アサート No.482(2018年1月27日)

【投稿】 再び問う、「慰安婦」問題・日韓合意と共産党---統一戦線論(44)--

<<欺瞞に満ちた「日本の返し技」と「裏合意」>>
 昨年末の12/27、韓国の康京和外交部長官直属の旧日本軍「慰安婦」被害者問題合意検討タスクフォースは、2年前に日韓外相が発表した「慰安婦」問題に関する「日韓合意」に至る協議の過程を調査した報告書を公表した。同報告書は、「被害者・国民中心でなく政府中心の合意」という結論を出した。また、合意文書に▼慰安婦被害者関連団体を説得する▼海外関連碑を支援しない▼性奴隷という表現を使わない−−などの非公開内容があったという事実も明らかにした。これを受けて11/28、文在寅大統領は「(慰安婦に関する)合意が両国首脳の追認を経た政府間の公式的約束という負担にもかかわらず、私は大統領として国民と共にこの合意で慰安婦問題は解決されないという点を改めてはっきりと明らかにする」と述べた。
 文大統領は「2015年の交渉は手続き的にも、内容的にも重大な欠陥があったことが確認された」と指摘し、「歴史問題の解決において確立された国際社会の普遍的原則に背くだけでなく、何よりも被害当事者と国民が排除された政治的合意だったという点で極めて遺憾」と述べ、合意の公式性は認めるが、しかし合意の瑕疵がこれを維持できないほど深刻だという認識を明らかにした。
 その報告書によると、合意の核になった「不可逆的」という言葉は、日本政府が「謝罪」を表明した後も日本の与党政治家などからそれを公然と覆す発言繰り返されたことを踏まえて、「謝罪の不可逆性」を強調するために、もともとは韓国側が先に言及したものであった。ところが、その表現が日本側の強い要求によって、「慰安婦」問題「解決の不可逆性」というものに一方的に捻じ曲げられてしまった。日本側はこの表現によって、「解決済み」として、今後一切「慰安婦」問題に関与しないし、韓国側も蒸し返さないという表現に反転させてしまったのである。これでは国内世論の反発は避けられないと判断した韓国外交部は、「不可逆的」の表現を削除することが必要だという意見を大統領府に伝えたが受け入れられなかったという(「『最終的かつ不可逆的』慰安婦合意の文言は日本の返し技だった」(韓国『ハンギョレ新聞』日本語版、2017年12月28日)。
 また、同報告書は、「日韓合意」には発表内容とは別に非公開の「裏合意」があったことをも明らかにした。具体的には、
@ (日本)韓国の市民団体「挺対協」が合意に不満を表明した場合、韓国政府が説得してほしい →(韓国)関連団体が意見表明を行った場合、政府として説得に努める、
A (日本)在韓日本大使館前の少女像を移転する韓国政府の計画を尋ねたい →(韓国)関連団体との協議を通して適切に解決されるよう努力する、
B (日本)第三国における「慰安婦」像の設置は適切でない →(韓国)韓国政府としてそのような動きは支援しない、
C (日本)韓国政府が今後、「性奴隷」という単語を使わないよう希望 →(韓国)公式名称は「日本軍慰安婦被害者問題」であることを再度、確認する、
というものだった。非公開を求めたのは日本側であった。
 その結果、報告書は、「裏合意」の存在およびその内容は「合意が被害者中心、国民中心ではなく、政府中心で行われたことを示している」と指摘した。
 『ハンギョレ』紙は、こうした裏合意は実質的には日本政府の言い分のほとんどすべてを韓国の朴槿恵前政権が受け入れたものと論評している。

