アサート No.484(2018年3月24日)

【投稿】 米朝首脳会談の発表と孤立を深める「属国日本」
                             福井 杉本達也  

1 梯子を外された日本
 3月9日(米時間で8日)は日本にとって「第二のニクソン・ショック」(ニクソン訪中宣言:1971年7月15日及びドル・ショック:1971年8月15日)のような日となった。トランプ米大統領は、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を正式決定した。輸入増加から米メーカーを守ることが安全保障上の利益になるとして、鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を23日から課すこととなる。中国は報復措置を警告、EUなども反発しており、深刻な貿易摩擦に発展する恐れがある。日本では中国を輸入制限の標的とするものだとの報道だが、米の鉄鋼輸入は日本は中国の倍以上あり、影響は日本の方が大きい。交渉力も中国が圧倒的に強力である。これで米国のTPP復帰などという寝言は完全になくなった。
 また、韓国特使として訪米中の鄭義溶大統領府国家安全保障室長は、トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と5月までに会談する意向を示したこと明らかにした。また、金氏は今後、核・ミサイル実験を控えると表明した。平昌五輪の日本のTV局の報道中にも南北合同選手団を揶揄する場面が何度もあったが、孤立しているのは北朝鮮ではなく日本である。日本はトランプ政権に完全に梯子を外されたといえる。

2 ティラーソン国務長官解任の理由は
 田中宇氏によると、米朝会談設定にまで持ち込んだ真の黒幕はトランプ大統領だという分析である。「軍産に介入されぬようトランプは米国務省を外して韓国政府を事務方として使い、国務長官も入れ替えた」。「米政府で外交を担当するのは国務省だが、国務省は軍産複合体の一部だ。トランプが米朝首脳会談を行うに際しての事務方を国務省に任せていると、国務省はトランプにわからないように妨害工作を行い、会談が行われないという結末になりかねない。そのためトランプは、米朝会談に至る事務方の仕事を、米政府の国務省でなく、文在寅の韓国政府にやらせてきた。」(田中宇「米朝会談の謎解き」2017.3.14)というのが田中氏の見立てである。結果、「トランプ米大統領が8日に韓国の鄭義溶国家安保室長と会談し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長からの会談要請を受け入れた際、同席したマティス国防長官らが「(首脳会談の)危険性とマイナス面」への懸念を訴えたが、トランプ氏は取り合わずに決断した」(NYT:2018.3.10電子版=時事ドットコム:3.11)。しかし、鄭氏に記者会見を行わせるという全く異例の決断をしたため、「トランプ氏の側近らは外国政府当局者が記者会見場を使うことに反対。鄭氏はホワイトハウス西棟の車寄せで会見を行う」という前代未聞の展開になった。「トランプ氏の即断は側近だけでなく同盟国の不意を突き、『安倍氏は蚊帳の外に置かれた』」(時事:同上)。この間、あまりにも素早かったため、軍産複合体(国務省)の介入する隙を全く与えなかったということである。
 軍産複合体としては、これまで、北朝鮮を利用して朝鮮戦争を「休戦」という不安定な状態のまま放置しておくことで、韓国や日本を占領下におき、極東における膨大な軍備を維持し続ける理由としてきたが、あまりにも費用がかかり維持できなくなりつつある。「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領としては、こうした米国が主導する面倒な関与から抜けたいのである。

3 属国日本
 米軍が介入した1950〜53年の朝鮮戦争では、韓国と北朝鮮でざっと250万人が死亡したと言われる。「3年程の間に、米軍は朝鮮の人口の20%を戦争や飢餓などで殺した。」(元米空軍大将カーチス・ルメイ Newsweek2017.9.28:「米朝戦争が起きたら犠牲者は何人になるのか」ジョン・ハルティワンガー)という。人口が集積し産業が発達した今日ではこの比でではない。朝鮮半島の人口密度を考慮するならば、「軍事紛争は停戦ライン沿いで2500万以上もの人口に影響を与える可能性がある」と米議会調査報告書には記載されている。また、トランプ大統領の顧問を務めていたスティーブ・バノンは、2017年8月にアメリカン・プロスペクト誌とのインタビューで,アメリカの先制攻撃に関して「最初の30分の間に通常兵器による攻撃で1000万人が死亡するという予測」をたてている。もちろん日本も無傷でいられるはずはない。仮に核戦争が避けられたとしても、3月14日に再稼働した大飯原発にミサイルが着弾しただけで核暴走で日本は壊滅である。
 金正恩氏が「新年の辞」で、平昌五輪に代表団を派遣すると述べ、トランプ氏もこれを評価した直後の1月7日のNHK日曜討論で安倍首相は「北朝鮮に政策を変えさせるために、あらゆる手段を使って、最大限、圧力を高めています」、「対話のための対話では意味がない」とまくしたてた。北の脅威をあおり、Jアラートやミサイル訓練で危機を強調することで、軍拡を進め、憲法改正にも利用する。安倍首相にとって、北の脅威は存在しなければ困る。それは米軍産複合体の利益と合致する。というよりも、日本国民の生命・財産を犠牲にして、日本の国家としての存続さえも危うくして、米軍産複合体の利益の代弁者して振る舞っている。
 
