アサート No.480(2017年11月25日)

【投稿】 「ルールは変わった」
  --占領軍最高司令官として振る舞ったトランプとアジアで孤立する日本--
                             福井 杉本達也

1 占領軍最高司令官として横田基地に降り立ったトランプ米大統領
 トランプ氏は訪日する直前にハワイに立ち寄り、「Thank you to our GREAT Military/Veterans and @PacificCommand. Remember #PearlHarbor. Remember the @USSArizona! A day I’ll never forget.」(リメンバー・パールハーバー)とツイートした。その足でダグラス・マッカーサーの厚木基地への日本占領軍最高司令官の真似をするかのように横田基地に降り立った。かつて米大統領の訪日で、日本国の“表玄関”である羽田空港を使わず、裏口の横田を使った例はいない(東京新聞・天野直人:2017.11.8)。当然、日米地位協定により横田は米軍の管轄下にあり、いかに、国賓級の扱いとはいえ日本の首相が出迎えるわけにはいかない。そこから埼玉県のゴルフ場まで米軍ヘリで飛び、ゴルフ場で安倍首相はトランプ大統領を迎えるという全くもって異常な出迎えとなった。その後、首相はゴルフ場でバンカーに転げ落ちたがトランプ大統領には見向きもされなかった。パットを大きく外した時は「もっとうまくなれ」とばかりにボールを投げ返されるなど散々な目にあうのであるが、これが、現在の日本の「属国」の地位を示している。ゴルフ場から首都のど真ん中にある米軍六本木へリポートまでもヘリで飛び、米大使館横のホテルオークラまで移動した。これまでの米大統領は曲がりなりにも「属国」を対等な「国」であるかのように扱ってきたが、トランプ氏にはその片鱗もない。この「非礼」な行為を何の疑問を持たずに歓迎報道を垂れ流すマスコミもマスコミなら、抗議すらしない野党も野党である。「日本を取り戻す」ではなく、「日本を売り渡す」行為である。

2 トランプ訪日を『パラダイス文書』で“歓迎”した朝日新聞
 11月6日の各紙がトランプ大統領を歓迎する記事一色だったのに対し、朝日新聞の一面トップは「米長官、ロシア企業から利益」という見出しで、タックスヘイブンの島であるバミューダ島にある『パラダイス文書』から発掘したトランプ政権:ロス商務長官によるロシア疑惑で“歓迎”した。ご丁寧にも関連記事を7面にわたって掲載した。ネタ元の朝日・共同・NHKも加入する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)を「ワシントンンに本拠を置く非営利の報道機関」と紹介するが、米CPI(The Center for Public Integrity)が本体の組織である。CPIは反トランプの大富豪:ジョージ・ソロスから多額の資金提供を受けている(Wikipedia)。
 トランプ氏はこの1年「ロシア疑惑」として、民主党、マスコミ、議会から叩かれているが何の証拠もない。ロシアとの接近を嫌う軍産複合体からの牽制に苦しめられているのである。

3 北朝鮮危機を煽りに煽り、結局高い米国製兵器を買わされる安倍
 トランプ氏は安倍首相との会談終了後、米メディアの質問に答え「米国製の防衛装備品をたくさん追加購入したら簡単に迎撃できる」とし、米装備品の性能は「世界トップクラス」であり、「首相は大量に購入すべきだ」とし、続けて「そういう購入、調達などによって、米国の雇用創出もできる」と語った(日経:2017.11.7)。要するに、トランプ氏は「蜜月の日米同盟」どころか「米国第一の日米同盟」で、赤子の手をひねるように日本に金を出させようとしている。10日の日経では早速、陸上型の弾道ミサイル迎撃用のイージス・アショアを2基購入するという報道がなされた。さすがの日経も「MD強化に伴う財政負担も深刻だ。イージス・アショア1基あたり約800億円で、2基でも計1,600億円かかる。…政府内には『今後さらに負担が増える可能性が高い』」と書かざるを得なかった(11.10)。 「日本政府が米政府との直接契約で装備品を調達する有償軍事援助 (FMS)のための2017年度予算額は3596億円。5年前の2・6倍」にもなっている(日経:10.11)。米国はカナダ・メキシコを巡るNAFTA再交渉で手いっぱいで、日米の貿易不均衡問題については突っ込んだ話はしなかったが、日本の通商担当者は「現政権は赤字削減しか興味がなく、FTAだろうが輸出制限だろうがグ“HOW”は間わないということ」(日経:111.15)だと話した。
11月13日、ロス商務長官は、日米の経済関係者らを前にしたワシントンでの講演で「『自動車は米国の貿易赤字の重要な部分を占める』と指摘し、日本の自動車メーカーに対し、完成車や部品の米国での生産を強化し日本やメキシコからの対米輸出を減らすよう求めた。」(共同=福井:2017.11.15)。トランプ氏の“メキシコ国境の壁”の本音がNAFTAにあることが明らかになりつつあるが、次回以降、米とメキシコなどとのNAFTAの交渉の推移を横目に見つつ、厳しい貿易交渉が待っている。

