アサート No.478(2017年9月23日)

【投稿】「1万円札を廃止せよ!」「預金のための金利を払え!」と迫る国際金融資本
                                   福井 杉本達也 

1 「1万円札を廃止せよ」
 8月1日、日本経済新聞にケネス・ロゴフ:ハーバード大教授の「日本は1万円札を廃止せよ」という記事が掲載された。ロゴフは「日本にはまず1万円札と5千円札を廃止することを提案したい」と切り出した。高額紙幣廃止の理由について「マネーロンダリングや脱税、収賄など犯罪行為で高額紙幣が果たす役割も大きく、現金の闇を取り除くべきだ」とし、「高額紙幣を廃止して現金取引を電子決済などに置き換えれば、銀行口座などからマネーのやりとりを捕捉できるようになり、脱税の機会は大きく減る」という。
 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、2016年2月、犯罪に使われるケースが多いことを理由に、500ユーロ紙幣の廃止を検討していることを明らかにした。 またサマーズ米元財務長官も、犯罪での使用を理由に、新たな100ドル紙幣の発行停止を呼びかけた。 麻薬取引からマネーロンダリング、脱税などに利用されるとして、高額紙幣を廃止するという胡散臭い議論が世界的に高まっている。
 現金流通額は、北欧で低い一方、アジア諸国では比較的高い。スウェーデンのストックホルムの街中で雑誌を販売するホームレスは電子決済で代金を受け取っているほどである(加藤出『ダイヤモンド』2016.1.16)。突出して高いのが日本であるが、キャッシュレスがどの国でも急速に進んでいると考えるのは、誤りである。多くの国で、現金の利用は、依然として経済規模対比で増加を続けている。それに大きく寄与しているのが高額紙幣、という点である。(元日銀審議委員:木内登英「日本での高額紙幣廃止論」2017.8.2)

2 現金を持っていなければ、我々には何もない
 現金が増え続けている日本でも電子マネーによる支払いは急速に増えている。多くの人がSuicaなどの電子マネーを利用する。現金がなくなれば、ATMは不要になり、スーパーや飲食店での支払いは、クレジットカードやデビットカード、スマホや電子マネーだけになり、店のレジの中からお金は消え、お釣りを計算する必要もなくなる。しかし、現金を持っていなければ、プライバシーもない。我々に残るものは何もない。
 「1万円札の廃止」論は、非常にあいまいな論争であるが、これは我々に対する国際金融資本による対現金戦争であり、そのためのプロパガンダである。もし、完全なデジタル銀行預金を支持して、現金完全撤廃というプロパガンダを鵜呑みにするほど我々が愚かであれば、わずかに残された自主性とプライバシーにお別れを告げるも同然となりかねない。現金の代わりに、我々はデジタル銀行クレジットを使うよう強制される。違いは一見ごくわずかなように見えようが、実は極めて大きい(F. William Engdahl「マスコミに載らない海外記事」2017.9.5)。

3 高額紙幣を廃止したインドで起こったこと
 2016年11月8日夜8時、インドのモディ首相は、米国にそそのかされて、突然500ルピー (8ドル相当)と1,000ルピー(16ドル相当)紙幣の強制排除を発表した。それも、わずか4時間で効力を停止するという強権的なものであった。モディ政権は、闇経済を縮小し、違法な活動やテロに資金供給するための違法な偽札を取り締まることができると主張したが、大規模な不正所得は全く発見されず、テロへの資金提供には何の効果もなかった。インドで不正に蓄財された資産の保有形態としては、現金はわずか6%でしかなく、株式や不動産、宝石などを他者の名義で購入していたケースが圧倒的だという。この政策は人々の生活にすさまじい大混乱をもたらした。貧しい人々ほど窮地に陥った。銀行に口座を持たない人がインドには54%もいた。その人々は蓄えを現金で持っていたが、それが市中では突然、無価値になってしまった。商店での決済はほとんど現金で行われている現状では必要な購入資金を手にできない結果、消費量が落ちた。バイクのような金額のものでは圧倒的に現金決済であったが、22%も販売が低下した。ホンダの二輪車生産は33%減となった(日経:2017.1.11)。現金に依存している何千もの小企業が倒産したため、4月の工業生産は、衝撃的に前月比10.3パーセントも減少した。対現金戦争の後、インド国民は、お金の支払い方を決める個人的自由を永遠に失うことになった。その後、新2000ルピー札が印刷され多少混乱も収まってきたが、国民もろとも国際金融資本による貨幣廃止の壮大な実験場にされたのである。インド国民はとんでもない政府を持ったものである。

