アサート No.477(2017年8月26日)

【投稿】 議論を避け再稼働に突っ走る「エネルギー基本計画」の見直し
                                福井 杉本達也 

1 まともに総合資源エネルギー調査会が開かれていない
 経済産業省は8月9日、3年ぶりとなるエネルギー基本計画の見直しを議論する審議会「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」を開いた。調査会は、経済産業大臣の諮問機関。経済産業省設置法18条により、資源エネルギー庁に置かれている重要な法的機関であるが、開かれているのは調査会の下の分科会や部会、部会の下の小委員会やワーキンググループなどだけである。調査会本体は経済産業省のホームページには平成20年8月1日という履歴のみが残る。それ以来、調査会本体は開催されていない。原発だけでなく、石油輸入や石油備蓄・天然ガス開発など国のエネルギー政策を決定する大臣の諮問機関が9年以上も開催されないというのは異常である。委員の大阪ガス野村明雄氏は既に現役を引退している。東電の勝俣恒久氏は福島原発事故の当事者として強制起訴されている。まともに機能していない・あるいは機能させたくないのである。分科会や部会・WGといった枝葉組織で重要事項が決定される。そのヌエ的組織が「エネルギー基本計画」決めるというのである。もちろん本体と部会等の委員は重複する場合もあるが、分科会等でしか議論しないということは都合の悪い委員の排除、あるいは都合のいいメンバーのみで決定するといわれても仕方がない。しかも、朝日を始め全てのマスコミはあたかも既定路線であるかのように書く。大枠を本体で議論し、個別の議論は分科会等に任せるというのが組織の常道である。法定組織を9年間も開催しないでどうしてどの議論を枝葉組織に任せるかが決められるのか。我が国の国家組織が頭から腐りだしている証拠である。恐らく委員の人選さえできないほど混乱しているのであろう。原発があるがために日本のエネルギー政策は支離滅裂となっている。

2 旧来通りの原発依存から脱する気がない
 世耕弘成経産相は分科会の冒頭、「基本的に骨格は変えない」と従来路線の踏襲に言及した。原発新増設には触れないまま、運転40年を超える老朽原発も含めた原発再稼働をめいっぱい進めることだろう。それは、依存度低下にも、安全性向上にも反する。 30年度に発電量の2割を原発でまかなうと想定する。30基ほどが動く計算で、再稼働だけでなく古い原発の運転延長か建て替えも多く必要になる。「現実からかけ離れている」。福島第一原発で6基、福島第二で4基、新潟県知事の反対する柏崎刈羽は7基、静岡県知事の反対する浜岡の5基、東日本大震災で被災した女川3基、東海第二、敷地内に活断層のある志賀2、敦賀2、廃炉の決まった敦賀1、美浜1,2、玄海1、島根1、伊方1等々を除外していけばどんどん再稼働できる原発は少なくなる。したがって、2030年度に電源に占める原発の割合を20〜22%に引き上げるとの目標に対し、16年の推計は2%にとどまっている。
 分科会には再稼働派がうじゃうじゃで、東京理科大学大学院の橘川武郎教授が「リプレース(建て替え)の議論もするべきだ」と口火を切ると、「リプレース、新設はオプション(選択肢)として残すことを考えてほしい」(重工大手IHIの水本伸子常務執行役員)などの意見が続いた。」(朝日:2017.8.10)。無理やり総電力の20%を原発で供給しようとした3年前の計画が既に破綻していることを認めたくないのであろう。

3 「福島事故の反省」なし
 分科会資料は「復興・再生に向けた取組→中長期ロードマップに基づき、廃炉・汚染水対策は着実に進展。また、多くの区域の避難指示が解除。」と書くがうそも甚だしい。これだけの重大事故を起こしておきながら何の反省の弁もない。「福島復興 〜避難支援から復興へ、旧住民の帰還と新住民の誘致〜」という言葉だけがむなしく躍る。2014年4月以降、順次解除された5市町村の住民登録者計約2万人に対し、帰還率は13.5%にとどまる(時事:2017.3.7)。いわき市に自宅を建て仮設住宅を退去した70代の男性は「生きているうちには戻れない。高齢者にとって双葉町は帰還困難ではなく『不可能区域』だ」(日経:2017.2.21)。また、川村東電会長は福島第一原発で高濃度汚染水を浄化した後に残る放射性物質を含んだ処理水を巡り、「(東電として)判断はもうしている」と述べ、海に放出する方針を明言した。処理水はトリチウムを含み、第一原発敷地内のタンクに大量に保管されている(東京:2017.7.14)。7月6日現在、約77万7千トンで、タンク数は約580基に上る。どこが「着実に進展」しているといえるのか。完全に破綻している。しかも「我が国では、特有のマインドセットやグループシンク(集団浅慮)、多数意見に合わせるよう強制される同調圧力、現状維持志向といったことが課題の一つとして考えられる」(同資料)などと、あたかも住民の「浅慮」にあると逆切れしている。このような非常識な駄文を公文書にすらすらと書けること自体官僚機構の腐敗の極みである。

