アサート No.477(2017年8月26日)

【投稿】緊張煽るトランプ・金正恩・安倍3政権--統一戦線論(39)--

<<「あっという間に戦争へとエスカレートする」>>
 8/21から始まる米韓合同軍事演習を間近に控え、トランプ・金正恩、米・朝両政権の“口撃”、刺激的な“毒舌戦争”は、危険極まりない一触即発の瀬戸際にまで追いやるものであった。たとえそれが「脅し文句の応酬」に過ぎなかったとしても、偶発的な衝突や瞬間的な判断ミスから衝突が現実化した場合には、一挙に壊滅的で取り返しのつかない核戦争につながるものであった。
 口火が切られたのは、8月8日。トランプ大統領が突然、北朝鮮が核開発と米国への威嚇を続けるなら「世界史に類をみない“炎と怒り”で報いを受けるだろう」と発言。発言が報じられてから2時間半後の8/9午前6時42分、金正恩政権は国営の朝鮮中央通信を通じ、人民軍総参謀部報道官声明、戦略軍報道官声明という2件の声明を同時に発表し、グアム近海に中距離弾道ミサイルを発射すると発表。さらに10日には、その中距離弾道ミサイルが「火星12」であること、4発を同時に発射し、日本の中四国4県の上空を通過させグアム沖30〜40キロの海上に着弾するなどという具体的な計画を明らかにした。さらに総参謀部声明は「米国の先制攻撃の企みが明らかになれば、直ちにソウルを含む傀儡(韓国軍を指す)第1、3野戦軍地域のあらゆる対象を火の海にし、南半部の前線から後方まで同時攻撃するとともに、太平洋作戦戦区の米帝侵略軍発進基地(在日米軍基地とグアム島を含む)を制圧する全面的な攻撃につながるだろう」と指摘した。ソウルは言うに及ばず、日本全土の在日米軍基地への攻撃を前提とした、まさに一触即発の瀬戸際の事態である。
 トランプ大統領はこれに対して、8/9のツイッターへの投稿で、米国の核戦力は「いまだかつてないほど強力だ」と豪語するとともに、「この戦力を一切使わなくてすむよう願っているが、われわれが今後、世界で最も強力な国でなくなることは、いっときたりともない!」と書き込んで応えている。米NBCテレビは8/9、国防総省が北朝鮮に対する先制軍事攻撃の選択肢の一つとして、米空軍のB1戦略爆撃機による北朝鮮の弾道ミサイル発射基地などに対する精密爆撃を実行する準備を整えたと報道。空爆には米領グアムのアンダーセン空軍基地に配備されているB1爆撃機を使用。戦闘機による護衛と電子戦機や空中給油機の支援の下、北朝鮮国内にある約24カ所のミサイル基地や実験場、関連施設などを攻撃するとし、トランプ大統領による命令があれば、いつでも実行できる状態にあるとしている。すでに米空軍は5月末から8月8日にかけて、B1爆撃機をグアムから朝鮮半島上空などに飛ばす予行演習を計11回にわたって実施しており、うち数回は航空自衛隊と韓国空軍の戦闘機がB1を護衛する共同訓練も行っている。
 マティス米国防長官は8/14、北朝鮮がグアムを含む米国領土をミサイルで攻撃すれば、「あっという間に戦争へとエスカレートする可能性がある。そう、これを戦争と呼ぶ」と発言。「彼らが米国を攻撃する事態を私は想定しているが、彼らが米国に向けて撃てば、『交戦開始』だ」と語っている。

<<「非常に賢明で理性的な決断」>>
 事態は一触即発であったが、8/17、ティラーソン米国務長官は、マティス国防長官との共同名義でマスコミに寄稿した8/13の、北朝鮮との対話意志表明は、「トランプ大統領の承認を得た」ものであることを明らかにした。これに応じるかのように、金正恩氏は8/14、「軍事衝突を防ぐなら、米国が先に正しい選択をして行動で見せなければならない」と主張しつつも、「米国の様子をもう少し見守る」と述べ、衝突を回避することを模索する考えを明らかにした。8/15、国営の朝鮮中央通信(KCNA)は、「グアム包囲射撃計画」について、金正恩氏が計画の実施を延期して、「ヤンキー(米国人)どもの馬鹿で間抜けな行動をもう少し見守る」ことにし、米国がさらなる「向こう見ずな行動」を犯さなければ作戦は進めないと決定したと報道。
 そしてティラーソン米国務長官も8/15、「北朝鮮との対話に到達する方法を見つけることに関心を注ぎ続けている」としながらも、同時に北朝鮮が「先に変化を行動で示すよう」求めた。
 8/16、トランプ氏は、金正恩朝鮮労働党委員長が米領グアム周辺への中距離弾道ミサイルの発射を見合わせたことを受け、「北朝鮮の金正恩氏は、非常に賢明で理性的な決断をした。別の選択肢は、破滅的で容認できないものだっただろう!」とツィートした。
 さらに、8/21から始まる韓米連合演習に参加する米軍兵力が、昨年2万5000人から今年1万7500人に事実上訓練規模を縮小調整したと解釈されている。
 かくして米朝の動きだけを見れば、人騒がせで危険極まりないものであるが、とにもかくにも一触即発の事態だけは回避されたかのようである。両者トップのトランプ・金正恩両氏は、ともによく似た、「賢明で理性的な」判断とは程遠い、自分以外を見下す、冷静さを欠いた、怒髪天を衝く直情径行・暴走型の人物である。今後も何が起こりうるか、予測不可能な両者である。
 しかしこの一触即発の危機をいったんは回避させたものは、米国内を含む全世界の核戦争勃発への巨大な懸念と反発、「戦争ではなく、対話を」要求する人々の圧倒的な声と行動であった。
 とりわけ、文在寅・韓国大統領の発言は、痛切かつ重いものであった。文氏は8/14の定例会議で「朝鮮半島で二度と戦争が起きてはならない。どのような起伏があっても、北朝鮮の核問題は平和的に解決する必要がある」と発言。「米国もわれわれ同様、落ち着いて責任ある形で現状に対応すると信じている」、「朝鮮半島での軍事行動は、大韓民国だけが決定することができ、誰も大韓民国の同意なしに軍事行動を決定できない。 政府はすべてをかけて戦争だけは防ぐ」と述べ、北朝鮮に対しては「私たちは北朝鮮の崩壊を望まない。統一は民族共同体の全員が合意する"平和的、民主的"方法で行われなければならない。」と、米国に追随するものではない、明確な姿勢を示した。

