アサート No.494(2019年1月26日)

【投稿】 問われる野党の民族主義への同調---統一戦線論(56)---  

<<「あそこのサンゴは移している」>>
 ウソと詭弁と偽装、そして責任転嫁が日常茶飯事となってしまった安倍政権、新年早々から決定的ともいえる躓きを露呈している。一つは、「あそこのサンゴは移している」という大ウソ。もう一つは、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の悪質極まるデータ改ざん。どちらも、もはや通用しがたい、押し通すことが不可能な、本来なら政権崩壊に連なる性格のものである。
 1/6の今年最初のNHK「日曜討論」に登場した安倍首相、沖縄県・名護市辺野古の米軍基地建設工事を巡って、「土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移している」と言い放ったのである。とんでもない大ウソ、偽装である。安倍首相は「辺野古へ土砂が投入されている映像がございましたが、サンゴについては(他の場所に)移しております。(砂浜の)絶滅危惧種は(砂を)さらって別の浜に移していくという、環境の負担をなるべく抑える努力をしながら行っているということでございます」と平然と述べたのであるが、これは事実、現実に反する虚言以外の何ものでもない。埋め立て海域全体では実に約7万4千群体の移植が必要だが、現在土砂が投入されている「埋め立て区域2―1」からサンゴは一つたりとも移植していない。試験的に移植したのは、別海域のオキナワハマサンゴ9群体のみであり、サンゴを移植しても生き残るのはわずかで、その移植困難性はすでに学会から強く指摘されており、「そもそも環境保全策にはならない」と指摘されている。沖縄県は政府に対して、「移植対象や移植先の選定が不適切」と指摘し、環境保全措置の不備を埋め立て承認撤回の理由に挙げていることは周知のことである。それを全く無視して、工事を強行しているのである。玉城デニー知事は翌1/7、「安倍総理…。それは誰からのレクチャーでしょうか。現実はそうなっておりません。だから私たちは問題を提起しているのです」とツイッター上で反論したのは当然のことである。
 安倍首相は、確認すればすぐわかることを、それさえできないほど、劣化、一人よがりに陥っているか、あるいは実態を熟知しながらそれを平然と否定するほど腐敗してしまっているのである。
 この問題でさらに指摘されなければならないのは、NHKの姿勢である。この安倍首相の出演部分は事前収録であり、「討論」どころか独り舞台で長々と持論を展開させ、あげくごまかしようのない“フェイクニュース”を放送したのである。調べればすぐにわかる事実確認すらせず、時間も十分あったにもかかわらず(収録があったのは、放送2日前)、NHKが“フェイクニュース”を垂れ流した責任について、訂正や釈明の姿勢を一切とらず。「番組内での政治家の発言についてNHKとしてお答えする立場にない。事実と異なるかどうかという他社の報道についてもNHKとしてコメントする立場でない」(1/10、NHKの山内昌彦・編成局計画管理部長)と開き直っている。安倍官邸にこびへつらい、忖度するNHK上層部の姿勢があらためて浮き彫りになっている。
 首相を先頭にウソと詭弁と偽装がまかり通っているこの政権で、さらに決定的な偽装が明らかにされたのが、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」である。法律で定められた「基幹統計」という最も信頼性が問われるデータが改ざんされていたのである。根深き国家的信用失墜事件なのである。
 その影響は、雇用保険や労災保険の算定をはじめ国民生活の多岐にわたる分野から、国内総生産(GDP)にまで及んでいる。雇用保険には、失業給付だけでなく、傷病手当金、育児休業給付、介護休業給付など16種類あるほか、同統計は最低賃金、人事院勧告などの指標にも使用されている。したがってこの偽装の深刻さは、実に広範囲に及ぶものである。その意図的な「データ補正」という名のデータ改ざんによって、雇用保険の失業給付、労災保険の休業補償給付、育児休業や介護休業の給付など、さまざまな制度の給付額算定のベースとなる統計が低く抑え込まれ、当然、給付額も減少し、厚労省の発表では、給付不足がのべ2000万人、推計で総額約537億5000万円に達している。。
 さらにこの偽装の悪質さは、昨年1月からは「データ補正」のソフトまでつくって、隠ぺいを重ねるもので、この「データ補正」の際にも隠し切れない問題として把握しながら意図的に放置し、昨年6月の現金給与総額が高い伸び率を示した際にもそのデータ変化が疑問視されながらも、組織的に隠ぺいしてきたものである。隠ぺい、放置してきたがための実害も深刻である。賃金台帳は3年保存のため、正確な給付確定ができず、推計による「追加給付」しかできない、しかも対象者のうち1000万人以上の住所は不明であるという。その隠ぺい、放置は、ひとえにアベノミクスを傷つけてはならない、日本経済は「戦後最長の景気拡大」を実現しつつあるというウソを喧伝するためのものであった。