4 付き従う「主人」を間違った犬
 米軍産複合体の代弁者であり、日本を裏で操るジャパン・ハンドラーの一角でもある 米戦略国際問題研究所(CSIS)は、「北朝鮮は最重要の地域課題だ。北朝鮮による核開発の放棄はありえず、北朝鮮の危険は核だけではない」、「米国と同盟国は、国土を守るため、専守防衛にとどまらず、攻撃の予兆があれば必要な措置をとる用意があることを知らしめるべきだ」(ゲイリー・ラフヘッド元米海軍作戦部長:日経・CSISフォーラム 2017.10.28)と述べている。また、エドワード・ルトワックCSISシニア・アドバイザーも南北会談で油断するな「アメリカは手遅れになる前に北を空爆せよ」(ニューズウィーク:2018.1.9)と戦争を煽っている。さらに、同様な軍産複合体の代弁者であるヘリテージ財団の ブルース・クリンナ一氏はトランプ氏の米朝会談の受け入れは「性急だ」と批判し、「日米韓で『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』という最終目標を確認して…これに同意することを首脳会談実施の条件とすればよい」(福井:2018.3.16)と会談を始める前から「条件」を付けてぶち壊すことを画策している。
 ルトワック氏は「北朝鮮を攻撃すれば、報復として韓国の首都ソウルとその周辺に向けてロケット弾を撃ち込む可能性はある。南北の軍事境界線からわずか30キロしか離れていないソウルの人口は1000万人にのぼる。米軍当局は、そのソウルが『火の海』になりかねないと言う。だがソウルの無防備さはアメリカが攻撃しない理由にはならない。ソウルが無防備なのは韓国の自業自得である」(同上)と切り捨てる。しかし、韓国:文在寅大統領はルトワック氏のようには言っておれない。「火の海」で死ぬのは韓国国民自身である。オバマ=ヒラリー・クリント=民主党全国委員会=軍産複合体=国務省から一定の距離を取っているトランプ大統領との共同歩調をとり始めたのである。
 トランプ大統領は昨年11月のアジア訪問において、日本への入出国には横田基地を使用し、韓国では烏山米空軍基地を利用した。「主人」は属国の正面玄関から入らない。というか占領軍の玄関は米軍基地である。しかし、同じ属国でも文政権は国民の生命や財産までも宗主国に売り渡すつもりはないようである。ソウルが「火の海」のにならないよう、いかに生き延びるか必死考えている。もう一方の属国日本は宗主国の中の「主人」を間違えて、国民の生命・財産を軍産複合体に売り渡すことに躊躇いもせず、自らの属国の代官としての地位保全に汲々としている。

5 リベラルの劣化
 訪米中の河野外務大臣は3月16日、マティス国防長官と会談し「核、ミサイル、拉致問題を包括的に解決すべきだ」と訴えた。また、安倍首相が文大統領と電話会談し、4月末に予定する南北の首脳会談で「日本人拉致問題を取りあげてもらいたい」と求めた。そもそも拉致問題は日朝二国間の問題であり、米国や韓国に頼む筋合いの問題ではない。過去の日本の朝鮮支配の誠実な清算と同時に進めればよい。南北会談・米朝会談に拉致問題を含めよというのは会談を失敗させよということと同じである。
 3月13日の朝鮮中央通信は『論評』で「無分別な属国の妄動」と題して、「サムライの後えいは自分らが崇める米国から政治的排斥とのけ者扱い、経済的収奪を受けるなど、その蔑視と虐待は数え切れないほどである。」とし、「2013年に日本のある政治学者は自分の『永続敗戦論』で、日本が『敗戦の否認』と『対米従属』という二つの要素から脱することができなければ永遠に敗戦状態にあるようになるだろうと主張したことがある。」と書いた。北朝鮮に指摘されるまでもなく、日本は独立した国家でも、民主主義でも、日本の政治家が日本の政治を動かしているわけではない。安保条約と日米地位協定の下、主権者は、米軍と、その意向を忖度する売国奴官僚による共同統治である。11月のトランプ大統領の横田基地からの入国では護憲・リベラルを自任する野党は一切抗議しなかった。そもそも、首都の上空を広大な横田空域に占領させておいて「独立国」だというのはおこがましい。占領という現実を踏まえた上で、文大統領のように国民の生命と財産を守るための真剣な努力をするのか、国民の生命・財産をも差し出して、占領軍の統治に甘んじるのか「第二のニクソン・ショック」から問われ始めている。

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