アサート No.481(2017年12月23日)

 【コラム】ひとりごと---5年ぶりの生活保護基準引き下げに思う--- 

○厚労省は、来年度に保護基準を改定し、大幅な引き下げを行うと報道されている。5年に1度の基準改定ということだが、5年前は現役の福祉事務所職員だったので、前回も大幅な引き下げにかなりの反響があったことを覚えている。○全国で、保護費の削減反対する訴訟が相次いだ。高齢保護者を直撃する内容で、寒冷地加算も引き下げられている。○今回の根拠とされているのは、一般的な貧困世帯における消費支出と比較して、現行支給される保護費が上回っているとのこと。○特に都市部の高齢単身者の生活扶助分において、現行8万円程度を7万3千円程度、最大で約10%の引き下げが検討されている。引き下げは全世帯に及び、40代の夫婦と中学・小学校生の4人世帯の生活扶助も3万円程度(13.7%)の引き下げになり、母子世帯も同様であるという。(保護費には、1類・2類の生活扶助と住宅扶助があり、現金支給される。医療・介護扶助は自己負担がないという形の現物支給である)ただ引き下げ実施に当たっては抵抗を和らげようと段階的な引き下げ案が検討されると言い、来春には具体案が提示されると思われる。○今回の基準引き下げについて、問題点をいくつか指摘しておきたい。まず第1は、引き下げ有りきの「議論」という点である。厚労省は、「社会保障審議会生活保護基準部会」を開催し、保護基準について「議論」してきており、議事資料も公開されている。がしかし、おそらく大きな流れは、生活保護受給者が高齢者を中心に増加し続け、さらに増加している「非正規労働者層」が、今後既存の年金制度から排除されて大量に生活保護を必要になるという想定から、保護費全体の抑制を準備したいという意図が見え隠れしている。○「社会保障費」が高齢化の進展により益々増加するという予測の中、生活保護費の抑制は厚労省の至上命題となっているのである。○第2は、安倍政権は2012年アベノミクス政策を開始し、すでに5年が経過している。安倍は異例の金融政策、規制緩和、成長戦略を実施してきたと「アベノミクスは順調に進展し、今後も加速させる」と先の衆議院選挙でも訴えている。○しかし、低位の所得水準にある国民の消費支出は、さらに低下していることが「保護費引き下げ」の根拠とされている。賃金も国民の所得も、消費支出も増えてはいない。○トリクルダウンも起こらず、大企業社員の賃金が若干上昇したと言っても、一般の国民は消費を控え、将来不安に怯えているのが実態であろう。それを捉えて、さらに「国民の最後のセーフティーネット」をさらに引き下げるというのだから、アベノミクスの破綻を証明していると言うことだ。総選挙を乗り切った安倍だが、早速弱者をターゲットに対立を煽る、これまでの路線は変わらないということだ。ネット上では、「保護受給者よ、甘えるな」という書き込みが増えている。○さらに保護費の引き下げは、同時に「最低生活費」の引き下げでもある。生活保護を申請する場合の基準額が下がるので、ボーダーラインが下がる。現状でも本来生活保護基準以下の所得にある国民の2割程度しか生活保護を受給していないと言われている。保護受給者数はそういう意味でも一層増え続けることになる。○第3には、保護基準の改定は、国会の議決を必要としない省令として発せられるため、国会での議論は回避されてしまうという点である。○団塊の世代の大量退職以後、世は人手不足。有効求人倍率の改善、最低賃金の上昇など、若干の雇用改善が進んでいるとは言え、非正規雇用が増加している基調に大きな変化はない。保護費の引き下げは、貧困の実態をさらに固定させる事に繋がるのだから絶対に反対である。○特別国会閉会後に打ち出された「2兆円で保育・幼稚園費用の無償化」も、母子世帯の保護費の削減に繋がる可能性が指摘されているという。○生活保護基準は、様々な福祉水準の基準にもなる。就学援助適用の基準も、奨学金などの支給基準にも影響を及ぼす。この引き下げがどんな影響をもたらすのか、国会や厚生労働委員会で野党側は「貧困問題」をどうするのか、という政策論争をしっかりと行い、反対の論陣を張る必要と思われる。(2017-12-18佐野)

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