アサート No.481(2017年12月23日)

【投稿】 サーロー節子さんの警告---統一戦線論(43)--- 

<<「トランプの危険な症状」>>
12/6、トランプ米大統領は突如、米歴代政権で初めて、イスラエルの首都はエルサレムだと宣言し、同時に、現在テルアビブにある米国の駐イスラエル大使館をエルサレムに移すと発表した。イスラエルを除いて、国際社会でこの決定を歓迎するのは皆無であり、パレスチナを始めとする中東各地で抗議デモが発生し、米国は世界各国から強い非難を浴びている。国連安全保障理事会は、エルサレムの地位をめぐる一方的な決定はいかなるものであれ法的効力を持たず、撤回されなければならないとする決議案が検討され、米国が拒否権を行使しても、安保理で採決される可能性が報道されている(12/17、AFP)。
 このトランプ大統領の決定がもたらす悪影響は計り知れない。国連は1947年、エルサレムを二分割し、西側をイスラエル、東側をパレスチナの首都とすることを決議したが、イスラエルは1967年の中東戦争以来、東エルサレムを占領し続け、1993年のオスロ合意で、いったんパレスチナ国家の創設を了承したにもかかわらず、難癖をつけて占領を継続、パレスチナ国家創設の国連決議が履行されていない。米議会は1995年に、イスラエルがオスロ合意でパレスチナ国家の創設を認めた見返りに大使館移転法を可決したのであるが、イスラエルがパレスチナ国家を認めない方向に転じたため、移転法は棚上げされてきた。また世界のすべての国が、エルサレムをイスラエルの首都と認めず、大使館をイスラエル最大の都市であるテルアビブに置いてきた。今回、トランプ大統領は、世界の諸国の中で初めて、国連決議の履行と関係なく、エルサレムをイスラエルの首都と認める愚行をあえて強行したのである。戦火拡大の火種、火薬庫に火をつける行為と言えよう。
 さらに問題なのは、この12/6に行われたトランプ大統領のイスラエルに関するスピーチで、ろれつが回らず言葉を誤って発音した後、彼の精神状態に対する疑念が広がり続けていることである。ホワイトハウス報道官サラ・ハッカビー・サンダースは翌12/7、高まる懸念を受けて、大統領は健康診断を受ける予定になっていると発表。
 現在米国でベストセラーとなっている『ドナルド・トランプの危険な症状:27人の精神科医とメンタルヘルス専門家が大統領を査定』(The Dangerous Case of Donald Trump: 27 Psychiatrists and Mental Health Experts Assess a President)を編集した、イェール大学医学部で教える司法精神医学者で、暴力の専門家として世界的に有名なバンディ・リー医師が、ニューヨークの独立放送局・DemocracyNow 2017/12/8に登場。「トランプ大統領についての深い懸念は何ですか?」との問いに、「多くの精神保健専門家が、大統領に懸念を抱いているという事実は、歴史的に前例のないことです。私たちの心配は、このレベルの精神的不安定性と障害を持つ人が、破壊的な戦争を開始し、核ミサイルを発動させ、発射される可能性があるということです。私たちがしていることは、誰かが正常範囲内で行動していない状況を警告することです。」まさに重大な警告である。