<<日本側は「自発的かつ真の謝罪」を>>
 そもそも韓国政府に対して、非公開の秘密の裏合意を申し出ること自体、主権者と被害当事者を無視した、安倍政権の卑劣で強権的な帝国主義的な外交姿勢を露骨に示すものといえよう。
 しかもその内容が厚顔無恥、相手側に責任を転嫁する狡猾さは、安倍政権の本性をまざまざと示している。あらかじめ反発を予測して、韓国の市民団体「挺対協」など「支援団体」が合意に不満を表明した場合、韓国政府が説得せよ。日本の加害責任・賠償責任を要求する市民運動の象徴となっている日本大使館前の少女像を敵視し、これの移転について、韓国政府が「適切に解決されるよう努力」せよ。さらにアメリカなど世界各地で戦時性奴隷の問題を訴える第三国における「慰安婦」像の設置も、「そのような動きは支援しない」ことを明確にせよ。あげくの果てに、「慰安婦」の実態を隠ぺいするために、韓国政府が今後、「性奴隷」という単語を使わないように徹底せよ。まるで傍若無人な一方的な加害者側のあつかましい要求の押し付けである。言論・表現の自由、集会・結社の自由を侵害するのはもちろんのこと、露骨な内政干渉である。
 この裏合意で名指しされた挺対協の尹美香・共同代表が12/27、韓国外務省庁舎前で記者会見し、「裏合意が判明し、しかも私たちの行動を制限するものであった。政府は即刻合意を破棄すべきだ」(12/28共同通信)と訴えたのは当然のことであった。
 年が明けて1/4、こうした検証結果の報告を踏まえ、文在寅大統領は、当事者である慰安婦被害者たちを大統領府での昼食会に招き、「国を失ったとき、国民を守れず、解放によって国を取り戻した後は、ハルモニたちの傷を癒し、痛恨を晴らさねばならなかったにもかかわらず、それができなかった。むしろハルモニたちの意思に反する合意をしたことについて申し訳なく思っている。」と謝罪した(「国賓級礼遇でハルモニら迎えた文大統領…『12・28拙速合意』正すための第一歩」(『ハンギョレ』2018年1月4日)。
 以上を踏まえて1/9、韓国の文在寅大統領は就任後初めてとなる新年の記者会見で、2015年12月28日の従軍慰安婦問題を巡る日韓合意に関する新方針を発表した。文大統領は「誤った結び目はほどかなければなりません。真実を冷遇した場で道をつくることはできません」と述べ、合意に基づき日本政府が拠出した10億円を日本に返すべきだとの元慰安婦らの主張を踏まえ、韓国政府の予算で同額を拠出。日本の拠出金は凍結し、扱いを今後、日本政府と協議すると表明した。そして「合意の再交渉は求めない」と表明し、再交渉をしない形で日本政府に強い謝罪を要求すると言及、「日本が心から謝罪するなどして、被害者たちが許すことができた時が本当の解決だ」と強調、日本側に対して韓国政府は「日本が自ら国際的かつ普遍的な基準に基づき、真実をありのまま認め、被害者の名誉、尊厳の回復と心の傷を癒やすための努力を続けることに期待する」と述べ、自発的かつ真の謝罪をするべきだと表明したのであった。
 「手続き的にも、内容的にも重大な欠陥があったこと」から、本来は破棄されるべきものであるが、政府間の公式的約束ということで一応、合意の存在は認め、再交渉はしないものとする。しかし、その上に立って、やはり自発的かつ真摯な謝罪はすべきだということは現状においては、日韓関係の改善をめざして日本側を配慮した文政権側の最大限の譲歩の姿勢であり、むしろ当然の、最低限の要求というべきものであろう。こんな最低限の要求にさえ応じられないなら、合意は破棄されるべきであろう。

