アサート No.489(2018年8月25日)

【投稿】 米国の巨大資本権力に支配されるマスコミ
                            福井 杉本達也  

1 東南アジアの国々は独裁国家なのか
 ニューズウィーク誌は「今や東南アジアの独裁政権はアメリカの介入や制裁を恐れずに、自国民を好きなだけ抑圧できる…アジアの独裁者は『トランプのおかげで大胆になり、やりたい放題、言いたい放題だ』」と書く。「人権派が最も警戒する要注意人物は『アジアのトランプ』とも呼ばれるドゥテルテ」、「カンボジアのフン・セン首相は85年の就任以来、徐々に独裁色を強めてきた」、「タイのプラユット首相はクーデター後何度も総選挙の実施を先送りしてきた」と名指している(ニューズウィーク:2018.8.10)。しかし、これは欧米の立場からの歪んだ批判である。東南アジアへの「米国の介入」は、1945年〜1975年のベトナム戦争や、1965年のインドネシアの9.30事件におけるCIA=スハルト政権による華人住民など50万人の虐殺などを引き起こしたことを忘れてはならない。2000年代からの中国の経済発展がこうした米国の東南アジアへの介入を弱めてきた。欧米の価値観に従わなくなった国家に「独裁」のレッテルを張り、政権の転覆を図ることは軍産複合体の常套手段である。米国が「民主化」を口にするのは、グローバルな国際金融資本家・軍産複合体に都合の悪い政権に対してだけである。しかも、グローバル資本・軍産複合体にとっては自国のトランプ政権も煙たい存在であるようだ。

2 カンボジア総選挙を批判する日経と岩波『世界』
 カンボジアの下院選挙では、現フン・セン首相の率いる与党:カンボジア人民党が全議席を独占することとなった。日経新聞は「民主化の後退懸念は高まり、欧米や日本が主導してきた人権尊重や法の支配など、国際秩序が揺らぎかねない…最大野党のカンポジア救国党が昨年11月、国家転覆を企てたとして解党処分になったからだ」と書く(日経:2018.7.31)。
 また、数少ないリベラルな月刊誌:岩波書店の『世界』2018年8月号においても熊岡路矢・カンボジア市民フォーラム共同代表が「民主主義から遠ざかるカンボジア」として、日本はこれまで、「援助における人権・環境配慮を文言に入れて、外交政策も援助政策も、価値観を共にする国、言い換えれば、複数政党制に基づく民主主義、人権、自由主義などを重視し、促進する立場」からカンボジアに「内政干渉」してきたことを臆面もなく書いている。「ここ数年のカンボジアの現状は、この規範から明らかに逸脱している」として、「なぜカンボジアを批判せず、援助の停止もしくは見直しをしないのか」と外務省の姿勢を追及している(熊岡路矢「カンボジアで何が起きているか」『世界』2018.8)。

3 中国の影響を批判
 さらに、熊岡氏は「『内政干渉はしない』という点において、中国は悪い意味で日本より徹底している。被援助国政府が人権や環境を無視しても批判しないし、援助における人権や環境配慮も求めないようである」と中国の「内政干渉」をしない姿勢を批判して、日本政府によるカンボジアへの「内政干渉」を露骨に求め、「カンボジアはもうすでに十分中国寄りであるし、いまさら中国と援助競争をする立場でもなく、できる条件もない」と中国寄りとなったカンボジアへの援助を中止しろと政府に迫っている。「人権や環境」を名目に他国への露骨な「内政干渉」することがどうして「民主主義」なのか。熊岡氏は慎重に過去の傷に触れないが、1975〜1978の間に国民の1/3を虐殺したポル・ポト派・ソン・サン派・シアヌーク派の三派連合政府を支援し、1982〜1991年のパリ和平協定まで、ベトナムが支援するヘン・サムリン政権との内戦に加担し続けたのは日本であり、米国である。カンボジアがASEANに加盟するのはやっと1999年であり、日本が支持・援助・「内政干渉」をし続けた結果、カンボジアの経済発展は大きく遅れたのであり、その経緯を不問にすることなどできるはずもない。
 また、上記日経記事においても、中国は「経済力を背景に投資や援助を気前よくつぎ込み、人権状況には口出ししない」とし、2008年のリーマン・ショック前後から「先進国の支援が細る間隙をつき」存在感を高めてきたと批判する。国別では、中国が最大の援助国となっており、31億ドル、日本は2位の28億ドル、米国は3位の13億ドルとなっている。日本は長い間最大の援助国であったが、2010年に中国と逆転している。また、米国は既に2014年から援助を停止している。
 さらに続けて、中国は「『一帯一路』の下で、カンボジアやラオス、ミャンマーなどへの支援を拡大しASEANの分断と自国の影響力浸透を狙う…米国の地盤低下もあり、タイやフィリピンでは政治的自由より経済開発を優先した『開発独裁』に逆戻りする…『中国モデル』が背景にあるのは間違いない」と結んでいるが、そもそも、中国が「開発独裁」の国家であるというのは欧米の価値観の押し付けである。なぜ、日経はイスラエルがガザにおいて非武装のパレスチナ人を何百・何千人と虐殺していることを批判しないのか。サウジアラビアがイエメンを無差別爆撃し、数百万人が飢餓寸前で苦しんでいることを批判しないのか。

