アサート No.493(2018年12月22日)

【投稿】水道民営化法は外資に公共財産を売り飛ばす新自由主義的政策
                              福井 杉本達也  

1 水道事業の民営化
 今臨時国会では外国人労働者の待遇を改善せず搾取を強化する改正出入国管理法や大企業の漁業権への参入を認める改正漁業法、水道民営化法など新自由主義的な規制緩和の悪法が相次いで可決成立してしまった。先に、今年3月には種子法が廃止されている。モンサントのような多国籍企業の要求を受け入れ、遺伝子組換え(GM)種子やF1種子(ハイブリッド種)などが販売されることとなる。GM食物は、除草剤とセットで種子が販売され、一度GM種子が使用されると、元の栽培法には戻れない。日本の農業は多国籍種子企業に支配されることとなる。水道民営化法は水道事業の民営化をしやすくするため、運営権を民間企業に一定期間売却する「コンセッション方式」を導入できる。導入は自治体の判断だが、宮城県や大阪市が意欲を示しているし、既に下水道では今年4月に浜松市が初めて取り入れ、仏ヴェオリア社日本法人などが参加する運営会社が、20年間の運営権を25億円で手に入れている。

2 「コンセッション方式」とは
「コンセッション方式」とは、市が水道資産の所有権を有したまま、水道施設の運営権を民間事業者に設定し、長期間運営を委ねる事業の方式であり、完全民営化とは異なるが、水道利用者から直接料金を徴収し運営を行っていくコンセッション方式は、限りなく完全民営化に近い手法である。下水道では浜松市が初めてであるが、関西国際空港や大阪国際空港(伊丹)、愛知県の有料道路などで同方式が導入されている。運営権は売却が可能であり、水道事業を投資目的に売却することも可能である。なお、浜松市が2018年4月に導入した下水道のコンセッション方式は終末処理場と二カ所の中継ポンプ場のみであり、肝心の幹線管渠は対象外となっている。地中埋設物である管渠は事業開始時に管理状態を確認することが困難で、運営権者のリスク負担の程度が計り知れないという理由で外されている。あくまでも水道事業などへの本格的な方式導入のための可能性調査である。ちなみに、浜松市の水道事業は管路の延長だけで5,000kmもあり、今後50年間の更新投資額は2,900億円(年間50億円)としており、人口減や節水機器の普及などにより需要は減少傾向にあり、今後運営が厳しくなると予想されている(『月刊自治研』2018.8:浜松市水道労組:河村栄二)。外資が水源や配水場などを儲かる施設だけを乗っ取り、老朽化した管渠などはほったらかしにする可能性もある。

3 既に公営水道では外資への窓口業務の委託が進んでいる
 福井市のHPではガス水道料金について「平成25年4月1日からガス・水道等に関する業務をヴェオリア・ジェネッツ株式会社に委託し…お客様への応対やメーター検針などをヴェオリア・ジェネッツ株式会社の職員が行います」との案内がある。大阪市水道局や尼崎市も同様の委託がなされている。窓口業務を押さえれば、その公営企業の経営実態が把握できる。河川から取水し、水処理が必要な場合は処理場があるため業務内容を把握するのに少し時間がかかるが、福井市のように地下水(実質は河川の伏流水)を使用する場合は水処理にほとんど金はかからない。水道用に次亜塩素酸ソーダをまぜ塩素殺菌すれば即供給できる。後は水道配管が古いかどうかだけである。日本の水道効率は極めて優秀で、流した水の数十%が途中で漏水や盗水で消えてなくなる諸外国とは異なり、漏水率はわずかに5%程度であり、こうした自治体は外資にとっては喉から手が出るほど美味しいものである。