<<「尊大人様閣下」>>
 この危険極まりないトランプ大統領に、一貫して最大限の賛辞と支持を表明しているのが安倍首相である。安倍首相は、世界で唯一人、朝鮮半島をめぐる核戦争の危険な挑発行為に関しても「あらゆる手段で圧力を最大限度まで高めていくことで完全に一致した」とトランプ大統領との親密ぶりを誇る特異な存在である。
 マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官がNHKの取材(11/2)で「軍事行動をとると決定したら、日本に通知しますか」との質問に対して、「軍の指導者レベルの関係は極めて良好で、信頼できる盟友です。そして政治レベルでも、絶えず調整が行われています。そしてもちろんご存じのように、トランプ大統領は安倍総理大臣との間に極めて強い、緊密な関係を築いています。いつでも電話をかけられる関係で、頻繁に話をしています。」と答えている。
 この発言を受けて、11/29の参院予算委員会で、自民党の山本一太参院議員が「日本国民を守るために必要だと感じたときにトランプ大統領に『いまは攻撃を思いとどまってくれ』と助言することもありうる覚悟が総理にあるのかを聞きたい」と質問。しかし首相は答弁をはぐらかす。そこでさらに、「もう一度だけ、総理、お聞きしたい。言い方を変えますが、『日本の国益のためにアメリカの判断を、例えば、少し変えてくれ』と促すケースはありうるということでよろしいでしょうか」と再質問。これに対して安倍首相はその覚悟、助言には一切触れもせず、「いまはまさに『すべての選択肢がテーブルの上にある』というトランプ大統領の方針を私は一貫して支持をしています。そのなかにおける、あらゆる手段における最大限の圧力を我々はかけていかなければならないと考えているところでございます」としか答弁できない。軍事行動を勧めこそすれ、回避する気などさらさらないのである。ところが、山本氏は「ありがとうございます。ギリギリのところまで総理にご答弁をいただいたと思います」と感謝し、あまつさえ、「総理は各国首脳と比較してもトランプ大統領と突出した別格の関係を築いていると思います。首脳会談5回、電話会談17回、ゴルフも2回。…ある有識者が『総理は猛獣使いだ』と語る記事もありました」とまるでお追従そのものの受け答えである。
 12/1付朝日新聞・天声人語は「尊大人様閣下」と題して、この事態を徹底的に皮肉っている。「▼手紙や宴席ならまだしも、国会にはふさわしくない光景を見た。安倍晋三首相に対する自民党議員の質問である。「就任以来、首脳会談550回。ヨイショしているんじやないですが、日本の外交はいま力強い」。なるほど力強いヨイショである▼岸信介元首相を持ち出した議員は「おじい様は異次元の政策バッケージを作って成功した」とほめそやした。「私も後世そういう評価をされたい」。応じた首相も満足げだった▼与党質問の比率が増えすぎた結果だろう。政府の施策の問題点をわきに置いて、首相をほめていては国会審議とは言えまい。推す法案を長々と説明して「総理、応援していると言っていただけますか」「応援しております」というやり取りもあった。茶番である▼首相の在任期間はいまや桂、佐藤栄作、伊藤博文、吉田茂に続いて歴代5位に達した。あと2年続投すれば桂も超える。「安倍尊大人様閣下」。そんな呼びかけをする議員すら出かねない国会の惨状である。」

<<「悪の凡庸さに気づかなければなりません」>>
 その安倍首相が「北の脅威」を煽り立てて、トランプ大統領をヨイショ・迎合し、「日本は防衛装備の多くを米国から購入している。さらに購入することになる」と請け合ってトランプを大いに喜ばせ、ここぞとばかりに軍事費拡大に突っ走っている。
 11/22の参院本会議で安倍首相は、弾道ミサイル防衛(BMD)に対応するイージス艦を現行の4隻から平成32年度に倍増させる計画に関し「可能な限り前倒しする」と述べ、2020年を目標に「敵のミサイル攻撃阻止のため、防衛的、攻撃的能力をすべて包括的に結集させる」との方針を打ち出した。小野寺五典防衛相は、遠く離れた地上の目標や海上の艦船を戦闘機から攻撃できる長射程の巡航ミサイルを導入する方針を正式に表明。防衛省は2018年度予算案にその取得費など21億9000万円を追加要求。「攻撃的能力」などと平然と発言しても、問題にすらされない。これらは明らかに、自衛隊が本格的な敵基地攻撃・先制攻撃能力を保有するものであり、憲法はもちろん、従来の政府見解(自衛のための「必要最小限度の実力」)をも踏みにじる、これまでとは質的に異なる、先制攻撃も当然かのような安倍政権の軍事化が推し進められようとしているのである。
 問題は、こんな国会のデタラメ答弁、ヨイショやお追従質問、茶番、惨状の影で、軍事費拡大が当然のごとく推し進められ、同時に一触即発の危険な戦争挑発行為が仕掛けられ、日本をも必然的に巻き込む朝鮮半島をめぐる破壊的な核戦争の脅威が目前に迫っていることである。
 ところが、多くのマスメディアは、この事態をまるでそしらぬかのように無視し、警告さえ発していない。
 12/10、ノーベル平和賞授賞式で、広島で被爆し、ICAN(核兵器廃絶国際 キャンペーン)と共に活動してきたカナダ在住のサーロー節子さん(85)が被爆者として初めて受賞演説し、「人類と核兵器は共存できない。核兵器は必要悪ではなく絶対悪だ。」、核保有国と「核の傘」に頼る国々に「私たちの証言を聞き、警告に従いなさい。あなたたちは人類を危険にさらす暴力を構成する不可欠な要素だ」と感動的な訴えを行った。サーローさんは、「『核の傘』なるものの下で共犯者となっている国々の政府の皆さんに申し上げたい。私たちの証言を聞き、私たちの警告を心に留めなさい。そうすれば、必ずや、あなたたちは行動することになることを知るでしょう。あなたたちは皆、人類を危機にさらしている暴力システムに欠かせない一部分なのです。私たちは皆、悪の凡庸さに気づかなければなりません。」とも警告している。
 日本の統一戦線、野党共闘は、先の選挙の教訓から、それぞれの党や組織の自己拡大、セクト主義に専念するのではなく、この朝鮮半島をめぐる戦争の危機に対して、今こそ強大で広範な運動を提起し、反撃することが求められている。
(生駒 敬)

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