍人グループがこれを主導した。
 トランプ政権は発足以来、中東、アフリカのイスラム国からの入国禁止令の混乱、オバマケア廃止(代替)法案の撤回、さらにはフリンの辞任、バノンとクシュナーの対立など政権内部の矛盾が露呈し、支持率は下がり続けていた。
 また、外交面でも同盟国であっても安倍の他は友好的関係の構築に失敗しており内患外憂、四面楚歌の状態であった。
 こうした中、化学兵器による攻撃は、劣勢を挽回する格好の口実なった。苦しむ子供たちの被害映像を見たトランプは「考えが変わった」として、アメリカ単独での軍事行動を決断したと言われている。
 しかし、1月28日にイエメンで行われた、米軍特殊部隊によるアルカイダ系武装組織への攻撃では、女性、子どもを含む民間人16人が殺害されている。
 この時政権は「作戦は成功」と喧伝するなど、「子どもの犠牲」は方便に過ぎないことは明確であり、トランプはそれを巧妙に利用している。
 トランプは、ディナー後のデザートを喫していた習近平に攻撃の事実を伝え、虚を突かれた習は沈黙ののち「子どもが殺されたのなら仕方がない」と返答せざるを得なかった。
 また一貫してアサド政権に厳しい姿勢を見せてきたイギリスやドイツなどG7各国は、この攻撃について一定の評価を与えているが、手放しで称賛しているわけではない。難民受け入れを拒否しながらの攻撃は、人権や人道主義に基づく介入ではないことが見透かされているのである。
 4月10、11日、イタリアで開かれたG7外相会談での共同声明でも、ミサイル攻撃への支持は明記されず、シリア問題についてはロシアを含めた政治的解決が強調されたものとなった。
 こうした中、安倍政権は「化学兵器の使用と拡散を許さないとのアメリカ政府の強い決意を支持する」と賛辞を送った。トランプ政権は4月5日の弾道弾試射に関し「中国が動かないならアメリカが単独でやる」「シリア攻撃は北朝鮮対するメッセージ」と述べ、空母「カール・ビンソン」打撃群を朝鮮半島に向け急派するなど挑発姿勢を強めているが、森友事件や共謀罪の政局化を回避するため安倍政権はこれを最大限利用している。
 
朝鮮半島危機の虚実
 安倍は米中首脳会談前後の6,9日の2回、トランプと電話会談を行い「北朝鮮は重大な脅威」であり「中国の役割は重要」との認識を示した。
 このもとで安倍政権は軍事的な動きも加速させている。3月、アメリカ軍の戦略爆撃機と空自戦闘機の合同訓練を実施、「カール・ビンソン」との合同訓練も米韓演習を挟んで2回行ったが、今回再び朝鮮半島近海での訓練を実施することを明らかにした。
 さらに4月14日、参議院外交防衛委委員会で安倍は「北朝鮮ミサイルにサリンを搭載できる可能性がある」「抑止力をしっかり持つべき」と答弁した。これまで北朝鮮に関しては、核兵器に対する警戒が語られてきたが、テロ組織でも製造可能なサリンを対象に含めることにより、軍事力行使のハードルを一気に引き下げた。
 抑止力というものがあるなら、自分は使わず、相手に行動は起こさせないのが基本であろう。しかしシリア攻撃では、サリンが使われた後にミサイル攻撃が行われているわけであり、抑止力理論は破綻している。真の狙いは先制攻撃能力の確保である。
 自民党国防部会はこれまで「敵基地攻撃能力」の保持を提唱してきた。しかし、それでは先制攻撃を認めていると誤解されるとして「敵基地反撃能力」と言い換え、巡航ミサイルなどの保有を求める提言を3月29日にまとめた。
 しかし国防部会提言の「反撃能力」と「先制的自衛権」(「自衛権」行使としての「先制攻撃」)は「能力」と「権利」というまったく別の概念なのであり、姑息な誤魔化しであろう。今後、集団的自衛権が強引に法制化されたように、国際法上疑義が持たれている先制的自衛権も制度化が目論まれるだろう。
