アサート No.481(2017年12月23日)

【投稿】 高裁段階で初―画期的な伊方原発運転差し止め決定
                            福井 杉本達也 

1 広島高裁で伊方原発運転差し止めの決定
 四国電力伊方原発3号機をめぐり、住民が求めた運転差し止め仮処分の抗告審で、広島高裁は12月13日、広島地裁の決定を覆し、運転を禁じる決定をした。高裁で初めてとなる画期的判断である。伊方原発から130キロ離れた阿蘇山など火山の影響を重視し、現在の科学的知見によれば「阿蘇山の活動可能性が十分小さいかどうかを判断できる証拠はない」とし、過去最大規模の噴火をした場合、火砕流の影響を受けないとはいえないと判断した。但し、差し止めを来年9月30日までと限定した。
 
2 「及び腰」の決定だが、官僚機構内でも広がる原発再稼働への疑念
 しかし、今回の高裁決定は、大規模地震のリスクについて、四国電力の想定は不十分とする住民側の主張を退けた。伊方原発は、中央構造線は活断層ではないとして、その存在を無視して建設された。本来設置が許可されてはならない原発が許可されてしまった。決定理由における、新規制基準は合理的であり,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的であるとした判断、特に地震についての判断は明らかな誤りである。弁護団声明でも「傍論とは言いながら,地震動に対する原発の安全性については,地震科学の不確実性を見誤って事業者の楽観的な主張を踏襲している点,地震本部の策定したいわゆるレシピを絶対視して不確実性を踏まえない点で,福島第一原発事故の教訓を活かしきれておらず,再び深刻な事態が生じかねない内容となっている点で極めて不当である。ただし,これらの点はあくまでも傍論であり,判例的価値は有しないと考える。」(弁護団声明(広島高裁決定を受けて)2017.12.13)としている。
 つまり、高裁決定は「及び腰」である。肝心な地震判断を避けた、正面突破ではなく「火山」という搦め手からの判決である。最高裁の事務総局に人事権限を握られている司法官僚の枠内での裁判官としては精一杯の抵抗とはいえよう。だが、1978年、伊方原発1号機設置許可処分の取り消しを求めた住民訴訟では、裁判を指揮していた裁判長の判決直前での強制入れ替えによって判決文を書き換え棄却判決を下した松山地裁での第1次伊方原発訴訟と比較すれば格段の進歩である。これまで全て門前払いであった高裁段階でも、原発の再稼働に対する疑念が高まっているといえる。さすがに、官僚機構においても国家・国土の完全消滅を招く原発事故災害の甚大さを正面から見据える動きが強まってきていると言える。

3 動揺する経産省と四電・九電
 高裁判決について経産省幹部は「あくまで司法の決定だ。規制委が認めた原発の再稼働を進める政府の方針に変わりはない」(福井:2017.12.14)とコメントしたが動揺は隠せない。四国電力の加藤敬三原子力本部付部長は「『原発の停止中は火方発電を使うため、燃料費に1ヶ月で35億円の損失が出る』と肩を落とした…全国の電力会社にも戸惑いが広がる。九州電力は再稼働を控えた玄海3、4号機(佐賀県)について、住民から運転差し止めの仮処分を申し立てられている。同社幹部は『想定外の判断に驚いている』と話す(福井:同上)。九電の瓜生社長12月15日、記者会見で「原発運転期間中に高裁が指摘したような噴火が起こる『確率は非常に低いと思っているし、確認のために火山の状況把握はしている』と説明。自社の原発に対する差し止め訴訟では『地下のマグマの状況など説明』を示して安全性を訴える」(日経:2017.12.16)とした。3.11の地震・津波を経験した今日、いまさら「確率論」を持ち出すとは思考停止も甚だしい。火山の「地下のマグマの状況」とはいったい何を指しているのか。「観測機器を増やすだけで予知が可能になるわけではない。マグマの通り道や地下のマグマだまりの位置など。火山の内部構造はほとんど未解明で謎だらけ。観測データがたくさん集まっても、どう解釈するかの知見が足りない…多くの火山学者は『いつどこで噴火する』といった予知には否定的だ」(日経:2015.10.3)。2014年の御嶽山噴火は戦後最大の火山災害となった。瓜生社長は「噴火の予知」などできるはずもない寝言を繰り返しているに過ぎない。先の経営見通しも持てない経営者は即刻辞任すべきである。

