アサート No.492(2018年11月24日)

【投稿】米中間選挙の結果が提起したもの---統一戦線論(54)---  

<<トランプ氏の「とてつもない」敗北>>
 この11月6日の2018年米中間選挙の結果について、トランプ大統領は大勢が判明した6日夜、「我々の大きな勝利について、もう、たくさんのお祝いをもらった」、「今夜はとてつもない成功だ。みんなありがとう!」とツイッターに投稿した。まったくの「負け惜しみ」で強がりでしかない。現実の結果に驚き、怯えてしまった投稿とも言えよう。
 この「中間選挙」は、4年ごとに実施される大統領選の中間の年に、上下両院の議員、州知事、地方議員などを一斉に決める選挙である。任期2年の下院は、全議席(435議席)が改選される。任期6年の上院は、2年ごとに定数100のうち3分の1ずつが改選される。今回の中間選挙では、補欠選挙の2議席を含め35議席が争われた。選挙前の議席数は、下院が共和235、民主193、欠員7、上院が共和51、民主49であった。上院選挙ではこの内、共和42、、民主23議席は非改選で、35議席が争われたのである。したがって上院では、民主党が上院で過半数を確保するためには、35選挙区中28選挙区以上での勝利が必要なのに対して、逆に与党・共和党は42議席が非改選であるため35選挙区中9選挙区で勝てば51議席、過半数を確保できる、楽勝の選挙戦であったはずである。
 上院では、共和党がようやっとのことで9議席、51議席の過半数を確保したものの、民主党は47議席を確保、共和党は、2016年大統領選でトランプ候補が勝利したウェストバージニアはじめ少なくとも5州以上で民主党候補に議席を奪われている。上院で勝利したというが、実態は敗北なのである。
 一方、下院では、民主党は前回より最低でも35議席増、最終的には40議席近くまで上積みするとみられている。これは同党にとって、1973年以来、中間選挙としては45年ぶりの大躍進である。ニューヨーク・タイムズ紙の分析によると、全体の21%にあたる317地区が今回、共和党から民主党支持へと入れ替わったという。
 トランプ氏は中間選挙を自分自身の信任投票と位置づけ、「私が投票用紙に載っていると考えて投票して欲しい」と訴えた。その効果あってか、逆効果なのか、今回の中間選挙の投票率は49.2%、前回2014年の36.7%より12ポイント以上も増加、中間選挙としては約50年ぶりの高水準、米史上最大の増加率となったのである。接戦州ばかりか、「無風」といわれる州でも、投票率が上昇した。その結果、トランプ氏の与党・共和党は、都市部で下院議席が一つも獲得できず、野党・民主党が30議席以上を取り返して下院の過半数以上を民主党に譲り渡してしまったのである。与党・共和党にとっては「大きな勝利」どころか、「とてつもない」敗北であり、トランプ氏は、手厳しい審判を受けたのである。

<<カギとなったのは、女性と若者と非白人有権者>>
 そのカギとなったのは、女性と若者と非白人有権者の投票率の記録的な上昇である。ニューヨークの独立放送局デモクラシー・ナウ(DemocracyNow 2018/11/6)は、「今回の中間選挙は、連邦議会の上下両院と36州の知事選の結果によって、ドナルド・トランプ政権に対する国民による審判が示されると考えられています。実際には、すでに記録的な3600万人の米国人が期日前投票をし、中でも若者と有色人種の間で高い投票率が見られています。これは4年前の2700万人からの増加で、多くの人々はこの結果から、中間選挙での記録的な投票率を予測しています。いつもなら中間選挙には行かないような多くの人々が投票所に向かうのを目撃しています。なぜなら彼らは今回の選挙が非常に重要だと信じているからです」と報じている。これら圧倒的多数、99%を代表する多くの人々が、トランプ大統領の女性差別発言、移民蔑視政策、暴力的分断政策、銃政策、医療保険政策、大金持ち優遇の税政策、環境政策、規制緩和政策、独善的な政治手法などをめぐって、例年以上に大挙して選挙権を行使したことが民主党躍進の原動力となったのである。
 とりわけ重要になったのが女性有権者の動向であった。それは、「今回女性の投票先では民主が共和を19ポイント上回っており、16年の大統領選(13ポイント)よりその傾向は強まっている。有権者が投票で一番重視した問題は、医療(41%)、移民(23%)、経済(22%)、銃政策(10%)の順で多かったが、投票した政党別に見ると、移民、経済と答えた人の6〜7割は共和に投票。一方、医療、銃政策と答えた人の7割は民主に投票していた。「公職に少数人種の人を増やすことは重要か」との問いに「重要」と答えた人の6割が民主、「重要ではない」と答えた人の8割が共和に投票。女性が公職に就く重要性についての問いも同様の傾向が出た」(11/17 朝日新聞)、という結果に示されている。
 この結果、民主党の女性候補が下院の奪還と7州の知事選勝利に貢献し、米国史上初めて女性下院議員の数が100人を超え(改選前85)、これも史上初めて、先住民女性2人とムスリム女性2人が当選を果たしたのである。これまでにイスラム教徒の下院議員は男性が2人いるが、女性は初めてである。
 さらに付け加えなければならないのは、高年齢層の有権者においても今回、13ポイント以上、民主党支持が共和党を上回っていたという世論調査の結果である。「彼らは、富裕層への2兆ドルの減税の一方で、メディケアから5000億ドル、メディケイドから1兆5000億ドルを削減することを提案した下院共和党の予算を忘れることはない。高齢者が共和党を大いに拒絶したのである。」(11/13、米ネット誌Common Dreams)