4 マイナス金利政策の強化
 黒田日銀によって進められているマイナス金利は、銀行が事業を行う経費を上げる。既にゼロ預金金利なので、銀行は貸出金利を上げざるを得ない。しかし、金余りのため、顧客に転嫁できなければ、マイナス金利は銀行に課されるものになる。金融庁の発表では、マイナス金利による運用難のため、公的資金を投入した福井県の福邦銀行などの地銀の経営が苦しくなっているとしている(日経:2017.9.5)。貸付金の元本が返済できないような要注意の危ない企業には4%もの高金利で貸し付けており、これが銀行経費の大部分の収入源となっているが、優良企業にはわずか0.5%の金利で貸し付けている。これでは経営が持たないことは明らかである。
 昔の教科書では、金利はマイナスにならないとしていたが、それは現金があるということが前提であった。預貯金にマイナス金利が適用されるようになれば、多くの人が引き出して現金で保有しようとするため、効果は小さくなってしまう。しかし、現金がなくなってしまえば、それはできない。ドイツ産業連盟のハンス・ヘンケル元会長は「ECBは、いずれ個人や企業の預金にもマイナス金利を導入しようとするだろう。現金支払いの制限は、監視国家への入口だ。市民は、現金を持っていれば、マイナス金利による損失を防ぐことができる。だが、もし現金支払いに制約が設けられた場合、市民は銀行に預金するために金利を払うことを迫られる。これは市民の財産の没収に等しい。資産を現金で保有することは、この財産没収を免れるための唯一の道だ」と述べている(熊谷徹『エコノミスト』2016.3.8)。
 ケネス・ロゴフの現金廃止論の目的は、米国がマイナス金利政策に追い込まれた時の準備にある。ロゴフは「現金を廃止してマネーを電子化すれば、簡単にマイナス金利を付けることができる。マイナス幅は4%程度まで可能になる」(日経:同上)とまで述べている。 資本主義は資本の増殖にあるが、マイナス金利とは資本がついに増殖できなくなったことを意味する。「資本主義の終焉」である(水野和夫)。EU・日本ではマイナス金利になっているが、まだ米国では若干のプラスであり、米国に資金が還流している。もし、米国債が暴落すれば、資金は還流しなくなる。米国の破産は目前に迫っている。
 日本では、現金の残高は、金融緩和が強化され出した90年代末ごろから急速に上昇を続けており、2割近くに達している。日本で現金(日本銀行券と硬貨の合計)需要が高い背景には、@現金決済を好む国民性があること、A90年代末には銀行不安を背景に銀行預金から現金へと資金をシフトさせ、その後もその現金が手元で保有される傾向が続いてきたこと、B長期化する低金利のもとで銀行預金を保有するインセンティブが低下したこと、C他国と比べて治安が良いため、現金を持ち運ぶことの不安が比較的小さいこと、Dどのような地域でも現金が不足する事態が生じにくいこと、E紙幣のクリーン度が高いこと(木内登英 同上)などの理由が挙げられる。

5 我々の財産没収への第一歩
 マイナス金利政策が続いて拡大するかどうか、さらに現金の持ち運びを難しくさせ、流動性を悪くする試みが成功するかは定かではない。
 しかしそれを同時に行うなら、これまで基本となる伝統的に安全資産だった現金の保有に対しペナルティーを支払うこととなる。現金廃止論から身を守るために、代わりとなるような安全な資産運用先はない。現金がもつ従来の価値は2つある。1つ目は、自国通貨として額面通りの価値が維持されるはずであること。2つ目、機会があれば、他の資産に変えられるというオプション価値を備えていることだ。
 みずほ証券の上野泰也は「必死に稼いで蓄積した国民の資産に、合理的かつ説得的な理由がないまま政府が強引に圧力を加えると、社会が大きく混乱する上に、財産権侵害だとして訴訟が頻発するだろう」と指摘する。
 我々の現金を強制的にデジタル化させるのは、またリーマンショックのような大規模金融危機が発生した場合、強制的にかつ効率的に我々の財産を没収するための仕組みである。現金使用を止めさせ、金融資産全てを国家が管理する銀行にデジタル預金するように強いることで、政府が次の緊急事態を宣言した際、そうした資産を国家が没収する舞台が用意される。現金に対する戦争の隠された狙いは、EU加盟諸国においてであれ、アメリカ合州国であれ、インドのような発展途上国であれ、次の不可避の金融危機時に、我々のお金を没収することである。現金を廃止された場合、金や宝石・絵画や現物資産に投資することなどの回避策をとることはできない。我々に残されたわずかな経済上の自主性も失うこととなる(「マスコミに載らない海外記事」同上)。

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