<<“日本の存立危機事態”>>
 米朝間の挑発合戦・エスカレートを危惧し、ドイツのメルケル首相も「米国と北朝鮮の対立に軍事的な解決策はない」「ドイツは軍事的でない解決策に積極的に関与する」と表明するなど、中国、ロシアはもちろん、主要国の首脳はこぞって米国に自制を求め、平和的解決と対話への努力を求めている。ところが、逆に安倍首相は、「対話のための対話はなんの解決にもつながらない」などと放言し、トランプの先制攻撃論を支持し、すでに“炎と怒り”のトランプ発言に先立つ7月末の段階から、「(北朝鮮への対応については)私たちもさらなる行動をとっていかなければならないとの認識でトランプ大統領と完全に一致した」と、自制を求めるどころか、むしろ危機を煽り、エスカレートを支持し、後押ししていたのである。
 さらに、“炎と怒り”に対する「グアム包囲射撃計画」が報道されるや、8/15の日米電話首脳会談では、米朝間の応酬で安倍首相はトランプ米大統領を全面的に支持し、現段階での対北対話までをも拒否する姿勢を鮮明にしたのである。
 問題は、それにとどまらない。グアムへのミサイル発射を“日本の存立危機事態”だとして、小野寺防衛相は「(グアムが攻撃を受けて)米側の抑止力・打撃力が欠如することは、日本の存立の危機に当たる可能性がないとは言えない」と発言、米国が攻撃されれば、日本の存立の危機に当たり、集団的自衛権を行使でき、共に報復戦争に参加できるという論理を前面に持ち出したのである。
 8/17に開かれた日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)には、河野太郎外相と小野寺防衛相、米国のティラーソン国務長官、マティス国防長官が出席したが、軍事の言葉が躍るばかりで、外交の姿が全く消えてしまっている。共同文書では、日本は同盟強化の役割を拡大することが盛り込まれ、次期中期防衛力整備計画で、北朝鮮の弾道ミサイルを打ち落とす地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」など新たな防衛装備品を米国から購入すること、などを確認、約束している。
 同委員会で確認された主なものは、地上配備型イージスシステム「イージス・アショア」を2基導入(1基約800億円)、計画を前倒しして今年度中にイージス艦を4隻から5隻態勢に(1隻約900億円)、自衛隊初の宇宙部隊を航空自衛隊に設置、米軍と共同で宇宙空間の監視ネットワークを強化、ステルス戦闘機を探知するレーダー開発に日米共同で着手など、膨大な費用がかかる一大軍事費拡大計画である。トランプ政権と安倍政権が危機を煽り、さかんに緊張を激化させる狙い、その落としどころは、やはりここにあったとも言えよう。

<<「NO WAR」>>
 トランプ政権と安倍政権、ともに今や支持率最低にあえぐ落ち目の政権である。米朝間の緊張激化を共に煽り、軍拡で事態を打開しようとする両者のさもしい魂胆が見え透いている。とりわけ、支持率と求心力の低下で、うわべだけの低姿勢に転換はしたものの、先が見通せず、最大のピンチに陥っている安倍政権にとって、北朝鮮有事は願ってもないチャンスである。ミサイル飛来の脅しを利用した“日本の存立危機事態”で、やっかいな森友・加計疑惑を吹き飛ばし、政権浮揚の最大のチャンスとしたいのである。しかし、その路線を突き進むことは、戦争が不可避となるばかりか、核戦争に直結し、アジアばかりか、全世界に致命的で悲惨な事態を招くことが歴然としている。
 8月10日、トランプの“炎と怒り”発言の翌日、米ホワイトハウスの前で緊急の反戦集会が開催された。スローガンは単純、明快である。「NO WAR」、「Negotiate, don't Escalate」、「戦争ノー」「交渉せよ、エスカレートするな」であった。
 戦争への道は、ファシズムと軍国主義、権威主義と独裁主義、暴力と抑圧、差別を必然的に伴う道でもある。それはまさに、日本の、世界の平和と民主主義、自治と共存にとっての“存立危機事態”でもある。こんな“存立危機事態”を許さない、野党共闘、統一戦線をしっかりと構築することが望まれる。政治的立場、思想、信条の違いを超えた、一党一派に偏さない、運動の組織と推進のあらゆる側面における根本的、参加的民主主義、非暴力主義を徹底させた、開放的で、柔軟で、多様な政治的エネルギーをあふれさせる統一戦線の構築である。
(生駒 敬)

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