アサート No.488(2018年7月28日)

【書評】 『原発棄民----フクシマ5年後の真実』
      
 (日野行介、毎日新聞出版、2016年2月、1,400円+税)  

 様々な大災害が起これば、避難者に対して、取りあえずの住処として仮設住宅等が提供される。そして災害からの復興の度合いに応じて徐々に解消されていく、というのが通常の災害後の過程である。しかし災害処理・復興が長期にわたる場合、避難者は、住宅に関してどのような扱いを受けるのか、とりわけ過去に例を見ない原発事故の場合はどうであったか、というのが本書が検討する問題である。
 まず本書は、福島第1原発事故の場合、そもそも避難者の把握が最初から十分でなかったことを指摘する。
 「国が『避難』と認める上で根拠が必要なのは当然だろう。しかし現状は国が事故直後に定めた年間20ミリシーベルトが唯一の根拠となっている」。しかしこれはあくまで「緊急時」の線量であったはずで、「福島市南東部のように20ミリを超えても避難指示が出なかったところもあり」、また汚染を恐れて避難指示区域外からも多くの人びとが自主的に避難をしたという事実がある。筋からいえば、まず「避難者」の定義をし、その正確な人数や分布などの基礎データが必要となる。
 ところがこの問いかけに、復興庁の元幹部は答える。
 「自主避難者は難しい。怖いという気持ちで避難した人はみんな避難者なのか」。「予算もあるし、どこまで支援できるかだ。東電に求償(請求)もできるが、それがどこまで合理的か問われる」。「調査をかけるとなると、今度は調査の範囲が問われる。福島県内なのか、線量で区切るのか。(略)結局のところ自主避難者の定義は難しい」。
 さらに「広域、かつ多数の原発避難も手伝い、東日本大震災と福島第1原発事故では過去の災害では見られなかった特異な現象が発生した」。それが「みなし仮設住宅」の大規模な導入である。
 つまり災害規模が巨大であったためにプレハブ型の応急仮設住宅の建設が遅れ、しかも避難者が全国各地に広がったため、「公営住宅や民間賃貸住宅の空き部屋を自治体が借り上げて提供する『みなし仮設住宅』(一般には借り上げ住宅と呼ばれることが多い)が大規模に導入された」のである。
 (本書であげられているデータではこうである。「2015年3月1日時点での応急仮設住宅戸数(入居数)は8万5235戸。そのうち、みなし仮設は4万7158戸で、なんと約55%を占める。しかも愛媛県を除く全46都道府県にある」。)
 しかもこの「みなし仮設」については、普通の住宅であるにも拘わらず、安全性に劣るプレハブなどの仮設建築物と同等の扱いを受け、1年ごとの提供期限の延長を繰り返す仕組みになっている。原発避難者、特に自主避難者の多くが「いつ追い出されるか分らない」という状況に置かれているのである。
 自主避難者の実態もきちんと把握しないまま、みなし仮設の問題は状況に押し流されていく。そして「福島県は、2012年11月5日、県外でのみなし仮設住宅の新規提供を12月で止める一方、県内での自主避難者にみなし仮設の提供を開始すると発表した。子どもか妊婦がいる世帯を対象に、福島県内で自主避難して自腹で賃貸住宅を借りている場合や、県外から県内に帰還する場合に、福島県が家賃を負担(その後は国が負担)するというものだ」。
 つまり県外での自主避難者の県内への住み替えは認めるが、それ以外は切り捨てるということである。
 さらに2015年5月29日、帰還困難区域を除き2017年3月までに避難解除を打ち出す第5次自公提言を受け、6月12日、政府が復興加速化指針の改定を閣議決定。そして2015年6月15日、福島県の内堀知事が2017年3月末で仮設打ち切りを発表した。ここで避難指示区域以外からの避難者への応急仮設住宅供与が打ち切られたのである。これについて福島県と被災自治体幹部の匿名のコメントが新聞に載った。「無償提供を続ける限り帰還が進まない」、「避難生活が長期化することで復興の後れにつながりかねない」と。ここに行政の本音が透けて見える。
 こうして自主避難者への住宅支援はもちろんのこと、避難者それ自体が薄められ消されつつあるといえよう。無論現実には避難者の問題は山積したままである。自公提言の締めくくりの次の文では、避難者はまさに消されている。
 「われわれは、新しいまちの新しい家で家族そろってオリンピック・パラリンピック東京大会を応援できるよう(中略)被災された方々とともに、今次の災害に対する支援をいただいた世界中の皆さんと増税を引き受けていただいている日本国民の皆さんへのお礼と恩返しを1日も早く『復興』というかたちでお示ししたい」。
 なお、みなし仮設住宅の家賃負担については、避難先都道府県が福島県に家賃費用を請求し、福島県が自己負担の分を含めて国に請求する。そして国から福島県に家賃費用の交付が下りて、各都道府県に交付する仕組みになっている。しかしこれは行政による福祉的な負担であって、そもそもの事故の原因者(加害者)=東京電力が存在する以上、その費用は最終的には原因者(加害者)に請求しなければならない。ところがみなし仮設住宅の家賃の請求が一切なされていない。ここにも事故の責任の明確化を避ける国の姿勢がよく現れている。
 本書は、みなし仮設住宅という救済対策の問題から原発事故への政府・行政の体質を浮かび上がらせようとする労作である。(R)

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