4 背景に新自由主義を推し進める米戦略国際問題研究所(CSIS)からの指令
 安倍二次政権発足直後の2013年4月19日、麻生財務大臣はジャパン・ハンドラーの 米戦略国際問題研究所(CSIS)に呼びつけられ、マイケル・グリーンが司会する中、ハレム所長の前で「アベノミクスとは何か〜日本経済再生に向けた取組みと将来の課題〜」というタイトルで「規制緩和」という名の外資への公共財産の売却を約束させられた。アベノミクスの「第三の矢」の規制緩和の質問に対する説明の中で、「いま日本で水道というものは世界中ほとんどの国ではプライベートの会社が水道を運営しているが、日本では自治省以外ではこの水道を扱うことはできません。しかし水道の料金を回収する99.99%というようなシステムを持っている国は日本の水道会社以外にありませんけれども、この水道は全て国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものを全て民営化します。」と約束し、さらに「いわゆる学校を造って運営は民間、民営化する、公設民営、そういったものもひとつの考え方に、アイデアとして上がってきつつあります。」とまで語った(財務省のHPはスピーチの冒頭のみを掲載)。
 この麻生の説明の裏には『立地競争力の強化に向けて』という竹中平蔵(国家戦略特別区域諮問会議議員・パソナ会長・オリックス社外取締役)の2013年4月17日付けのペーパーがある。「世界一ビジネスのしやすい事業環境に 〜交通・都市インフラの改善」という項目において「・これまで官業として運営されてきたインフラで、利用料金の伴うもの(空港、有料道路、上下水道、公営地下鉄等)について、民間開放を推進。」「・上下水道について、国交省(下水道)、厚労省(上水道)、農水省(農業集落排水)、経産省(工業用水)という縦割りを排し、省庁横断でのコンセッションに係る制度運用体制を構築。」「・また、インフラの延長上で、官業の民間開放の一環として、公立学校の民間委託(公設民営)。」と書き、「・こうしたインフラは全国で約185兆円の資産規模と推計され、全国的に民間開放の動きを進めることで、少なくとも数十兆円規模の財源創出が見込まれる。」としている。麻生のスピーチは竹中のペーパーをなぞったのである。

5 水道は社会的共通資本
 経済学者の宇沢弘文は「社会的共通資本は、土地、大気、土壌、水、森林、河川、海洋などの自然環境だけでなく、道路、上下水道、公的な交通機関、電力、通信施設などの社会的インフラストラクチャー、教育、医療、金融、司法、行政などの制度資本を含む」とし、「それぞれの分野における職業的専門家によって、専門的知見にもとづき、職業的規律にしたがって管理、運営されるもので」、「市場的基準にしたがっておこなわれるものではない」と規定する。さらに「そこから生み出されるサービスが市民の基本的権利の充足にさいして、重要な役割を果たすものであって、社会にとってきわめて『大切な』ものである。」と書いている(宇沢弘文:岩波新書『社会的共通資本』)。人間は水なしでは1日たりとも生きていくことはできない。まさに基本的人権にかかわるものである。こうした社会的共通資本を外資に売り払い、一儲けを企んでいるのが竹中平蔵らの新自由主義者でありオリックスなどの企業グループである。
 もう一つ宇沢は「共有地」(コモンズ)という概念を提起する。コモンズとは、ある特定のコミュニティーにとって、「その生活上あるいは生存のために重要な役割を果たす希少資源」であり、その利用にかんして「歴史的に定められたルールにしたがって行動することを要請されている」と定義しているが(宇沢:同上)、外資に運営を任せれば、必ずやコミュニティー(自治体)外の大企業などに水を安く売り払い、住民への料金は値上げするであろう。少量の水を配管で戸別に配水し、料金を徴収するよりも、大口径の配管で大量の水を大企業に供給する方が効率的であり。資本の論理にはかなっているからである。

6 「コンセッション方式」では災害時の対応はできない―関西空港の台風被害
 2018年10月13日の日経新聞の社説は「台風が試す民営空港の真価」と題して、「関空をはじめ域内3空港の運営主体である関西エアポートの危機対応能力だ。同社はオリックスと仏空港運営会社パンシ・エアポートが各40%を出資する民間企業。関空については国との契約で2060年まで長期の運営権を持ち、公的設備の運営を「民」が担うコンセッションの先駆けとして注目された。だが、今回の被災では各方面から問題点が指摘されている。被災時に空港島内に取り残された人数の把握に手間取り、バスや船での脱出にも時間を要した。関空に乗り入れる航空会社によると、復旧への取り組みも当初は不十分で、空港再開のメドが全く立たない状態が36時間以上も続いた。政府が介入・主導することで、ようやく復旧作業が軌道に乗ったという。日本航空の赤坂祐二社長が『航空会社のオペレーションについて(関西エアは)経験が多くない』と苦言を呈する一幕もあった。」と書いた。
 関西エアと新関空会社の間で結んだ運営権実施契約書には災害時の空港機能の回復がどちらが担うか明記していない。関西エアの対応の遅さや情報開示の姿勢などに航空各社から不満が噴出した(日経:2018.10.26)。国土交通省の事務方は、急ピッチの復旧には人件費や修復費がかさむ。「関西エアポートの対応は、追加負担を極力避けたいという民間の感覚」と国交省幹部は受け止め「日本経済や訪日客の落ち込みを『国難』と考える政府とは危機感がまるで違った」と振り返った(福井:2018.9.22)と書くが、これがコンセッション方式の実態である。当座の資金の節約の為に社会的共通資本を民間に売り渡した場合、どのような結果が待ち受けているかを示す悲惨な例の一つである。

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