<<「常軌を逸した国」>>
 そして昨年来からことさらに煽られているのが日韓関係の緊張激化である。
 安倍政権は、これほどのごまかしきれないウソと詭弁と偽装をあくまでも押し通し、切り抜け、目前の4月の統一地方選挙、7月の参議院選挙を乗り切り、内憂を吹き飛ばす格好の標的として、意図的、政治的に、韓国に対する強硬論を煽り、民族主義的な対立激化を押し進めていると言えよう。これに呼応し、さらに倍化さえしているメディアあげての韓国非難・罵倒は異様な日本の言論空間である。当然ながら、4月の天皇退位と代替わり、その宗教儀式としての大嘗祭も、安倍政権にとってまたとない民族主義高揚のチャンスとして、政権浮揚に利用されている。
 1/11、自民党が行った外交部会・外交調査会の合同会議では、出席した議員から「韓国人に対する就労ビザの制限」や「駐韓大使の帰国」「経済制裁」などを求める声が相次ぎ、「徴用工判決」「レーダー照射事件」は韓国・文政権が仕組んだ策略だと放言し、内閣府政務官である自民党の長尾敬衆院議員に至っては、「一般論として、内戦などで危険な国へは渡航制限がなされます。今の韓国の様に、常軌を逸した国へ渡航した場合、日本人が何をされるかわかりません。感情だけで理が通じない。協議や法の支配、倫理、道徳も通用するとは思えない。先ずは、日本人の韓国への渡航を控えるなど出来る事はある筈です。」とツィートしている。
 朝鮮半島を暴力的・軍事的に植民地支配したのは日本政府であり、徴用工問題は、三菱や新日鉄住金などの日本企業が、朝鮮半島の人々を労働力として不法に強制動員してきたことは紛れもない歴史的事実なのである。それを「慰安婦問題」と同様、「解決済み」と強弁し続けることで、その歴史を隠蔽しようとしているのは日本政府のほうであり、国際的にも許されるものではない。現に、日韓両国の政府と最高裁は「請求権協定の下でも個人の請求権は消滅していない」との認識では一致しており、「個人の請求権が消滅したわけではない」(河野太郎外相、昨年11/14、衆院外務委員会)と認めざるを得ないものである。個人の請求権が消滅していない以上、その実現、救済の問題は残されており、安倍政権がなすべきことは、日本の植民地支配とその下での人権侵害の責任に謙虚に向き合い、被害者の人権回復と救済に向けた努力を誠心誠意尽くすことなのである。それを「韓国側によって協定違反の状態が作り出されている」と突き放し、「責任を負うべきは韓国側」(1/15、菅官房長)などと居直っているのである。
 韓国の文大統領が「〔徴用工問題は〕韓国政府がつくりだした問題ではなく、不幸な歴史によってつくられた問題だ。日本政府はもっと謙虚な立場をとらなくてはいけない」と語ったのは至極、当然なのである。自制心を失って「常軌を逸し」ているのは、日本政府であり、「レーダー照射事件」もそのために利用されており、安倍首相自身が強硬論の先頭に立っているのである。それはまた、危機感をあおり、野党をかく乱するための計算された策略でもある。

<<頼もしい援軍>>
 問題は、この策略に野党が乗せられてしまっていることである。とりわけ、安倍政権を退陣に追い込み、野党共闘のかなめとならなければならない立憲民主党の立ち位置が、こうした民族主義的な扇動に乗せられ、迎合さえしていることである。
 立憲民主党は、新年早々、「枝野代表、福山幹事長と仲間の国会議員達」が伊勢神宮を参拝し、公式ツイッターで「本日4日、枝野代表は福山幹事長らと伊勢神宮を参詣し、一年の無事と平安を祈願しました。」と報告している。なぜ、わざわざ安倍首相一行と「同日」に「同じ伊勢神宮」に「代表、幹事長、蓮舫副代表と仲間の国会議員達同道で」行く必要があるのか。歴代首相が伊勢神宮に参拝して年頭会見を行うこと自体、憲法の政教分離(憲法20条3項 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。)に反するものである。その伊勢神宮の参拝をめぐって、立憲民主党の逢坂誠二衆院議員が昨年1月に、「伊勢神宮の活動に関する助長、促進につながるものと考える」「憲法20条に反するのではないか」との質問主意書を政府に提出、問いただしていたものである。この「助長、促進」になぜ立憲民主党の幹部が揃いも揃ってやすやすと乗せられてしまったのか、その思慮の足りなさが、立憲民主党のふがいなさの象徴ともいえよう。
 さらに「レーダー照射問題」をめぐっても、1/19、枝野代表は「いま我々が承知している範囲では、明らかに我が方に理があると思っている」と安倍政権を弁護している。この問題をめぐっては、安倍政権が先鋭化させている緊張激化ではなく、緊張緩和をこそ要求すべきなのである。
 こうした民族主義迎合路線は、共産党も同罪と言えよう。1/6放送のNHK「日曜討論」各党党首インタビューで、「日本とロシアの関係で、平和条約や北方領土問題をめぐる政府の交渉をどう考えますか」と問われて、共産党の志位委員長は、「歯舞、色丹の返還で領土問題はおしまい、それ以上の国後、択捉などの領土要求は放棄する。これはとんでもないことで、私たちは、絶対にやってはならないことだと、思います。全千島列島が日本の領土だということを正面から訴える交渉をやってこそ、道が開けるということを、私は、強く言いたいと思います」と答えている。安倍政権以上の領土要求で、緊張激化路線を鼓舞し、民族主義迎合路線を下支えしているのである。日韓、日中間の竹島、尖閣列島問題をめぐっても、共産党は民族主義的な「独自領土論」・「固有領土論」を執拗に展開しており、安倍政権にとっては、利用できる頼もしい援軍とも言えよう。問われているのは、こうした野党の民族主義への同調なのである。

