アサート No.486(2018年5月26日)

投稿】ボルトン=安倍路線と米朝首脳会談---統一戦線論(48)-- 

<<「金委員長は非常に裕福になるだろう。」>>
 6月12日、シンガポールで予定されている米朝首脳会談は、その雲行きが怪しくなってきている。トランプ・金正恩、両首脳、ともに唐突で予測不能な移り気と不安定さが懸念され、駆け引き、つばぜり合いがそのまま緊張激化にもつれ込む現実的な可能性さえ予測されている。緊張緩和ムードから一転、核戦争まで引き起こしかねない武力衝突の危機へと再び後戻りしてしまう可能性である。安倍政権が、9条改憲と政権延命のために米朝首脳会談の決裂を最も期待し、決裂促進に加担している事態の成り行きは、予断を許さない状況である。
 しかし、4/27に行われた文在寅・韓国大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長が合意した「朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」は、歴史を画する平和と緊張緩和・協力と連帯の宣言である。この宣言を踏みにじることは誰にも許されないし、歴史への反動でしかない。
 同宣言は、「非正常的な現在の停戦状態を終息させ、確固たる平和体制を樹立することはこれ以上先送りできない歴史的課題」ということを明確にし、「休戦状態の朝鮮戦争の終戦を2018年内に目指して停戦協定を平和協定に転換」することに合意し、両首脳はこのための具体的な方法として「南北交流、往来の活性化」、「鉄道、道路の南北連結事業の推進」、「相手方に対する一切の敵対行為を全面的に中止」すること、そして「南・北・米3者」または「南・北・米・中4者」会談を積極的に推進することにも合意したのである。
 この朝鮮半島南北首脳の画期的な宣言をもはや無視することが出来なくなったトランプ政権も、混乱し迷走を深める自己の政権浮揚のためでもあろう、朝鮮戦争の終結を支持し、歓迎の姿勢を明らかにしたのであった。トランプ大統領は、「金委員長は非常に裕福になるだろう。北朝鮮住民らはとても勤勉だ」、「産業の側面からすると、『韓国モデル』になるだろう」とまで述べた。そして、マイク・ポンペオ米国務長官は、再度、平壌を訪問し、北朝鮮が完全な非核化に合意した場合、米国の民間企業の対北朝鮮投資を認め、制裁を緩和すると発表した。5/11には、果敢かつ迅速な非核化の見返りとして、「韓国レベルの繁栄」を約束し、具体的な見返りまで公約した。

<<「悪魔の化身」「人間のくず、吸血動物」>>
 しかし、こうした事態の進展を苦々しく思い、軍産複合体の利益を代弁し、軍事緊張の激化を期待する勢力、好戦勢力の巻き返しは、とりわけトランプ政権に顕著である。
 この4/9にトランプ政権の国家安全保障補佐官に就任したばかりのジョン・ボルトン氏は、「狂犬」といわれるマティス米国防長官でさえ、「悪魔の化身」と呼ぶほどの好戦派・強行介入路線一辺倒の人物、ネオコン派筆頭格の人物である。
 ボルトン氏は、補佐官就任後も、朝鮮半島の非核化について、リビア・モデルを強硬、かたくなに主張している。氏の言うリビア・モデルとは、核兵器開発をまず一方的に放棄させること、そして直ちに核関連装備を米国テネシー州のオークリッジにすべて移送させることが優先事項であり、リビアをモデルにするということは、その後に傭兵を送り込み、アメリカ配下の軍隊が空爆して、政権を崩壊させるというシナリオである。ボルトン氏は、何ら恥じることなく、中東を大混乱に陥れたイラク戦争を正当化し、現在ではイランや北朝鮮への先制攻撃を主張し続けている。そして現実に、トランプ政権はイラン核合意から一方的な離脱を表明し、対イラン制裁を復活させ、イスラエル、サウジアラビアを巻き込んだ対イラン戦争の開始を虎視眈々と狙い、踏み出そうとしている。
 5/16、こうしたトランプ政権の「リビア・モデル」路線に対して、北朝鮮側はまず、この日に行う予定だった南北高官協議について、協議の代表団を率いる李善権・祖国平和統一委員長名で無期延期とすると韓国側に通知。朝鮮中央通信は同日、米韓軍の戦闘機100機以上が行っている米韓合同空軍演習「マックスサンダー」は、「良好に発展する朝鮮半島情勢の流れに逆行する意図的な軍事挑発だ」と非難した。同演習に初めて参加するF-22が敵のレーダー網をくぐりぬけて浸透し、核とミサイル基地など核心施設を精密打撃できる能力を持ち、敵の核心指揮部を除去するいわゆる「斬首作戦」の遂行に最も適した機種だとされている。朝鮮中央通信は、このF-22を具体的に挙げたのであった、
 続いて、同じ5/16、北朝鮮外務相の金桂冠・第1外務次官が、「トランプ政権が一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、近づく朝米首脳会談に応じるかどうか再考慮するほかない」との談話を発表したのである。その際、金第1外務次官は「これは大国に国を丸ごと任せきりにして、崩壊したリビアやイラクの運命を尊厳高い我々の国家に強要しようとする甚だ不純な企ての発現」と述べたのであった。そして、「朝米首脳会談を控えた今、米国で、対話の相手を甚だしく刺激する妄言が次々と飛び出している」と主張し、「ボルトン(補佐官)らホワイトハウスと国務省の高官は『先に核放棄、後で補償』方式に言及し、『リビア核放棄方式』だの、『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』だの、『核、ミサイル、生物・化学兵器の完全廃棄』だのと主張している」と、ボルトン氏を名指しして、不快感を表明したのであった。金第1外務次官はまた、米国の敵対視政策の中断だけが先決条件だと明示しながら「我々は米国に期待をかけて経済建設をしようとしたことはなく、今後もそのような取引は絶対にしない」と明らかにした。
 これに対してボルトン氏は「私は連中に人間のくず、吸血動物、醜い男と呼ばれてきた。慣れている」と反撃し、「見返りを期待する北朝鮮との際限ない協議に引きずり込まれるという過去の失敗は繰り返さない」と語り、いつでも交渉を打ち切る用意があると強調したのである。