4 したたかな中国
 中国は、今回の米中首脳会談でトランプ大統領を「国賓以上」の厚遇でもてなすとともに、28兆円におよぶ見せ金を積んだ貿易協定締結のセレモニーを準備した。トランプ氏は「米中の企業経営者らの前で『今の貿易不均衡で中国に責任はない』とした。そのうえで『不均衡の拡大を防げとなった過去の政権を責めるべきだ』と述べ、オバマ前政権などに原因があるとの見方を示した。中国は巨額の商談を示すことでトランプ氏の攻勢を封じた」(日経:10.14)。中国の強い姿勢の裏には、米国企業は収益の半分以上を中国で稼いでおり、また、中国が米国債の世界最大保有者でもあり財政的に米経済を支えており、中国と友好関係を失うことなどできないことがある。

5 中国・米国の狭間でもがきつつも、したたかに交渉をする貿易立国・韓国
 トランプ氏が北朝鮮を攻撃すればソウルは火の海となる。米国が戦争を始めれば大損害を被るのは脅しを受けている北朝鮮よりも韓国である。韓国は米国からNAFTA交渉の切り札として米韓FTA改定を迫られており、これを乗り切るため、米兵器の大量購入を決めた。これに対しトランプ大統領は「韓国側が数十億ドルに達する装備を注文すると言った」としたうえで、「韓国にも十分そうすべき理由があり、米国でも多くの雇用を創出できる部分だと思う」と述べた。またトランプ氏は平沢のキャンプ・ハンフリー米軍基地造成に韓国が1兆2千億円の総工費の92%も負担をしたという記者の質問に「韓国を保護するために支出したことであり、米国を保護するためにしたことではない」と正面から応じた。これは、トランプ氏を始め米国保守派の認識であり、属国として守ってやっているという意識である。
 しかし、韓国もしたたかではある。トランプ氏の訪問の直前に、中国との間で韓国への迎撃ミサイルTHAAD配備に対する中国側の経済制裁をTHAADはこれで凍結するとして、解除する約束を取り付けた。韓国はこの経済制裁大打撃を受けており、韓国ロッテは1,200億円の損失、現代自動車の今年の中国での売上げは40%減という壊滅的打撃を受けている。

6 アジアから撤退するトランプと中国包囲網の完全なる破綻
 安倍は米国がTPPに戻ってくるようTPP11を何としてもまとめようと必死である。この動きは米軍産複合体の後押しを受けている。トランプ政権下で干されたジャパンハンドラー:軍産複合体を代弁するアーミテージは「『一帯一路』をみても分かるように、中国は拡張的なインフラ計画を進めているが、軍民間用の狙いも透ける。不安定な状態が続く中央アジアなどで、中国を手に負えない存在にしてはならない。」とし、「米国の存在が地域の平和と安定に絶対に不旬欠だという認識をトランプ氏が持つことを願っている」(日経:2017.11.14 日経・米戦略国際問題研究所 (CSIS)アジアフォーラム2016.10.26)とし、日本を中国包囲網の尖兵とし、アジアの不安定化と軍産複合体のプレゼンスの確保に暗躍している。
 しかし、トランプ氏の関心は全くそこにはない。トランプ氏はアジア歴訪の最後を飾るはずの東アジア首脳会議を突然欠席して帰国する直前、「米国と貿易関係のある全ての国はルールが変わったことが分かるだろう」とツイートした。トランプ氏も安倍首相が提唱した「インド太平洋地域」という言葉を使ったが、中国を牽制し、国内の傀儡政権としての「権力の正当性」を維持するため、何としても米国をアジアに繋ぎ止めておきたい“子泣き爺”安倍首相と、「海洋帝国主義」としての役目から徐々に撤退したい、貿易関係にしか関心のないトランプ氏との落差は歴然としている。
 もちろん、政権発足後1年のトランプ政権の足場が固まったわけではない。軍産複合体・エスタブリッシュメントの代弁者であるヒラリー・クリントンや議会・マスコミによる「ロシア疑惑」追及も執拗であり、政権の高官ポスト3分の2以上はまだ軍産複合体に握られたままである。トランプ氏がダストベルトのホワイト・トラッシュ(White Trash:「クズ白人」という蔑称:the fogotten men and women)を本当に忘れてしまえば政権自体が乗っ取られる。あるいはJFKのような「暗殺」やウオーターゲートのような「クーデター」の可能性もある。しかし、11月10日、シリアでイスラム国の最後の拠点であったイラク国境の町:アブ・カマルが陥落したように、米国の力は確実に弱まっている。イランの原油も中国元での取引をする。CSISのハムレ所長は「中国の南シナ海などでの振る舞いで、アジアはこれまでになく米国の力を必要とするようになっている」とトランプ氏の行動に不満をぶちまけたが、「今回の歴訪が浮き彫りにしたのは逆行するような米大統領の姿だった。」(日経:11.15)米国がこのまま「海洋帝国主義」を維持し続けることはその経済力からいっても困難である。ASEAN首脳会議議長声明から中国への「懸念」の言葉はついになくなった(日経:11.17)。日本はアジアで完全に孤立した。しかし、72年間の洗脳の結果、孤立しているとの自覚さえない日本。「ルールは変わった」。アジアから米国の支配が徐々に後景に退いていく中、安倍“悪代官”政権の「権力の正当性」がいま揺らいでいる。

No480のTOPへ トップページに戻る