4 大飯3,4号の福井県知事の再稼働同意と唐突な関電の2か月延期
 福井県の西川知事は関西電力が再稼働を目指す大飯原発3、4号機について、11月27日、再稼働に同意する考えを表明した。同原発について規制委は今年5月、新規制基準に適合しているとするとの審査結果を示していた。西川知事は同意の判断条件として、使用済み核燃料の中間貯蔵施設の県外立地などを国に提示していたが、関電も世耕経産大臣もゼロ回答である。世耕大臣との面談で、国の積極的な関与の姿勢を確認し、同意の条件がそろった(産経:2017.11.27)としたが、中間貯蔵施設の「福井県外立地」について、関電は「7000回以上訪問した」とし、「来年中には具体的な計画地点を示す」と、「やりました」という投げ遣りな“結果報告”と甲子園の選手宣誓のように「来年への」“決意”述べただけで、「どこにも決まっていない」―というよりも、そのような危険な廃棄物の受け入れ先として今更手を上げる自治体があるはずはないことは明らかである。むしろ、関電高浜原発の地元音海地区自治会では、金属容器による空冷式の「乾式貯蔵」により地元(原発サイト内しかないであろう)保管を提案している(福井:11.28)。住民避難の具体的計画もないまま、電力交付金の増額などのカネで地域住民をはじめとする国土の安全を売り渡したのである。
 ところが、知事の再稼働同意からわずか3日後の11月30日、関電は大飯原発3、4号機の再稼働を2か月遅らせると発表した。理由は「神戸製鋼所の製品データ改ざん問題を受け、部品の調査に時間がかかる」(福井:2017.12.1)というものであるが、当然ながら、知事同意の時点で経産省・関電は2か月延期を決定していたといえる。知事は何の為に今年中の同意を急いだのか。経産省・関電のリップサービスで手玉に取られあげく、梯子を外されたといえる。

5 神戸製鋼所の製品データ改竄問題と大飯3,4号再稼働延期の関連性は怪しい
 神戸製鋼所の製品データ改竄問題と原発部品の関連はあるのであろうか。関電によると「新規制基準に対応するため新たに設置した大容量ポンプの分岐配管などの安全性確認」が遅れているため(福井:同上)というが、神戸製鋼で製造された部品は原子炉格納容器や一時冷却材配管、主要設備の溶接部、燃料棒の被覆管など何千点にも及ぶ。これらの部品について関電は改竄発覚後、この2か月間で安全性を確認したとしており、新規に設置したポンプ部品の確認が遅れているというが、取って付けた理由のように見える。そもそも、2004年8月に22年間も一切検査せず美浜3号機2次系大口径配管の破断で5名死亡・6名負傷の大事故を引き起こしたように徹底的に安全性無視できた関電が、部品の安全確認の為として1か月で35億円、2か月70億円もの利益をみすみす逃すような企業とは思えない。
 企業コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士は「このような『データ改ざん』は、日本の素材メーカー、部品メーカーの多くに潜在化している『カビ型不正』の問題であり、それらの殆どは、実質的な品質の問題や安全性とは無関係の『形式上の不正』に過ぎず、顧客に対して『データ書き替え』の事実と、真実のデータについて十分な情報を提供し、書き替えに至った理由や経過を正しく説明して品質への影響や安全性の確認を行うことができれば、もともと大きな問題にはなり得ない。」(HP「郷原信郎がきる」:2017.12.1)という。神戸製鋼側が、8月から顧客への説明を行っている最中に、経産省は「『できるだけ早い段階で会見で公表すべきだ』。9月28日に問題を把握すると神鋼に終始圧力をかけ続け…追い込まれた神鋼はついに発表を決断」(日経:2017.11.28)に追い込まれ、記者会見で公表せざるを得なくなった。「公表の時点で、神戸製鋼は、まだ顧客への説明の途中だった。3連休の中日である日曜日の午後に、突如記者会見を開いたことは、マスコミ側に、“ただちに対応が必要な緊急事態”との認識を与えるもので、公表のタイミングとしては最悪だった。」(郷原:同上)としている。
 とするならば、大飯3,4号機の再稼働2か月延期には別の理由がある。強欲の関電さえ従わざるを得ない相手とすれば、経産省から延期の圧力があったと考えざるを得ない。関電のみならず、九電も玄海原発の再稼働を延期しており、神戸製鋼のデータ改竄による部品の調査が真の理由とはさらに考えにくい。
 経産省は何らかの形で、広島高裁の決定を事前に知り得たのかもしれない。また、日頃は傲慢に「○○段階での判断であり、規制委の認定に基づき粛々と進める」というはずの菅官房長官が、13日の記者会見では、広島高裁の運転差し止め決定の「『判断を尊重する』との考えを示した。『当事者である事業者の対応を国も注視していきたい』」(日経:12.14)と殊勝にも語っていることも従来とは少し異なるところである。福井新聞紙上での経産省幹部のコメントとは明らかに異なる。官僚機構内での再稼働についての異論が出ている可能性もある。今後を注視していく必要がある。

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