<<「関係正常化は北朝鮮の利益になるだけだ」>>
 米国側の意図を見透かされたトランプ政権は、あわてて事態の収拾に乗り出さざるを得なくなった。米朝首脳会談が始まる前から頓挫してしまったのでは、トランプ政権の意図する方向と相反するからであろう。
 5/17、トランプ大統領は、ホワイトハウスで記者団に、「リビアモデルは北朝鮮に対して(適用を)全く考えていない」と明言し、「リビアモデルは完全な除去だった。我々はリビアを焦土化させ、カダフィ大佐を除去した。我々がカダフィ大佐に『あなたを保護する』、『軍事力を与える』と言ったことはない」、「リビアモデルは(北朝鮮とは)全く異なる」と述べ、「金正恩体制の保障」まで明らかにした。トランプ大統領は、「喜んでさまざまなこと(体制保障)をするつもりだ。会って何か結果が出たら、彼は非常に強力な保護を受けることになる」と述べ、「金正恩がその国に留まりながら、その国を運営する方式になる」と具体的に説明し、「合意が実現すれば、彼はとても幸せになるだろう」とバラ色な世界を描いて見せた。今回、「体制安全保障」という原則を初めて明確に公言したのである。トランプ氏にとっては、まずは米朝首脳会談を正常な軌道に戻させることが必要であり、ボルトン氏を当面は黙らせることが必要だと判断したのであろう。
 しかし同時に、トランプ大統領は「合意を成し遂げなければ、リビアのようなことが起こるかもしれない」と脅してもいる。背後にボルトン氏の路線が控えていることを、トランプ氏自ら明らかにしたとも言えよう。
 ここまできて明らかになっていることは、朝鮮半島が、そして東アジアが、そして中国、ロシアを含めて善隣友好関係が築かれ、平和になっては困る勢力が米支配層の中にはっきりと存在し、戦火の火種が温存され、いつでも再発火される事態を常に作り出そうとしていることである。米朝首脳会談をめぐって、まさに戦争と平和をめぐる激しいつばぜり合いが展開されているのである。その中で、この緊張激化路線を最も熱心に追及しているのが、安倍政権であり、安倍首相の発言は、ボルトン氏の発言とほぼ同一である。
 「関係正常化は北朝鮮の利益になるだけだ」、この発言はボルトン氏のものであるが、同時に安倍首相の発言であるとも言えよう。「見返りを期待する北朝鮮との際限ない協議に引きずり込まれるという過去の失敗は繰り返さない」、これも安倍首相の発言とそっくりである。「最大限の圧力」、「対話など無意味」、「話し合いは無駄」、そして「先制攻撃」、いずれもボルトン=安倍路線を象徴するものであり、本質的には米朝首脳会談を壊しにかかっている路線である。

<<安倍政権にとっての悪夢>>
 退陣間際に追い込まれている安倍政権にとっては、米朝首脳会談の成功ではなく、決裂こそが最善なのである。成功すれば、それが導き出す朝鮮戦争の終結と平和協定への転換、鉄道、道路の南北連結事業の推進、「南・北・米・中4者」会談の実現、それらを通じた東アジアの平和構築、諸国間の善隣友好関係の実現、軍事的緊張の解消、段階的な軍縮の実現は、これらに敵対し、緊張激化を常に策動し、憲法9条の改悪と軍備拡大路線、辺野古新軍事基地強行を推し進めてきた安倍政権にとっては悪夢なのである。だからこそ、安倍首相はボルトン氏と軌を一にし、響き合っていると言えよう。
 逆に言えば、安倍内閣を退陣に追い込むことが、ボルトン=安倍路線を挫折させ、東アジアの緊張緩和と平和の構築にとって最大の貢献をなしうる情勢の到来とも言えよう。野党共闘と統一戦線のより一層の前進が、東アジアのみならず、世界平和に大きく貢献できる好機でもあり、国際主義的な義務でもあるとも言えよう。
 新潟県の米山隆一前知事の辞職に伴う5/24告示、6/10投開票の知事選、立候補を表明した池田千賀子県議を支える「オール野党共闘」の枠組みが、立憲民主、民進、共産、自由、社民の各党と、市民団体による「市民の思いをつなぎ、にいがたで女性知事を誕生させる会」、そして今回は連合新潟まで参加して形成された。前回知事選よりも、体制としては大きく前進したと言えよう。
 対する争点隠しを公言する自民・公明候補は、二階俊博・自民幹事長が運輸大臣だった時の秘書官であった国交官僚の花角英世・海上保安庁次長である。但し公明は、「国政の代理戦争化を避けるため裏方に徹する」として自主投票とする方針であり、さらに県市長会(会長・久住時男見附市長)は、2000年以降で初めて、特定の候補者への推薦を見送る方針であるという。この花角候補を敗北させることが、「安倍政権を許さない」、安倍政権を退陣に追い込む重要な一歩となろう。安倍政権にとって、新潟知事選の決定的な敗北も、耐えがたき悪夢となろう。
(生駒 敬)
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