<<「一ミリたりとも動かすことは考えていない」>>
 ところが、この韓国政府の新方針に日本政府は猛反発。菅官房長官は「日韓合意は国と国の約束だ。最終的、不可逆的な合意だ。一ミリたりとも動かすことは考えていない」と言い放った。1/12には、安倍首相自身が「韓国側が一方的にさらなる措置を求めることは、全く受け入れることはできない」と述べて謝罪を拒否すると明言。安倍首相はさらに1/15に重ねて「合意は国と国の約束であり、これを守ることは国際的かつ普遍的な原則だ」と突っぱねている。
 しかしこの合意は、韓国側からの指摘を待つまでもなく、当初から「手続き的にも、内容的にも重大な欠陥があったこと」は明らかである。まず第一に、合意内容についての公式な文書が交わされていない。「合意文書」が存在していないのである。日韓の両国外相が共同記者会見を開いて発表しただけで、両政府代表の調印さえない。両国が発表内容を、それぞれの公式ウェブサイトに掲載しながら、内容が一致しておらず、とりわけ「最終かつ不可逆的解決」に至ってはそれぞれ全く別の解釈なのである。韓国側の上記タスクフォース報告書は「今日の外交は、国民とともにしなければならない。慰安婦問題のように、国民の関心が大きい事案ほど、国民と呼吸をともにする民主的な手続きとプロセスを重視する必要がある。しかし高官級協議は、終始秘密交渉で進められており、知られている合意内容に加えて、韓国側の負担になるであろう内容も公開されていなかった」と指摘する通りである。「秘密交渉」として当事者抜きのまま勝手に決めた、この合意の性格・過程の不明朗さ、反民主性、そして「裏合意」の存在は、およそ「国と国の約束」とか「国際的かつ普遍的原則」などと言えた代物ではないのである。
 そして問題なのは、安倍政権は裏合意が判明しても、一言の弁明・釈明すらもなく、逆に裏合意を公表された意趣返しのように、韓国側の最低限の要求をさえ突っぱねていることである。そしてさらに問題なのは、日本の大手マスコミ・報道機関は押しなべて、この日本政府の主張をオウム返しに支持・賛同し、野党も同調している事態である。秘密交渉とその卑劣な裏合意をまともに報道、批判すらしていない。裏合意の存在、その内容など、ほとんど報道されていないし、国会でも全く追及さえされていないのである。

共産党・志位委員長談話、「撤回する意思があるのか、ないのか」
 そしてさらに嘆かわしいのは、共産党までもが、このような翼賛状態に事実上同調し、口をつぐみ、だんまりを決め込んでいることである。
 しんぶん赤旗は、この間の事態について時事通信等の簡単な引用記事だけである。韓国側タスクフォースの内容はもちろん、裏合意の内容など一切報じていないし、論評、批判など一切していない、出来ないのである。完全な思考停止状態である。
 筆者が本紙2016年2月27日付の「慰安婦」問題・日韓合意と共産党、でも紹介した醍醐聰さんが、やはりこの問題で、「再度、志位和夫氏に問う〜『日韓合意』をめぐる談話の撤回が不可決〜」と題して問われている。「ここで、改めて志位氏に問いたい。日本共産党が今回の日韓合意後も、正しい見地に立って『慰安婦問題』の解決に貢献する運動に取り組むには、合意を『前進』と評価した2015年12月29日の志位談話を撤回することが不可欠と私は今でも考えている。志位氏はあの談話を撤回する意思があるのか、ないのか、ぜひ、答えてほしい。」(2018/1/6、醍醐聰のブログ)と。撤回するには遅すぎた感もあるが、筆者も同じことを問いたい。
 共産党の現状は、志位談話の誤りに頬かむりしたまま、民族主義の同調圧力に飲み込まれてしまって、安倍政権の帝国主義外交を事実上容認してしまっているのである。志位談話から2年以上経過してしまっている。なぜこのような事態に落ち込んでしまったのか、それこそ共産党自身の自主的・民主的なタスクフォース、調査と反省と報告が必要とされているのではないだろうか。
 日本の野党共闘や統一戦線が、戦時性奴隷という女性の人権を根底から踏みにじってきた戦争犯罪と闘う、国際的にもそうした闘いと常に連帯する姿勢を放棄して、民族主義的な翼賛状態を容認するようでは、安倍政権を打倒に追い込むことなど到底不可能である。共産党に限らず、他の野党にも問われることである。
(生駒 敬)

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