アサート No.482(2018年1月27日)

【投稿】 内部抗争の続く米国と完全に行き詰った日本売国外交
                           福井 杉本達也  

1、米国第一主義で漂流する日本
 日経は「漂流する世界秩序」と題した社説を、1月3日・4日と掲げた。 「超大国の米国は自国第一主義を一段と鮮明にしており、盟主なき世界は求心力を失ったままだ」と評しながら、「日本は防衛の多くを在日米軍に依存するだけに、外交の軸足を日米同盟に置くしかないが、いざ有事のときに、気まぐれなトランプ氏がどこまで日本を守ろうとするのかはよくわからない。」と、日米同盟への不安を口にしつつ、「台頭する中国の勢いをそぐには、中国とロシアの聞にくさびを打ち込むなどして、新興国が日米欧に一枚岩で立ち向かってこないようにする必要がある」と東アジアで緊張状態を継続させロ中の分断を図ると宣言し、「 開放的な世界の経済秩序が崩れていくのか。それを防ぎ、秩序を再構築していく力がまさるのか。今年はその正念場になるだろう。」と結んでいるが、希望的観測と実際に日本の立ち位置で何が出来るかをごちゃまぜにし、いったいどこへ向かおうとするのか意味不明の、まさに「漂流する」日本の外交を表すものとなっている。

2 激しい内部抗争が続く米国
 トランプ政権発足後1年がたつにもかかわらず、米国の内部抗争が収まる気配はない。NYTなど米マスコミは「ロシア疑惑」というありもしない「フェイクニュース」を延々と1年間も垂れ流し続けている。ロシアに亡命した元CIA職員のスノーデン氏が明らかにしたように、NSAは米国を含む全世界のありとあらゆる電子メールを傍受・記録している。ロシアがハッキングしたなら、証拠をNSAは握っているはずだが、その証拠は出されていない。ないものは出せるはずがない。
 米軍産複合体・金融資本は2016年のアメリカ大統領選挙でヒラリー・クリントンを勝たせることに内定していたが、WikiLeaks(ウィキリークス)によるクリントンメールの暴露により形勢が逆転し、トランプ氏が当選してしまった。ウィキリークスの創始者アサンジ氏による膨大なメールの要約は@クリントン氏は支配層エリートのネットワークのなかで、歯車を動かす重要な歯の役割を果たしている。クリントン氏はゴードマン・サックスのような巨大銀行、ウォール街、エリート層、国務省、サウジアラビアなどを繋ぐさまざまな歯車を動かす役割にある。そうして、このネットワークに加わっている人たちがアメリカの支配層の代表である。A米国の同盟国である中東湾岸諸国は、主にサウジアラビアとカタール政府はテロ組織イスラム国を支援してきた。2014年のメールによると、この同じ2カ国はクリントン財団に献金の名目で資金を提供している。Bリビアはヒラリー・クリントン氏の戦争であった。クリントンメールの33,000通のうち1,700通以上はリビアに関するものである。カダフィー政権とリビアの転覆を国務長官の成果として、大統領選に優勢に立つことが目的であった。Cトランプ氏の当選は許されない。トランプ氏は支配層エリート体制のメンバーではない。(アサンジ氏インタビュー:ウイキリークスが伝えるクリントン氏の実像〜「支配層体制を動かす歯車の歯」・2016.11.7)。
 このことはトランプ氏陣営も重々分かっている事であり、米政権の内紛はトランプ氏が@軍産複合体の軍門に下るか、A弾劾により大統領職を追放されるか、B暗殺されるか しないかぎり延々と続くと予想される。

3 「世界秩序」から撤退する米国
 「米国第一主義」を掲げるトランプ政権は「世界秩序」という美名の下の世界支配から徐々に撤退しつつある。1991年12月にソ連が消滅したため、米軍産複合体はアメリカが唯一の超大国になったと誤認して、ウォルフォウィッツ国防次官を中心にウォルフォウィッツ・ドクトリンがつくられた。米英の支配層は民主主義を装うことなく、侵略戦争を公然とはじめた。西側の支配層を束ね、ロシアや中国にも大きな影響力を及ぼしていた。1995年2月にジョセフ・ナイ国防次官補は「ナイ・レポート」を作成、日本をアメリカの戦争へ体系に組み込む作業が本格化した。プランに基づいてユーゴスラビアを解体し東欧圏を支配し、イラク、アフガン、シリア、リビアなどを侵略し、破壊と殺戮を繰り広げたが、シリアでの戦争に失敗したことでアメリカの支配層内での対立が深刻化している。日本のマスコミは「米国第一主義」により、「世界秩序」が失われ、紛争が拡大すると騒ぐが、事実は逆である。「世界秩序」の維持という名目で、巨大な武力を背景に各国の内政に干渉してきた米国が独善主義から撤退することは紛争の種がなくなることである。