<<「私たちの革命(Our Revolution)」>>
 かくして民主党は下院で主導権を獲得することができ、下院トップのペロシ民主党院内総務は11/7の記者会見で「女性が民主党を勝利に導いた。30人以上の新人の女性が議員になるなんて、わくわくする」と述べた。しかし同時に、下院でトランプ政権の政策を阻止できるようになり、大統領を弾劾できる権利も獲得したにもかかわらず、「政権監視の役割を果たす」が、同時にトランプ大統領と融和・協力する意向を示している。ペロシ氏は、「ユニバーサル・ヘルスケア(すべての人のための医療保険)」支持を一貫して拒否しており、国防予算の大幅な増加を常に支持してきた民主党既成指導部の強固な砦であり、民主党が共和党のように行動する砦なのである。
 「わくわくする」新人女性議員たちは、まさにこのような民主党既成指導部とも闘ってきたのである。彼女たちを押し上げ、民主党既成指導部に連なる候補者を破り、下から突き上げ、盛り上げた運動と組織、重層的で社会的なパワーの質と多様性こそが、トランプに対する闘いでの勝利を導いたのである。
 その象徴的存在として、「ニューヨーク州14区」で当選したオカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio -Cortez)が、しばしば取り上げられている。彼女は、プエルトリコ出身の母親とサウスブロンクス生まれの父親を持つ28歳の女性で、下院議員として史上最年少の当選者である。2016年の大統領選ではバーニー・サンダース上院議員の選挙スタッフとして働き、その後もサンダース氏が提唱した「私たちの革命(Our Revolution)」のメンバーとして活動し、同時に「民主主義的社会主義者(Democratic Socialists of America DSA)」のメンバーであることを明らかにしている。DSAが提起したカレッジ・フォー・オール(すべての人のための大学)、すべての人の平等な権利、労働運動の活性化をめざした闘い、そして彼らが提起していたユニバーサル・ヘルスケアや単一支払者制度(連邦政府が徴収した税金ですべての医療費をまかなう制度)への移行といった政策要求は、共和党支持者の52%がこれらに賛成票を投じるまでになったのである。
 そのDSAの執行部(NPC=全国政治委員会)が11/7に声明を発表している。声明は、「昨日、民主主義的社会主義者たちは全国で活発な選挙戦を闘って勝利し、アメリカ社会主義運動が何世代もの後退ののち再生したことを示した。最も有意義なのは、DSAメンバーであるアレクサンドリア・オカシオコルテス(ニューヨーク州)とラシダ・トライブ(ミシガン州)が正式に下院議員に選出されたこと、そしてサマー・リーやガブリエル・アセベロ、マイク・シルベスターなど多くのDSA支援候補が社会正義を求める労働者階級の運動の先頭に立って劇的に勝利したことです。民主党指導部は真剣に反対運動に取り組む能力も意思もなかったのです。復活した左翼のこれらの勝利は、まだ始まりにしかすぎません。私たちの社会を平等で人間的で公正なものに変える真の仕事は、何年もの組織化と教育を必要とするでしょう。私たちが直面する障害はまだまだ巨大なのです。」「これらの候補者のそれぞれは、企業の支援を受けた共和党や民主党の既成指導部に対抗し、緊縮と抑圧政策を終わらせ勇気づける政策綱領を掲げて闘ってきたのです。労働者階級の大多数のための運動だけが、裕福な少数者ではなく多数者のための世界をかちとることができるのです。」と訴えている。これらが総体として「私たちの革命(Our Revolution)」運動となったと言えよう。

<<問われる「市民と野党の共闘」>>
 さて果たして日本の野党共闘に、あるいは統一戦線形成の闘いの中に、若者や女性、非正規労働者や高齢者、様々な被抑圧者を鼓舞する、このような「私たちの革命」と呼べるような運動が存在するであろうか。
 11/16、来年の参院選で安倍政権打倒の市民と野党の共闘の本格化に向け、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)と野党との意見交換会が行われ、初めて国民民主党が参加し、共産党、立憲民主党、無所属の会、自由党、社民党の5野党・1会派の書記局長・幹事長と国対委員長が一堂に会した。市民連合世話人の山口二郎法政大学教授が「いまは参院選の1人区で野党協力を行うことは共通の了解事項になっている」と指摘。山口氏は「私たちは野党の協力の機運を高め、共通して掲げるべき政策を議論し、野党と政策合意を結び共通の旗印としたい」と述べたのである。しかしこれに対し、共産党の小池晃書記局長は、相互推薦、相互支援など党の方針を示し、同時にどの党も「5野党1会派がまとまることが重要だ」と強調はした。相互推薦、相互支援などを共に戦うことの条件にすること自体がおかしいのであるが、とにもかくにも「5野党1会派がまとまること」、それはそれで前進ではあろう。しかしその場で自由党の森ゆうこ幹事長が、6月の新潟県知事選での敗北にふれ「なんとなくの連携では勝利をつかめない。争点を掲げ、結束してたたかうことが必要だ」と強調したが、その重要性に対して一向にそれに応える具体化が見えてこないのである。
 地域に根ざさないトップだけの「市民と野党の共闘」、「なんとなくの連携」、どのような政策・政権構想を掲げて自民党と対決するのか、それさえ不明確で、不明瞭なまま時間を経過させ、熱意も希望も覚悟も感じられない「堂々巡り」、その間、それぞれの党派がそれぞれの党勢拡大にいそしむ、直前まで来なければまとまらない候補者の一本化協議、これでは先が思いやられるばかりであろう。
 米中間選挙の結果が提起したものは、そのような状況を打破する下からの突き上げ、それを可能とする運動と組織、広範かつ重層的で社会的なパワーの結集こそが求められているということであろう。
(生駒 敬)

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