<<薔薇マーク・キャンペーン>> 
 政治に対する信頼は地に墜ち、安倍政権退陣への絶好のチャンスが到来しているにもかかわらず、安倍政権のかく乱戦法と民族主義的扇動に振り回されているのであろうか、野党共闘は一向に前進した姿を見せるに至っていない。
 こうした事態を打開するために、この1/5、「反緊縮の経済政策」に賛同する立候補予定者を薔薇マークに認定し、有権者にアピールする「薔薇マークキャンペーン」が始動し、そのキックオフ記者会見が2/1に開かれることが発表されている。(ホームページ https://rosemark.jp)
 その「趣意書」では、<2019年は、4月の統一地方選挙から7月の参議院選挙と、日本の今後が決まる重要な年になります。残念ながら野党側は、民主党政権のイメージをいまだ払拭できないままで、有権者に安心と希望を与える力強い経済政策を提起できていません。…
今度こそ安倍自民党に選挙で勝たなければなりません。そのためには野党は、人々の生活を良くするための経済政策を最優先の課題として争点にしなければなりません。強者から優先的に税金を取る所得再分配の考えに立ち返ること。介護、医療、保育など、人々が不安に思っている問題の解決に、圧倒的に投資すること。そのことで経済を底上げしてまっとうな雇用を拡大し、人々の暮らしを豊かにすることを、真っ向から訴えるべきです。私たちは、その過程で、政党を問わず、「反緊縮の経済政策」を打ち出す立候補予定者個人に、「薔薇マーク」を認定します。「薔薇マーク」は、人々が豊かな生活と尊厳を求める世界的な運動の象徴です。薔薇マークキャンペーンは、人々の抱える生活不安を希望に変える、新たな波を起こすことができると確信します。>と述べ、
<薔薇マーク認定基準として、財政規律を優先させる緊縮的な政策は正しくないと考え、おおむね以下の反緊縮の経済政策を第一に掲げている立候補予定者を「薔薇マーク」に認定します。>として
1. 消費税の税率を5%に
2. 100 万人分のまっとうな労働需要を追加創出
3. 同一労働同一賃金を実現
4. 最低賃金を1500円に
5. 雇用・賃金の男女格差を是正
6. 違法な不払い残業を根絶
7. 望む人が働いて活躍できる保障を
8. 外国の労働者を虐げて低賃金競争を強いる「労働ダンピング」は許しません!
9. 法人税の優遇措置をなくし、すべての所得に累進課税を
10. 富裕層に対する資産課税を強化
11. 金融機関の野放図な融資を抑制
12. 社会保険料も累進制にして、国保など庶民の保険料負担を軽減
13. 環境税・トービン税を導入
14. 「デフレ脱却設備投資・雇用補助金」創設
15. 健全財政の新たな基準を
16. 財務省による硬貨発行で政府債務を清算
17. 日銀法を改正
18. すべてのひとびとのため公金支出
19. 経済特区制度は廃止
20. ベーシックインカムの導入をめざします
21. 「デフレ脱却手当」で月 1万円配布
22. 社会保障制度を組み換え
23. 地方でも常に仕事が持続するインフラ事業
24. ひとびとの命や暮らしを守るのに必要な施設は建設を
25. 奨学金債務を軽減・解消
26. 教育・保育を無償化
27. 介護、保育、看護などの賃金大幅引き上げ
28. 待機児童ゼロ、介護離職ゼロを実現します
を掲げている。
 呼びかけ人には、松尾匡立命館大学教授、森永卓郎獨協大学教をはじめとする経済学者、社会学者、ブレイディみかこさん、斉藤美奈子さん、池田香代子さんら、22名の人々が名を連ねている。その中の一人、西郷南海子さん(安保関連法に反対するママの会)は、<わたしはこれまで、「安保関連法の廃止、立憲主義の回復、個人の尊厳」という立場から野党共闘を求めてきました。でも、なぜ野党は勝てないのか、なぜ自民党が勝ち続けるのか、納得のいく答えに出会えませんでした。そして考えるうちに、この国で生きる多くの人が直面しているのは「来月暮らしていくお金があるか」「来年暮らしていくお金があるか」だということに突き当たりました。もちろんこれはわたし自身の現実でもあります。この現実に正面から取り組む運動として、わたしは「薔薇マークキャンペーン」を支持します。>と述べている。
 野党共闘の前進と、統一戦線の質的な飛躍のために、このキャンペーンにも大いに賛同し、期待したいものである。
(生駒 敬)

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