4 原発が安い電源であるという前提も破綻
 福島原発事故に関する費用の総額は、当初試算の11兆円から21.5兆円に膨らんだ。廃炉や汚染水対策:8兆円、除染:4兆円、賠償費は8兆円。これらを電気料金に上乗せするため経産省は新たな詐欺を考えた。送電網の使用料(託送料金)の仕組みを利用して費用を回収するというのである。電力自由化が今後進むと、原発を持たない会社から電気を買う消費者が増え、料金も規制できなくなる。規制の残る託送料金に上乗せし、全国の消費者から40年間集め続けるのが、新たなカラクリだ。一般家庭で、月約18円の負担増となる。一般負担金だけでは足りず、不足分を負担するしくみが今回の託送料金の案。送電網はすべての電力会社が使うため、原発を持たない新規参入の「新電力」も負担する。経産省が持ち出した“理屈”が「過去分」。原発を持たない電力会社から「現在」電気を買う人も、「過去」には原発の電気を使っていた。不足が生じたのは「事故前に確保されるべきだった備え」が足りなかったからと。本来備えるべき費用に対し、事故前の“安い”費用との差額を1966〜2010年度までさかのぼり請求する。2.4兆円だ。こんな重要なことが基本政策分科会のさらに下の「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」で決定されている。「小委員会」などで重要事項の決定を許せば、賠償費、核燃料デブリの取り出し費用や放射性廃棄物の処分場等々、今後の電力料金は5倍にも10倍にもと青天井になってしまう。(参照:『週刊朝日』:2016.12.23)
 
5 『ベースロード電源』としての石炭火力潰し
 基本計画では原発とともに石炭火力を『ベースロード電源』と位置づけ、「化石燃料の効率的・安定的な利用」を図るとしている。特に次世代火力発電(IGCC)の実用化などを目指すとしている。しかし、この方針は環境省の石炭火力への対応とは相反する。「石炭火力中部電力(名古屋市)が老朽化した石油火力発電所を石炭火力へと置き換える計画を進めている武豊(たけとよ)火力発電所(愛知県武豊町、107万キロワット)の認可を求める環境影響評価(アセスメント)結果について、山本公一環境相が地球温暖化対策の観点から計画の見直しを求める意見書を近く世耕弘成経済産業相へ提出する方向で調整に入った。石炭火力は石油や天然ガスなど他の化石燃料に比べても二酸化炭素(CO2)の排出量が多いとされ、環境省は以前から懸念を示してきた。武豊火力を巡っては環境アセス実施前の2015年8月にも、当時の望月義夫環境相が『現段階で是認できない』と表明。武豊火力、丸紅や関西電力などが出資する秋田港発電所(秋田市)など、計画されている5件について「是認できない」との意見を表明し、市原火力発電所(千葉県市原市)はその後、計画中止になった。」(毎日:2017.7.26)
 こうした環境省の姿勢は、石炭火力を容認する経産省と対立する、「両省は昨年2月、電力業界の自主的な排出削減の取り組みを促すことなどで合意。以後、環境省は『是認できない』との意見表明を見合わせていた。しかし、昨年11月にパリ協定が発効し、欧州などで脱石炭の動きが加速する中、山本環境相は今年3月、JFEスチールと中国電力が建設を表明した蘇我火力発電所(千葉市中央区)計画に対し、事業実施の『再検討』を促す意見書を経産相へ提出。今月の毎日新聞のインタビューでも、国内での石炭火力計画に対し『見識を疑う』と事業者の姿勢を強く批判していた。」(毎日同上)
 石炭火力が他の火力と比較して圧倒的に安いということから、電力への新規参入組である製油会社や鉄鋼メーカー、他地区の電力会社が経営のもう一つの柱として競って建設計画を立てている。環境省の介入は地球温暖化問題という“大義名分”を錦の御旗にしているが、内実は「ベースロード電源としての石炭火力」潰し=原発再稼働への援護射撃への意味が大きい。石炭火力を潰せば自ずと原発の再稼働が浮上してくる。しかも、現在電力は、ガス会社や石油会社などと電力自由化を巡って熾烈なシェア争いを行っている。電力会社の経営体力を維持し、再稼働に備える意味もある。環境省の役割を名前だけで判断してはならない。福島の放射能除染の実態などから判断すれば「環境破壊省」という名称こそふさわしい。他に利権の少ない環境省は原発利権省と化している。
 既にロシアからの原油輸入は10%にもなる。サハリンと海底ガスパイプラインで結んだらどうか。電力もロシアから引ける。基本計画を議論するとはそのようなことである。

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