4 カンボジアの現状、
 カンボジアは1999年のASEAN加盟以降、急速な経済発展をしつつある。むろん現在も内戦の影響は色濃く、35歳〜39歳の層が極端に少ないが、カンボジア経済は2010〜2016年にかけ平均7%の高成長を維持している。1人当たりのGDPも2013年に1,000ドルを上回った。プノンペン市内中心部は、他の東南アジア諸都市と比較すると乗用車が多く、特にドイツ車を中心とする欧米の高級車が多い。進出したイオンモールは当初予定の駐車場2000台を急遽2800台に増設している。日本の企業ではミネベアなどが進出している。ポル・ポト派の根拠地であったタイ国境沿いのポイペトは経済特区となり多くの企業が進出している。確かに中国企業の進出もすさまじく、プノンペン市内の主な高層ビルの建築主は中国系企業ばかりである。2015年、日本のODAでメコン川に架かる「つばさ橋」が建設されたが、中国はその上流にさらに大規模な橋梁を建設している。しかし、これもカンボジア人の選択である。中国の進出が急速であるから疎ましいというのは外交ではない。まして、外交の主導権を取れないなら援助を止めろというのは「帝国主義的」恫喝以外のなにものでもない。ポル・ポト政権下の大量虐殺で法曹界も大打撃を受け、内戦が終わった時点で、法律の専門家は6名しか生存していなかった。一橋大学法学部を中心に日本の支援でカンボジア民法が作られ、2011年12月から新民法が適用されることとなった。これを熊岡氏は「日本政府の法整備支援を通じて出来上がった法律を、カンボジア政権が自分たちの利益のために利用している」と書いているが、『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』とはこのことである。
 
5 日本のマスコミはどうなっているのか
 英国の国境なき記者団が毎年発表している日本の「報道の自由」は、2013年以降急速に悪化しており、2017年は72位までに後退している。国連人権理事会でさえ、日本の報道の自由に懸念を表明している(福井:2017.11.15)。これは欧米系の価値基準による順位であり、まだ甘い。実態は欧米通信社や米IT企業からの「加工された」一方的情報の垂れ流しである。米軍産複合体の恫喝に屈する国家は「民主国家」であり、屈しない国家は「独裁国家」とされる。その大枠のストーリーに沿わない物語は全て抹殺され、報道されない。報道されなければ我々は知りようがない。8月17日の日経のトップ記事は「トヨタ中国生産2割増」「日本車、対中依存一段と」と書く。「民主化要求を封殺したまま経済大国に上り詰めた」中国(日経:7.31)が危険と思うならば、トヨタは中国に進出しなければよい。リスクが少ないと思うから進出しているのである。日経の報道は一旦日本を離れれば通用しない。マスコミの報道と現実は真逆の方向を向いている。

6 米国のIT大手GAFAは何をしているのか
 8月6日前後に米国IT大手企業Facebook、Apple、Google、YouTubeらはプラットフォームの所有者として、“間違った記事”を広めているとして、著名ジャーナリストのアレックス・ジョーンズのウェブサイトを排除した。ジョーンズのウェブサイトは大統領選挙運動中、トランプ大統領を強く支持していた。また、トランプはジョーンズを"素晴らしい"と称賛していた。Facebookは「規約に反する内容を繰り返し投稿した」ことを理由に挙げた。ジョーンズは9・11の同時テロは米政府の「内部者による犯行」といった陰謀論を発信しており、米軍産複合体にとっては邪魔な存在であり、今回の措置はIT大手の市場独占を利用した、少数意見の人々を標的にした政治検閲である(参照:日経:2018.8.8)。
 4月にメディア・リサーチ・センター(MRC)が発行した報告書は、IT大手は「公共的議論から保守的な世界観を検閲するための明らかな取り組みで」保守的言説を抑圧していると結論付けている。米国内でのロシア・メディア、RTとスプートニクの締めつけは、この傾向の一環である。中間選挙前に米国では、人々の基本的権利を剥奪するため、「ロシアゲート」と大規模検閲キャンペーンが仕掛けられている(マスコミ載らない海外記事:Peter KORZUN:2018.8.11)。「大統領すらメディアの私権力に屈することは戦前の新聞王ハースト以来何も変わらない。巨大資本私権力の前には自由も人権も民主主義もない・・それがアメリカだ」(衣笠書林:2018.8.15)。その米巨大資本権力の前に屈するどころか、尻尾を振って追従する日本に元々自由も人権も民主主義もあるはずがない。あるのは勘違いだけである。

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