 この様な日米反動政権の動きに北朝鮮は過敏に反応しており、力による封じ込めは効を奏していない。4月15日、平壌で「金日成生誕105周年」の大規模な軍事パレードが行われ新型の「大陸間弾道弾」も登場、16日には失敗に終わったものの弾道弾が発射された。
 安倍政権を忖度するマスコミでは連日のように、「斬首作戦」などがまことしやかに語られ明日にでもアメリカの攻撃が始まるような報道を続けている。
 限定攻撃という選択肢にしても、内戦状態で対外戦争能力を持たないシリアと北朝鮮とでは全く条件が違うことは、マティスら軍人グループは承知している。実際16日の弾道弾発射にも米軍は反応しなかった。
 今後、北朝鮮が核実験を強行するかが焦点となるが、アメリカが先制攻撃を行う可能性は低いと考えられる。
 
外交努力の放棄
 北朝鮮、シリア、欧米を巡り国際情勢が混沌とするなかで、対話による解決に向けた外交努力が求められているが、緊張継続を望む安倍政権はその努力を放棄している。
 3月19日から22日にかけて訪欧した安倍は、米欧間の調整を試みたが進展はなかった。直前の3月17日にはワシントンで、米独首脳会談が握手拒否という異様な雰囲気のなか行われ、17,18日にはドイツでG20財務省・中央銀行総裁会議が開かれたが、アメリカの強硬姿勢で「反保護主義」での合意が得られなかった。
 こうした状況の中、20日にメルケルと会談した安倍は、一方的にトランプへの苦情を聞くこととなったが、それ以降トランプとの電話会談は北朝鮮問題に終始しており、5月下旬イタリアで開かれるG7サミットへ向けての欧米の橋渡しは困難であろう。
 朝鮮半島情勢への対応に関しては、韓国との連携が不可欠であるが全くと言って良いほど進展していない。安倍が問題視した釜山領事館前の少女像に関して何の進展もない中、4月3日長嶺駐韓大使が帰任した。
 振り上げた拳の置き所がない中、政府は安倍の支持基盤である民族排外主義者らの反発を収めるため「慰安婦問題日韓合意の履行要請」「大統領選挙の情報収集」「邦人保護」など後から様々と理屈をつけている。
 しかし「日韓合意の履行」を求めるなら、ソウルに止まり動くのが常道である。「大統領選挙」についても、昨年のアメリカ大統領選で大使館は安倍・クリントン会談をセットする失態を犯しているように、ほとんど無能力であろう。「邦人保護」も帰任を4月5日の弾道弾発射以降にすれば、もう少し説得力を持ったであろう。
 帰任した大使は「日韓合意の履行を求める」として、黄大統領代行との面会を申し入れたが拒否された。韓国側には、併合に至る明治時代の特命全権公使を彷彿とさせる非礼な行為と映ったであろう。こうした旧宗主国然とした対応は、日本国内の強硬派を意識し、そこへのフォーマンスを優先したものである。大使は10日になってようやく外務次官との会談にこぎつけたものの、安倍が日韓の協調を本気で考えていないことが露呈した。
 この間中露は外相の電話協議で6か国協議について言及しているが、当事者の一人であるはずの安倍の口からは、一切その話は出ていない。本来ならトランプを説得すべきであるが、「もし北朝鮮を攻撃するならこちらも準備があるので事前に言ってほしい」レベルの話しか聞こえてこないのである。
 朝鮮半島情勢の先行きが不透明の中、4月12日訪露中の鈴木宗男が「4月27,28日にモスクワで日露首脳会談が開かれる」と明らかにした。16日時点で外務省H.Pの日程は空白のままであり、個人の資格で訪れている人間が総理の日程を公表するのは異常事態である。
 4月いっぱい、さらには5月9日の韓国大統領選挙前後までは何が起こるかわからない、と自分たちで言っておきながら、こうした情報が独り歩きする状況は政権の箍が緩んでいる証左である。
 強権的な内政を推進するため、国際的な緊張を利用し、弄ぶ安倍政権への追及を強めなければならい。(大阪O)