4 「一帯一路」の大胆な世界戦略を打ち出した中国
 米国が「世界秩序」から撤退する中、大胆な世界戦略を打ち出したのが中国である。陸路、特に鉄道で、中国・天津から内モンゴルを経由して、モンゴルに出て、シベリア鉄道でヨーロッパに出るルート。連雲港から西安・新疆ウイグルを経てカザフスタン、モスクワ・ヨーロッパへ至るルートや昆明からラオス(ビエンチャン)を経由してバンコク・シンガポールに抜ける東南アジア回廊など何本ものルートがある。日通は既に上海などからドイツ・ハンブルクなどへの自動車部品や電機部品などの鉄道輸送を計画している(日経・2018,1.10)。また、海上ルートとしてはマラッカ海峡を経由して、スリランカ(ハンバントタ)、パキスタン(グワダル)から紅海・地中海に入るルートなどがあげられる。これにロシアから中国への原油パイプライン・カザフスタンから新疆ウイグルへのガスパイプラインなどが含まれる。市場規模は45億人・全世界の6割を占める巨大経済圏が出現する。米ユーラシア・グループのイアン・ブレマは「他国への不干渉という原則だ。経済援助と引き換えに政治・経済改革を要求する欧米に慣れている他国の政府にとっては、魅力的だ。欧州の首脳が多くの問題を抱え、トランプ氏が「米国第一」主義の外交政策を掲げる中、欧米的な価値観に基づかない中国の経済や外交へのアプローチに対抗するものは何もない。」(日経・2018.1.19)と書く。

5 中国の「一帯一路」構想を阻止したい米軍産複合体
 マッキンダーは1900年代初頭、鉄道の整備などにより大陸国家の移動や物資の輸送などが容易となったことで、世界地図をユーラシア内陸部を中軸地帯(ハートランド) 、内側の三日月地帯 、外側の三日月地帯 に分け、「東ヨーロッパを支配するものがハートランドを支配し、ハートランドを支配するものが世界島(ワールド・アイランド)を支配し、世界島を支配するものが世界を支配する」と説いた。海洋国家が主導する欧米にとっては中国の提唱する「一帯一路」は悪夢の「ハートランド」の再現である。イランやイラクの原油がペルシャ湾を通過せずに、直接パイプラインで中国やインド・東南アジアに供給される。ロシアの原油が北朝鮮・韓国をパイプラインで通過して日本にもたらされる。あるいはシリア・トルコを経由してギリシャから直接ドイツ・フランスに供給される。
 これは、軍産複合体・金融資本にとっては「世界秩序」を揺るがすものであり、何としても阻止しなければならないことである。
 そのため、極東においては北朝鮮の核問題で緊張を煽り、南シナ海では「自由の航行作戦」を行い、アフガン作戦に協力しないとパキスタンを恫喝し、インドを中国の構想から離脱させようと中印国境での緊張状態を画策し、新疆ウイグルでの民族紛争を煽り、中東では「イスラム国」・「アルカイダ」などの傭兵勢力による攪乱を行い、ウクライナなどで極右勢力による騒乱を企画してきたが、あまりにも費用がかかり過ぎるため、その限界が見え始めた。その象徴がシリア・イラクでの「イスラム国」というCIA傭兵勢力の壊滅的打撃である。

6 平昌五輪で孤立する安倍政権
 1月9日の南北会談で、北朝鮮は平昌五輪への参加を表明し、マティス米国防長官は、オリンピックが行われる間は米韓年次合同軍事演習を延期するとし、トランプ氏は「私は、金正恩と良好な関係になれるだろう」とツイートした。この緊張緩和の動きに対し米軍産複合体は怒り心頭である。エドワード・ルトワック米CSIS戦略国際問題研究所シニア・アドバイザーはニューズウィーク日本版誌上で、「南北会談で油断するな『アメリカは手遅れになる前に北を空爆せよ』」とし、「ソウルの人口は1000万人にのぼる。米軍当局は、そのソウルが『火の海』になりかねないと言う。だがソウルの無防備さはアメリカが攻撃しない理由にはならない。ソウルが無防備なのは韓国の自業自得である」とまで言い切った。
 この軍産複合体の意向にべったりなのが安倍政権である。1月16日にカナダ・バンク―で開催された北朝鮮をめぐる20ヶ国外相会合において、河野外相は、「日本としては、他国にも北朝鮮との外交破棄に踏み切ることを期待する」と述べ、第三国の内政に露骨に干渉することを宣言した。いつから帝国主義国家になったのか。しかも、船舶検査=「臨検」に自衛隊も参加するとしたが、「臨検」とは戦争行為そのものである。
 同じ9日、韓国文政権は慰安婦問題に関する新方針を発表したが、安倍政権は、これは日韓合意に反するとして、平昌五輪に出席しない意向を示したが、ペンス米副大統領やマクロン仏大統領など各国首脳が集う中、東京五輪を控える隣国の首相が出席しないというのは外交的にあまりにも稚拙な行為であり、さすがに自民・公明の与党は国会日程を野党と調整してでも首相が出席すべきだとの意向を示している。上げた手さえ下せない、世界から完全に孤立した無様な姿勢だけが浮かび上がる。
 これに輪をかけたのが、安倍首相の東欧6ヶ国訪問である。訪問先のルーマニアには既に対ロシアに向けたイージス・アショアが配備されている。日本が配備しようとするイージス・アショアが北朝鮮ではなくどこに向けられているかは明らかである。ロシアのラブロフ外相は「米国が自国の兵器をどこかに配備した時に、その兵器の管理を配備された国に委ねたケースを我々は一つも知らない。」(Suptnik 2018.1.17)として、ロシアを攻撃の対象としているとの見解を示した。日本がミサイル防衛システムを稼働させれば、ロシアの核攻撃の対象となるということである。トランプ氏に梯子を外され、文大統領からは袖にされ、習近平氏には無視され、プーチン氏に脅され、完全に外交的に孤立した日本に出口はない。安倍政権の米軍産複合体一辺倒の売国政策も最終的な行き詰まりを迎えている。

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